軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

172 霊王戦 その1

霊王(れいおう) 戦挑戦者決定トーナメント。

対戦表は、以下の通り。

A ヴォーグ

B カピート

C ビッグホーン

D シェリィ・ランバージャック

{(C vs D) vs (A vs B)} vs 霊王

準決勝第一回戦、ビッグホーン対シェリィ。

二人は、既に闘技場中央へと登場していた。

「シェリィのやつ、いつの間にか出場資格を得てたんだな」

「私も驚いた。最後に会ったのは、三冠記念パーティか? ビンゴの景品が余程良かったのだろうか」

霊王戦の出場資格は、《魔召喚》《送還》《テイム》の三つを九段か、《精霊召喚》《送還》《精霊憑依》の三つを九段のどちらか。シェリィの場合は後者だろう。

風のたよりで、シェリィは丙等級ダンジョン『グルタム』を毎日周回していたと聞いた。しかし丙等級の周回くらいでは出場条件を満たす経験値など稼ぎきれない。つまり、今の彼女の実力は、乙等級周回レベルにまで達しているということ。

あのミスリルゴレムにぶん殴られて失神&失禁していた彼女が、今や霊王戦出場者。なんだか、胸が熱くなるな。

「はじまる!」

エコの声と同時に、審判が試合開始の号令を発する。

ビッグホーンという角の大きな牛獣人のオッサンは、さっそく《魔召喚》で魔物を喚び出した。

「……牛じゃん」

「……牛、だな」

「……牛、やな」

「うし!」

出てきた魔物は「スイブル」という牛型の魔物。

牛が牛を使役する……メヴィオン、いいのかそれで。

「――あら~、大きな牛さんね~」

対するシェリィは、いつもの通りに土の大精霊ノーミーデスを、つまりはテラさんを《精霊召喚》する。

「テラ、やっちゃいなさい!」

「はい~、マスタ~」

ズビシッとビッグホーンを指さして、指示を出すシェリィ。

テラさんはふわふわとした笑みを浮かべると、ビッグホーンの方へゆっくりゆっくり向かっていった。

そうか、土の大精霊は、火力と防御においては非常に強力だが、素早さに欠ける特徴があるんだったな。

「舐めるな」

ビッグホーンはイラつき気味に呟いて、再び《魔召喚》を発動する。

そりゃあ、そうだよな。《送還》九段なら魔物は三体まで使役可能。出さない手はない。

「とり!? せかんど、あれとり!?」

「サバククロウだな。砂漠で出てくる鳥の魔物だ」

「あたしやきとりたべたい!」

「後で買ってきてやる」

「きゃひーっ」

エコは相変わらず脊髄で喋ってんな。きゃひーってなんだ。

……しかし、驚いた。この世界の霊王戦、特に魔召喚戦においては、セオリーがそこそこ知られていそうだ。

メヴィオンでは、扱う魔物はパワータイプ・陸上スピードタイプ・空中スピードタイプ、この三種類が最もバランスが良いとされている。

ビッグホーンの場合、パワータイプにスイブルを、空のスピードタイプにサバククロウを採用したのだろう。つまり、残るは陸のスピードタイプ。主に猫型か犬型が多いが……

「ねこ!」

猫型だった。

あれは『ボムキャット』か。へぇ! なかなか面白い魔物を選ぶな。魔物自体は弱いが、その考えはアリ寄りのアリだ。

「なんだ、あの猫は。セカンド殿は知っているか?」

「ボムキャット。別名、自爆猫。素早く動いて突っ込んできて自爆する猫だ」

「……いいのか?」

「大丈夫だ。自爆と言っても、ボムキャット自身は“ガチ瀕”になるだけさ」

「いや、絵面がだな……」

確かに。

「突撃!」

魔物が出揃ったところで、ビッグホーンが指示を出した。

サバククロウが空から、陸からはボムキャットが、その後ろからスイブルが突進してくる。なかなか隙のない連携攻撃。

これをテラさん一人で全て防ぎきるのは至難のわざだが……さて、シェリィはどうするのか。

「テラ!」

「はい~」

名前を呼ぶ、たった一声。それだけでテラさんはシェリィの指示を的確に理解し、行動を始める。この一体感、もしかすると二人も念話を習得しているのかもしれないな。

「なっ!?」

シルビアが驚く。

瞬間、ゴゴゴゴ! と大きな音をたてて、シェリィを囲うように大きな壁がせり上がった。

「 トーチカ(・・・・) やな」

「ああ、悪くない戦法だ」

テラさんは《土属性・弐ノ型》で、シェリィを塩釜焼のように包み込む。

シェリィの作戦は、どうやら“トーチカ”のようだ。これはメヴィオン時代にもやっているやつがいた、土属性精霊使役者の立派な作戦。シェリィめ、よく独自に発見したものだ。

ビッグホーンは「そんなのアリかよ!」という顔をしている。彼の使役する魔物たちも「え、これどうするん?」というような顔でビッグホーンを振り返っていた。

「シェルターならぬシェリター、か」

「何を言うとんねん」

流石、本場の呆れツッコミ。切れ味が鋭い。

「さあ! 思う存分やっちゃいなさい、テラ!」

「はい~」

シェリィがシェリターの中から何やら指示を出すが、声がくぐもっていてよく聞こえない。

そう、このトーチカ戦法の欠点は、外界のことがよくわからなくなるところ。目と耳と引き換えに防御力を得る、といったところか。

だが、最大火力がスイブル、すなわち明らかに火力不足のビッグホーンが相手なら、十二分にその効果を発揮するだろう。

残念。これではスイブルもサバククロウも、ボムキャットさえ活躍の場がないまま終了だ。

「お逝きなさ~い」

テラさんはサバククロウに《土属性・参ノ型》を一発お見舞いしてから、スゥーっと他の魔物たちの攻撃が届かない場所まで上昇していく。そして――

「私だってタイトル戦で伍ノ型を決めてやるわ!」

またシェリィが何か言っているがよく聞こえない。

ただ、何を言っているのかは、簡単に予想がついた。

恐らくは、俺が前回の 叡将(えいしょう) 戦で《雷属性・伍ノ型》を決めたことに対抗して、テラさんにも《土属性・伍ノ型》を決めさせようとしているのだろう。

笑える。ビッグホーン、こりゃ防ぎようがないぞ。シェリィの完全勝利だ。

「くっそぉっ!!」

なんとか躱そうとするビッグホーンだが、伍ノ型は非常に広範囲。上空から狙い撃ちされては成す術がない。

直後、テラさんが詠唱を終え、一切の躊躇なく、《土属性・伍ノ型》を無慈悲にもぶっ放した。

地面が海のように波打ち、ビッグホーンを魔物たちもろとも呑み込んだ。その上から岩石が雨あられのように降り注ぐ。完全にオーバーキルだな。

「――そこまで! 勝者、シェリィ・ランバージャック!」

シェリィ、決勝進出。

しっかしこれ、会場の整地が大変だなおい……。

その後、テラさんの協力もあり、約一時間で整地は終了した。

準決勝第二回戦は、腰まで伸びた長い赤髪の美女エルフ前霊王ヴォーグ対、爽やか犬獣人のドラゴン使いカピート君。

闘技場中央に集まった二人は、向かい合って何やら言葉を交わしている。

「全く。ランバージャック伯のお嬢さん、もっと綺麗に戦えないのかしら」

「オレは良い作戦だと思いましたけどね」

「あら、貴方なかなかキッパリ言うのね」

「オレも、自分の思うことを思うように言っていこうかなと」

「あの人の影響? それはとても良いことに思うわ。でもね」

ヴォーグは一拍置いて、口を開く。

「私は、別に作戦が悪いと言っていたわけではないのよ。ただ……」

「ただ?」

「整地に時間がかかっていることが、少し苛立たしかっただけ。悪いけれど、貴方との勝負、すぐに終わらせるわ」

「……流石、元霊王。自信満々っすねぇ」

距離を取り、対峙する。

「――始め!」

審判の号令。同時に、カピート君は《魔召喚》を、ヴォーグは《精霊召喚》を発動した。

「おっ」

俺がまず注目したのはカピート君だ。

あいつ、アースドラゴンだけでなく、別の魔物も《魔召喚》しようとしている。

「いぬ! とりも!」

「犬ちゃうわ、狼や」

「ホノオウルフとカミカゼイーグルだな」

ナイスチョイス、と言わざるを得ない。ビッグホーン同様にバランス重視の三種、パワータイプでアースドラゴンを、空のスピードタイプでカミカゼイーグルを、陸のスピードタイプでホノオウルフを採用している。

特にカミカゼイーグル。これはボムキャットと同じ“自爆型魔物”だ。召喚戦において空から自爆を狙われるのは、なかなかに鬱陶しい。加えて、カミカゼイーグルはボムキャットよりも上位の魔物ゆえ、その威力は決め手になりかねないほどのもの。

いいぞ、隙の少ない布陣だ。

ただ……一つだけ欠点を挙げるなら、その属性か。

アースドラゴン、ホノオウルフ、カミカゼイーグル。順に、土、火、風+火。土属性は火に弱く風に強い、火属性は水に弱く土に強い、風属性は土に弱く水に強い。つまり、火属性で来られると、少し戦いづらそうだ。

で、ヴォーグの使役する精霊は……

「――おいおい、龍に狼に鷹かよ。オレの相手には、ちと不足なんじゃねえかぁ?」

火の大精霊サラマンダラ。

がっつり火属性である。

カピート君、属性までは気が回らなかったのかもしれないな。

使役できる魔物が四体なら、水属性の魔物を入れてバランスを取れるところだが、残念ながら三体が上限だ。なので、水の精霊でバランスを取るしかない。しかし半年で《精霊召喚》を上げて精霊チケットを手に入れて運良く水属性精霊を召喚できるかというと、カピート君には難しいだろう。出た精霊の属性に合わせて魔物を入れ替える方が現実的だ。

「お黙りなさい、サラマンダラ。最初から全力で行くわ」

「はいよ」

ヴォーグはサラマンダラに指示を出すと、三歩後退した。

「へぇ!」

俺は思わず感心の声を出す。

ヴォーグのやつ――《魔召喚》するつもりだ。

「む……ドラゴン、か」

「決まったな」

残念だが、ヴォーグの勝ちだ。

ヴォーグが《魔召喚》したのは、「アクアドラゴン」。水属性のドラゴンだ。属性の不利有利はないため、カピート君の使役するアースドラゴンとは互角の勝負を繰り広げる。そこに、サラマンダラが加わるとなれば……。

……カピート君にはつらい敗北だろうな。

ヴォーグのアクアドラゴン召喚で、彼のドラゴンテイマーというアイデンティティが尽く潰された形となる。

その上ヴォーグは火の大精霊サラマンダラを使役しており、加えて【剣術】【体術】【槍術】【魔術】も上げていてステータスが高いと来たもんだ。

完全に劣っている。誰が、どう見ても。

「そ、そりゃあ……ズルいっすよぉ、ヴォーグさん」

ほら見ろ。カピート君の犬耳が萎れてる。

まあ、仕方がない。タイトル戦ってのは往々にしてそういうものさ。いいんだ、気にするなカピート君。今夜の霊王防衛記念パーティで慰めてやるから。

「なあ、ところでセカンド殿。昨日からアカネコの姿が見えないのだが」

決まった、と俺が口にしてしまったせいか、それともシルビアもそう思ったのか、試合が終わる前から雑談タイムが始まった。

おいおい、そんな試合中にお前――

「ギャアーッ! どうすりゃいいんすかこれぇー!?」

……うん、これは決着まで見てやらない方がカピート君のためかもしれない。ありゃ、どう足掻いたって無理だ。俺でもあの布陣で勝つのは難しい。

「アカネコは 刀八ノ国(トウハチノクニ) の友人と行動を共にしてるぞ。なんせ数ヶ月ぶりの再会だ、積もる話もあるんだろう」

「ほう、島の友人か……女のニオイがするなぁ? セカンド殿」

ぎくっ。

やべぇ、シルビアだけならまだいいが、ユカリに感付かれるとマズい(主に夜が)。ここは話を逸らそう。

「刀八ノ国の面々はこれまで当日だけ参加して表彰式も無視して早々に帰っていたらしいが、今回は全日程を観戦するし表彰式にも出るらしいぞ。凄い変化だな」

「セカンド殿がそうさせたのだろう?」

「そうだ。ついでにホテルの部屋とか全て準備してやって、うちのメイドの案内まで付けた」

「至れり尽くせりだな。そんなに大事な女がいるのか?」

……ちゃ、ちゃうねん。

「あいつらに、来てよかった、観てよかったと思わせたい。毘沙門戦はこの夏から生まれ変わる。その門出に相応しい最高の舞台にしたいんだ」

「本音は」

「めっちゃ美人な年上の女がいてさあ」

「この浮気者ーっ!」

口が滑った。

「冗談だ、冗談」

「冗談ではない! わ、私はセカンド殿の、こ、こい、こいび……~なわけだからっ! 嫉妬だってするぞ! モテるのはわかるがほどほどにしろ馬鹿者! 浮気者!」

「ほどほどならいいのか……」

「これ以上増やすなと言っているのだ馬鹿浮気者っ!」

今のは失言だったな。

「ごめん」

「……うむ。わかってくれたのなら、いい。私の方こそ怒鳴ってすまない」

思えば、シルビアとは、恋人らしいことを全然できていない。

俺は世界一位を第一に優先しているが、シルビアはもっと恋人らしいことをしたいのだろう。それは接していてなんとなくわかる。

だが、俺の悲願をわかっているからこそ、彼女は俺の前ではそんな素振りをあまり見せない。

何度も思うが、いい女だ。ちょっと口うるさいが、こんないい女、他にいない。

もう少し、大切にしてやらないとな。

「――そこまで! 勝者、ヴォーグ!」

それはさて置き、試合が終わった。

あっと言う間だ。試合時間は五分足らず。カピート君的には逆に短くて助かったというところだろうか。

二人とも以前と比べて確実に成長していたが、その度合いはヴォーグの方が圧倒的に大きかったな。単純な戦力の差が出てしまった勝負だった。

しかし……ヴォーグの戦い方、少し急いでいるように見えたが、気のせいだろうか。

……もしかしたら、何か狙いがあるのかもな。