軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学園祭は恋の予感 6

「な、なな、なに……っわ!」

動揺して思わず後ろに飛び退いた私は、バランスを崩してしまう。このままではカーテンの外に出て、ずっこけながら良い雰囲気の二人の前に登場することになる。

最悪のパターンは避けなければと手を伸ばせば、ユリウスが手を掴んでくれて、慌てて握り返す。

絶対に転びたくないと勢いよく身体を起こした結果、ユリウスに思い切りしがみつく体勢になってしまった。

「大胆だね、レーネちゃん」

「ふ、不可抗力です!」

耳元で囁かれ、顔が熱くなる。慌てて離れようとしてもきつく抱きしめられており、それは叶わない。

「ほ、本当に何をしているんですか! ちょっと! そもそもて、手を、な、なな、舐めるなんて……!」

「美味しそうな香りがしたから、つい」

「全然ついじゃないんですけど!」

一瞬だけユッテちゃんとイケメン先輩の元にお邪魔していくつか型抜きをした際、クッキー生地の甘い香りが手のひらに移っていたのだろう。

こそこそと会話をしながら、やはりこの兄は油断も隙もないと改めて実感した。

「やっぱりこんなくっつくと暑いね」

「だから離れようってば」

「静かにしないとバレちゃうよ」

「うっ……」

とにかく今はイケメン先輩の告白を優先しようと、大人しくこの体勢のままでいることにする。

するとふと、とあることに気が付いてしまった。

「……なんかユリウス、心臓早くない? 不整脈?」

「いやだな、普通にドキドキしてるだけだよ」

そんなことをあっさり言ってのけるユリウスが私相手にドキドキしているなんて、信じられない。

そう思いながら顔を上げると、透き通るアイスブルーの瞳と至近距離で視線が絡んだ。

「俺だって17歳の男の子だし」

「…………」

「その全く信用してないって感じの顔、結構好きだな」

「…………」

やっぱりユリウスはよく分からないと思いながら、泣く泣くコアラ状態でくっ付いていると、不意にがらりと教室のドアが開く音がした。

「上手くいったみたいだね」

「えっ? あっ、本当だ」

気が付けば告白はとっくに終わっていたようで、二人が手を繋いで調理室を出て行くところだった。

微笑み合う二人からは、上手くいったことが窺える。その途端、どっと身体の力が抜けていく。

「よ、よかった……! 本当によかったぁ……」

──ユッテちゃんは最初から落ちこぼれの私に対して偏見を持たず、仲良くしてくれていた。テレーゼ以外の女の子達と打ち解けられたのだって、彼女のお蔭だ。

そんな優しくて明るくて大好きな友人であるユッテちゃんが好きな人と両思いになって、心の底から幸せそうな笑みを浮かべているのが、嬉しくて仕方ない。

両目からはぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちていき、ユリウスのシャツを濡らした。

「あ、ご、ごめん! お小遣いで、弁償ずる……」

「そんなの別にいいけど、なんでお前が泣くの」

「す、すごくうれしくて……だってユッテちゃん、ずっとずっと、がんばってたから……」

「そっか。良かったね」

ユリウスは驚くほどいい香りのするハンカチを取り出し、私の目元と鼻を拭ってくれる。

こんな高級ハンカチを汚してしまい、申し訳なくなるのと同時に、嬉しさが込み上げてくるのが分かった。

「……こういうのも、実は嬉しい」

「なんで?」

「なんというか、すごく家族っぽい」

「あはは、お兄ちゃんだからね」

幼い頃、いつも無駄にアクロバティックな転び方をしては派手に怪我をして大泣きする私の涙を、母が優しく拭ってくれたことを思い出す。

ユリウスは柔らかく目を細めると、私の頭を撫でた。

「それにしてもジェレミーの奴、昨日までは告白とか緊張して絶対無理とか言ってたのに」

「告白するのって、本当にすごいよね。きっとものすごく緊張するし怖いと思うもん」

私は恋をしたことがないけれど、やはり好きな人ができたら告白したいと思うものなのだろうか。

私の性格を考えると、可能性がゼロでも「当たって砕けよう!」とかになりそうだ。

やがてユリウスは二人が出ていったばかりのドアへ視線を向けると、ぽつりと呟く。

「……俺も少しだけ、頑張ってみようかな」

「なにを?」

「こっちの話。今日はもう帰ろっか」

「うん」

何も言わず当然のように私の鞄も持ってくれ、空いている方の手を差し出される。

その手を取りつつ、うっかり少しだけときめいてしまったことはもちろん黙っておいた。

◇◇◇

「それでは第2回接客練習、1年生編を開始します」

翌週の放課後、私は一年生メンバーとミレーヌ様、そして先日ぶりのリタ様と例のボックス席を囲んでいた。

やはり練習相手が必要ではあるものの、一年生の友人達に頼んだところ「メンバーが恐れ多い」という理由で断られ続けてしまい、リタ様にお願いしたのだ。

「すみません、今回もよろしくお願いします」

「ええ、よろしくね。前回は少しはしたない姿を見せてしまったけれど、今回は一年生相手だもの。大人の女の矜持を見せてあげるわ。任せて」

壮大なフリとしか思えない発言をしてくださったリタ様は、ボックス席へと腰を下ろす。

「まずはヴィリーからね」

「おう! よく分かんねーけどやってみるわ!」

そして早速、ホスト練習が開始したのだった。