軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 本物

「準決勝第2回戦! 1年A組セカンド対、4年A組キース!」

これに勝った方がマインと決勝戦という一番。

俺の対局相手として出てきたのは、キースという第4学年の無表情な男だった。

「対局冠、着用。両者、構え……始め!」

「…………っ!」

対局が始まると同時に、キースは間合いを詰めてきた。

こいつ、中々分かっている。

魔術限定の対局となると、どちらが先手を取るかで勝敗が殆ど決まってしまう。となれば必然的に最も発動の早い壱ノ型をメインに戦うのが頭の良い選択となる。

俺はキースとの残り距離を見ながら《風属性・壱ノ型》を詠唱する。同時に、キースは射程距離ギリギリで前進する足を止めて《風属性・壱ノ型》の詠唱を始めた。

その状態で、互いに膠着する。

……そら見たことか。こうなると「千日手」だ。後は魔術を発動するだけだが、ほぼ同時に発動された魔術はぶつかり合って相殺し、また振り出しに戻ってしまう。これがこの対局ルールの欠陥、俺がクソゲーだと断定した所以だ。

「……ここで負けていただきたい。相応の金品は差し上げる」

すると、キースが何やら話しかけてきた。観客席には届かない程度の小声だ。

「何故?」

「貴様とマイン王子を戦わせるわけにはいかない」

「だから何故?」

「マイン王子に優勝していただき、優勝者とクラウス様との親善対局を実現する」

意味不明だな。それに人にものを頼む態度ではない。

「どうしてお前がそんなことを俺に言う?」

「貴様では相応しくない。負けてくれ」

「それは俺がマインと第一王子に勝ってしまうからか?」

「違う。マイン王子とクラウス様との対局にこそ意味がある」

「……つまりこの廉潔なる対局の場に“政治”を持ち出すと、そういうことか?」

「…………このままでは決着はつかんぞ」

このキースとかいう輩、どうやら決勝でマインを勝たせるために雇われたクラウスの手先のようだ。

親善対局という形をとって観衆の目の前でマインをボコボコにする――控え室でされていた噂は、あながち間違いではなかった。

……気に入らない。

何が気に入らないって、何もかも気に入らないが、このまま互いに手詰まりの状態で交渉して俺を諦めさせようという浅はかな魂胆が一番気に入らない。

そう簡単に行くと思うか?

俺は拒否を叩きつけるように、壱ノ型をそのまま発動する。

「無意味だ!」

キースはそう叫ぶと同時に壱ノ型を発動させて対応し、俺がまた《火属性・壱ノ型》を詠唱するのに合わせて《火属性・壱ノ型》を詠唱する。

この対応力、なかなかの腕だ。確かにこのままでは決着はつかない。このままでは。

「良い機会だからさ、お前らに“本物”を教えてやる」

「……ん? 貴様、それは……」

キースは気が付いたようだ。

俺の左手には先程の相殺時にインベントリから取り出したロングボウが握られていた。

魔術限定の対局中に何故? と、そう思ったことだろう。

だがもう全てが遅い。

「シルビア! よく見ておけ!」

俺はそう声をかけると、《歩兵弓術》と《火属性・壱ノ型》を“複合”させて、キースへと放った。

【魔弓術】――これも立派な【魔術】である。

ちなみに【魔弓術】は弓に【魔術】を番えるので、矢を使うことはない。

【弓術】と【魔術】の複合、この習得条件は「【弓術】スキルでHPを75%以上減少させた魔物を【魔術】スキルで1000体仕留める」というもの。そこそこ複雑だが、知ってさえいれば達成はあっと言う間だ。

「くっ……!?」

キースは準備していた《火属性・壱ノ型》で対応せざるを得なかった。だが《歩兵弓術》七段の威力が上乗せされている分、単なる壱ノ型ごときでは相殺など不可能。

「ぐあっ!」

キースは被弾した。

直後、体勢を立て直し、後退して距離をとる。なかなか良い動きだが、その判断は最悪だ。【弓術】相手に距離を取るなど愚の骨頂……これは思い知らせる必要がありそうだな。

「これが狙いなんだろ? 第一王子の」

「――ッ!!」

俺の言葉に驚愕の表情をするキース。図星だったようだ。

【魔術】限定の対局……明らかなるクソゲー。ゆえに起こり得る膠着状態。クラウス王子はそれを打開する何らかの術を持っている。確か【剣術】が得意だとノワールさんから聞いた。おそらくは、そう、【魔剣術】だ。それがある限り、対局においてマインに負けることはないだろう。一方的にボッコボコに出来るはずだ。この対局のようにな。

「卑劣だな。それがどれだけ愚かな行為か身をもって知ればいい」

対局をプロパガンダに利用しようと企てた下劣な王子のしもべに鉄槌を。

俺は《桂馬弓術》で狙いを定めつつ《銀将弓術》で威力を底上げし、《土属性・壱ノ型》で衝撃を上乗せする。3スキルの複合だ。【魔弓術】はこんなことも出来るぞと、シルビアに知ってもらうためのサービスでもある。

「くそ……っ!」

キースは俺の攻撃を躱すため、横方向に駆け出した。

まるで逃げ回る鼠だ。

「無意味だって」

意趣返しとばかりにそう言って、【魔弓術】を放った。

ズドンという重低音。キースの腹に着弾すると同時に土属性魔術の岩が炸裂し、グラウンド全体が余波で振動する。キースはHPをゼロまで減らしながら、場外へと吹き飛ばされていった。

これは俺の怒りだ。対局をPvPを舐めるなという警告だ。神経をすり減らし命を削り合わなければ、PvPで頂は目指せないんだよ。それだけ真剣な場をお前は荒らしたんだ。周りが許しても俺が許さない。

「……勝者、セカンド」

審判の小さな声で、対局は終了する。

1秒、2秒、3秒後に――会場は歓声の嵐に包まれた。

今までの対局と比べて、大いに見ごたえがあったのだろう。かつてない盛り上がりだ。

俺は気分を良くしながら控え室へと戻っていった。

* * *

「も、申し訳ございません」

「構わん。予定は変更する必要が出てきたが、なかなか良い拾い物を見つけた」

頭を下げるキースに対し、クラウスは機嫌良くそう言った。

彼の視線の先には、颯爽と会場を去る見目麗しい男の背中があった。

「恐らくあのセカンドとやらが優勝する。奴を配下に加えれば、あの愚弟も立つ瀬が無かろう」

「しかしあの男、なかなか手ごわい相手かと」

「キース。奴がこのオレの、第一騎士団長の勧誘を断るとでも?」

「……いえ、そのようなことは」

「ハハ、まさか魔術学校ごときに“魔術の複合”を扱える奴が潜んでいるとは……出向いて正解だった。奴は良い駒になる」

余裕の表情でほくそ笑むクラウスを、キースは不安の表情で見つめた。

対局の場で相まみえたからこそ、彼には分かるのだ。

魔弓術師セカンド。きっと一筋縄ではいかないだろう――と。