軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40 BET

「天才精霊術師?」

伯爵家の令嬢シェリィ・ランバージャック。ユカリによると、強力な精霊術を操りわずか16歳にして冒険者ランクAを達成した天才なのだという。

俺はそれを聞いて色々と察した。「精霊術を操る」――すなわち「精霊で攻撃」している。それじゃあ駄目なんだ、メヴィオンというゲームは。

確かに序盤は、強力な精霊を使った攻撃というのは役に立つ。しかし中盤終盤に近づいてくると、所謂「殴ったほうが早い」現象が発生するのだ。具体的には、自身のステータス並びに各種スキルが上がった結果、精霊よりコストパフォーマンスの良い一撃を繰り出せるようになってしまう。ゆえに、終盤における精霊は《精霊憑依》以外の使い道がなかなかに考え難い。というのが俺の見解だった。この世界ではどうなのだろうか。それにしても冒険者ランクAというだけでドヤっていそうな16歳の天才精霊術師の令嬢……なんとも香ばしい予感がする。

「そういえば、ユカリの年齢をまだ聞いていない気がするのだが」

ふと思い出したようにシルビアが言った。

「ええと、私は19歳ですが。お二人は?」

「私は17歳だ」

「あたし16さい」

嘘ぉ、という顔をするユカリ。まあ、分かるよ。

「最年長だな」

「おねーちゃん!」

「……ダークエルフ理論ではまだ若い方ですから。16歳くらいですから」

シルビアがわざとらしく言った“最年長”という単語にユカリの表情が凍てついた。いや何だダークエルフ理論って。いつもの2倍のジャンプして3倍の回転を加えたら1200万パワーになるようなものだろうか。

…………あれ、というか俺だけ自然にハブられてない?

なんか悲しくなってきた。アンゴルモアでも出すか……。

「――お呼びかな、我がセカンドよ」

「話し相手になってくれ」

「御意に。では我が、土の大精霊ノームを滅ぼした時の話を――」

「なにやってんの!?」

なにやって……なにやってんの!?

「マジで滅ぼしたのか?」

「然様。ある夜半のことよ。奴は我を倒して己が精霊の支配者に取って代わろうと画策し、反旗を翻しおった」

「ああ、なるほど」

精霊界にもそういう争いがあるのか。なら仕方ないかもしれない。

「そして、我の寝巻きを土で汚したばかりか、我の愛用するコップにヒビを入れたのだ! 許してはおけん」

…………ん?

「寝込みを襲うとは恥を知れと一喝したが、奴は無視よ。構うものかと攻撃してきおった。ぶちギレた我はノームに死の雷を落とし、一瞬で消し炭にしてやったわ!」

カカカと笑うアンゴルモア。いやいやいや……。

「大丈夫なのか?」

「ん? ああいや心配無用よ。次代の土の大精霊は奴の娘に任せた」

「そういうことじゃなくてだな……」

俺とこいつは繋がってるんじゃないんですかねぇ? 全然話が通じないんですけど?

俺がガバガバ一体感にため息をついていると、コンコンコンと部屋のドアがノックされた。

「セカンド様、ファーステストの皆様、お迎えにあがりました」

訪れたのはランバージャック伯爵家の家令フォレストさんだった。

「下に馬車を停めてあります。ご準備整いましたら――」

云々かんぬんと長ったらしく挨拶して去っていく。あの人丁寧なのは良いんだけど少し話が長い。

「(アンゴルモア、お前マナーモード的なのになれるんだろ? なれるよな? なれ)」

「(御意に)」

俺は一体感で得た知識を元に、アンゴルモアへと指示を出した。

すると、アンゴルモアは「バチッ!」と放電したかと思うと、その姿を赤黒い稲妻に変えて俺の体にまとわせた。

「(これで他の者に我の姿は見えまい)」

念話はできるが実体はない。俺はこの状態を今後マナーモードと呼ぶことに決めた。

「よし、みんな準備はいいな? 行くぞ~」

必要十分な準備を終えて、外で待っているであろうフォレストさんのもとへ向かう。

何気なく、ドアを開けようとドアノブに手をやった瞬間。

バッリィ!!

「っっっいい痛ぇええええええっ!?」

「せっ、セカンド殿!? どうしたのだ!?」

痛ぇえええ!! なんだこれ!?

「(……ふむ。我から溢れ出る、静電気? 的なアレであるな)」

こ、この、クソ……! 静電気ってレベルじゃねえぞ! クソが!

「(ハッハッハ、すまなんだ! 許せ、我がセカ――)」

送還!

「…………ごめん誰かドア開けて」

「か、かしこまりました?」

困惑しながらもユカリが従ってくれた。

「あとで、あとで説明するから……」

まだ痺れている体を引きずりながら、俺は伯爵との面会へ向かった。

馬車の中で何が起きたかを話すと、3人は苦笑いしていた。エコまでもがそんな顔をしていたのが甚だショックだった。もう二度とマナーモードは使わないようにしようと心に誓った。

「はっはっは! そうですか、そうですか」

面会、そして、ディナー。

俺の目の前に座るバレル・ランバージャック伯爵は満面の笑みで頷きながら、俺の顔色を窺っている。

40代中盤のナイスミドル、太すぎず細すぎず丁度良いスポーツマン体型、立ち居振る舞いは完全に武道のそれで、一分の隙もない。だが、その目の奥には非常に理知的な炎が燃えていた。文武両道、頭脳と身体のどちらも兼ね備えた男だと分かる。

そんな歴戦の勇士、はたまた老練の商人のような立派な男が、俺に対してこれでもかと下手に出てくる。

まさに“接待”だった。

それほどまでにミスリル合金が欲しいのか、と。引くくらい過剰にもてなされている。

「お味は如何でしょう? これはレニャドーで採れたキノコを使ったシチューで、うちの子供たちも大好物なのですよ」

にこやかに話しかけてくる伯爵。段々と鬱陶しくなってきた。

俺は愛想笑いで適当な相槌を打つばかり。喋っているのはもっぱら伯爵だ。シルビアとユカリは話を振られた時に一言二言返すだけで、自分から喋るようなことはない。エコに至っては終始食べっぱなしである。

「Aランクチーム・ファーステストの皆様は全員10代であられるとか。娘のシェリィは16歳でしてね。少々じゃじゃ馬ですが、明日の晩餐会ではよろしくお願いいたします」

ディナーはつつがなく終了した。

伯爵は席を立ちそう言うと、握手を求めてきた。

そして、それではまた明日と、俺たちを見送るため案内を始める。

俺は最後に一つ聞いておかなければならないと思い、足を止めた。

「おや、セカンド殿。如何なさいました?」

伯爵が気遣うように声をかけてくる。

完璧だ。完全なまでに自分を下げている。地位も、名誉も、実力も、そしてプライドもあるだろう。なのに何故ここまでして? 俺はその疑問を抑えきれなかった。

「バレル卿、貴方はどうしてそこまでこの取引を重要視しているのですか?」

伯爵はにこやかな顔のまま、目だけを鋭く細めた。俺の隣に立つユカリが俄かに気を引き締めたのが分かった。

「……民が豊かであればこそ、兵は強くなり、国のためとなる。私の信条です」

ふむ。富国強兵というやつだろうか。

「丈夫で、軽量で、長持ち。ミスリル合金を用いた武器防具産業は国力増強に大いに繋がります。それはキャスタル王国の商の中心、我がレニャドーで行わなければなりません」

「つまり、全ては国のために?」

「いえ。民のため、兵のため、国のため。私の商売は、その三つが揃っていなければなりません」

一つでも欠けてはならないと、伯爵は言う。

……見上げた“こだわり”だ。民と兵を区別している辺りが特に。この場合の兵とは王国に属する兵士に限定したものではなく、冒険者などの「戦う者」を意味しているのだろう。

民と兵は――いわば、初心者と上級者。

バレル・ランバージャック伯爵、彼はこの世界をよく理解している。弱者と強者の違いを。

で、あれば。強者を、俺を相手に“馬鹿な真似”など天地がひっくり返ってもしないだろう。

この取引、どうやらBETしても良さそうである。

「なるほど、分かりました。明日の会議を楽しみにしております」

「こちらこそ! 本日は有意義な時間をありがとうございました」

双方笑顔で別れる。

こうして初日の日程が終了した。

翌日。

俺たちは朝っぱらから馬車に揺られ、商業都市レニャドーを目指して移動していた。

早起きがつらかったのか、シルビアとエコは仲良く寄っかかり合ってぐーすか眠っている。

「ユカリ、取引はどうするつもりだ?」

「継続して卸し続けるのではご主人様の望む形にはならないかと存じます。ゆえに、何億CL分のミスリル合金を何ヶ月後までに卸す、というような短期の契約をその都度結ぶのが最も賢い方法かと」

「そうか。ちなみに300億CL分のミスリル合金だと、どのくらいの期間になりそうか分かるか?」

「少々お待ちください」

俺が質問すると、ユカリは俺が渡したメモを見ながら計算を始めた。

プロリンダンジョンのボスであるミスリルゴレムからドロップされるミスリルの量を、1日5周するとして単純に5倍、そこから1日あたりに生産できるミスリル合金の量を算出し、相場をかけて300億CLを割る。

「おおよそ20日間で……えっ」

「えっ」

ユカリは自分で言いながら驚いていた。もちろん俺も驚いた。

3週間で300億CL。つまり1週間で100億CL、1日で約14億CL稼げるということ。

凄まじい。この世界ではミスリル合金ってそんなに貴重なのか?

……いや、冷静に考えれば当然だ。プロリンの通常のゴレムからミスリルがドロップされる確率は6.25%である。それもミスリルゴレムからのドロップと比べると約1/20程度の大きさだ。まだ攻略されていないんだから、そりゃ稀少に決まっている。

「異常だな」

「……いえ、異常なのは1日に5周もする我々の方かと」

そんな常軌を逸したノウハウを一体どこで手に入れたのでしょうかねえ、とユカリが冷たい視線を送ってくる。俺は爽やかな微笑みで返しておいた。「はぁ」とわざとらしい溜め息を吐きつつ耳をぴこっとさせるユカリは少し可愛らしい。

「そうだ、ミスリル合金が値崩れする可能性も考えないとな」

「ええ。300億CL分の取引ならば、余裕を見て2ヶ月~3ヶ月がよろしいでしょう」

あっ、確かに。3週間で300億ってのは「毎日休まず5周して」だ。週休2日にしたり、たまには3周でやめて午後は遊んでみたり、なんて余地を残しておくべきだろう。

「分かった。その方向で会議もよろしく頼む」

「はい。お任せください」

取引についての詳しい打ち合わせはユカリに一任してある。俺がやると今みたいな“うっかり”でとんでもないことになりそうだからだ。シルビアからも「その方が良い」と賛成されたが、お前にだけは言われたくない。

……なんてなことを考えていると、いつの間にか俺はこっくりこっくりと船を漕いでいた。

「ご主人様。見えてきましたよ」

ユカリの声で目が覚める。

誘われるがまま小窓の外を見てみると、先に見えたのは王都のように栄えた大きな商業都市『レニャドー』の活気ある風景だった。

大通りは露店が溢れ、そこかしこを人々が行き交い、喧騒の中みな商売に精を出している。

それはメヴィオンなどとは比べ物にならないほどの“リアル”――今そこに人が生きている確かな証拠だった。

「成功するといいですね」

ユカリが言う。

俺は「ああ」と頷いて、外の景色から目を逸らした。

この中で俺だけ別の生き物のような気がして、なんだか見ていられなくなったのだ。

「? ……! ついた!?」

「うっぐぅ!?」

目を覚ましたエコが外の景色にテンションを突沸させて飛び起きる。その後頭部がシルビアの鳩尾に突き刺さり、彼女に最悪の目覚ましをプレゼントした。

平和だ。実に平和である。

できればこの平和な日常が長いこと続いてほしいなあ、と。俺はそう思いながら頬杖をついて、ぼんやり彼女たちを眺めていた。

そんな俺の願いは、この日の晩、早々に打ち砕かれることとなった。