軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

332 ディレイで

* * *

やっぱりか。

不死龍を倒してから1分経過で、次のボス魔物が出現した。

体長は3メートルほどと小ぶり。地面からわずかに浮いて、ふよふよと漂っている。どす黒い布を被っており、目は赤く不気味に光っていて、手には大きな鎌を持っている、見たこともない魔物だ。

……見たこともない魔物。

ああ、胸が高鳴る。

まさか、この世界に来てから、そんな魔物に出会えるなんて。

手始めに《歩兵弓術》を。全身“角換わり”で《変身》発動中、クリティカル出ず。これでアンチクリティカル55%以上を持っていることが確定した。

ダメージは全く通っていない。では《香車弓術》は? これは比較的通っているが、微々たるもの。どうやら弓はそもそも通りが悪いと見てよさそうだ。

貫通攻撃かつ斬撃か打撃、もしくは魔術か。しかしなんだか魔術が効きそうな見た目ではない。《雷属性・壱ノ型》で……オーケー、全く通らない。

ん-、この横薙ぎは隙が少ない。次の攻撃にも連結しやすい。予備動作も少ない。注意が必要だ。

鎌を地面に突き刺してくる攻撃は、3連続後に2秒半ほど隙がある。

おっと、魔術も使うのか。あれは土属性の魔法陣、詠唱短め、なるほど地面から出てくる系と。垂直回避安定で、使用後の隙大きめ。よし。

長めの詠唱もあると予想していいな。より広範囲になるか、威力と攻撃回数が増すなら、一回どんなもんか見ておきたい。

突き刺し3連に、合わせて《角行剣術》《火属性・参ノ型》複合を。おや? 思ったより効いた。もしや火属性が弱点か?

あー、なんだかやばそうなのが来た。振り上げて、溜めて、振り下ろす。なるほど円形に広範囲で衝撃波か。大きめに回避しておいた方がよさそうだが……隙が多い。4秒近いな。しかし距離を取らざるを得ないから接近し辛い。パリィか?

いや、これ、ディレイのないパターンもあるだろうな。下手にパリィは狙わない方がいい。どっちにも対応できるとすれば相殺だが……いや~、もう何回か見ておきたい。

そうだ、そろそろカウンターの反撃ダメージも確認しておこう。ちょうどよく突き刺し3連が来た。3連目に合わせて《金将槍術》を準備する。

よしよし、ようやく満足いくダメージが出た。DPSチェックを警戒して、しばらくこれをメイン火力にしよう。

HPは、ボスラッシュの傾向的に不死龍の倍の1600万くらいか? だとすると、ちょっと無理してでも序盤に削っておいた方が安心だ。

気絶耐性はあるだろう。ノックバックは……無効と。毒も期待できそうにない。糸操術での拘束くらいは、試してみる価値はある。

「おっ」

ようやくクリティカルが出た。九段補正値40%と、LUK168の変身中3.6倍を10で割って、“角換わり”10部位、合計150%。これでこのクリ率なら、体感的にこいつのアンチクリティカルは80~100%くらいありそうだ。想定LUKは憑依中で最低ライン200ってところか。

「ラズ、SSL」

「合点!」

ラズに《能力変動:SSL》のバフをお願いする。5分間STR3倍・LUK2倍のバフである。

もうタイムアタックのタイマー止めちゃったし、しょうがない。こうなりゃ、途中でリンリンさんにも入ってもらおう。

「おっほぅ!?」

危ねーっ! 影が消えた(・・・・・) 。見といてよかった。

こいつ《虚影》持ちか。そうかそうか。

念のため、“大文字用篝火”を設置しておく。もしもこいつが転移も使えるなら、これである程度の転移場所を絞れるだろう。

さて、俺の読みが正しければ、弱点は火属性、魔術よりも斬撃か打撃が通り、なるべく貫通属性を持たせた方がいい。

とりあえず《角行斧術》の貫通ダッシュ突きに《火属性・参ノ型》を2つ相乗させてみよう。複合は魔術判定だが、相乗なら斧術判定となる。

うん、悪くない。

じゃあ剣角火火参相なら……こっちの方が少し勝るか。打撃より斬撃の方が通るようだ。

よし、バフ中は白ファル活用して火力を稼ごう。方針は決まった。

「来たな」

やはりか。《暗黒転移》を使ってきやがった。篝火置いといて正解。

そして、転移したそばから円形衝撃波のやつ。

ほら! やっぱりディレイなしだ。さっき見たやつより発動が早い。

あれを相殺するなら……斬撃かつ衝撃波で、ディレイに対応できるスキルでないとならない。

手持ちには《龍馬槍術》しかないな。相殺成功したとして、こっちの硬直が約2秒半、あっちの硬直が4秒と考えると、距離が近い分、回避するよりアドだ。

なんとかディレイを見抜けたら上手くいきそうなんだが、何か予備動作に違いがあったか? わからん。

遠距離攻撃でダメージ稼げりゃいいんだが、弓術も魔術も通りがクソほど悪い。糸操術は距離的に微妙。離れて《龍王剣術》とかは……ありっちゃありか。一応、 気絶(スタン) が効くか確認の意味も込めて一回やっておこう。

よし、円形衝撃波を連発してくれた。観察しつつ、《龍王剣術》をぶち当てよう。

今回はディレイあり。ああ、わかった。鎌を振り上げるスピードが違う。ディレイありは振り上げ時点から既に遅いんだ。

そして、やっぱり 気絶(スタン) はしないと。

「憑依」

《変身》から《精霊憑依》への切り替え時。さあ、火力の出しどころだ。

突き刺し3連は3発目に《金将槍術》でカウンター。

横薙ぎは回避。

横薙ぎ、回避。

転移。横薙ぎ、回避。

地面の魔術は、垂直方向へ回避。

来た、円形衝撃波。ディレイあり。よし、ここで――。

「――こうよ」

成功した。《龍馬槍術》での相殺。

硬直解けてから剣角火火参相を安全に放てる。

うん、これができるなら一番いいな。

「お」

新しい動き。魔術陣が地面の魔術の時よりも大きい上に、詠唱も長い。属性は変わらず土のようだ。

地面の隆起が複数回になるか? それとも範囲や威力が上がるか? もしくは全く別の攻撃になるか?

正解は……なるほど敵を中心に波のように段々と地面が隆起か。当たり判定でかそうだな。大きめに、既に隆起の終わった方へ回避するのがよさそうだ。

「あっぶね!」

思ったより隆起が大きく、食らうところだった。そうか、離れるほど隆起が大きくなるわけか。

こりゃ厄介だ、飛んだ方がいいな。

いや待て、魔術の使用後硬直が長いことを考えると、わりとデレ行動な気がしてきた。

ぴょんぴょん風で接近して一発入れて離脱がいいか。

なら魔法陣見て看破できるから、詠唱中にも一発入れる余裕ありそうだな。近距離だった場合はまず一発入れて、隆起に合わせて飛び上がって、硬直中にもう一発。遠距離だった場合は、接近しながら隆起を目視して飛び上がり、一発。これでいこう。

いやぁ、もっと違う行動してこねーかな。とりあえず今は中距離維持して立ち回ってるが、近距離や遠距離で行動が変わるパターンだろうか?

まあいいや、DPSチェックあったらマズいから、ひとまず削り優先だ。

そろそろ入ってもらってもいいだろう。

「リンリンさーん、入りたかったらどうぞー」

* * *

バケモノ。

皆が抱いた感想である。

勿論、出現した6体目のボスキャラクター「リッチ」に、ではない。

セカンド・ファーステストに、である。

彼は完全初見の敵を前に、恐るべき速さで大量の情報を得て、凄まじい速さで攻略法を看破していった。

ラズベリーベル、リンリン、零環は、セカンドのプレイを見てこう思う。

ああ、恐らくこれが現状の最適解なんだろう……と。

たった数分の出来事である。

これが世界の最前線を独走していた者の攻略の姿。

初めて目にしたわけではない。だが、そこには何度目にしても鮮烈で衝撃的な感動があった。

アンチクリティカルの予想、槍金のカウンター、剣角火火参相、槍馬の相殺、波状隆起への対応。それらへ辿り着くまでがあまりにも迅速で、手際が良く、鮮やか。

何より皆を驚かせたのは、なんの前触れもなく使用されたリッチの《虚影》への対処だった。

何故、セカンドは突然攻撃の手を止めたのか。その理由が《虚影》だとすぐに見抜けたのは、零環だけである。

大文字用篝火を念のために設置した段階で、ラズベリーベルとリンリンも「まさか」とは思いつつその理由を察した。

そして、案の定、リッチは《暗黒転移》を使用する。

篝火を背に立ち回っていた効果で、転移先の影は限定され、セカンドは有利に戦えた。

プレイヤーの三人は、その行き届き過ぎたプレイングに鳥肌を立てた。

三人以外の者は、まるで未来予知でもしているかのようなセカンドの動きに、恐怖すら覚えた。

殆どの者は、それが本当に未来予知ではないと理解している。これまでのボスと比べ、明らかにセカンドの動きが違うものになっているとわかったからだ。

具体的には、一貫してあった“計画”を全く感じさせない、初見の敵の実力を推し量りながら戦っているような動きである。

ゆえに、彼らは更なる戦慄を覚えていた。

それは未来予知よりも恐ろしいことなのではないかと感じたのだ。

あの鎌に、魔術に、衝撃波に、少しでも触れれば“死ぬ”とわかっていながら、何故それができるのか?

最初は、鎌が来るとも、魔術が来るとも、衝撃波が来るともわかっていなかった。しかし、何が来ようと、一発でも当たれば死ぬということは想像に難くなかった。

それでも独りで立ち向かい、あらゆることを看破し、終始圧倒し続ける。

とても同じ人間とは思えなかった。

皆、同様にそう思っている。

彼の凄さを語れば切りがない。ただそれは、同じ人間としての延長線上の話。

明らかに一点、彼が人間ではないという考えを確たるものとさせる要因があった。

槍馬の相殺である。

あの一手で、彼が人間を大きく逸脱した存在なのだと、皆が理解させられた。

たとえ99%成功するとわかっていても、その方法を取れる者は少ないだろう。

失敗したら死ぬのである。

将来のかかった試験や人生のかかった発表会よりも、もっと単純で恐ろしい僅か数秒間の決断に、成功するかどうかもわからないまま相殺を試す度胸。

セカンドがそのリスクを理解していないわけでもない。

更に言えば、己の命だけではなく、後ろに控える大勢の命まで背負って戦っているとわかっている。

それであっても、彼は槍馬の相殺を選択した。

指の一つも震えずに。

ほんの欠片の迷いもなく。

「リンリンさーん、入りたかったらどうぞー」

セカンドの呼び声。

リンリンは心臓が握り潰されたような胸部痛に顔を顰め、しかし、行かなければならないと決心する。

万が一リッチにDPSチェックがあった場合、全滅の可能性があるからだ。

現状のセカンドのステータスは不十分。必要最低限にも足りていないだろう。ならば、二人がかりで少しでもダメージを稼ぐしかない。

幸いにも、セカンドが早々に攻略法の見当を付けている。観察する時間もあった。思考する時間もあった。

できる。できる。できる。

舐めるな。オレだって、元・世界5位のプロゲーマーだ――。

「見とけッ」

自分を鼓舞するように口にすると、リンリンはセカンドのもとへと駆けていった。

そして、風の大精霊アネモネを召喚すると、《精霊憑依》を発動する。

「掛け直すで」

ラズベリーベルが《能力変動:SSL》を再発動し、二人へとバフを掛ける。

……それからは、見ている者たちが思わず身震いしてしまうような痛快さがあった。

特に、リッチが波状隆起の土属性魔術を発動した際。

コンマ何秒のズレもなく、セカンドとリンリンの動きは完全にシンクロしていた。

剣角火火参相を放ち、《風属性・壱ノ型》で飛び上がり、波状隆起を回避し、再び剣角火火参相を放つ。

非常に精密なトレース。やるべきことがわかっていれば、あとはその通りに体を動かせばよい。

突き刺し3連には、セカンドの槍金に合わせてリンリンが剣角火火参相を。

円形衝撃波には、セカンドの相殺に合わせてリンリンが剣角火火参相を。

常に《虚影》と《暗黒転移》を警戒し、リッチの行動パターンを変えてしまわないよう、セカンドと体が接触しないギリギリの位置まで接近し、同じように立ち回る。

リンリンにとっては、まるで初見ではないような感覚だった。

セカンドという手本があるからだ。

自分で全て看破し、戦略を組み立てるとしたら、何時間かかるかわからないというのが、リンリンの正直なところ。

しかし手本がある以上、それを精密に再現すればよいだけだ。彼の得意分野である。

セカンドもそれがわかっていたからこそ、攻略法の出揃っただろうあのタイミングで声を掛けていた。

この場で、リッチに挑むことのできる者は、この二人しかいない。

加勢しようかと考えていた者も、セカンドとリンリンの姿を見て、考えを改めた。

自分が入ったところで、邪魔にしかならないと。

もしくは、呆気なく一瞬で無駄死にするかだ。

それほどまでに、差は歴然であった。

「お」

「あ」

リッチ出現から一時間半が経過した頃。

なんの前触れもなく、リッチは息絶えた。

セカンドの足元に6個のアイテムが、リンリンの足元に1個のアイテムがドロップする。

「えー……終わりぃ……?」

長きに渡ったスタンピードイベントが幕を閉じ……第一声、セカンドは不満そうにそんな声をあげた。

確かに、リッチには他に行動パターンも少なく、DPSチェックなどのギミックもない、悪く言えば単調な魔物であった。

「いや、虚影とか転移持ちで、苦戦前提じゃないですか?」

「それは、そうか」

リンリンの反論に、セカンドが渋々といった風に同意する。

しかし、セカンドは他のプレイヤーと比べて異常なほどに《虚影》と《暗黒転移》への対策が整っていた。理由は言わずもがなである。そこが、リッチをより単調な魔物と感じさせてしまう原因と言えた。

「あ、リンリンさん何出ました? 俺は、 夜叉之大太刀(ヤシャノオオダチ) 、 天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ) 、軍神の腕輪、流星の大弓、不死核が2個です」

「オレは不死核1個だけでした」

「……なんかいります?」

「え、あー、いえ、大丈夫です」

スタンピードイベントのボスラッシュは、レアドロップ確率が大幅に増している。

また、3連目までの魔物はレアドロップが確定しており、攻撃に参加したプレイヤーの中で最もダメージ量の多かった者に与えられる。

今回は不死龍までセカンド一人しか参加していないため、3つのレアドロップを独り占め状態だ。おまけにアジ・ダハーカからは自力でレアドロップを引いている。不死龍とリッチに関しては、残念ながらレアドロップではなかった。

「お疲れ様でした」

「あぁ、お疲れ様です」

二人は軽く礼を交わす。

セカンドは特にこれといって疲れてはいなかったが、こういう時の挨拶は「お疲れ様です」と言うものだと知っていた。

それから少し、沈黙が流れる。

明らかに「物足りない」と顔に書いてあるセカンドは、未練がましく辺りを見渡して、それからゆっくりとリンリンに向き直ると、こう口にした。

「じゃあ、帰りますか」

この後は、ファーステスト邸で打ち上げである。