軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

294 際のも毎度被害が酷い魔物湧き

エルフ族の姫、グロリア。あいつも確か百五十歳くらいじゃなかったっけか。

百年以上かつ一日中ひたすら読書してインプットを続けているやべーやつだ、きっとスタンピードについても何か知っているはず。

……と思って、尋ねてみたんだが。

「知ってるよ」

「覚えてます、記憶してます」

「読んだことある」

「随分と前です、八十年くらい前です」

即答だった。

八十年前? ああ、スタンピードについて書かれている本を読んだのがそのくらい前ということか。

「ナイス! 何処で起こったか教えてくれ。四か所あるはずだ」

俺がそう言うと、グロリアは「おー」と感心するように声を漏らした。

「そう、四か所で起きたの」

「これマップです、これ地図です」

「ここと、ここと、ここと、ここ」

「大災害です、大被害です」

「三百年くらい前」

「被災者生きてます、おばあちゃん知ってます」

「千年くらい前にもあったらしい」

「場所違いました、違う場所でした」

マジか。エルフにとっての三百年前というと、人間にとっての約六十年前。なるほど、スタンピードを経験してまだ生きてる爺さん婆さんは少なくなさそうだ。

それなら、詳しい資料なんかも残ってそうだな。余裕があれば誰かに探してきてもらって、目を通しておきたい。

というか、三百年前に大きな被害が出ているなら、アークも知ってそうなものだが……キャスタル王国の近くで起きていなかったから知らなかったのか? だとしたら、前回発生場所付近のカメル神国やオランジ王国を探さないと資料も見つからない可能性がありそうだ。

「千年前にもあったのか?」

「あったって書いてあった」

「学んだです、活かしたです」

「だから、三百年前は千年前と比べるとマシだった」

「準備しました、対策しました」

「ほほう」

この世界の人たちも、スタンピード対策はしっかり立てているみたいだ。

それでも大災害……まあ、水準を考えれば仕方がないとも言える。

じゃあ、今回は、それをなんとか避けよう。目標は死者数ゼロだ。

「ちなみに、どのくらいの被害が出た?」

「千年前は三万人くらい死んだ」

「民間人含みます、行方不明者含みます」

「三百年前は八千人くらい死んだ」

「篭城しました、立てこもりました」

やっぱりそうなるか……。

「夕方だな?」

「……そう、よく知ってるね」

「空飛ぶ頭です、壁登る虫です」

「遠距離攻撃をする魔物も出てきて大変だったって」

「夜ヤバイです、暗闇怖いです」

「でも、夜十一時に魔物がいなくなること知ってた」

「耐えました、辛抱しました」

へぇ、こっちでもそうなんだな。メヴィオンのイベント終了時刻は、大概が23時だ。しかしスタンピードイベントもそうだったのか、初めて知った。

何故かって、スタンピードイベントはいっつも五時半には終わってしまうからだ。17時以降のボスラッシュは、「協力して倒す」と言うより「取り合い」と言った方が適切なほどの激戦となる。皆がレアドロップ目当てにわらわらと群がり、即倒されては一分おきに湧いてくるボス魔物がかわいそうになるほどの有様だった。

それはさておき、空を飛ぶ頭の魔物と壁を登る虫の魔物か。おそらくウィングサレコウベとアシガルビートルだろう。その二種が出てくるテーブルは、A~Rの十八種ある中でも比較的難易度の高いテーブルFで間違いない。発生場所と同様に、同じテーブルが連続して選ばれることはないので、今回のスタンピードイベントではテーブルFが選ばれないことが確定した。

つまり、最高難易度のテーブルBと、次いで難易度の高いテーブルHが選ばれる可能性は残ったということ。

やはり、最悪を想定しておいた方がいいだろう。

「グロリア、心して聞いてほしい」

「……まさか」

「もしやです、よもやです」

「そうだ。あと二か月でスタンピードが起こる。間違いない」

俺の宣言に、グロリアは絶句した。

なんで、どうして……と、ひとまず疑うことはできただろう。しかし、グロリアは暫しの沈黙の後、こう口にした。

「策はあるの?」

「何します? どうします?」

聡明。そして、精神的に屈強。

死者数千人は下らないかもしれない大災害の発生をたったの一言で受け入れ、その先を見据え、率先して被害を食い止めようとしている。

心強い仲間だ。

「かろうじて策はある。かなりキツイと思うが、協力してくれるか?」

俺の最終確認に、グロリアは無言で頷いた。

わずか二か月間でスタンピードイベントを耐え切れるまでに自身を育成するということが、どれだけキツイか、まだ想像もついていないだろう。

死ぬかもしれない。デスペナルティでは済まない、本当の“死”だ。

それでも、協力すると、即答してくれた。

いつもマイペースで読書ばかりして何を考えているかわからない不思議な言動の目立つ彼女だが、こんな時にはそんな真剣な顔でスッパリと決断して命をかけられるなんて……超カッコイイ女だな。

「……ありがとう。早速だが、付いてきてくれ。皆で会議をする」

とりあえず、戦力を一人確保。

さあ、あと何人集められるか。

できれば、タイトル戦出場者全員が協力してくれたら助かるんだが――。

「――てなわけで、二か月後にスタンピードが起こる。死ぬかもしれないが、協力してくれるという者は挙手を」

リビングに皆を集めて、現状を伝える。

チームメンバーであっても流石に強制参加は気が引けた。命がかかってるからな。

「…………おお」

にしても……意外ではなかったが、まさか全員が迷わず手を挙げるとは。

「セカンド殿、水臭いぞ。というか、これまで何回殺されかけたと思っているのだ」

「まあ、ご主人様の無茶苦茶は今に始まったことではありませんしね」

「あたし、なんかいけるきがする!」

シルビアとユカリは、協力して当然といった感じで頷いている。エコは、特に根拠のない謎の自信が漲っているようだ。

「ま、うちはおいといて、レンコも頭数入れてええんか?」

「はい。ラズベリーベル様が参加されるなら、あたいも当然」

レンコ、そういえば久々に見たなあ。

「なあレンコ、最近調子どう? 義賊の」

「はぁ? なんだい急に。いや、まあ、ぼちぼちだけどさ」

「そうか」

「あたいの舎弟たちも駆り出せってかい? そりゃ構わないけど」

「いや、いい」

死者は出したくない。

レンコは「あ、そう」と言って、腕を組んでそっぽを向いてしまった。

噂では、彼女たちのおかげで王都の治安がかなり良くなっているらしい。なら尚のこと、そんな新生義賊R6の貴重な人員の命は散らせたくないな。

「む、私は師の頼みゆえ挙手したまで。特別な理由はない」

アカネコはまさに侍といった感じで、スタンピードを目前に動じることなく落ち着いた様子だ。

「わ、私は、被害を防ぐために、少しでも力になれたらと、思いまして……」

アルファは自信なさそうに縮こまりながらちょこんと小さく挙手をしていた。

素晴らしい。死ぬかもしれないというのに、二人とも見上げた根性だ。

「わかった、皆、ありがとう。では早速、指示を出す」

「さくせん!?」

「そうだ作戦だ」

「きたきたきたーっ!」

お、久々だったからか、エコがやたらと盛り上がっている。

……地獄の始まりとも知らずに。

「シルビア、エコ、ラズ。睡眠時間三時間、アイソロイスダンジョンで毎日限界まで経験値稼いで、全て精霊に振れ」

「な――!?」

「んゃ!?」

「……しゃーないわな」

三者三様の反応を見せてくれた。

かわいそうに。だが、やるしかない。

「精霊強化の末に精霊強度45000を達成し、“転身”を習得する。これがお前らの当面の目標だ」

俺のザックリとした計算では、二週間もあれば覚えられる……と思う。まあ、そのへんはラズが上手く調整してくれるだろう。

茫然とする二人&溜め息をつく関西弁に心の中で合掌し、俺は次の指示へと移った。

「レンコとアカネコとアルファとグロリアは、四人でアイソロイス周回して経験値稼ぎながら、覚えられそうなスキルを片っ端から覚えていけ」

「!」

随分とアバウトな指示になってしまったが、最早そうとしか言えない。

致死率を下げるには、とにかく経験値を稼いで、覚えられるスキルを覚えて、ステータスをガッツリ上げるしかないのだ。

現状、彼女たちのレベルで最も経験値が美味しくそれなりに安定して回れるだろうダンジョンが、アイソロイスである。最初は少しばかり苦戦するだろうが、四人いればギリギリ死なない程度だ。だんだん慣れていって、安定させていけばいい。

さて、次の指示。

「ユカリ。まず、精霊チケットの高額買取希望の広告を出しておいてほしい。次に、使用人たちにスタンピードの件について伝えて志願者を募ってくれ。それから、暫くは鍛冶に専念してほしい。あとウィンフィルド出してくれ」

「畏まりました」

多忙、ここに極まれりだな。普段からただでさえ忙しいユカリがフル稼働だ。

そして、俺も……。

「ウィンフィルド。これからスタンピードについて俺の知っていることを全て説明するから、如何にして世界各国の協力を得て、タイトル戦出場者も巻き込んで、上手いこと対処できないか、一緒に考えてくれ」

これから戦力確保のため世界各国をあんこと一緒に飛び回らないといけないだろう。

「うん、いーよ」

ウィンフィルドはニッコリ微笑んで首を傾けた。語尾にハートを付けたような可愛らしい仕草である。

いつもならユカリが《送還》しているだろう行為だが、ユカリは既に自分の仕事に奔走していた。こりゃあ、いっぱいいっぱいだなあ。

今から二か月先まで、皆もいっぱいいっぱいだろう。

すまんな、これも死なないためだ。

さあ、準備を始めよう――。

* * *

薄暗い部屋の中、女性が一人。

彼女は黒い覆面と衣服を脱ぎ、壁へと目を向けると、一言呟いた。

「喜んでいただけたでしょうか」

壁には、とある男の隠し撮り写真がびっしりと貼り付けられている。

その壁だけではない。写真は部屋中の壁一面に貼られていた。棚の上には、男が使用したであろう私物もいくつか確認できた。

彼女は恍惚の表情でそれらを見渡し、思わず微かな声を漏らす。

「…… セブン様(・・・・) ……」