軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14 王立魔術学校

ダマクラカス作戦から一週間が経った。

あれから俺とシルビアは『火炎狼の毛皮』を売ったり経験値を稼いだりと、かなり充実した日々を過ごしていた。

経験値稼ぎは主にスライムで行った。王都から鉱山へ向かう道の途中にある『スライムの森』を奥へ奥へと進んでいくと、経験値のおいしいレアスライムが出る場所があるのだ。

その中でも一番の収穫は、ホーリースライムから『回復魔術の杖・中』をドロップできたことだ。ドロップ率0.05%の激レアアイテムである。

この『回復魔術の杖・中』は、装備している状態に限り、誰でも簡易的に【回復魔術】の《回復・中》が使えるようになる便利な杖だ。特に、成長タイプをヒーラー系に特化させたキャラクターが持つことでその真価を発揮する。なぜならヒーラータイプが扱う時だけ「++(プラスプラス)」の効果が追加されるのだ。++は二段階強化といって、これが付くと通常の約2.5倍の効果が期待できる。《回復・中》の++ともなると、中級者程度のHPであれば50%以上の即時回復が見込めるレベルだ。この追加効果が如何に強力か分かるだろう。

俺とシルビアはどちらもヒーラータイプではないので++は得られないのだが、それでも無条件で《回復・中》が扱えるようになるのは大きい。ありがとうホーリースライム。素晴らしい贈り物だよ。彼も草葉の陰で「ピキィ!」と喜んでいることだろう。

とまあ、そんなこんなで王立魔術学校へ向かう当日となった。

「本当にいいのか?」

シルビアが顔を寄せて聞いてくる。さっきからこればかりだ。

「半分はお前が倒したんだからお前の取り分だって何度も言ってんだろ」

なんでも、火炎狼の毛皮を売った金の半分は「私には多すぎる」らしい。

120枚あった毛皮は1枚あたり約100万CLで売れた。100万×120で1億2000万CL、その半分で6000万CLがシルビアの取り分だ。

「炎狼之弓に加えてこんな大金も貰ってしまってよいのだろうか……」

うじうじうじうじと鬱陶しいことこの上ない。

これからいよいよ魔術学校に潜入しようという大事な時にこんなんじゃ、教師どころか学生にまで舐められても文句は言えないな。ここは活を入れておくべきだろう。

「いいか、よく聞けシルビア。6000万なんてな、稼ごうと思えば一日で稼げる。端金だ端金。俺たちゃ世界一位を目指すんだよ。6000万ぐらいでぴーぴー言ってんじゃねえ」

「い、いちにちでろくせんまん……」

いかん、更に腑抜けた。

「意識低いぞ。お前はもう世界一位のチームの一員なんだ。自覚を持て」

「……チーム?」

「そう、チームだ。いずれ結成するからな」

メヴィオンは『チーム』と呼ばれるプレイヤー集団を作ることができる。最低3人必要で、チーム結成クエストを完遂する必要があるが、非常に簡単なので誰でも問題なくチームを作り多人数で遊ぶことができた。

この世界でも同じシステムなのかは分からないが、世界一位を目指す上ではチームを作っておいて損はない。何故ならチームマスターの権限が非常に効率的なのである。チームメンバーのステータスやスキル一覧を勝手に覗けたり、チーム限定通信で離れた場所から指示を出せたりと、なかなか便利なのだ。仲間が増えた際には是非とも作っておきたい。

「私が……セカンド殿の、チームの一員……?」

目をぱちぱちと瞬かせて呟くシルビア。

だんだんと自信が湧いてきたみたいで、その顔に気合が入り始める。

「うむ、そうだな! 私は世界一位の男の、第一のチームメンバーだ! なよなよしていられんな!」

急に元気になった。やたら「第一」を強調している。幹部にでもなるつもりか?

そして多分もう6000万のことは忘れている。このぽんこつっぷりがなんとも可愛い。

そんな会話をしつつ、俺とシルビアは王立魔術学校に到着した。

王都のど真ん中から馬で一時間ほどの距離にある、見上げるほどにでかい城のような建物が校舎だ。

「ようこそ、お待ちしておりました」

馬から降りた俺たちを、20代くらいの若い男と30代後半くらいに見える女の2人が出迎えた。

「お出迎えわざわざありがとうございます、先生方」

俺は思いつく限りの敬語で対応する。流石の俺もこちらが生徒であちらが先生ならば礼儀を重んじるのだ。隣で意外そうにしているシルビアを見えないように肘で小突きながらお辞儀をした。

「セカンド“君”……で構わないかい?」

若い男の方が聞いてくる。ああ、まだ名乗ってなかったな。

「ええ。俺がセカンドで、隣がシルビアです。これから2週間よろしくお願いします」

俺がにこやかにそう言うと、男と女は一瞬だけ視線を交わした後、女の方から口を開いた。

「私は校長のポーラ・メメントです。よろしくね。そして彼が」

「セカンド君がこれから入る予定の1年A組の担任、ケビンです。よろしく」

2人と握手をする。校長は女性なのか。意外だ。それとケビンさん、彼がノワールさんの言っていたエルフだな。

2人はついでという感じでシルビアとも挨拶を交わしていた。ところでシルビアはどういう扱いになるんだろうか?

「早速質問なのですが、シルビアは同じA組になりますか?」

「ええ、そうなります。留学期間中の宿泊先は寮ではなく宿なので、部屋が離れることもないわ」

ポーラさんが答えてくれた。

そうか、シルビアは俺の護衛ということになっているんだった。しまった今の質問はおかしかったか。

「さて、行きましょうか」

ケビンさんの案内で校舎の中へと入っていく。

今のところ怪しまれてはいないようだが……これから2週間、気を引き締めないとな。

「今日は午前中に授業を、午後に校舎の案内をしようと考えている。どうかな?」

「案内はケビン先生が?」

「いや、学生だよ。先日A組の中で募ってね、もう決まっているんだ。午後は基本的に自由課題を行う時間なんだけど、優秀な学生なら手が空いているからね」

「そうですか。ありがたいことです」

よぉし。じゃあ授業中は適当に時間潰して、午後になったら案内人のガキから情報を搾り取ってやろう。と言っても魔道書の在り処を聞くだけだが。

「さあ、着きました。ここがA組です」

俺が一人でほくそ笑んでいるうちに教室に到着した。

躊躇なくドアを開けるケビンさん。教室の中は大学の講義室のように扇形で、横長の机が階段状に並んでいた。学生たちは30人くらいだろうか。全員黙って着席しており、静かなものである。

「おはようございます皆さん。さて、先日告知した通り、本日から2週間、2人の留学生がここA組で共に過ごすこととなります。それでは紹介しましょう。セカンド君、シルビアさん、入ってきて」

ケビンさんは淡々と喋ると、俺たちを呼んだ。どうやら出番のようだ。

俺とシルビアは教室に一歩足を踏み入れた。

その瞬間。

「――――っ」

学生たちは一斉に息を呑み、そして俄かにざわついた。

俺も異世界に来て随分経つから、その理由は分かっている。

多分、俺の容姿が原因だ。現実にはありえないくらいの美形だからな。流石は限定プレミアム課金アバターと言わざるを得ない。

「それでは自己紹介を」

教壇まで来ると、ケビンさんにそう促された。

「ジパングという島国から見学に来ました、セカンドです。みなさんよろしく」

「し、シルビア・ヴァージニアだ。よろしく頼む」

俺がさらりと優雅にお辞儀をすると、一部の女子たちからキャーッと黄色い声が上がった。一方で男子学生諸君は静かである。どうやらシルビアの顔に見惚れているようだ。

「ありがとう。では2人はそちらの席に」

俺とシルビアは大勢の視線を感じながら、最前列の真ん中からひとつ右の場所に着席する。

「今日は折角ですから、改めて基礎の復習から行うことに致しましょう」

俺たちが席に着いたのを確認したケビンさんは、早速授業を開始した。

俺にとっては退屈な時間だろう。そう思い、話半分で聞いていることにした。

午前の授業が終わる。

授業の内容は、予想に反して衝撃的だった。

なんでも「魔術の行使は理解の深さが重要」で、「魔術師志望はみな理解を深めるため学校に通っている」のだという。

……聞いたことないぞそんなの。

魔道書を読んだら覚えられるんじゃないのか?

魔術を理解とか、理解の深さとか……ちょっと何言ってるか分からない。

授業を聞いているうちに「もしかしたら本を読むだけじゃ覚えられないかも」という不安がだんだんと押し寄せてきて、居ても立ってもいられなくなった俺は、授業終了と同時にケビンさんへと詰め寄った。

「午後の案内の方を紹介していただきたい。共に昼食をとり、親睦を深めたいと思って」

あまりに焦っていたからかタメ口みたいになってしまった。

するとケビンさんは一瞬だけ目を丸くした後、笑顔で口を開いた。

「もちろん構いません。ええと、ああいた。マイン君」

「あっ……はい。お呼びですか、先生?」

ケビンさんに呼ばれて出て来たマインという男子学生。彼は美青年というよりは美少年といった風で、身長はシルビアより少し低い160センチくらい、非常に線が細く、おどおどとしていて気弱な印象だ。そして俺と向かい合うと上目遣いになるせいか、男の子と言うよりは女の子と言った方が納得できるような可愛らしい顔をしている。

「午後の案内の準備はできているよね。セカンド君が早く打ち解けるために昼食を一緒にとりたいんだそうだ。予定は前倒しになるけれど、食堂の案内もお願いしていいかい?」

「あ、はいっ。ボクは大丈夫です」

「それはよかった。ではよろしくね」

ケビンさんの言葉にマインが頷く。サラサラの金髪がふわりと揺れた。

「失礼。彼に魔術のことについて質問しても大丈夫でしょうか?」

俺はマインから情報をむしり取る前に、去り際のケビンに一応尋ねておいた。むしり取り損になったら嫌だからな。

「……問題ありませんよ。彼はこの第1学年の首席ですからね」

「なるほど。愚問でした」

俺は自嘲するように笑ってそう返した。

首席だってさ! むしり放題じゃないか。やったぜ。

「マイン、案内よろしく」

俺がにこやかに(ほくそ笑みながら)そう言うと、マインは一瞬だけきょとんした後、笑顔になって頷いた。

「うん! よろしくね、セカンドさん」

よしよし。警戒されていない。この調子で魔道書の在り処を聞き出してやる。

……と、その前に。

「シルビア、食堂に行くぞ」

「むっ、わ、分かった! すまない、通してくれ、すまないっ」

女子学生に囲まれて質問攻めにあっていたシルビアを救出する。

授業終了後にケビンさんのところへ急いでいなければ俺もああなっていたかと思うとゾッとするな。何か対策を考える必要がありそうだ。

「すまない、待たせっ――」

駆け寄ってきたシルビアは、突如停止する。その視線はマインの方を向いていた。

「ま、ままま、マイン殿下、で、ございますか?」

………………へっ? 殿下?

「学校内では身分の差はありません。どうか対等にお願いします」

ついさっきまで微笑んでいたマインが、無表情になってそう言った。

殿下、殿下……つまりマインは、ここキャスタル王国の王子ということか?

「し、失礼いたし……失礼した。マイン殿」

シルビアは萎縮してすぐさま謝る。怒られ慣れている奴の動きだなありゃ。

それにしても、王子ねぇ……初めて見た。なんかイメージと違う。

「ひれ伏せ!」みたいな感じだと思ったら「対等にお願いします」か。へぇ~、じゃあ対等に扱ってやろうじゃないか。

「さぁ、セカンドさん。一緒に食堂へ行こう」

すると、マインが俺の手を引っ張ってきた。やけに積極的だ。

美女のシルビアに冷淡で、美男の俺に積極的。

…………こいつまさか。

いや待てよ。いやいやいや、でも……うーん? いやー、どうだろう。確かに昔の王様や武将にはそういう人が多かったと聞くし……あー、どうなんだ? すげぇ気になる……それによっては俺も真剣に向き合わなきゃならん。まさか王子様に後ろの穴を狙われる日がくるとは……どうやって断ればいいんだ……。

……よし。もうストレートに聞こう。

「なあマインよ。お前ホモなのか?」

「えええぇ!? 違うよ! いきなり何言い出すの!?」

「 」

マインは顔を赤くして否定した。シルビアは顎が外れるんじゃねえかってくらい大きく口を開けて絶句している。

「だってシルビアよりも俺に対してなんか、ちょっと、その……アレというか」

「アレって何!? 違うからね! ボクは女の子が好きだよっ!」

「そうか? 隠す必要はないぞ。おいシルビアも何か言ってみろ」

「わ、私か!? い、いや、マイン殿下はおそらく第二王子であらせられるから女性に対しては常に警戒をして」

「真面目か!」

「あ痛っ!? 叩かなくてもいいだろう!?」

食堂への道すがらギャーギャーと言い合う。

食堂に着く頃には、俺たち3人はもう打ち解けていた。

* * *

「どうでしたか」

校長室。

問いかけるポーラに、ケビンは答えた。

「彼、とんでもないね。第二王子を知らなかったよ。嘘偽りなく」

「あら……それは」

「全身から溢れ出る“余裕”が凄まじい。一体どこの王族なんだか……」

ケビンはセカンドが纏う独特の雰囲気を思い出し、ため息をつく。

それはセカンドがこの世界を「ゲームとしてとらえてしまう感覚」の名残であり、本気で世界一位を見据えているがゆえの「余裕」なのだが、ケビンにそれが分かるはずもなかった。

たとえ100年以上生きていたとて、分かるわけがないのだ。ゲームに人生の全てを賭けた男の感覚など。

「そういえば、ジパングとかいう島国から来たと言っていたよ。ジパングの王なのかな?」

「決め付けるのはよくないわ。でもまあ、少なからず第二王子よりは格が上ということね……」

出向いた国の第二王子を知らない。すなわち、知る必要もない。

ジパングはキャスタル王国を下に見れる国だと言っていることになる。

「ジパング……聞いたことがないなぁ。少し調べてみるよ」

「お願いね」

会話を終えると、再びそれぞれの仕事に戻っていく。

2人の胃が痛くなる2週間が始まった……。