軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25 鍛冶師を探して

「奴隷を買おう!」

俺はそう宣言してすぐ、衝撃に備えてぎゅっと目を瞑った。

シルビアの「馬鹿者!」が来る。それが分かっていたからだ。

しかし、シルビアの反応は俺の予想とは正反対のものだった。

「ふむ。なるほど奴隷か。それならば確かに探しやすい」

「……あれ? 怒らないのか?」

「ん、何故だ? 鍛冶師の適性がある奴隷を探すんだろう? 良い案だ。奴隷市ならばステータスを見て回っても問題はないからな」

おおっ、許された。

THE女騎士様のことだから顔を真っ赤にして「けしからん! 奴隷に乱暴する気だろう! エロ同人みたいに!」とか言いながら殴りかかってこられるかと思っていたが、そんなことはなかった。

「よし。じゃあ明日は王都に戻って奴隷商を訪ねるぞ」

「承知した。ああ、セカンド殿。あの服を着ておいた方が良いかもしれん」

あのレア服か。確かに金持ちに見えてサービスが良くなりそうだ。

「そうだな、分かった。準備しておく」

翌朝。

俺たちはペホの町を一時後にして、王都へと舞い戻った。

行き先は王都で一番大きな奴隷商会『モーリス』だ。

「ようこそいらっしゃいました。私は商会長のフィリップと申します」

案内された店の奥の応接室、そこで待ち構えていたのは小太りのにこやかなオッサン。この界隈で一番偉い人だった。やはりこの服の威力は凄いものがある。たった一着で最大級の効果を発揮しやがった。

「鍛冶師の奴隷を探したい。ステータスを見て吟味することはできるか?」

「勿論でございますとも。それではさっそく連れて参りましょう」

フィリップが指示を出すと、彼の秘書だと思われる女性が静かに退室する。

それから10分と経たずに、彼女は首輪をつけた15人ほどの奴隷を連れて戻ってきた。

「…………なるほどな」

その瞬間。俺は、シルビアが何故怒らなかったのか、その理由を完璧に理解した。

目の前に立ち並ぶ奴隷たちは、見事に全員、むさ苦しい筋肉質のヒゲ面をしたおっさんだった。

……そっか。そうだよな。何か勝手に勘違いしてたわ俺。そりゃそうだよ鍛冶師だもん……いやでも奴隷って聞くと期待しちゃうだろ。だって男の子だもの。はぁー……。

「お気に召す奴隷はいましたでしょうか?」

「ん。ああ、少し待て」

おっさんショックでいまいちよく分からない落胆をしつつ、俺は一応15人それぞれにステータスを見せてもらい、選別作業をしていった。

鍛冶師にあってほしいステータスはSTRとDEX、次いでLUK、加えてINTもあればなお良い。世界一位を目指す俺の武器を強化する鍛冶師なのだから、その全てが優良でなければならない。

「……駄目だ。この中にはいない」

おっさんたちの中に優秀と思える鍛冶師はいなかった。俺の言葉を聞いて、心なしかおっさんたちが残念そうな顔をしている。

「そうでしたか、申し訳ありません。そうなると、うちで取り扱っている中では後は犯罪奴隷となってしまいます」

犯罪奴隷?

普通の奴隷と何が違うのか分からん。まあ優秀な鍛冶師なら何でもいいや。

「分かった、見せてくれ」

「かしこまりました。犯罪奴隷ですので連れてくるわけには参りません。奥の奴隷房にお越しいただくことになります」

「そうか。ではシルビアとエコはここで待っていてくれ」

俺はそう言い残して、フィリップの後を付いていった。

モーリス奴隷商会の奴隷房はまるで刑務所のようで、部屋が広く、清潔で、管理が行き届いていた。モーリス商会はかなり金の回りが良いみたいだ。奴隷たちもイキイキとは行かないまでもそこそこの生活をさせられているようで、絶望の表情を浮かべている者は見たところ数えるほどしかいない。

「ここから犯罪奴隷房となります。全33人おり、うち1人が鍛冶師です」

「案内を頼む」

「はい。こちらになります」

フィリップは廊下を進み、奥から一つ手前の部屋で止まった。犯罪奴隷の部屋だからか、かなり厳重な造りになっている。

ガシャンと小窓を開けると、鉄格子越しに中の様子が窺えた。

案の定おっさんだった。

「…………駄目だな」

俺は彼のステータスを見て、首を横に振る。このおっさんにも優秀な鍛冶師の適性はない。

「そうですか……ご期待に添えず申し訳ありません」

頭を下げるフィリップ。

「気にしなくていい」とそう言おうとして、俺はふと奥の部屋が気になった。

「あの部屋はやたら厳重だが、どんな奴が入っているんだ?」

「ああ、あそこでございますか」

フィリップは「せめてものお詫びに」と、最奥の部屋の二重になっている小窓を鍵を使って開け、中を見せてくれた。

「こちらは先日処刑された女公爵に仕えていた暗殺者です。隷属契約で一方的に縛られ暗殺をさせられていたために、彼女自身に罪はないと判決が下され、処刑を免れて我が商会へとやってきました」

「暗殺者? ふーん」

俺は中を覗き込む。

……褐色の肌、白と紫の混じった長髪、切れ長の鋭い三白眼、豊満で張りのある胸、芸術的な腰のくびれ、引き締まった足。

彼女はその冷たい表情を変えることなく、ジトリとした目だけを動かして小窓から覗く俺を見つめ返した。

そこにいたのは――

「……ダークエルフ」

「ええ。腕の立つ女でございます。ですがキャスタル王国から契約に『攻撃不可』を加えるよう指示が出ておりますので、使い道というと性奴隷や家政婦くらいにしか……それもご覧の通りダークエルフですから、このご時世ではちっとも買い手がつかず困り果てております」

攻撃不可……攻撃が出来ないということか?

しかし、ダークエルフだと買い手がつかない? 何故だ? こんなに美人なら引く手数多に思えるが。

「規制規制とうるさくて困ってしまいますよ」

フィリップはそう言ってハハハと困ったように笑う。

……あっ。そうか、なるほど。少し前にシルビアが言っていた「獣人差別とダークエルフの迫害」というやつだ。その対策としてキャスタル王国が何らかの規制法を制定したのか。

つまり今の時流だと、ダークエルフを性奴隷として扱うどころか奴隷として連れているだけですこぶる外聞が悪いというわけだな。

「ステータスを見せてくれ」

俺は折角なので催促をした。

彼女は渋々従った。

「…………ほう」

まず、非常に高いDEXが目に付く。次いでSTRとINTも相当な高さだ。ダークエルフは魔術と戦闘術が得意な種族という設定通りのステータスである。

だが、何故だろう。彼女はLUKとAGIもかなり高い。

「スキルは何がある?」

「……短剣術、弓術、魔術、糸操術、暗殺術」

彼女はそう呟いた。少し低めで冷徹な雰囲気を感じさせる透き通った声だった。

ああ、納得した。異常に高いDEXは【弓術】に加えて【糸操術】も上げているから。AGIも高い理由は【暗殺術】を上げているからだ。

と言うことは、彼女の成長タイプは『鍛冶師』が濃厚となる。

…………。

で、あれば。

……うん。攻撃不可というのは少し痛いが、鍛冶に専念するならばまあ大丈夫だ。それこそメイドのように身の回りの世話をしてもらったり、戦闘以外のことで色々とサポートをしてもらったり……

…………よし。

俺は決断して、口を開いた。

「彼女はいくらだ?」