軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 来いよ狐、スパルタン命令、メンタルパス、寝付き良い子

「セカンド様。お願いですから、せめて顔だけは隠してください」

朝、なんの前触れもなく「買い物へ行く」と言い出したセカンドへ、キュベロが必死に“キツネ面”を渡そうとしていた。白いキツネに朱の模様が入ったアクセサリー装備である。キュベロの持っている中で、顔を隠せそうなアイテムはこれしかなかった。

「パール、すみませんがセカンド様のお供を」

「承知した」

キュベロによって急遽呼び出されたのは、メイド十傑の一人、パールである。

「大丈夫だよ、一人で行ってくるから」

「駄目です」

「大丈夫だって」

「駄目です」

「だ」

「駄目です」

セカンドは「キュベロに伝えたのは失敗だったな」と頭をぽりぽり掻きながら思った。

キュベロは頑固である。こうと決めたら、たとえセカンドの命令であっても簡単には曲げない男だ。

お面を装備して、供が一緒でないと、買い物へ行くことは絶対に認めません――そう顔に書いてあった。

最初に話を聞いたのがユカリであれば、もう少し甘かったかもしれない。だがキュベロは持ち前の責任感と心配性な性格から、セカンドに何かあってはいけないと、このような条件を付けた。

「……はぁ、わかった。じゃあパール、行こうか」

「はい」

セカンドが諦めてキツネのお面を装備し、そう口にした。

パールは表情一つ変えず、仏頂面で頷く。

これといって機嫌が悪いわけではない。むしろ、セカンドと出かけられることに気分はフィーバー状態であった。彼女は、常に仏頂面なのだ。

その証拠に、表情は一切変わらないが、ゆるふわショートのプリン髪の隙間から見える丸っこい耳が、ぴこぴことご機嫌に動いていた。

パールはハイエナ獣人である。この世界にはハイエナという動物は存在しないが、ハイエナ獣人族は存在するのだ。

「お揃いだな」

「はい?」

「ほら、俺も耳」

「はい、左様ですね」

「…………」

打ち解けようと、セカンドはパールにお面のキツネ耳をアピールする。

パールは淡々と返したが、内心はドキドキしっ放しであった。これまでセカンドとは序列戦などで何度か喋ったことがあったが、これほど長い時間一緒にいたことはなかったのだ。

一方、パールから大した反応を得られなかったセカンドは、なんとも気まずい思いをしていた。

二人はそのまま無言で王都ヴィンストンの大通りへと歩を進めた。

身長162センチのパールは、セカンドの顔を見るには少しばかり見上げる必要がある。様子を確認するためにセカンドを度々見ていると、何度か目が合い、その度にドキドキしていた。時にはドキドキしすぎて、そのスレンダーな胸に手を当ててこっそり深呼吸をするくらいに。

セカンドはというと、見上げてくるパールの顔が睨んでいるようにしか見えず、嫌われてしまったかもしれないと要らぬ心配をしていた。

「さて、今日は何を買いに来たかというと……」

王都ヴィンストンの大通り。

セカンドは道行く人々の視線を集めながら、目当ての店を探して歩いた。

「あったあった、ここだ」

そして、見つけるや否や、一切の躊躇なく入店する。

そこは、大通りの一等地にある一流の高級服飾店だった。

「え」

セカンドが入店すると、店員は不意に自身の接客業務を忘れ、固まった。

明らかに見覚えのある体格、髪、オーラ。キツネのお面で顔こそ隠れているが、「どう考えてもあの人だ……」と確信せずにはいられなかった。

しかし、流石は一流店のプロである。セカンドがお面をつけているということは、「セカンド・ファーステスト八冠だと思われたくない」という意思の表れ。そう読み取った店員は、すぐさま意識を接客モードへと切り替えた。

「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなものをお探しですか?」

「ああ、チームメンバーに服を買ってやりたくて。こんくらいの体型の猫獣人と、こんくらいのナイスバディなダークエルフと、こんくらいのスレンダーな聖女と、こんくらいのガッチリした陸軍大将と、こんくらいのボーイッシュな美人侍なんだが」

「……か、かしこまりました。腕によりをかけて選ばせていただきます」

もはや隠すつもりもないだろうセカンドの言葉に、店員は困惑しつつも頷いた。

だが幸いにも、セカンドの口から出てきた5人中4人が有名人であったため、似合う服を探すのはそれほど苦労しそうにない。

店員は普段の何倍も気合いを入れて、店中を駆け回り服を集めた。

「買ったぜ」

両手に紙袋を持って、満足げなセカンド。

その横には、相変わらず仏頂面のパールが立っている。

紙袋には、エコ、ユカリ、ラズベリーベル、ノヴァ、マサムネへのプレゼントが入っていた。

どうしてこの五人だけなのかといえば、他のメンバーにはボスラッシュでドロップしたアイテムをプレゼントする予定だからである。

「私が」

パールはセカンドへと一歩近寄ると、紙袋へ手を伸ばした。

「いや、俺が持って帰る。その方が、なんか、アレだろ? プレゼントって感じするよな?」

「……左様ですね」

セカンドは紙袋を片手にまとめると、肩にかけて持ち直し、ニッと笑って言った。

あまりにも絵になるその仕草に、パールは思わず見惚れ、返事が数秒遅れてしまう。

一方、相変わらず仏頂面のパールの反応を見たセカンドは、呆れられてしまったかもと少し気を落とした。

まさに鉄壁。出会った頃のユカリを彷彿とさせる冷淡さであった。

そうなってくると、なんとかして笑顔にさせてみたいと思うのが、この男である。

「あ、そうだ。パール、ここで待っててくれ。一つ買い忘れたものがある」

「承知しました」

セカンドはそんなことを言い残し、駆け足で服飾店へと戻っていった。

王都ヴィンストンで最も活気のある大通りの、道のど真ん中。

パールは、道端へ寄るでもなく、ただただそこに立って、セカンドを待った。

ここで待っててくれ――そんなセカンドの“命令”を、パールは 言葉通りに(・・・・・) 捉えたのだ。

ゆえに、パールは“ここ”で“待つ”。何があろうと。

「――おっとっとぉ! 痛ぇなおい! 何処見て歩いてんだぁ?」

「おいおいお嬢ちゃん、ぶつかっといて無視かよ?」

「あーあ、こりゃ慰謝料もらわないとなぁ」

見るからにガラの悪い三人の男が、パールへと絡んできた。

パールへとわざとらしく肩をぶつけ、因縁をつける。

しかしパールは、肩をぶつけられたというのに、びくともしない。逆に、ぶつかった男はよろめいて、地面へと倒れかけた。

「あぁ、本当に痛ぇな畜生。覚悟はできてんだろうなぁ?」

三人の男はパールを囲むと、いやらしく笑った。

見た目の良い獣人の女が往来で突っ立っていれば、こういった手合いが出てくる。それが今のキャスタル王国の状況だった。

マイン・キャスタルが国王となってから、それほど時間は経っていない。ゆえに手が回り切らないところもある。義賊R6が治安維持に一役買っていた時代も終わり、今は新生R6がその役目を担っているが、王都中に散り散りとなった悪党を御するというのは、一朝一夕では難しいことであった。

そして現在、パールはメイド服を着ていない。これも絡まれた原因の一つである。

セカンドが顔を隠しているのだから、ファーステスト家だとわかってしまうようなメイド服を着ることはできなかったのだ。

もし仮にパールがファーステスト家のメイドだと判明すれば、この三人の男たちは脱兎の如く逃げ出すか、泣いて許しを請うことだろう。

「おい、なんとか言えやコラァ!」

そんなことはつゆ知らず、男たちは態度を大きくする。

無視を続けるパールの胸倉を掴み、手前に寄せようと力を込めたが――。

「……は!?」

びくともしない。

胸倉を掴んだ男は、まるで巨大な岩を掴んで引っ張っているような、そんな錯覚を得た。

「…………」

「チッ!」

パールは、冷たい目でじろりと男を睨む。

男はパールの服から手を放すと、拳を構えた。

「もう容赦しねぇぞ」

男たちはパールを力ずくで連れていくつもりなのだろう。

ゆえにパールも、抵抗は辞さないと心を決める。

しかしながら、セカンドの命令も守らなければならない。

パールは、たわいもないことだと考える。

要は……この場から一歩も動かずに勝てばよいのだ。

彼女は、直近の序列戦において――8位の実力者である。

「げっ」「がっ」「ぐっ」

パールの放った《角行体術》の回し蹴りが、三人の男の顎を的確に捉え、一瞬でその意識を刈り取った。

パールはくるりと華麗に一回転し、元の位置へと足を戻す。

「おお~」と、遠巻きに見ていた道行く人々から拍手と歓声が贈られる。

依然として仏頂面のパールは、道に転がる男たちには目もくれず、そのまま仁王立ちでセカンドを待った。

すると……彼女に目を付けたのか、今度は豪奢な服で着飾った恰幅の良い男が近寄ってきた。

「見事、見事。私が助けてやるまでもなかったな」

貴族だろう男は、手を叩きながらそう言うと、品定めするようにパールを観察する。

「どうだ、私に仕えないか? 悪いようにはしない」

そして、勧誘を始めた。

男の横には、護衛と思われる兵士が二人立っている。

「私にはご主人様がいる」

「ほう? では、給金はその十倍出そう。然様なみすぼらしい服、掃いて捨てるほど買えよう」

男はパールの服を見て、それほど給料を貰っていないと予想し、そんなことを口にした。

実際は、横の兵士よりも高い給料を貰っている。ただ単に、パールがファッションに無頓着なだけである。

「拒否する」

「……生意気な女だ。獣人風情が、この私に口答えするのか?」

「誰?」

「貴様! サティス男爵閣下を愚弄するか!」

兵士が割って入る。パールは名前を聞いてもピンと来なかった。

「知らない」

「~~っ! ま、まあよい。言うことを聞かぬとあれば、聞かせるまでよ」

サティス男爵と呼ばれた男は、怒りに顔を赤くして、兵士へと指示を出す。

「傷は付けてくれるなよ。あとで楽しめんのでな」

「……はっ」

そして、パールへと向き直ると、邪悪に笑って言った。

「体術の腕は立つようだが、やはり獣人よな、頭は足りていないらしい。大人しく私に従っておけばよかったものを」

「何を言っている?」

「まだわからんのか? これだから獣人は困る。よいか、このような往来で私に抵抗でもしてみろ、お前の主人が誰だか知らぬが、サティス男爵家と事を構える覚悟があるのか?」

「…………」

パールは、それもそうかと納得した。

ファーステスト家が他家と全面戦争するかどうかは、彼女の一存で決められない。

何より、自分のせいで主人であるセカンドに煩わしい思いをさせてしまうのではと考えると、途端に手を出しづらくなった。

ユカリにチーム限定通信で相談しようかとも考えたが、やはり迷惑をかけてしまう。そう思うと、なかなか相談できなかった。

そうしてパールが悩んでいるうちに、サティスは次なる行動を起こす。

「この無礼者が! 許さぬ! 即刻ひっ捕らえよ!」

サティスは道行く人々にあえて聞こえるよう大きな声で兵士へと指示を出した。

獣人の女が男爵に対して何か無礼なことをしたと印象付けるためだ。

「やれ」

そして、サティスは下がる。

残ったのは、二人の兵士。

傷を付けるなという指示通り、剣は抜かずに拳で痛めつけるつもりのようだった。

「……っ……」

一発、二発と、パールの顔や腹部に拳が打ち込まれる。

先ほどのごろつきと違って、きちんと訓練を受けた兵士の拳だからか、きちんとダメージがあった。

しかし、パールは動かない。

仁王立ちで、無抵抗を貫いた。

「なんだ、この女」

「異様に硬いぞ」

兵士はじんじんと痺れる拳に違和感を覚えながらも、殴り続ける。

恐らく、この獣人の女は相当に強い。だが、残念ながら、抵抗できないのだ。

そう考えると……兵士たちの顔は下卑た笑みに歪んだ。

「いい加減、倒れろ、獣人がッ」

「泣いて、謝ったら、許してやっからよッ」

かれこれ何十発と殴られ続けているパールは、未だ仁王立ちを続けていた。

兵士たちと比べれば圧倒的にステータスの高い彼女だが、それでも痛みはある。

時折、顎や鳩尾など、耐え難い痛みを伴うパンチを貰うこともあった。

しかし、パールは一歩たりとも動かない。

膝すらつかない。

ここで待て――と、主人にそう命令されたから。

主人からの命令は絶対である。

たとえそれがどのような命令であろうと、彼女は命を賭して守ろうとするだろう。

それが、彼女の忠義であった。

「――おい、何やってんだ?」

キツネ面の男が戻ってくる。

セカンドは、状況が全くわからず、パールへと尋ねた。

「どうしたんだ?」

するとパールは、それまで一歩も動かさなかった足を斜め後ろへと下げて、お辞儀をした。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

何度も何度もユカリから教わった、メイドの礼だ。

そして、セカンドからの質問に答えるため、口を開く。

「 ここ(・・) で 待って(・・・) おりました」

「……!!」

セカンドは、その一言で、全てを察した。

次いで、彼女のことを少しだけ理解した。

パールは、とても寡黙で、口下手で、言葉を言葉通りに受け取ってしまう不器用な女の子なのだと。

ああ、俺の責任だ。セカンドはそう思い、謝罪の言葉を口にする。

「俺が言葉足らずだった。すまない、痛い思いをさせたな」

それから、まるで大切なガラス細工を触るかのように、頬の傷を優しく撫で、そっとインベントリから取り出したポーションをかける。

その傷はまさに、パールにとって自分の忠義の証そのもの。セカンドに手ずから心へと触れてもらえたような気がして、パールは嬉しくて堪らなくなった。

「!」

この時、パールは初めて、セカンドの前で微笑を浮かべていた。

それはそれは幸せそうな微笑であった。

「おい、のこのこ出てきて横槍か? 仮面野郎」

「この獣人は男爵閣下に無礼を働いたんだ、捕らえさせてもら」

――声すら聞こえない。

なんのスキルも使用していない拳が振られ、二人の兵士がその場に倒れ伏す。

誰もが見ていたはずなのに、あまりに素早すぎて、そうなったという“結果”だけしかわからなかった。

セカンドは殴り終えた手をチョキにして、それからゆっくりとパーにしながら、サティスの方を向く。

「俺さ、昔からジャンケン得意なんだ」

「な、何を言っているのだね? 貴様は何者だ!? 我が男爵家に喧嘩を売ろうと言うのかね!」

「なんで得意かわかるか?」

狼狽するサティスを無視して、セカンドは言葉を続ける。

「視線、表情、筋肉、手の動き、全てがヒントだ。そして予想を立てる。お前は今緊張している、ジャンケンに応じようか迷っている、だがここで応じなければ問答無用で殴られるかもしれない、相手は正体不明のキツネ面男、しかし何処かで見たような、もしやあの、いや、そんなまさか……」

「!!」

「じゃーん、けーん、ぽい」

サティスは震える手でチョキを出し、セカンドはグーを出した。

「俺の予想はチョキだった。何故か教えよう。緊張状態ではグーを出しやすいとお前は知っていた。そして自身が緊張していると認めざるを得ないメンタルだった。最後に俺は言葉を途中で切り上げて掛け声を急いだように演出した。それを見てお前は、俺が相手の緊張状態を誘ってグーを出させようとしているという考えを確かなものにした。ゆえに、パーに勝てるチョキ……残念、そこまで読み筋だ」

「だ、だからなんだと言うのだ!」

「最初からお前に勝ち目はなかった。気圧されるあまり、俺に動きを指定されてしまった。お前がチョキを出すよう誘導したんだ。おまけに、俺は相手の手の動きが見える。ただ単に見て自分の手を変えるには猶予が短いが、予想を立てた上で相手の手の動きに反応し、自分の手を変えることは、そう難しくない。まあ、これは保険というやつだ」

「何が言いたいのだ貴様!」

激昂するサティスに向かって、セカンドはてくてくと歩み寄ると、口にした。

「俺がグーで、お前がチョキだってことだよ」

「? ……!?」

――俺が勝者で、お前が敗者。

セカンドの言葉の意味を理解した瞬間、サティスは顔面にグーを食らい、意識を手放した。

「悪かったな、変な命令して」

「いえ」

帰り道、セカンドはパールへと改めて謝った。

パールは、何も気にしていないという風に首を横に振る。

事実、何も気にしていなかった。むしろ、命令を遂げられて誇らしい気分であった。

主人からの命令というものは、それがどのような命令であったとしても、彼女にとって疑う余地のないものなのだ。そしてその命令を遂げられるというのは、自身の忠義を示す絶好の機会であり、使用人にとっての 誉(ほまれ) なのである。

セカンドもそんなパールの思いを察し、彼女に対する発言の重さを理解した。

しかしセカンドは、そういった並々ならぬ覚悟を持つ使用人は彼女だけだろうと思っているが、実際は……使用人零期生全員と言っても過言ではない。

パールが特別、寡黙で口下手で不器用だったがゆえに、こういった機会が訪れたというだけのことである。

「今日はありがとう。これ、よかったら」

「!」

屋敷に到着する寸前、セカンドはパールへと一つの紙袋を手渡した。

それは、パールを道の真ん中に待たせて買いに行っていた、パールへのプレゼント。

パールの笑顔を見たいがために購入した服だが、既に目標を達成していたセカンドは、照れ隠しか渡すや否や背を向けて屋敷へとさっさか帰っていってしまった。

「あ、ありがとう、ございます!」

誰も聞いたことのないパールの大声に、セカンドはひらりと手を挙げて応えた。

……その日の夜、パールは人知れず、貰った服を眺めては特大のニヤケ面を浮かべ、姿見の前で体に重ねてポーズを取ってみてはニヤケ、それを三時間繰り返し、ついにはニヤケ面で服を抱きしめたまま寝たという。

後日、セカンドのもとへサティス男爵から謝罪の手紙が届いた。

手紙には何が書かれていたかというと……。

「本人が来ねぇ、菓子折りの一つもねぇ、ペライチの謝罪文だけで済ますつもりか? 挙句の果てに内容は俺への謝罪だけで、パールへの謝罪が一言もねぇ。おまけに今回の件は水に流そうとかぬかしやがった。笑えるな、こいつギャグセンスあるよ」

セカンドは「わははは!」とひとしきり笑うと、手紙をグシャグシャに丸め、それだけでは飽き足らず、何故か口に含んで「モガァアーッ!」と叫び、ペッとゴミ箱へ吐き出した。よほどイラついたらしい。

「そんなんばっちいで、口入れんといてや」

ラズベリーベルに注意され、「それもそうだな」と反省する。

「ウィンフィルド」

「ほーい」

「任せた」

セカンドはウィンフィルドを呼ぶと、丸投げした。

ウィンフィルドは「おまかせか~」と、楽しそうに悩む素振りを見せてから、口を開く。

「じゃあ、シェフの気まぐれコース、で」

「怖ぁ~。気まぐれに消されんねやろ? 怖いわぁ~」

ラズベリーベルが大げさにリアクションすると、ウィンフィルドは更に怖がらせようと言葉を続けた。

「気まぐれに、消すんじゃなくて、消し方が、気まぐれなんだ、よ?」

「怖ぁ……あー、うち、なんだか今度は熱いお茶が怖なってきたわ」

「何それ、面白い、ね」

「せやろ?」

「俺は食後のコーヒーが怖いな」

「えー? じゃあ~、私は、セカンドさんが怖ーい。なんちゃって」

ウィンフィルドは面白がってそんなことを言いながらセカンドへと抱き着いた。

……背後に、本当に怖いものが近付いているとも知らずに。

「ご主人様、本日は帝国に用があると仰っていたはずです。このようなところで鼻の下を伸ばしている暇はないのでは?」

「はい、仰る通りです」

ユカリはお茶とコーヒーを机に置きながら、冷淡に言い放つ。

瞬く間に《送還》されていったウィンフィルドへ、ラズベリーベルは「ご愁傷様」と手を合わせた。

その後、男爵がどのような末路を辿ったのか、知る者はいない。