軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

329 珍・安地

「これで、 八岐大蛇(ヤマタノオロチ) のHPが3割を切った。行動が変わってくるはずだ」

セカンドの5回目の《飛車暗殺術》の成功を見て、リンリンが口にする。

その言葉の直後、八岐大蛇は今までになかった行動を始めた。

八つある頭それぞれが大きく口を開け、何か途轍もない威力のものを発射しようと“溜め”を入れる。

「うわっ――」

あまりの恐ろしさに、誰かが短い悲鳴をあげた。

口から発射されたのは、水属性のビーム。まるでレーザー光線のようなそれは、岩や地面をズタズタに切り裂き、八つの頭はうねうねと動いて、四方八方へとビームが乱舞する。

「うちのVITやったら、一撃やなあれ」

ぼそっと呟いた一言に、皆が戦慄した。

しかし、あれほど射線の多い遠距離攻撃を全て躱すのは至難の業である。

セカンドは、どうしたかというと……。

「あそこ“安地”なんですか」

「ほんまや」

八岐大蛇の尻尾にめり込むようにして隠れ、《飛車抜刀術》を溜めていた。

尻尾の陰が一番わかりやすい安全地帯である。

セカンドは《飛車抜刀術》を溜め切って、発動。それからすぐに八岐大蛇の左前側へと移動した。再び、最も隙の大きい行動“体当たり”を誘発させるためである。

八岐大蛇は、大技が終わると、セカンドへ向けて噛みつき攻撃を行う。

躱すことに集中していれば、どうということはない攻撃だ。セカンドはこれまでと同様に最小限の動きで左前側を維持しながら躱した。

すると、狙い通りの“体当たり”がやってくる。

バックステップ一回、《金将糸操術》の拘束から、腹部へ《角行体術》《風属性・伍ノ型》複合、紙吹雪と《火属性・壱ノ型》でターゲット外しを行い、《飛車暗殺術》を下がってきた頭部へ。

そして、再び八岐大蛇の左前側へと移動する。

「終わりか」

八岐大蛇が次の体当たりをしてきた瞬間、リンリンがそう口にした。

《飛車暗殺術》のコンボ一連で、11万ちょっとのダメージが入っている。《飛車抜刀術》の調整込みで、7連食らわせれば八岐大蛇のHP800,000は削り切れる計算だ。

この大事な場面で、セカンドがターゲット外しをミスするとは考えられなかった。

ゆえに「終わり」である。

「どうしてさっき、飛車抜刀術だったんですか?」

レイヴもそれが理解できたようで、もう八岐大蛇を倒した後のような感覚で、リンリンへと質問した。

「3万ダメージ以上出せればなんでもよかった。勿論もっと火力の高い攻撃はあるが、飛車抜刀術が硬直時間も少なく低リスクで確実にダメージを出せるスキルだったというだけだ」

「おまけに、あっこで欲張って龍王抜刀術とかやっとったら、左前側維持の体当たり誘発が間に合わんくて、余計に時間かかるっちゅうことやんな」

「そう」

「簡単で弱そうなボスに見えるやろ? あれ、暴れ回ったらクソめんどいんやで?」

「そう」

「よ、よくわかりました」

怒涛の理由に気圧されたレイヴは、こくこくと頷きながら半歩後退した。

……といった話をしているうちに、八岐大蛇が倒される。

「Damn it! 八岐大蛇、見逃しました~」

ほぼ同時に、マサムネの《精霊召喚》によって 零環(レイカン) が現れた。《精霊憑依》解除後のクールタイムが終わり、再召喚されたのだ。

「次は“フェンリル”ですネ! 楽しみデース……!」

そして、ワクワクをこれでもかというほど滾らせた顔で、鼻息荒くそう言った。

それは、皆も同様。

八岐大蛇よりも強いだろう次のボスをセカンドが一体どのようにして倒すのか、気にならないわけがないのである。

「零環。そのフェンリルって、どんな魔物なんだい?」

マサムネが零環へと尋ねると、皆は興味津々といった風に耳をそばだてた。

「火属性と水属性を操る巨大な狼の魔物だネ。HPは1,800,000だったかな? 弱点属性なくてMGR高いけど、VITは低めヨ。噛みつき攻撃と、火炎咆撃と、激流破が要注意」

「……いきなり桁違いだね」

「隙の少ない魔物だからネ~……セカンドがどうやって火力出すか楽しみ」

「……っ……」

ニヤリと笑う零環に、マサムネは何か恐ろしいものを感じて鳥肌を立てる。

見ているところが違う。根本的に次元が違うということを、不意にはっきりと理解できた。

零環は、“勝てるかどうか”が気になるのではないのだ。“どうやって勝つか”に興味があるのである。

否、そこにしか興味がない。

そして、マサムネはまだ気付いていない。

さらにその先、どうやって 短時間で(・・・・) 勝つかという着眼点。

セカンドが、どれだけ先を行っているのか。彼女には、まだその背中さえ見えていなかった。

「あれは?」

マサムネがセカンドの飲んだポーションを指さして、零環へと尋ねる。

「理力増強剤。INT強化のバフポーションだネ」

「どうしてINTを?」

「……ゾクゾクしちゃうネ~っ」

インターバル終了間際、セカンドはINTにバフをかけた。

何故、INTを上げたのか。この場で即座に答えを出せた者は、一人もいなかった。

「来た……!」

誰かが震える声で口にする。

フェンリルが現れた。

灰色の巨大な狼――10メートルはあろうかという巨体だ。

フェンリルはすぐさまセカンドをターゲットすると、バックステップから威嚇へと入る。

セカンドはそれに合わせて、《精霊憑依》を発動すると、インベントリから“ 天守閣(てんしゅかく) , ミスリルの大斧”を取り出した。

「……??」

未だ、セカンドの狙いはわからない。リンリンとラズベリーベルは、首を傾げて観戦している。

「Oh no! 大斧ですか~!」

零環は、セカンドが何をやっても面白いようで、満面の笑みで反応した。

フェンリルは威嚇後、突進から噛みつき攻撃へと移行する。

セカンドは突進を左側へ躱し、噛みつきも左側へと躱して、フェンリルの右前足へと張り付いた。

そして――。

「!?!?」

《桂馬斧術》《雷属性・参ノ型》《雷属性・参ノ型》相乗を放つ。

クリティカル発生せず……90,210ダメージ。

信じられない高ダメージが出ていた。

「桂馬で……!?」

《桂馬斧術》はジャンプと振り下ろしがセットになった攻撃。相乗で雷参を2つ乗っけているからといって、フェンリルを相手に9万ダメージは異常である。

八岐大蛇への《飛車抜刀術》でさえクリティカル発生で4万強のダメージであった。

それを硬直時間の短い桂馬と雷参で、お手軽に出してしまっている。

「うわ、うわうわうわ!!」

「うーわ」

セカンドはフェンリルの噛みつき攻撃を再び躱すと、斧桂雷雷参相をフェンリルの右前足へとぶち込む。

いとも簡単に9万ダメージ。

その、直後――。

「!!!」

雷鳴が2発、轟いた。

1万5千ダメージが2発で、3万。

計――12万ダメージ。

「な、何が起きている……!?」

あり得ないことの連続に黙っていられなくなったノヴァが、思わず声に出した。

「……わかったわ。“天守閣”装備と、“追撃の指輪”や」

「あ、そうかそういう」

「Wow!」

ラズベリーベルが考察を口にすると、リンリンと零環が納得のリアクションをする。

「天守閣? と言ったか?」

「せや。天守閣の付与効果は、ジャンプ攻撃強化。一部位装備で近接のジャンプ攻撃の威力が1.35倍になんねん。九部位装備で4.15倍にしとんねやろ」

「なるほど……では、追撃の指輪とはなんだ?」

「三段階強化で、魔術発動後に25%の確率で追加攻撃っちゅうクソ強アクセや」

「……凄まじいな」

ラズベリーベルの推理は当たっていた。

セカンドは追撃の指輪以外の九部位全てを“天守閣”の付与された装備で固めている。

ジャンプ攻撃特化装備という、なんともヘンテコなものだが……その効果は絶大だった。

特に、フェンリルのような素早く動く隙の少ない魔物で、物理の効く相手には、抜群の相性を発揮する。

スキル使用後の硬直時間も短く、再使用のクールタイムも短く、発動時間も短めで、火力もそこそこ出せる。《桂馬斧術》は、このジャンプ攻撃特化装備に持ってこいのスキルと言えた。

加えて、攻撃が魔術判定となる《複合》ではなく、攻撃が主スキル判定となる《相乗》を使うことで、ジャンプ攻撃強化の恩恵を受けながら、追撃の指輪の恩恵も同時に受けることができる。

追撃の指輪は、魔術発動後に追加攻撃の抽選を行う。ゆえに、攻撃の判定が魔術でなくとも、魔術を乗せるため発動した段階で抽選は終わっており、且つ、相乗の魔術二つ分の抽選をそれぞれ受けることができる。

つまるところ……斧桂雷雷参相を放つ度、威力は4.15倍であり、雷参が25%の確率で追撃×2発となる。

「あー、もう、あーっ、もう、あーっっはは……!」

フェンリルの右前足に張り付いてゴリゴリとHPを削っていくセカンドを見て、レイヴが頭を抱えたり口元を押さえたり笑ったりとおかしな挙動をしていた。

装備も戦法も立ち回りも、全てが考え抜かれている。

そして、それらを実戦でミスなく遂行できる。

まさにレイヴが理想とする人そのものの姿と言えた。

とめどない憧れがキャパを超えて溢れ出したがゆえの奇行であった。

「もはや、全てこれでよいのではないか?」

セカンドの圧倒する様を見て、クラウスが呆れにも似た声で呟く。

すると、零環が人差し指を立てて「チッチッチ」としてから口を開いた。

「次のボスはVITもMGRも高いから、ジャンプ攻撃強化しても全然ダメージ通らないヨ。クリティカルでダメージ貫通させないと駄目ネ。でもアンチクリティカル持ちでクリティカル発生率は50%カット。だから全然違う対策必要だネ~」

「そ、そうなのか」

「おまけにHP毎秒1,200回復で、全属性の魔術使うし、毒も使ってくるし、変身もするヨ~」

「……果たして勝てるのだろうか?」

クラウスが顔を青くして尋ねる。

零環は、ニンマリとした笑顔を見せて言った。

「どうやって倒すか楽しみだネ~!」

セカンドのソロ勝利を信じて疑っていない。

それは、リンリンも、ラズベリーベルも同様に。

「あれは何――!?」

不意に、シェリィの緊迫した声が響いた。

フェンリルのHPが半分になろうかという頃、フェンリルは突如として後退し、口を大きく開けて、その中に火炎を迸らせる。

「火炎咆撃。あー、DPSチェックっちゅうか……これが来るまでにHP2割削っとらんと、 即死(・・) や」

「そっ……!」

「大丈夫大丈夫。5割近く削っとるし、余裕で耐えれるで」

シェリィは絶句する。

あっけらかんと即死だなんだと言っているラズベリーベルに、理解が追い付かなかった。

そして、忘れかけていたことを思い出した。

あんなにも余裕そうに見えるセカンドは、常に死と隣り合わせなのだ。

あの火炎咆撃だけではない、何かを一発でも食らってしまえば、致命傷になり得る威力がある。

もし、シェリィ自身がセカンドと同じほどの強さを持っていたとして……同じようにソロでボスラッシュをやり切れるだろうか?

そう自問した時、答えは否だった。

皆、そうなのだろうとわかる。明らかに魅せられている、その顔を見ていれば。

それが、セカンドと、自分たちとの差。

シェリィはそのあまりにも大き過ぎる差に気が付き、茫然自失とした。

「変身」

セカンドは、フェンリルの火炎咆撃に合わせて《変身》を発動する。

一帯にまき散らされた火炎による多段ヒットとスリップダメージを変身中の無敵時間で無効化し、難なく耐え切った。

そして、再び右前足へと張り付く。

斧桂雷雷参相と、追撃1発。威力は合わせて9万ダメージほどに落ちている。

理力増強剤の効果が切れてINTが下がったのと、《精霊憑依》450%のバフが《変身》360%へと落ちたためだ。

それでも、桂馬でこのダメージが出せるのならば十二分であった。

「あとちょっと」

エコが呟く。

相手の攻撃を躱し、自分の攻撃を当てる。単純なその繰り返しで、あっという間にフェンリルのHPは残り1割ほどとなった。

上手く行けば、あと2発で終わる。

その時、フェンリルがこれまでになかった行動を取った。

「あちゃ~、激流破」

ラズベリーベルが残念そうな声を出す。

これまでセカンドが右前足付近で戦い続けた理由は、フェンリルにこの行動を取らせないためでもあった。

しかし、少しだけ距離が開いてしまった瞬間、フェンリルが激流破を選択したのだ。

これは言わば、火炎咆撃の水属性バージョン。多段ヒットの水属性ブレス攻撃である。

「これなかったら、少しタイム縮まりましたね」

リンリンも同様に残念そうな声を出したが……零環だけは違った。

「Hang on. もしかして……」

彼だけは、セカンドがあえて激流破を誘発させた可能性を考えた。

正解は、直後。

「ほら!」

零環は得意げに指摘する。

セカンドがミスリルバックラーを装備し、《飛車盾術》を発動したからだ。

「!?」

皆が驚いた。

《飛車盾術》は突進のスキルである。

このままでは激流破の直撃を受けるが……セカンドは、フェンリルの激流破とほぼ同時に、フェンリルへと向かって突進を開始した。

ガガガガガガ! と激しい音が鳴り響き、水のブレスがセカンドへと多段ヒットする。

セカンドがフェンリルまでたどり着いた頃には、セカンドのHPは半分ほどにまで減っていた。

だが、そのダメージを代償として、セカンドが得たものは――。

「Beautiful……!」

激流破を放っている最中の、隙だらけのフェンリルへの攻撃権利。

セカンドは迷わず斧桂雷雷参相を叩き込む。

そして、フェンリルが激流破後の硬直へと入ったところで、更にもう一発、斧桂雷雷参相を放てば……。

「Wonderful!!」

感極まった零環による拍手と歓声と共に、フェンリルは息絶えた――。