軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37 見かけによらないサイナラ世に毛・髪

あっという間に5日が経った。

爆アゲボンバー方式で魔力結晶を収集しつつ、エコが取っている間に手の空いている俺とシルビアで『ゴレム』を絶滅するんじゃねえかってくらい延々と狩り続ける。これを日が出てから暮れるまでずっと続けた結果、かなりの量の経験値を稼げた。

あの冷淡なユカリに、呆れ顔で「狂っている」と言わしめるほど凄惨な狩りの光景だったが、そんなユカリさんもちゃっかり俺たちと同量の経験値を得ていたりする。チーム内の経験値配分を均等に設定してあるので、魔物を倒していない2人にも経験値が行き渡るのだ。

また、俺たち3人がプロリンダンジョンに潜っている間ヒマであろうユカリには一仕事やってもらった。それは鍛冶ギルドと冒険者ギルドの調査である。情報は多ければ多いほど良いと、彼女は自発的に情報収集へ赴いたのだ。まあ、流石は元暗殺者というべきか、この程度の調査などお茶の子さいさいであった。

得られた重要な情報は2つ。1つは次回の「プロリン集団攻略」が3日後に迫っているということ。もう1つは、鍛冶ギルドは慢性的なミスリル不足に頭を悩ませているということ。

この情報から、今後の方針を考え直す必要が出てきた。

このままAランク冒険者となって、集団攻略に参加し、攻略を証明、鍛冶ギルドに信用してもらい、ミスリル合金を卸す、という当初の計画通りに行くべきか。はたまた、Aランク冒険者というネームバリューを利用して鍛冶ギルドに信用してもらい、集団攻略を待たずして単独攻略、鍛冶ギルド全体に対して独占的に契約を持ち掛けるべきか。

前者はあまり敵を作らないが、金稼ぎに時間がかかる。後者はクソほど儲かるが、冒険者ギルドは確実に敵に回る。独禁法? キャスタル王国にそんなものはない。

「うーん……」

プロリンからバッドゴルドの町への帰り道、俺は腕を組んで悩んでいた。和をとるか、金をとるか。どちらも一長一短である。

「ご主人様。もう1日、私にいただけないでしょうか」

すると、ユカリがそんなことを言いだした。

「何か考えがあるのか?」

「はい。ご主人様はあまり無駄な時間を好まれないご様子。であれば私に一つ愚策がございます」

「それは?」

「商人ギルドを利用するのです」

「……ふむ」

ユカリの言わんとしていることが分かった。鍛冶ギルドに直接取引を持ち掛けるのではなく、商人ギルドを介して円滑に取引を行おうということだろう。

「商人がこれ程の儲け話に乗ってこないはずがございません。多少の手数料は取られますが、ちまちまとやるよりは確実に儲けも多くなるはずです。幸いにも我々ファーステストは本日でAランク冒険者、信用の面でも問題はクリアしているかと」

「しかしそれだと、結局は冒険者ギルドが敵に回るんじゃないか?」

「その心配も無用です。3日後の集団攻略に参加し、表向きは冒険者ギルドと鍛冶ギルドに対して信用を作ります。その裏で商人ギルドとの契約を結ぶのです」

ん? よく分からない。それが何故冒険者ギルドを敵に回さない理由になるんだ?

「商人ギルドにミスリル合金を卸せば卸すだけ儲かる、というルートさえ完成させてしまえば、ご主人様が大々的に批判されることはなくなります。仮に冒険者ギルドが攻撃してきたとしても商人ギルドが護ってくれるでしょう」

なるほど、それが鍛冶ギルドとの違いか。確かに「金の成る木」を護ろうとするのは必定だ。加えて商人ギルド経由で卸される大量のミスリル合金に鍛冶ギルドが依存してくれれば、一気に2つのギルドを味方に付けることができる。冒険者ギルドは俺を批判したくとも批判できなくなるというわけだな。

ただ、そうなると大ごとだ。もしかするとバッドゴルドの勢力図が激変してしまうかもしれない。まあ俺の知ったことじゃないが。

「よし。その作戦で行こうか」

「はい、私にお任せください。明日中に商人ギルドへ話を取り付けてご覧に入れましょう」

俺がGOサインを出すと、ユカリは堂々とそう言った。素晴らしいヤル気と自信だ。戦闘以外の部分で存分に活躍してやろうという気概が見て取れる。

ユカリがこういった分野に明るくて本当に助かった。ネトゲしか能のない俺に必要な部分をしっかりと補ってくれている。持つべきものは仲間だとはっきり分かるな。

「ありがとう。ユカリは頼りになるな」

お礼を言うと、ユカリは「いえ」と冷たく一言、無表情のまま視線を逸らした。耳の先がほんのり赤くなっている。相変わらず分かりやすいやつだった。

翌日。

魔力結晶を納入して実にすんなりとAランク冒険者になった俺たちは、またプロリンに来ていた。

ユカリが商人ギルドと話を付けている間に経験値稼ぎをするためだ。

何故かって、余っていた経験値も含めてありったけ全部を注ぎ込んだ結果、もうそろそろ俺の【召喚術】スキルのうちの一つ《精霊召喚》が四段になるのである。

【召喚術】は主に2つに分けられる。1つは《魔召喚》、もう1つが《精霊召喚》だ。前者は主に魔物をテイムして使役するためのスキルであり、後者は1キャラクターにつき1体だけ所持できる『精霊』を操るためのスキルである。

その《精霊召喚》のランクを四段まで上げると、《精霊憑依》というスキルが解放される。これは、一定時間召喚した精霊を自分の体に憑依させてステータスを大幅に上昇させることができるという「廃人御用達」の非常に強力なバフスキルだ。

世界一位には必須と言っても過言ではないスキルである。ゆえに俺はこの《精霊憑依》の習得を優先し、この6日間《精霊召喚》だけをガンガンに上げていた。

……で、お昼時。

丁度《精霊召喚》が四段になり《精霊憑依》を習得することができた。とはいってもまだ肝心の精霊を獲得していないので憑依もくそもないのだが。

精霊を呼び出す際は、折角だからこの「期間限定プレミアム課金アバター」を購入した時に付いてきた『プレミアム精霊チケット』を使用する。しょっぱなから精霊強度25000以上が約束されているという「金しかないなあ!」と叫びたくなるアイテムだ。

ちなみに精霊強度とは精霊の強さやレアリティを表す数値である。初期精霊強度が10000以上でレア、20000以上で超レア、25000以上で激レア、30000以上で超激レアという、ありがちな「がちゃがちゃ集金システム」のようなものだ。とはいっても、精霊は育成していくにつれて進化するため、最終的な精霊強度の差は微々たるものになる。

さて。問題は、そのチケットを使ってどのタイミングで精霊を召喚するかということだ。

懸念がひとつある。

メヴィオンの時は、精霊はもちろん定型文を喋るだけのキャラでしかなかった。だが、ここは現実の世界。もしかすると精霊にも意思があるのではないかと思ったのだ。

だとすると、仲間が“一人”増えることになる。今このドタバタしたタイミングで新メンバーを加えるのは、どうにも味消しだろう。

ではいつが良いか。あまり急ぐ必要もないが、遅すぎても問題だ。もしかすると打ち解けるのに時間がかかるかもしれないからな。

「む。セカンド殿、ユカリから連絡がきているぞ」

あれこれ悩んでいるとシルビアがそう伝えてきた。エコはその膝の上ですやすやと寝息を立てている。気持ちよさそうだ。

「ああ、気付かなかった。ありがとう」

俺はチーム限定通信のチャット欄を開く。

おおっと。ユカリさん曰く「話は付いたが一つだけ問題が発生した」とのことだ。何だろう、嫌な予感がする。

俺たちはお昼休憩を終えて、ユカリと合流するため商人ギルドへと向かった。

「力の証明?」

「はい……」

ユカリは心なしか申し訳なさそうな顔で俺に事情を説明する。

「商人ギルド側からは実に快い返答と、魅力的な契約案をいただきました。しかしそれもこれも、私たちチームの実力を証明できてこそであると」

「そのためのAランク冒険者という肩書きじゃなかったのか?」

「そこからは私めがご説明いたしましょう」

俺とユカリが待合室で話していると、いきなり“つるっぱげ”のオッサンが割って入ってきた。

「私は商人ギルドのマスターを務めておりますシン・セイと申します。貴方がセカンド様ですね、どうぞよろしくお願いします」

シン・セイと名乗るずんべらぼうのオッサンは丁寧な物腰で挨拶をしてくるが、どう見てもカタギじゃない。身長は190近くありそうで、どえらい威圧感だった。

俺は「よろしく」とだけ返して握手をする。目線はギルマスから離さない。少しでも隙を見せたらドスで刺されそうだからだ。

「さて。今回は本当に魅力的なお話をいただきまして、一同感謝に堪えません。我ら商人ギルドは大いに期待しておりますよ」

ギルマスはニコニコと微笑みをつくりながら言う。

「しかし……失礼ながら、いくらAランク冒険者といえどもこればかりは信用しきれないというのが本音です。ミスリル合金をそこまで大量に仕入れられるだなんて、ねえ? 言葉を話せる者ならば誰もがそれを“嘘”だと分かりますから」

――糸のように細めていた目が、ギロリと開かれた。

空気が一変する。

シルビアが俺の横でその手に力を込めたのが分かった。エコは少し震えながら俺の服を後ろからぎゅっと握って引っ張っている。2人ともビビってしまっていた。確かに、俺も恐怖したことだろう。ここがメヴィオンの世界の中でなきゃあ。

「ただ、一つ。一つだけ気になるのです。貴方はどうやってそのダークエルフの彼女を手に入れたのか。彼女はプロの“戦闘員”だ……私のギルドにもいないくらい、一流のね」

ユカリはギルマスの威圧にも動じずに視線だけを動かし、俺を見た。その冷静な目は「ここが勝負どころだ」と言っているようだった。

「私は少しばかり期待しています。ゆえに実力を証明していただきたい。プロリンの攻略が屁でもないということを。さすれば私共は喜んでお話をお受けしましょう。しかし、嘘だと分かったならば……容赦はしない」

室温が3度ほど下がりそうな、冷徹な声と視線だった。

一般人に対する脅しとしては十分な効果だろうが……生憎、俺には全く効かない。何故なら「勝てる」から。世界ランキングでいえばこのオッサンは10000位にも達さないだろう雑魚だと分かるから。理由は単純、それだけだ。

「実力の証明というと、何をすればいい? 今から攻略するか? だとすると3時間はかかる」

俺はできるだけ平然と言った。

この場で求められているのは「プロリンを何度も周回できる」ということの証明。であれば「できて当然」という雰囲気を醸し出す必要があると考えたからだ。

しかし、俺の言葉を聞いたオッサンは、その何十人もぶち*していそうなギラついた目を更に鋭くして俺を睨みつけてきた。気に障ったのだろうか? あちゃー、だとしたら作戦失敗だ。

……うーん、こう見ると本当にツルツルだな。毛狩り隊の人かもしれない。

「――はっはっは! 大した余裕です。素晴らしい! ユカリさんの仰る通りだ」

すると、ギルマスのオッサンは大声で笑い、そう言った。

「なっ、試していたのか!?」

シルビアがユカリへと批判的な視線を向ける。ユカリはシルビアではなく俺に向かってぺこりと頭を下げた。

「申し訳ありませんご主人様。ですが、必要なことだと」

「はい。私が指示を出しました。本当にミスリル合金の安定供給が可能な方なのか、見極める必要があったのです」

なるほど。ということはつまり、俺はお眼鏡にかなったということかな?

「うー……っ」

おっと、その前にエコがビビり過ぎて泣きそうだ。

……ムカつくからあえてブチギレてこのオッサンにしこたま謝らせよう。

「何が見極めるじゃコラ! エコに謝れタココラ! ナニコラエココラ!」

コラコラ責め立てる。

「ああっ! すみません! すみません!」

……このオッサン見た目に反してもの凄く腰が低い。エコより頭が低くなるようにしゃがみ込んでぺこぺこ謝っている。

とまあ、そんなこんなで商人ギルドとの話はまとまった

――かに見えたが、実はまだ問題が隠されていた。

「しかしですね、実際に力の証明は必要なわけでして……」

ツルツルリーナ・シンさんの案内で、俺たちは商人ギルド奥の応接室へと通される。

そして彼は眉毛をハの字にしてそう言った。

「俺を信用するために?」

「いえ、そうではありません。私の目に狂いがなければセカンド様は“本物”です。ですが」

「ああ、シンさん以外の人が俺を信じられないってことか」

「そうなります」

「具体的には?」

「少なくとも、うちの職員数名と、取引予定の方々にはお見せしていただきたく存じます」

「何人くらい?」

「おそらく200人前後になるかと」

「……ワーオ」

そいつは困った。

そんな大勢にどうやって実力を証明すればいいんだ?

「えー、シルビアは魔弓で、エコは盾で、何かパフォーマンスをするとして……」

4人+1人で知恵を絞って考えなければならない。

よって、あーだこーだと話し合いが始まった。

シンさんも色々と親身になって相談に乗ってくれる。このオッサンなかなか良い人だな。

そして一瞬で15分が経過。良い案は一向に出る気配がない。

「ところでセカンド様は一体どのような得意技をお持ちなのですか?」

「弓術、剣術、魔術、召喚術だな。魔弓術と魔剣術も使える」

「私は火属性だけだが、セカンド殿の魔術は全属性だ。そして全てが一流の腕前だぞ!」

「…………そ、それは凄まじいですね」

シンさんが目と頭を真ん丸にして驚いている。シルビアは自分のことじゃないのに何故かドヤ顔だった。

「ご主人様、召喚術をもうお上げになられたのですか?」

「ん、ああ。今日で精霊召喚が四段になった」

俺がユカリの質問に答えると、コトンという音が鳴った。それはシンさんの手からペンが滑り落ちた音だった。

「よ、四段ですとッ!?」

シンさんは大声をあげて驚く。あまりの大声に部屋中がビリビリと振動したような気がする。すげぇインパクトだ。その形相は驚きというより恫喝に見える。

「ひぇーっ」

エコが俺の背中に隠れた。

「ゴラァ! タココラ!!」

「わああすみません!」

エコを怖がらせたとあっちゃあ黙っていらんねぇと俺が勢いに任せて怒鳴ったら、シンさんは相変わらずの超低姿勢で謝り倒した。その必死さはどう見ても演技じゃない。本当に気が小さいんだなこの人……きっと外見で苦労してるんだろうなぁ。

「し、しかし活路が見えたかもしれません!」

シンさんはエコの許しを得てから立ち上がると、そう言った。

「活路?」

「ええ! セカンド様っ。精霊召喚ですよ、精霊召喚!」

なるほど! 《精霊召喚》を大勢の前で見せるということか。

確かに、精霊強度の高い精霊になればなるほど、そして《精霊召喚》のランクが高くなればなるほど、召喚時の演出は派手で仰々しいものになる。

特に「最初の召喚」は格段に凄い。精霊それぞれに専用の召喚演出があるのだ。これなら実力のアピールとしては申し分ないだろう。

「四段ほどに高ランクの精霊召喚ならば、おそらく見る者全てがセカンド様の実力を納得しましょう」

この世界では四段が高ランクという認識なのか。

だとすれば……うん、意外に良い案かもしれない。プレミアム精霊チケットのおかげで初期精霊強度の高い精霊が召喚できるから、きっとエフェクトはド派手になるだろう。

「分かった。その方向で話を詰めてみよう」

俺はシンさんの提案に頷き、計画を話し合った。

まさかあんなことになるとは夢にも思わずに……