軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

217 告発吐く子

「いいか、これから俺のことは セブン(・・・) と呼んでくれ」

「うん」

「わかりましたセブン、了解しましたセブン」

あれから一日と半、俺たちはマルベル帝国南部の都市アカーに到着していた。

自然豊かな田舎という印象だが、王国の田舎よりは栄えている様子だ。

「それにしても、目立つね」

「カッコイイです、凛々しいです」

「そうか! だよなあ。俺もそう思う」

グロリアとシウバは、しげしげと俺の風貌を観察し、改めて褒め言葉を口にした。

現在、俺はレイスを使って“seven”の姿に 変化(へんげ) している。

肩まで伸びた銀髪、筋の通った鼻、切れ長の目、高い身長に引き締まった肉体。プレミアム課金チケット特有の美しい容姿だ。服装はアロハシャツと短パンにサンダルという、例のアロハスタイルである。

このセカンド・ファーステストだとわからない姿で、グロリア同伴のままアルファ・プロムナードの家を訪ねる――これが、ウィンフィルドからの指示だ。

というか、これ以外の指示は一つもなかった。プロムナード家を訪ねたら、後は俺の好きなようにしてもいいらしい。

「それでは、セカ……失礼、セブン様、グロリア様。私はこれにて。ご武運を祈っております」

「ああ、キュベロ。助かった。道中、世話になったな」

「……いやはや不思議です。お姿は全く違うのですが、違和感が全くありません」

「そりゃ、お前、俺だからな」

「? ああ。ええ、左様ですね。セカンド様は、どのようなお姿でもセカンド様ですから」

ニッコリ笑ってキュベロはそう言った。

俺は俺、というか、sevenもセカンドも俺である。

むしろsevenでいた期間の方が長いんだから、俺としては逆にしっくりくるくらいだ。

しかしその辺を見抜いてくるあたり、キュベロは鋭い。観察眼に長けているな。

まあ、そんなキュベロのお墨付きを貰えるくらい、違和感のない変装なのだと思っておこう。

「気を付けて帰れよー」

グロリアとともに、帰っていくキュベロの馬車を見送る。

「さて、これからどうするの?」

「何するです? どんな予定です?」

「とりあえず、アルファの家まで歩いていくか」

キュベロには、アカー郊外の森の入り口で降ろしてもらっている。

太陽が真上にあるからか、それほど深い森ではないからか、森の中でもそこそこ明るかった。

この森の向こうに、プロムナード家の屋敷があるらしい。アルファはそこに軟禁されているというわけだ。

俺たちがアルファのもとに参上するだけで何故帝国がヤバイことになるのかはわからないが、アルファを次回のタイトル戦へと出られるようにすることだけは確実に遂行しておきたい。

彼女にはかなりのセンスがあった。磨けば光ると俺は思っている。

……というようなことを考えながら三十分ほど歩いて、ふと気付く。

「遠くね?」

キュベロのやつ、どうせなら家の前まで送ってくれればいいものを。

いや、しかしこんなガタガタな道、馬車で通るとケツが痛くなりそうだな。一長一短か。

「――ん、馬車が来る」

「退きましょう、避けましょう」

と、噂をすれば、後ろから馬車が来たようだ。

道の端に避けて待っていると、しばらくして、こんな辺鄙な場所には見るからに不釣り合いなメチャクチャ豪華な馬車が通り過ぎていった。

「……なんだろうなありゃ。王様でも乗ってんのか?」

「皇族の誰かかな」

「紋章あったです、近衛兵いたです」

「!?」

マジ?

あー……はいはい。会えってことだな、ウィンウィン。

「誰だと思う?」

「ライト君かな?」

「メルソンちゃんじゃないです、クリアラでもないです」

「ライト? メルソン? クリアラ?」

駄目だ、一人もわかんねぇ。確か、皇帝の名前がゴルド・マルベルだったような気はするが、それ以外は全く覚えていない。

「ライト君は、メルソンちゃんの弟」

「弟が十六歳です、姉が十八歳です」

「クリアラはわたしの妹」

「皇帝の妻です、ゴルドの嫁です」

「そうか。つまり第一皇子が来ていると」

「帝国には、第一皇子と第一皇女しかいないよ」

「皇帝は愛妻家です、クリアラ命です」

「ちなみに、メルソンちゃんの方が継承順位は上」

「実力主義です、男女問わずです」

「マジか」

すげーな皇帝。合法で囲い放題、むしろ世継ぎをたくさん残さなきゃいけないくらいの立場なのに、奥さん一筋かよ。

よほど別嬪なんだろうか、クリアラさん。まあ、それは間違いなさそうだ。グロリアの妹なら。

「お、あそこか」

五分後、プロムナード家の屋敷に到着した。

門番がいるが、なんの心配もない。なんてったって、こっちにはエルフのお姫様がいる。

「む、おい貴様ら、見かけぬ顔だな。プロムナード家に何用だ」

…………あれ?

「あ、そっか、知られてないんだ」

「門番は人間です、エルフじゃないです」

オイ! どうすんねん、じゃあ。

「あの、わたし、グロリアなのだけど」

「面会したいです、面談したいです」

一応、粘ってみるグロリア。

門番はそんな彼女を一瞥した後、相変わらずの厳しい表情で口にする。

「そのような話は聞いていない」

当然だ。アポなんて取っていない。

「……ごめんね、セブン」

「どうしましょう、どうしましょう」

グロリアはこっちを振り返って、おろおろとしだした。

どうするもこうするも、なあ……。

「そうだ、家の人を呼んできてもらったらどうだ?」

「それ!」

「良案です、採用です」

くるりと門番の方へ向き直り、口を開くグロリア。

「ねえ。グロリアって人が訪ねてきたって、家の人に伝えて」

「報告して、伝達して」

門番が一言。

「駄目だ」

「何故?」

「なんで? どうして?」

「怪しい奴め。お前なんぞをご当主様に会わせると思うか?」

ごもっともである。

「よし、仕方がない」

俺は早々に最終手段を使うため、インベントリからフロロカーボン16lbを取り出す。

そしてすぐさま《桂馬糸操術》を発動。

「!」

門番が驚き、抵抗のために剣を抜こうとしたところで、その体の動きがピタリと止まる。

「な、何をした!」

《桂馬糸操術》は、糸をくっつけた対象を操るスキル。

そして、面白い特性があるのだ。

「グロリア、この糸、切って」

「ん、わかった」

「切ります断ちます」

グロリアはインベントリから杖を取り出し、《歩兵杖術・払》でスパッと糸を切った。

直後。

「 」

ガクリと、門番が 気絶(スタン) する。

そう、《桂馬糸操術》は、使用者以外が糸を切断した際、操られている対象が気絶する仕様。これを利用して、相手を無傷で気絶状態にさせられるというわけだ。

「セブン、荒っぽいね」

「誰かさんが抜けてるからな」

「ごめんなさいです、すみませんです」

「冗談だ」

こうして無事に中へと入れるのだから、何も気にしていない。

グロリアはこれから大活躍してくれるだろう。

「さあ、何処から入るか」

敷地の中から、屋敷を見渡す。

正面突破も悪くないが、せっかくならアルファのところに直行したい。

ということで、裏口から潜入する。

使用人は数が少ないのか、それとも皇族の歓迎で忙しいのか、誰とも出くわすことはなかった。

「お、ここじゃないか?」

「うん、そうかも」

「鍵があります、閂があります」

二階の一番奥の部屋が実にそれっぽい。外側に閂がついており、閂には南京錠がはめられている。

しかし、南京錠か。こりゃぶっ壊すしかなさそうだが……。

「……おろ?」

よく見ると、南京錠は開いていた。

なるほど、部屋の主は外に出してもらっている最中、と。大方、ライト君とやらに会わされているのだろう。

俺たちはとりあえず、部屋の中へと入った。あまり長いこと廊下にいると、誰かに鉢合わせてしまうかもしれない。

「へぇー」

アルファのものだと思われる部屋の中は、非常に殺風景だった。生活必需品以外、特にこれといって何もない。

「あ、本がある」

「ノートです、薄い本です」

グロリアは机の上にあったノートに興味を引かれたのか、フラフラと歩み寄る。流石は自称本の虫、ノートだろうがなんだろうが、本の形をしていたらなんでもいいらしい。

さて、この先どうしたものか。

アルファだけの奪還はどうやら無理そうなので、もうめんどくせぇからアルファとその親とライト君が勢揃いしているところに顔を出しちまおうか。不法侵入も、グロリアお姫様なら許されるだろ多分。

「なあ、グロリ――」

たった今考えていたことをグロリアに提案しようとして彼女の方を向いたが、そこで俺は異変に気付いた。

グロリアは、眉間に皺を寄せ、とても不快そうな表情でノートを読んでいたのだ。

一体、何が書いてあったのか? 俺は彼女の後ろに回り、一緒にノートを覗き込んだ。

「……………………」

それは、日記だった。

そして、告発でもあった。

最新ページには、今日、これから、ライト殿下との望まない縁談が行われるという文面が、絶望とともに書かれている。

そこから遡ると、アルファの置かれていた境遇がよくわかった。

アルファの父親ラスカ・プロムナードは、これを読む限り一流のクズだ。成り上がるためならば一切手段は選ばない男。それこそ実の娘だろうが、人権を無視して道具のように使う。

冬季タイトル戦で話題になった、ヴァイスロイ家との縁談。あれもこの父親の仕組んだものだった。

ラスカ・プロムナードは召喚術師らしい。十年以上前、エルンテからの依頼で、盲目のスキルを持つ魔物ブラインドレイクを使ってアルフレッドを失明させたのは、この男。

その結果、エルンテが弓術指南役を務めていたミックス家からの紹介で、ヴァイスロイ家との縁談を取り付けることに成功した。そして、娘の成人、すなわち百歳を待って、婚約させると決めていたのである。

しかし、ヴァイスロイ家としては、ただでというわけにはいかない。プロムナード家は新興貴族、ミックス家が良く言っているとはいえ、そんな家の娘など、ヴァイスロイ家にとっては何処の馬の骨とも知れないのだ。ゆえに、せめてアルファが魔術師として一流の腕を持つことを証明してからでないと、ヴァイスロイ家には迎えられないと条件をつけた。

そのため、アルファは 叡将(えいしょう) 戦を目指すことになる。表向きでは、婚約を賭けた一戦。その実は、嫁の査定だ。

しかしその叡将戦で、思いもよらぬことが起きた。なんとアルファが勝ったのだ。

ヴァイスロイ家としては、苦い結果だった。嫡男のニルには、実は魔術の才能がなかったと判明してしまったのだから。

一方のプロムナード家は、十年かけた縁談がぶち壊されたことで、ラスカが怒り猛った。

そして、娘を部屋に軟禁し、今度こそはと、あの手この手で縁談の相手を探すことになる。

そんな折、セラムという男がひょっこりと現れ、ラスカの弟子にしてくれと拝み倒したという。なんでも、ラスカの召喚術に感銘を受けたとかなんとか。

アルファはそのセラムをとても怪しんだが、ラスカは気分を良くして師事を許したらしい。

それから、あれよあれよという間に、ライト殿下との縁談が決まったとか。

これは間違いなく罠だと、アルファはノートに記している。

セラムは何者かのスパイであり、おそらくはライト殿下を陥れるために自分との縁談を仕組んでいる――と。

「セラム……」

聞き覚えがある。そうだ、確か王国を嗅ぎ回っていた帝国の狗じゃなかったか? 加えて、エルンテに狂化剤を教えたのもその男だ。

「結婚した後にプロムナード家の不正を明かす、とかかな?」

「ライト君皇帝なれません、ぜったい継承できません」

なるほど、狙いはそれか。

つまり、ライトのことが邪魔で、セカンド・ファーステストが死んだら嬉しいやつが、セラムの飼い主というわけだな。

「……メルソンか?」

普通に考えて、こいつしか思いつかない。

皇位継承順位が一位とはいえ、万が一もあるだろう。弟は邪魔なはずだ。それに、一度俺は皇帝宛てにバル・モロー宰相の死体をクール便で送っている。次期皇帝ならば、警戒して然るべき相手だろう。できれば消えてほしいと思っているはずだ。

「メルソンちゃん、かな……」

「性格的にそうです、抜け目ない娘です」

グロリアもこう言っている。

まあ、そうだな。確かに抜け目ない。ずる賢いというか、やり方が卑劣というか、なんというか。良く言えば、先を読み、自分にとってのリスクを潰していく戦法ってわけだ。

ハッキリ言って、その戦法、俺は嫌いじゃない。ラズベリーベルに通じる頭の良さを感じる。

だが、そのスタンスは大嫌いだ。自分だけ安全圏でぬくぬくとしながら、配下にリスクを負わせて邪魔者を消し去る。まさしく卑怯者だ。

「よっし、決まったな」

アルフレッドを盲目にしたラスカと、狂化剤をエルンテに教えたセラムと、卑怯者のメルソンは、敵と考えよう。

この三人の思惑を粉微塵にして、アルファを奪還する。これが目標だ。

「縁談、ぶち壊しに行くぞ」