軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

136 苛々刀貸したら確かな宝依頼

「 刀八ノ国(トウハチノクニ) ……初めて耳にします」

「奇遇だな俺もだ」

ユカリも俺も、聞いたことがない国の名前。実に怪しい。

だが、目の前にいる着物の男たちの顔は、至って大真面目であった。

……うーん、気になる。よし、直接聞いてみよう。

「なあ、ここは抜刀術発祥の地なのか?」

「左様。抜刀術はこの地に生まれ、この地で栄えたのだ!」

「いや、本土の方では全く栄えてないんだけど」

「何を当たり前のことを!」

「いや、当たり前って言われても……」

「貴様ら 余所人(よそびと) に説く義理などない!」

駄目だこいつら、話が通じねえ。

そう言っている間にも男たちは腰の刀に手を添えて、こっちににじり寄ってきている。

問答無用、ということか。

「そっちがその気なら、こっちも妖術とやらを使わざるを得ないな」

俺が言いながら一歩前に出ると、男たちは不動のまま口を開いた。

「同じ手が二度通用すると思うでないぞ!」

「我らは“ 侍(さむらい) ”! この地を護るが我らの責務!」

「“ 大黒(だいこく) 流”の名に懸け、貴様らを討つ!」

おいちょっと待ってくれ。

いざ開戦という時に、そんな興味をそそる単語を連発しないでくれ。

「――そこまで!」

直後。

男たちの後方から、不意に声がかかった。

若い女の声である。

「……お前ッ!」

「 兜跋(とばつ) 流の!」

「邪魔立てするか!」

男たちは振り向いてその女を見るやいなや、敵意をむき出しにした。

一方、女の方は凛とした顔を崩さない。

「彼らは私の客人。手出し無用に願いたい」

「何を言う! 明らかに余所人ではないか!」

「黙れ下郎。それともここで私と一つ交えようと、お前はそう申すのか?」

「……ッ……!」

しばし睨み合いが続き……そして、男たちは静かに刀から手を離した。

「覚えておれ、アカネコ」

「この件、トウキチロウ様に報告しておくぞ」

「そうだ、お前が余所人を匿っているとな」

それぞれ捨て台詞を吐いて、港から去っていく。

その場に残されたのは、俺とユカリとアカネコと呼ばれた女の子の三人。

「助かった」

一応のお礼を言うと、アカネコはくるりと振り返る。ポニーテールに結われた細長い黒髪が、ふわりと風に舞った。

「勘違いするな。私は無益な殺生を好まぬゆえ止めたのだ。さあ、即刻この地を去られよ」

取り付く島もない言いよう。

俺はどうしたものかと考え、とりあえず話のきっかけを掴むために質問をすることに決める。

「トウキチロウってのは誰だ?」

「知る必要はない」

「大黒流とか兜跋流ってのは何だ?」

「帰れと申している」

「侍ってのは、どんなやつのことだ?」

「くどい。帰られよ」

駄目だこりゃあ……と俺が諦めかけた時、隣のユカリがおもむろに口を開いた。

「大黒流、兜跋流とは、この刀八ノ国における抜刀術の 流派(・・) ではないかと予想できます。また、男たちが報告すると言っていたトウキチロウという者。その言いぶりから、恐らくはその大黒流の家元なのでしょう」

【抜刀術】の流派! なるほど盲点だったな。そうか流派か。ゲームが現実になると、そんな環境ができあがるんだな。メヴィオンには『オカン流』みたいなギャグのような流派しか存在しなかったから、想像がつかなかった。

「そして、侍という存在。この刀八ノ国にはいくつかの流派があり、その門下生として抜刀術を修めることで初めて刀を扱えるようになるのではないでしょうか? そうして厳しい鍛錬の末に刀を扱うことを許された者を侍と呼んでいる。ゆえに門外不出。島の外へと抜刀術が伝わることはなく、各流派の門下以外にはその技術を秘匿し続けられる。すなわち、非常に閉鎖的な島……と、私はそう推察しました」

――瞬間、アカネコの表情が凍てつく。

「そうか……知られてしまったか」

「あくまで私の推察でしたが、期せずして答え合わせしてしまいましたね?」

「ならば生かして帰すわけには行くまい」

「――ッッッ!」

速い。

瞬きする間に目前まで迫る高速の移動と、まさに閃光のような居合。

アカネコは喋り終わると同時に《桂馬抜刀術》を繰り出したのだ。

殺気も何も感じない、予備動作すら一切ない、完全に平常の状態から。

構え、鯉口を切り、スキルを発動し、抜く。全てを瞬時に行う技量は、まさしく達人のそれであった。

「な……!」

相当の自信があったのだろう。

事実、相当の実力だ。この世界のタイトル戦出場者レベルには 優に(・・) 達している。

だからこそ、彼女はその凛とした顔を崩し、驚愕の表情を見せた。

「良い刀だ。毎日手入れしているのか?」

「な、何を申して……いや、何をした!?」

ノックバック(・・・・・・) した彼女が声を荒げる。

まあ、受け入れ難いだろうな。渾身の居合を、単なる お皿(・・) に防がれたんだから。

否、彼女はまだそれに気付いてすらいないような気がする。俺が 手ぶら(・・・) で何かをしたと、そう勘違いしているのかもしれない。

彼女が構え・鯉口を切り・《桂馬抜刀術》を発動し・抜き・斬りかかるまでの間に、俺はインベントリからお皿を取り出し・装備し・《歩兵盾術》を発動し・0.037秒間のタイミングを目視し・パリィし・お皿を装備から外し・インベントリに仕舞った。

彼女はそれを瞬時には理解できなかった。ただそれだけのことだ。

「気が変わった」

俺は誰にでもなく呟く。

元より、この 刀八島(トウハチトウ) へは刀を手に入れるために渡ったのだ。一度来てしまえば、後はあんこの転移召喚で行き来し放題。ゆえにあーだこーだ言われずともとっとと帰るつもりだった。

……それが、だ。この島の人々は、 良い意味で(・・・・・) 、俺の期待を裏切った。

単なるスキルの【抜刀術】に流派が存在している? 刀を持ち【抜刀術】を扱う者は侍と呼ばれている? 門外不出の秘匿技術? 閉鎖的な島国?

実に、実に面白そうじゃないか!!

それに極め付きは彼女、アカネコだ。

見たところかなり若い。17歳くらいか。そんな女の子が、これほどまでに強いとは。

そして、「島内の情報を外へと出さないように」というただそれだけのために、見ず知らずの男女を瞬時の判断で 斬り殺そうと(・・・・・・) した。それも、一切の躊躇なく。

どうやったらこのように育つのか。

明らかに異様な環境。異質の文化。

「……お前、何故、笑って……」

おっと、ついつい顔がニヤついていたようだ。

しかし、俺の口角は上がったまま戻らない。強者のニオイを感じ取り、これでもかと胸が高鳴っているから。

「ご主人様」

「悪いが、しばらくこっちに通うことになると思う」

「……仕方がありませんね。まあ、いつものことですから」

「すまんな」

俺はユカリに一言断りを入れて、アカネコに向き直り、沈黙を破った。

「アカネコ。この島を案内してくれ」

「何を、馬鹿なことを」

「真剣だ。俺は抜刀術を覚えるためにこの島へ来た」

「…………」

アカネコは口を閉ざし、思考の姿勢を見せた。

しかし、その表情は依然として苦々しい。

ここは少し、強引に行った方が良さそうか?

「とりあえず、兜跋流? の道場を見てみたいんだが」

「駄目だ、無茶を申すな。その女の推理を聞いていたのならわかるだろう。私がお前を島へ引き入れたとケンシン様に伝わっては困る。お前が黙ってここから去れば何も問題はないのだ」

「ケンシン?」

「……兜跋流家元。私の父上だ。ケンシン 毘沙門(びしゃもん) と申せば伝わるか?」

「へぇ!」

現毘沙門。タイトル保持者か。

「つまり、お前の父親はこの島で一番強い侍なのか?」

「一概には言えぬ。しかし事実上、最も強い」

「へえぇ!」

思いがけない出会いだ。じわじわと期待が高まる。

「尚のこと会いたくなった。だが、その前に抜刀術を覚えないとな……」

「戯け。そう易々と覚えられるわけがなかろう」

おっ、よしよし食いついた。良い感じに交渉のとっかかりを掴めそうだ。

「そうなんだよ。せめて刀があればな」

「……お前、もしや」

「ああ、知っている。砂鉄、玉鋼、刀。そして抜刀術の習得方法は全て」

「…………やはり、ここで殺しておかねばならぬか」

「まあ待て。来い、あんこ」

「――はい、 主様(あるじさま) 。あんこはここに」

「!?」

こっそり《魔召喚》し、アカネコの後ろからあんこを登場させる。

アカネコは目を見開き体を硬直させた。よく見る光景だ。あんこを初めて目にしたやつは皆こうなる。生物的に、本能的に、刹那「この魔人には敵わない」と無意識に自覚し、全細胞が怯えるのだ。

「ユカリを家まで送ってやってくれ」

「御意に」

俺があんこに指示を出すと、あんこは微笑みを浮かべたまま一礼し、ユカリと共に姿を消した。

一体何処へ消えたのか。アカネコは必死に考えるだろうが、答えが出るはずもない。

「ほら、逃げちまったぞ。秘密を知った余所者が。どうする?」

「……否。まだ、逃げたとは限らぬ。何か手品のような仕掛けがあるに違いない」

「いいや、逃げた。島の外へ。もう捕まえようはないさ。そして俺も逃げる」

「…………馬鹿な」

「本土へ帰ったら、そうだなあ。手始めに刀の作製方法でも広めてやろうか。兜跋流のアカネコさんに教わったと付け加えてな」

「お前! 左様なことをすればどうなるかッ!」

まあ、アカネコは村八分ならぬ島八分にされるだろうな。下手すりゃ殺される。

そこで、だ。

「賭けをしないか?」

「私を脅すのか」

「違う。ある意味では依頼だ」

「……申してみよ」

「今日から一週間で、俺は抜刀術を全て覚えてくる。だから、俺に刀を貸してくれ」

短期勝負だ。刀八島へ来たからには、砂鉄はいつでも採集できる。ならばと、更なる時短を狙う。

つまり、刀の《作製》を後回しにし、ひとまず他人の刀を装備して【抜刀術】スキルを全て習得してしまおうと考えたのである。

「ならぬ。お前が帰ってくる保証が何処にもない」

「刀を貸してくれるのなら、お前が大切にしているその刀と同じくらい俺が大切にしているものをお前に預けよう」

「……その矢は」

「 絆之矢(キズナノヤ) 。これを弓に 番(つが) えれば無限に矢を放てる。盲目の弓術師アルフレッドの目を治療した際に譲り受けた、俺の宝物だ」

「…………」

迷ってるな、アカネコ。

そりゃ迷うだろう。無限に放てる矢など、正直言って刀の何倍も価値がある。

加えて、賭けの内容だ。一週間で【抜刀術】スキルを全て覚えるなど不可能だと、彼女はきっとそう思っている。

特に《龍馬抜刀術》と《龍王抜刀術》。この二つの習得方法は、他のスキルにおける龍馬・龍王とはまた一味違った面倒くささがあるのだ。

まあ、種明かししてしまうと、その面倒くささを如何にして簡単に効率良く時短するか、何万人ものプレイヤーが知恵を絞り合って膨大な情報を共有し、試行に試行を重ねて研究に次ぐ研究の末に捻り出した“ショートカット技”が存在する……っていう、ただそれだけのことである。

知らない人は、知りようもない。想像すらつかない。何万人が協力して積み重ねた知識の結晶に一人で辿り着くことなど、不可能に近いのだ。

「……賭けの内容は」

ほら、釣れた。

アカネコは若干の苛立ち顔で、俺の言葉を催促している。

「俺が一週間で覚えきれたら、島を案内してくれ。俺が覚えきれなかったら、死ぬまでお前の奴隷になってやる」

「……奴隷か、悪くない。この季節は冷えるゆえ、私の履物を懐で温めてもらおうか」

「そっちこそ、ミニスカートを履く準備はできているんだろうな?」

「ど、どうしてそうなる!」

「ツアーガイドはミニスカって相場が決まってんだよ」

「全く、助兵衛な男め……」

アカネコは呆れつつも、腰の刀を俺に差し出した。

絆之矢と刀を交換し、再び向かい合う。

「じゃあ、一週間後。この時間に、またここで会おう」

「承知した。お前がどのような顔で参るのか、今から見ものだ」

「こんな顔だったり」

「ンフッ、やめろ! 笑ってしまったではないか! と言うかなんだその顔は!」

「家ににらめっこ大好きな猫がいてな。日々研鑽してるんだ」

「わけのわからんことを申すな! さっさと行け!」

「はいはい」

ひらひらと手を振って、ユカリに召喚要請の通信を送る。

俺の腰には、アカネコから借りた刀。

……さあ、【抜刀術】習得の時間だ。