軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33 合流

港町クーラ到着から1日後。

早朝にクーラを出て丸一日移動して、やっとこさペホの町へと戻ってきた。

「遅いぞ! 何をしていた! 心配するではないか!」

約一週間ぶりに会ったシルビアの機嫌は対地接近警報装置が作動するレベルで下降中である。なんとか上昇させなあかん……

「せかんど!」

と、その前にエコが抱き着いてくる。頭を撫でると頬ずりしてきた。完全に犬だ。猫なのに。

「いやあ、すまんすまん。何か問題はあったか?」

とりあえず謝っておく。

「すまんではない! 問題だらけだ! 何度通信しようと思ったことか!」

余計に機嫌が悪くなった。

あちゃー……鬱陶しいから「緊急時以外は通信してくるな」と言っておいたのが駄目だったか。通信がなかった=問題はなかったと勝手に思っていたのだが、問題大アリだったようだ。

「何があった?」

「私の実家に――ん? ちょっと待て」

シルビアが言いかけたところで何かに気付く。その視線の先には、俺の斜め後ろに控えているユカリの姿。

「…………」

「…………」

無言で見つめ合う2人。何か通じるものがあるのか互いに目で語り合っている。少しばかり空気がピリッとしているのは何故だろう?

「……よし、少し女同士で話がある。セカンド殿は向こうへ行っていてくれ」

「は……?」

シルビアは問答無用でユカリとエコを連れていって内緒話を始めた。

時折シルビアの熱くなるような声が聞こえてきたが、ユカリもユカリで珍しいことに若干のヒートアップをしているようで、どうやら3人で楽しくお喋りしているみたいだ。これが噂に聞く女子会というやつだろうか。へぇ~女子会って殺気が迸るんだなあ、初めて知った。

「これで勝ったと思わないことですね」

「ふん、貴様とは年季が違う」

「それだけ一緒にいて進展していないことが答えなのでは?」

「ぐはっ! やめろ! その口撃は私に効く!」

ああ、仲良く喧嘩しろってやつだな。ユカリが加わっても上手くやっていけそうでよかった。

「さくせんは!?」

エコが聞いてくる。うん、何の?

「もう夕方だから、今日はダンジョン行かないぞ」

「そっかー」

ちょっと残念そうだ。エコはダンジョンが好きなのかな?

「そうだなあ、晩メシ食いながら作戦会議でもするか」

俺はそう言って、いつもの宿屋へと歩きだした。

エコが「うん!」と頷き、俺と手を繋いで横に並ぶ。その後ろをシルビアとユカリがあれこれ言い合いながら付いてくる。

俺たちの新たな日常が始まった。

「何はともあれ経験値稼ぎだ」

俺は単純明快な作戦を宣言した。

酒が入り陽気になったシルビアが口を開く。

「ユカリはどうするのだ?」

もう呼び捨てする関係になったみたいだ。よきかな。

「鍛冶スキルが九段になるまではユカリのために経験値を稼ぐ。その後は鍛冶に専念だな」

「ありがとう存じます」

ユカリが少し申し訳なさそうにお礼の言葉を述べる。

シルビアは「気にするな」と言ってユカリのグラスにワインを注いだ。

「ところで、ご主人様。チーム名はもうお決めになられたのですか?」

ユカリはシルビアに注ぎ返してから、俺のグラスにも注ぎつつそんなことを言った。

チームの名前ね。クソ転移事件のせいですっかり忘れていた。

「そういえばまだ決めてなかったな」

「むっ! 私の案を聞け!」

「却下だ」

「まだ言っていないぞ!?」

シルビアのネーミングセンスは茶色い白銀号でよーく分かっている。期待できそうにない。

「ではシルビアさん、代わりに私がお聞きいたしましょう」

「うむ! 私は、血盟騎士だn――」

「スタァップ!!」

危ねえ! よく分からないが危ない気がする!

「……ええと、私たちは騎士ではありませんから不適切ですね」

「そうか? そうか……」

本気で良いと思っていたのか落ち込むシルビア。「じゃあゼロの騎士団はどうだ?」とか言い出したところでワインを飲ませて黙らせた。いよいよ危ない。

「では、これはどうでしょう」

「ん?」

「S世界一位を、O大いに達成するための、Sセカンドの団。略してSOS団」

「なんで君たちはそうギリギリを攻めたがるんだ?」

俺に何か恨みでもあるのか?

「もういい、エコに決めてもらおう」

「zzz」

寝ておられる。

俺が考えるしかないか。

名前、名前ねぇ……。

「んー……よし。『ファーステスト・チーム』にする。とりあえずこれでいこう」

firstestなんて言葉があんのかは知らんがとにかく「一番」をメチャクチャ強調してやれば「世界一位」だと分かりやすいだろう。世界で一番最初に完全無欠の一位になってやるという思いも込めて、だ。地味にfastestとかかっているのも自慢だ。スピード感があって良い。

「それは……一番でなければ少し恥ずかしい名前ですね」

「いいんだよ。どうせ世界一位になるんだから」

酔った勢いでテキトーなチーム名が決定してしまった。まあ世の中のそういう名前なんて8割方が居酒屋で決まっているようなもんだろう。気にすることはない。こういうのは勢いが大事なんだ、勢いが。

「大切なのはな、世界一位になることだ。名前じゃねえんだって。分かるぅ?」

「ええ、ご主人様の仰る通りです」

俺はユカリのお酌で気分が良くなって、延々とくだを巻く。ユカリは冷淡な表情ながらも相槌を打ってくれる。

こうして夜は更けていった。

翌日。

頭が痛いと呻くシルビアに解毒ポーションを飲ませてから、いつもの乙等級ダンジョン『リンプトファート』へと向かう。

久しぶりのリンプトファートダンジョンは、やはり良い。何が良いかって、サクサク倒せてガポガポ経験値が入る。ユカリの鍛冶スキル九段もこのペースなら1ヶ月とかからないんじゃなかろうか。

ちらりと当人の様子を見やる。

「…………」

ユカリは目の前の光景に絶句していた。

「どうした?」

「い、いえ……まさか、これ程とは」

珍しく動揺を見せている。

「ん?」

ふと思い出す。そういえばユカリのスキルランクをまだ確認していなかった。

俺はチームマスター権限を使ってユカリのスキル欄を覗き見た。

「あー……」

納得。そしてラッキーだ。

ユカリのスキルの中で段位まで到達しているのは【弓術】の《歩兵弓術》初段と【暗殺術】の《桂馬暗殺術》初段の2つのみ。他は全て級位である。それでよく暗殺者が務まったなと思うが、よく考えたら別に腕利きの冒険者や凶悪な魔物を暗殺するわけではないので、そこまで高いスキルランクは必要ないのかもしれない。

そら驚くわ。目の前で乙等級の魔物がバッタバッタとなぎ倒されるなんて、おそらく想像もつかなかっただろう。高段位のスキルとは、やはりそれ程に強力なのだ。

それよりも、何がラッキーかってユカリの「伸びしろ」である。思ったよりスキルを上げ切っていなかったので、予想より経験値を稼ぎやすい状態となっている。これは数ヶ月どころか数週間で「場末の二流鍛冶師」と評される程度には育成できそうだ。

「ユカリ。お前が一流の鍛冶師に成長して強力な武器を作製したり装備に強化を施したりすれば、乙等級どころか甲等級でさえこんな感じで軽やかに周回できるようになる。世界一位がぐっと近付くんだ。頼んだぞ」

俺が声をかけると、ユカリは「かしこまりました」と綺麗なお辞儀をしてから口を開いた。

「私も、ご主人様と共に世界一位を目指しましょう。世界一位の鍛冶師を」

そう言って微笑む彼女を見て、「仲間にしてよかった」と、俺は心からそう思えた。