軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

163 パーッとやって帰る

以来、密かに精進していた俺である。夜のタイトル戦も三冠王まっしぐらな勢いであったが、その夢、ドスケベダークエルフによって見るも無残に阻まれた。

いや、引き分けだ。断じて負けたわけではない……と、思いたい。

「おはよう諸君」

気を取り直して、今日は【糸操術】の習得と、【斧術】の習得である。

早朝、リビングに集まったのは、ユカリとエコ、それからイヴとルナと、名前のわからないメイドが一人。

全員の挨拶が終わるのを待ってから、俺はさっそく尋ねてみた。

「お前もイヴ隊のメイドか?」

「あっ、はい! サラです! よろしくお願いします!」

「朝から元気だな」

「あざっす、ご主人様! 自分、それだけが取り柄っすから!」

サラはセミロングの茶髪をバサッとさせて勢い良くお辞儀をするが、前髪を上げていたカチューシャがズレて「あわわ」と慌てて直していた。

「彼女はこう見えて潜入のプロです。先のカメル神国についての情報の多くは彼女が入手してきたものです」

「マジか。そうは見えないな」

「そうは見えないことこそ、潜入においては重要です」

ユカリの注釈で、サラへの見る目が変わる。

確かに、仰る通り。そうは見えないからこそ、内部へと深く潜入できるんだな。

「サラは非凡な才能を持っています。神国の情報だけでなく、最後には相手を信用させて帰って参りました。今においても、あちら側はまだサラが内偵だったなどとは露ほども思っていないのではないでしょうか」

「すげぇなオイ」

「いやぁ~、それほどでも~」

にやけ面でぽりぽりと後頭部をかくサラ。ちらりと覗く八重歯が可愛らしい元気な女の子だ。やはり、とてもそうは見えない。これはもう、俺も彼女の術中にハマっているということだろうか。

「本日は、暗殺および戦闘、隠密および調査、内偵および潜入、この三種における最優秀者を一人ずつ連れて参りました。加えて私がお供いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます、ご主人様」

ユカリがメイドを横に並ばせて紹介し、揃って綺麗に一礼した。

順に、イヴ、ルナ、サラか。なるほど、イヴは序列戦開始以来ずっと一位で、ルナの有用さは革命の時に思い知ったし、サラは先ほどの通りと。ワーオ、なかなかに凄いメンツだ。

「よろしく。じゃあ行く前に一つだけ確認だ」

「はい」

「飛車までは、既に覚えているか?」

「ええ。全員、抜かりなく」

「ナイスだ。助かった、イヴ」

今日までの間に、参加者は必ず飛車まで覚えておくようにと通達してあった。四人はそれをきっちりと守ってきてくれた。

覚え方はイヴが知っていると聞いていたので、特に心配はしていなかったが、彼女たちの様子を見るに何も問題はなかったようである。まあ、若干、通訳に時間がかかったかもしれないが。

「……っ……ぅ」

「お役に立てて光栄です、と申しております」

こんな風にな。イヴがぼそぼそと喋った言葉を、ルナが言い直す。今でこそ俺も慣れたが、初めて目にする人はまあまあ困惑するだろう光景だ。

その横で「うんそうそう光栄ね光栄」と然もわかっていたかのように一人頷いているサラ。絶対わかってなかっただろお前。

未だにイヴの小さな声はルナかユカリくらいしか聞き取れないらしい。俺もたまーに聞き取れることがあるが、基本的にイヴが近付いてきてくれないというか、避けられているというか、会話の時は何故か不自然に距離があいていることが多いので、ほとんどの場合が聞き取れず、結局ルナに通訳してもらっていた。

「そしたら、今日は龍馬と龍王の習得だけだな」

「どちらへ向かわれるのですか?」

「メティオダンジョン」

「…………そこは、もしや」

乙等級ダンジョン『メティオ』――通称、ドラゴンの巣。

いち早く気付いたユカリが珍しく顔を引きつらせる。他のメイドたちも若干だが顔色が優れない。サラなんかは「あわわわ」と怯えている。こいつこれが口癖なのかな?

「大丈夫だ。俺とシルビアとエコで既に一回訪れているが、二人は問題なく戦えていた。お前らにもできるさ」

「そうは仰いましても……」

「大丈夫! 俺が付いてる」

少し強めに言ってやると、ユカリたちは渋々納得した。

「……っ!? ついた!?」

「出発すらしてねえ」

俺の背中で寝息をたてていたエコが、俺の大声でお目覚めのようだ。

まだ着いてないとわかると、また寝ようとする。本当に寝る子と書いてネコだなこいつは。それを言ったら、食べる子と書いてタコでもあるのか……?

「エコー、今日はドラゴン相手に斧術を覚える作戦で行くぞー」

「さくせん!? あたしにまかせて!」

「任せた任せた」

多分、エコはこれで大丈夫だろう。

彼女はなんだかんだ言って天才だ。やるべきことを“作戦”と名付けてテキトーに伝えておけば、後は自分で工夫して自分で要領を掴み自分で全て済ませてしまう。それは俺の的確な指示があってのことだが、同時に彼女の才能があってのことでもある。俺の元へ来たことで、良い具合に歯車が噛み合ったのだ。

さて。それじゃあ作戦会議も終わったところで、いざ出発。

「これはっ、なかなかっ、新感覚ですっ……!」

到着して早々、まずはユカリたちを白龍と戦わせてみる。

《龍馬糸操術》の習得条件は「糸操術のみで攻撃し最後の一撃を角行で行う、この条件を満たし五種のドラゴンを仕留める」こと。他のスキルより条件が甘めに設定されているのは、糸操術の火力が他の攻撃系スキルよりも比較的低いためである。

《龍王糸操術》の習得条件も似たようなもので、「飛車のみを用いて十体のドラゴンを倒す」こと。これは全て白龍でいいので、龍馬よりも甘い条件と言えるだろう。

よって今日は、角行フィニッシュで白龍・青龍・黄龍・緑龍・赤龍を一匹ずつ倒し、飛車のみで白龍を十匹倒せば、目標達成だ。

ちなみにエコの【斧術】スキルの習得条件は、ほとんど【剣術】と変わらない。よって、歩兵~飛車はあまり難易度が高くなく、《龍馬斧術》は「歩兵~飛車の七種スキルで最低一度ずつ攻撃し最後の一撃を角行で行う、この条件を満たし五種のドラゴンを仕留める」、《龍王斧術》は「飛車のみで十体のドラゴンを仕留める」となるため、条件を伝えて放っておけば後は勝手に覚えるはずだ。

「おっと、今のは尻尾の予備動作だ」

と、ここでユカリが白龍の尻尾攻撃を喰らいかけたので、準備していた《飛車弓術》で助太刀する。

ユカリはドラゴンとの戦闘を「新感覚」と言っていた。まさしくそうだろう。彼女は今まで対人戦を、それも不意を突く形での暗殺ばかりをこなしてきたはずだ。魔物相手の、それも対ドラゴン戦など、勝手がわからないに決まっている。

「申し訳ございません、ご主人様」

「謝るな。誰しも初めては上手く行かないもんだ」

「そう……でしょうか?」

「……まあ、あれは例外だ」

俺とユカリの視線の先――白龍を相手に、完封目前のメイドが一人。イヴである。

彼女の戦闘センスはずば抜けているな。あの糸の使い方、掛け値なしに「上手い」と言える。

「例外と言えば、ご主人様も」

「ん?」

「既に、角行ほどまでは覚えておられるのでは?」

「ああ、いや、斧術は金将までだ。糸操術は飛車まで覚えたぞ」

「……まだ到着から一時間と経っておりませんが」

「お前らよりステータス高いからなぁ」

「そういう問題でしょうか?」

ジト目で呆れられた。やっぱり呆れられるのは気持ちが良いな。

「ま、頑張ろう」

今できることをただひたすら効率良くやれば、誰にだって成し遂げられるさ。

ユカリも俺の言わんとしていることを理解したのか、「はい」と素直に頷いて再び白龍へと向かっていった。

「お疲れさん」

夕刻。

なんとか全員が龍馬と龍王を習得することができた。

エコは早いうちに一人で全て覚えきって、挙句に金龍をタイマンでぶっ倒していた。【盾術】全九段で【斧術】も上げているため順当とはいえ、成長をひしひしと感じる。

「なんか、実感わかないっす……うわぁ~、本当にスキル欄に龍馬と龍王が……」

サラは夢見心地で自分のステータスをぽわんと見つめていた。

わかるわかる。俺もメヴィオンで初めて龍馬と龍王を覚えた時は、そんな感じだった。初級者の憧れだな。

「ありがとうございました、ご主人様」

ユカリの号令と同時に、メイドたち三人が深々と礼をする。

そんなに感謝されるようなことでもないが、気分はすこぶる良い。

「イヴ、夏季で待ってる。ルナとサラは、冬季かな。ユカリはどうする? 根を詰めれば、夏季には出られそうだが」

「ぁ……っ!」

「頑張りますご主人様、と申しております」

「おっす! 自分も頑張りまっす!」

「私は……」

三人は笑顔で、ユカリは何かを決心したような顔で口を開く。

「私は、タイトル戦への出場はしないことにいたします」

「そうか。理由を聞いてもいいか?」

「はい。裏方に専念しようかと」

「鍛冶師としてか」

「ええ」

……有り、だと思う。それも一つの、立派なメヴィオンの楽しみ方だ。

「気が変わったら言ってくれ。だが、個人的なことを言わせてもらえば……」

「はい」

「……ありがとう。お前が鍛冶に専念してくれると、俺は嬉しい」

「ええ、だと思いましたので」

俺がそう口にすると、本当に珍しいことに、ユカリがにこりと笑った。

世界一位に優秀な鍛冶師は必要不可欠。そして鍛冶師は、死ぬほどトライ&エラーを繰り返す必要のある、地味で孤独で辛く厳しい立ち位置だ。実を言えば、タイトル戦に出ている暇などないくらいに。

ユカリは、俺を思ってくれている。それが痛いほどよくわかる。

期待に応えないといけないな。

「さて、じゃあ最後にパーッとやって、帰るか」

「ぱーっと? せかんど、ぱーっとやる?」

「おう、パーッと」

メティオダンジョン。ここって確か、まだ 攻略されてなかった(・・・・・・・・・) よな?

「来い、アンゴルモア」

「――降・臨ッ」

アンゴルモアを喚び出すと、やつは「待ってました!」とばかりにギュルルルと激しい回転を加えながら現れ、赤黒い稲妻を一発、恰好良くポーズを決めて空中で静止した。相変わらず目立つことに余念がない。

「如何した、我がセカンドよ」

そして、わかっているくせに聞いてくる。

いいぜ。なら、答えてやろうじゃないか。

「なぁ、久々に燃えようぜぇ……!」

「応ともッ! フッハハハハ!」

直後、《精霊憑依》を発動する。

いやあ、この感覚、この全能感! 堪んないね。

最近は雑魚ばかりで鈍ってたからな、ここらで一発ぶちかましてやらないとと思っていたんだ。

「ご主人様、一体、何を……?」

「虹龍、潰しに行く。後ろで見てな」

ユカリ印の火力特化型五段階強化ミスリルソードを腰に引っ提げ、ボスの潜む場所まで一直線に疾駆する。

一度だけ振り返ってユカリたちが遅れつつもなんとか付いてきているのを確認し、その後はひたすら虹龍へと意識を集中させた。

目標は圧勝だ。虹龍には手も足も出させない。今のステータスと所持スキルだったら、まあ、俺ならお釣りが来るな。

「見えた」

初手、《飛車剣術》《雷属性・参ノ型》《複合》――虹龍の足にクリティカルヒット。

からの《龍馬糸操術》。何本もの糸を放射状にばら撒き触れた相手を強制的に拘束するスキルだ。虹龍は初撃で俺をターゲットし、ブレス以外の攻撃を選択するはずなので、当然、引っかかる。

確保。間髪を容れずに《飛車体術》五段を発動。溜めるほど強力な単体攻撃スキル。【体術】の純火力計算は(STR+DEX+AGI)/2.56で行われるため、ステータスが満遍なく高い俺にとっては低ランクでも火力を出しやすい。

溜め終了、虹龍の脚部にぶちかまし、そしてナイスなクリティカル。ラッキーだ。あと一発でクリの有無問わずダウン値が溜まる。

糸から解放され怒り狂った虹龍は、口から空気を漏らすように「ガァッ!」と鳴いた。ブレスだ。

本来なら全力回避だが、ここはダウンを狙う局面。飛び上がったところに《飛車弓術》と《雷属性・参ノ型》の《複合》を射て、ダウン値飽和で墜落させる。

「行っちゃうぜ~」

ノッてきたぁ。

運が良ければ次で決まる。

《雷属性・参ノ型》に《雷属性・参ノ型》を乗せた《溜撃》――INT+INTかつ十秒フルチャージで倍率800%の【魔魔術】。即ち、16倍ダメージの参ノ型。

十秒溜めるなら、ダウンを取ったここしかない。

俺はきっかり十秒溜め、虹龍がダウンから起き上がったところに……ぶちかます。

「――っ!!」

虹龍が消し飛んだかのように錯覚するほどの、馬鹿みたいに太い稲妻が落ち、地面を揺らすくらいの轟音が辺り一帯に鳴り響く。

残念、ツイてない。クリティカル出ず、48倍ダメージは逃したか。

「よいしょおッ!」

土煙の中から飛び出してきたズタボロの虹龍の攻撃を準備していた《金将槍術》のカウンターでぶん投げ、インベントリからお皿を取り出し装備、《飛車盾術》で突進して距離を詰める。

またブレスで飛び上がろうとしている虹龍の目の前で《金将糸操術》を発動。よし、これは間に合ったな。半径4メートル以内の対象を糸で拘束するスキルだが、ギリギリ空中3.8メートルあたりで確保できた。

「これでイッちまうかな?」

多分、削り切っちゃうなあ。

俺は最後に《龍馬弓術》を準備し、落下してきた虹龍と身を擦り合わせるほどに接近して……発動した。

ドバンッ! と、ショットガンのように数十の矢が同時に放たれる。

クリティカルヒット。あららオーバーキルだ。

虹龍は、流石に息絶えた。

Foo! 快・感ッ!

強敵を完封した時ほど気持ちの良いことはないねッ。

「…………あ゛ぁ゛!?」

直後。

余韻に浸る間もなく、俺の目に飛び込んできたのは……一本の 薙刀(・・) だった。

虹之薙刀(にじのなぎなた) ――虹龍産レアドロップ品。炎狼之弓や岩甲之盾と同じく、ドロップ率2%。

一発ツモ!! やっふー!! ここで1/50を引いて行くゥ!

「いいね、いいねーッ」

テンション爆上がりで感情のままを口にして、ニッコニコで小躍りしながら虹之薙刀を拾い、後ろを振り返ると――ユカリたちが、一様に呆然と立ち尽くしていた。

「……フゥ……」

ちょっと恥ずかしくなって、《精霊憑依》を解除しつつ額の汗を拭う。

「さ、じゃあ帰るか」

有終の美というかなんというか、とにかく大満足な一日だったな。

「ちょ、ちょっとお待ちください。整理がつきません」

ユカリのちょっと待ったコール。一体なんの整理がつかないんだろうか。

「あの虹色の龍って、人間が勝てるものなんですね……しかもボッコボコじゃないっすか。自分びっくりっす。というかちょっと引きましたもん」

「……っ……ぁ……ぅ」

「ご主人様はあまりにも先を行き過ぎていて背中が全然見えません、と申しております」

皆どうも俺が虹龍を倒したことについての整理がつかないらしい。

いやいやいや、君たちも真面目にやってたらこうなるから。

「何をいちいち驚いてるんだお前ら。少しはエコを見習え」

情けない。エコを見てみろ。

「ほ?」

「……ほら」

「何がほらなんですか」

「動じてない」

俺くらいのステータスとスキルなら虹龍を倒せて当たり前だと、わざわざ考えずとも理解しているからこそ、エコは動じていないのだ……多分。

「せめて金龍とタイマン張れるくらいにはなろうな」

「……精進いたします」

にっこり笑って言うと、ユカリは深い溜め息とともに頷いた。