軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

339 駄々

* * *

「この度のご訪問は非公式かつ私的なものであり、また突然のことでもあったために、陛下への謁見には多少時間が空いてしまうことをご了承願いたく存じます」

ようやくヴァリアント王国の王宮に着いたと思ったら、迎賓館に押し込められて、開口一番にこれだった。

誰だったか。俺の前で頭を下げるこの貴族風の服装の男、ビビ・レグルス王領伯とか言っていたっけ。

アウロラさんとマチルダさんはさっさと連れていかれてしまい、俺だけこの迎賓館に隔離されている。

これは、臭い物に蓋をしているのか、それともアウロラさんと引き離されたと見ればいいのか。

なんだか、どっちもな気がする。

「ビビさん」

「はい」

俺が名前を呼ぶと、ビビさんは引き締まった顔で返事をした。

その反応だけでわかる。俺は警戒されている。

非公式訪問に対して迎賓館を使わせて、挨拶と時間の交渉に王領伯を寄越す念の入れよう。そしてその王領伯は、無言で見つめる俺に冷や汗を流す有り様だ。

そんなに警戒しないでほしいな。別に取って食ったりしないんだから。

「いくらでも待とう。いつまで待てばいい?」

「ありがたきお言葉です。2日もありましたら、準備は整いましょう」

2日間か。長ぇな。

まあいいや、その間に王都を見て回ったりできないか聞いてみよう。

「それまで自由に行動していいだろうか?」

「勿論で御座います。ご案内に護衛の騎士を付けさせていただきますが、王都内での自由と安全は保障いたします」

なるほど、監視は付くわけだ。

道は見えたな。

「ありがとう。その護衛はもう決まっているのか?」

「はい。王国騎士随一の腕利きの者で御座います」

よし、仲良くなろう。

一時間後、その腕利きの護衛とやらが来た。

2メートル近い巨躯、ガッシリと鍛えられた体、勇壮な顔付き、そして――頭に熊の耳。

「初めまして、ヴァリアント王国騎士団騎士団長のフジと申します。見ての通り、 熊獣人(・・・) です」

熊獣人の男であった。

そして、驚いた。彼は30歳くらいの若さに見えるが、騎士団長だと言う。

30歳前後の獣人が騎士団長。獣人差別の盛んだったキャスタル王国なんかではあり得ないだろうな。

つまり、ヴァリアント王国が帝国のような実力主義の国なのか、それとも彼が獣人差別など愚にもつかないほどの実力者なのか。前者は男尊女卑が凄そうなヴァリアント王国の印象に合わない、となると……。

いいね、ワクワクしてきた。とりあえず挨拶を返そう。

「初めまして。セカンド・ファーステスト、人間だ」

「!」

堂々と言う。

君が獣人だと自己紹介する言葉は、俺にとってはこう聞こえているのだと。

フジは目を丸くすると、それからすぐさま微笑んだ。

俺たちはどちらからともなく握手をする。

ググッと、STRを感じる力強い握手だった。

「八冠王にお会いすることができて光栄です」

俺の手を握りながら、フジはそんな言葉を口にする。

真っ直ぐにこちらを見つめる目に嘘偽りはなさそうだった。

「よろしく。これも何かの縁だ、なんでも聞いてくれ」

俺がそう返すと、フジは微笑で返した。

冗談だと思われているようだが、俺もこの言葉に嘘偽りはない。大抵のことならなんでも喋る腹積もりだ。

「冗談だと思ってるな? 本気だぞ」

「本当ですか? 失敗しました。聞きたいことを紙にまとめてくればよかった」

そう言ってフジは困ったように笑った。

まだ信じてもらえてないようだが、別に嫌がられているわけではないようだ。

「幸いにも時間はある。これから考えればいい」

「はは、それもそうですね」

「腹が減ったから、とりあえず晩メシでもどうだ」

「では、ヴァリアントでも指折りの名店をご案内しましょう。何か食べたい物などありますか?」

「とにかく揚げてある食い物が恋しい」

「おっと、これはよっぽどですね。揚げ物の店となると……」

フジはその太い指で小さなカンペをぺらぺらとめくって、店を探している。

その一生懸命な様子から、彼がこういった案内などに慣れていないことがひしひしと伝わってきた。

それもそうだろう。彼は騎士団長だ。本来の護衛すべき対象は王族などの要人である。

しかし、八冠王なんていうイレギュラーが来てしまっては、もう彼くらいしか適任が居なかったんじゃなかろうか。

ヴァリアント王国騎士団の現状がなんとなく透けて見えてしまうな。

「串カツの店なんて如何でしょう?」

「いいね、行こう」

そんなことより串カツだ。

「なあフジ、合気術って覚えてる?」

串カツ屋に着いて、出てきたお冷を一杯グイッと一息に飲み干したところで、俺は気になっていたことを聞いてみた。

この国での合気術の普及状況がいまいちわからないのだ。

アウロラさんは道場に入門すれば覚えられると言っていたが、それが相当に狭き門らしい。

どんだけ狭いのか、ここらでちょいと確認しておきたい。

「はい。私は平民の出身ではありますが、幼い頃に山心館のニシキ館長に拾われ、特別に入門を許していただきました。今の私があるのは、ニシキ館長のお陰と思っております」

「へぇ~」

平民なのに特別に……ということはつまり、通常はそれなりの地位がないと入門は許されないということか?

俺が思案していると、フジは俺の考えていることを察したのか、続きを口にした。

「本来は館長の許可とともに、国王陛下がお認めになられた場合のみ入門ができるのです。しかし私の場合は、ニシキ館長の強い説得があったと聞いております」

「こいつは才能があるから認めてやってくれと直談判したってことか」

「はい、手前味噌な話ですが」

フジは恐縮するように肩をすぼめた。

「ニシキさんは見る目があるな。今や騎士団長だろう?」

「それもこれも館長のお陰です」

「路傍の石は磨いても輝かない」

「……!」

磨く価値があったというわけだ。

山心館館長のニシキさんに少し興味が出てきた。

「味噌カツもいいな」

「大将! 味噌串カツをこの方に!」

フジの好感度がグングン上がっていく音がする。

しかし良い話を聞けたな。つまり、館長の許可と、国王の認可さえあれば、俺でも道場に入門できるというわけだ。

となると、国王の前に道場の方を攻略しておいた方がよさそうか。

「なあフジ、道場見学ってできないか?」

「ど、道場見学ですか……」

おっと、渋い反応。

まあそりゃ、仮想敵にそう易々と見せられるわけもない。

「どうにも、私の一存では」

「じゃあ、味方してくれるだけでいい」

「味方、といいますと?」

「国王さんの前で俺が道場見たい入りたいと駄々をこねた時に、味方してくれ」

「……ええと」

これも駄目か。

仕方ない、交換条件だ。

「なあフジ、覚えたいスキルはないか?」

「急になんの話です?」

「そうだなあ……」

俺は薄目にしてフジの瞳を見つめた。

まあ、一種の演出だ。

「高STRを活かして剣術や斧術を得意にしているが、AGIが低いから立ち回りは苦手だ。反面VITは高くぶつかり合いもお手のものだが、槍術を相手にする時はリーチ負けして合気術ばかりに頼りがちだろう。弓術や魔術には有効な対抗策が無く、一か八かで接近を試みるしかない。どうだ?」

「!?」

「当たっているようだな。もっと掘り下げようか。剣術は大剣、斧術は大斧、盾術は大盾。AGIを捨ててSTRとVITを最大に活かそうと特化させているようだが、考え方が逆だ、やめた方がいい。それに槍術は満足に覚えられていないな、護衛中の警戒の間合いが近すぎる、槍術の選択を想定していないように見えた。遠距離攻撃に対しては、飛車盾術しか手札がないだろう。まるでグーしか出せないジャンケンだな」

このくらい看破できて当然だ。驚いてもらっちゃ困る。

しかしフジは、目を見開いて絶句していた。この上なく図星だったのだろう。

「大剣にこそ高AGIが必要だ。AGIが低くSTRが高いならレイピアやショートソードがおすすめだな。加えて、なんでもかんでも合気術に頼ってしまっては、すぐに対策を取られてしまう上に、同じ合気術を相手にした時に痛い目を見る。控えた方がいい。そして遠距離攻撃への対策は必須だ。弓術や魔術を覚えるのが一番手っ取り早いが、近接一辺倒で行くというのなら、せめてグーチョキパーは出せるようにしておきたい」

具体的なアドバイスを口にする。

未だ困惑している様子のフジだが、知るもんか、言ってしまえ。

「槍術、覚えておいて損はないぞ。特に飛車槍術だ。金将槍術の反撃を使って200体連続で魔物を倒せば習得できる」

「なっ……!!」

「おめでとう、これでチョキをゲットだ」

俺の不意打ちで、フジは聞いてしまった。

忘れたくても忘れられないだろう。押し売り成功だ。

「味方、よろしくな」

「……最初からこれが狙いだったのですね」

フジはしてやられたといった顔で俺を見てくる。

俺は不敵に笑ってこう返した。

「なあフジ、一つ聞いたら二十も三十も変わらないと思わないか?」

「な、何を仰っているんですか」

言ったはずだ。なんでも聞いてくれ、と。

「槍術、体術、弓術、魔術、好きなもんを好きなだけ聞いてくれて構わない。喜んで教えよう」

フジは顎が胸に届くんじゃないかってぐらい大口を開けて固まった。

彼にとっては交換条件になってしまっているが、俺にとっては元手ゼロ。なんなら皆に教えて回りたいまである。むしろアドだ。

さあさあ、なんでも聞いてくれ。

シラフじゃ聞き難いかな? なら、イっちゃうか、あれ。

「大将、生中2つね」

いやあ、良い旅行になりそうだ。

「なあフジ」

「はい~? 如何されましたかぁ~?」

「迎賓館の前にあるあの馬車、誰のだ?」

「あぁ~、あれは、ウィロウ殿下の馬車ですねぇ~」

「そうかー、ウィロウ殿下かー」

俺とフジは、肩を組みながら千鳥足で迎賓館へと戻ってきた。

ちょっと盛り上がり過ぎて、フジの呂律が怪しくなっている。

護衛がそれはどうなんだと思うが、飲ませたのは俺だ、俺が悪い。

それよりも、誰だウィロウ殿下って。

「アウロラさんの妹か?」

「はいぃ、第三王女殿下に御座います~。清楚で聡明で慈悲深い、天使のようなお方ですぅ」

第三王女か。

そんなお優しいお姫様が、俺になんの用だろう?

「俺に求婚しに来たのかな?」

「冗談きついです」

「急に冷静になるな」

フジはウィロウさん推しなのかもしれない。

「す、すみません、お手洗いに……」

迎賓館に着くや否や、フジは顔を青くしてトイレに駆けていった。

飲み過ぎだ。10杯は飲んでたもんな。

「お?」

ラウンジに入ると、そこには見るからにお姫様って感じの金髪の少女と、仕事のできそうな眼鏡の侍女が待っていた。

彼女が第三王女ウィロウ・ヴァリアントだろう。

「夜分遅くにすみません。 私(わたくし) 、ウィロウ・ヴァリアントと申します。お姉様の大恩人でありますセカンド・ファーステスト様がいらっしゃったと聞いて、居ても立ってもいられず、失礼を承知でご挨拶に伺いました」

ウィロウさんは俺に気付くと、慌ててソファから立ち上がり、思わず見惚れるほどの美しい所作でお辞儀をした。

歳は16くらいだろうか。随分としっかりした子だな。

「初めまして、セカンド・ファーステストです。只今ベロベロに酔っ払っているので、失礼があったらすみません」

あらかじめ謝っておく。

ウィロウさんは、くすりと笑ってくれた。

「いいのですわ。押しかけてしまったのは私の方ですから」

やったぜ無礼講だ。

「そんで、ウィロウさん。俺になんの用で来たんだ?」

ソファに腰掛け、足を組みながら喋りかけたら……ウィロウさんはきょとんとした顔で固まった。

俺が首を傾げて見つめていると、ウィロウさんはハッとして、慌てた様子で沈黙を破る。

「ご、ごめん遊ばせっ? 私、殿方からそのように話しかけていただいたことがなかったものですからっ」

あわあわと、両手をぱたぱた動かしながら喋るウィロウさん。

なんだろう、可愛いのやめてもらっていいですか?

「か、可愛っ……!?」

おっと、口に出ていたみたいだ。

ウィロウさん、顔を真っ赤にして硬直してしまった。

――あ。

「おいおい、ちょっと失言したくらいで武器を出そうとするなよ」

「!」

俺がウィロウさんの反応を見てほんわかしている隙に、眼鏡の侍女が殺気立っていることに気付いた。

「舐めんな。酔っ払ってても八冠だ」

「失礼いたしました」

「名前は?」

「フレヤと申します」

フレヤさん、覚えておこう。

「良い腕だ。装備転換における袖口への意識から暗殺術が得意と見た。足の運びと間合いの目視から、体術もそれなりに自信がありそうだ。仕事柄、糸操術を持っていたら役に立ちそうだが……この場で初手に拘束を考えないということは、金将以降は覚えたくても覚えられていないといったところか?」

「……!」

図星のようだな。じわりと、フレヤさんの瞳孔が開いた。

「安心しな。フジがトイレ行ってんのは、調子乗って飲み過ぎたからだ」

「貴方様が飲ませたのでは」

「悪かったと思ってるよ。まあ、そんなに疑いたきゃ疑えばいいが、一つ言っておくと……俺がその気なら、フジがいようが騎士が何人いようがそんなもん関係ない」

「……肝に銘じておきます」

フレヤさん、フジが同席していないこの状況を俺が作ったのではないかと警戒していた。

全く、フジに見せてやりたいね。これこそが護衛のあるべき姿だと。

そして、感心する。彼女のウィロウさんへの忠誠は、本物だろう。それも相当のものだ。

「ごめんね。それで、なんの用?」

すっかり置いてけぼりのウィロウさんに、俺は困り笑いで謝って、話の続きを促した。

……すると。

「~~っ!」

目が合っただけで、ウィロウさんの頭からシューッと湯気が出るんじゃねえかってくらい顔が赤くなる。

「す、すみません、出直しますわっ! ご、ご機嫌よう!」

ウィロウさんはぐるぐると目を回しながら、フレヤさんを連れてラウンジを出ていってしまった。

……なんだったんだ、ありゃあ。