軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 ロイスダンジョン

「今日はダンジョン行くぞー」

「……聞いてないぞ」

シルビアはジト目でこっちを見てくる。そりゃそうだよ、言ってないもん。

「大丈夫だって安心しろよ。パパパッとやって終わりっ」

「そうか、セカンド殿がそう言うなら――って騙されないぞ! 今度は一体何をやらかすつもりだ!?」

「お前のためだシルビア。飛車弓術、覚えたいだろ?」

「……いや、まあ、覚えられるなら覚えたいが」

「なら決まりだな」

今回は乙等級ダンジョン『ロイス』を周回する。乙等級の中でも比較的簡単なダンジョンだ。目的はシルビアの《飛車弓術》習得と、俺の《角行剣術》《飛車剣術》の習得である。

ダンジョンは甲乙丙と3ランクに分けられており、甲が上級・乙が中級・丙が下級といったところだ。丙ダンジョンが最も多い9つ、乙ダンジョンが6つ、甲ダンジョンが5つである。その上にもう1つだけダンジョンがあるが、今語っても仕方がない。

何故今回は中級のロイスダンジョンに行くかというと、その理由は3つある。

1つは、出現する魔物の攻撃力だ。俺は既にある程度経験値を獲得してステータスも成長しているため、防具を装備していなくても下級の魔物からではダメージがなかなか通らなくなってきている。そのため《飛車弓術》習得の条件である「プレイヤーのHP50%を削った魔物」という点において、下級魔物に自身を何度も何度も殴らせるよりは中級魔物に一発殴ってもらった方が簡単に済むのだ。

2つ目の理由は、魔物のHPとVITの低さだ。このロイスダンジョンに出現する魔物は、すべて攻撃特化型である。ただし、STRが高い代わりにHPとVITは同レベル帯の魔物と比べて約3分の2程度なのだ。つまり、敵は攻撃力が高いので注意が必要だが、防御は柔らかくHPも少ないから倒しやすいのである。

そして3つ目。それは、ダンジョンの攻略報酬だ。ダンジョンを攻略、すなわちダンジョンの最下層まで進みボスを倒すと、ボスからのドロップという形で攻略報酬が獲得できる。ロイスダンジョンのボスは「火炎狼」、そのドロップに『炎狼之弓』というレア武器がある。火属性効果の付いた優秀な大弓で、魔弓術師が中級者から上級者へと成長する間、プレイヤー皆がお世話になっていた人気武器だった。

つまるところ、2人でスキル習得の条件を満たしつつ、ドロップ狙って周回しようというのが今回の目的である。

スキルランクの調整もばっちり出来ている、と思う。ダイクエ戦法でシルビアの経験値は爆上がり、【弓術】もかなり上げて、《桂馬弓術》と《銀将弓術》はそれぞれ初段になっていた。加えて俺の【剣術】も《桂馬剣術》が三段、《銀将剣術》が初段になっている。

これは2人でロイスダンジョンを周回できるギリギリレベルのスキルランクだろう。いざとなったら俺も弓を出せば火力不足は補えるし、高級な回復ポーションもわんさか持って来ているし、難なく周回できると踏んでいる。

「さて、ここだな」

王都ヴィンストンから馬で半日。理由の一つに近場だというのもなくはない。

「本当に入るのか? 大丈夫なのか?」

不安げなシルビアを引き連れて、俺は躊躇なくロイスダンジョンへと足を踏み入れた。

少し赤っぽい岩に囲まれた広大な洞窟のようなダンジョンである。

「こ、これは血か……? いや、こういった色の石なのか……」

シルビアは先程からビビりまくりで、キョロキョロと周囲を見回しながらロングボウを構えて俺の後ろを進んでいる。

「いたいた。ターゲットしてきた奴からなるべく銀将で倒せ。あと経験値溜まったらクリ優先で上げてけ。まだ慣れてないなら桂馬と銀将の複合も練習しとけ」

約20メートル先に敵影を発見した。カエンリザードだ。数は4体。余裕だ。

「わ、分かった……!」

シルビアは腰が引けていたが、しっかりスキルは発動できている。大丈夫そうだな。

初撃はシルビアの《桂馬弓術》と《銀将弓術》の複合だった。どちらも初段。白銀のエフェクトとともに射られた矢は遠距離からカエンリザードの胸部に命中し、ドカンと大穴を空けた。

「…………へっ?」

シルビアがぽかんと口を開けて呆けた声を出した。

呆気なく絶命するカエンリザード。その間に俺は残りの3匹を《歩兵剣術》で一撃ずつ与えてターゲットをもらい、ひとまとめにしてから《香車剣術》で一気に片づけた。ちなみに《歩兵剣術》は通常攻撃で、《香車剣術》は貫通攻撃の効果がある。

《角行剣術》の習得条件は「《香車剣術》を用いて魔物を3体同時に一撃で仕留めること」「《香車剣術》と《桂馬剣術》を複合して用い魔物の急所を2体同時に10回連続で貫くこと」の2つ。これで早くも1つ目の条件を満たすことができた。

「どうした?」

ぼけーっとするシルビアに声をかけると、シルビアはハッとして気を取り戻した。

「せ、セカンド殿。私、もしかして、ものすごく強くなってないか……?」

そして今更なことを言う。

「約束したからな」

俺がそう言って笑いかけると、シルビアは一瞬だけ目を丸くしてから、花が咲いたような笑顔を浮かべた。

こうしていればかなりな美人なんだが……もうお前ずっとその顔でいろと言いたくなる。

その後、俺たちはロイスダンジョンをサクサクと快速急行で進んで行った。「セカンド殿!」「すごいな!」「ありがとう!」「すごいな!」とやたらテンションの高いシルビアは絶好調で、後方支援として非常に役に立った。仲間にして正解だ。

「私、魔弓術師になるぞ!」

なんか急にすごい乗り気だ。どうやら今の今まで自分の実力に半信半疑だったみたいだ。まあ何であれシルビアの調子が良いのは良いことである。

「おっと。シルビア、ストップだ」

ダンジョンに潜ってからかれこれ6時間ほど進んだあたりで、俺たちは足を止めた。

ここに至るまでにもう3000匹近い数の魔物を倒しており、シルビアの《飛車弓術》習得条件も残りは例のひとつだけとなっている。

そして、この場で止まった理由。

それは“お目当て”の魔物が出てきたからだ。

その名はホノオトロール。攻撃力ばつギュンの大型魔物だが、光り輝くハゲ散らかした頭部が実に分かりやすい弱点で、ヘッドショットなら初段の《銀将弓術》であれば確実に一撃だ。

ホノオトロールの数は3体。おあつらえ向きだな。

「15メートル以上離れた場所から桂馬と銀将の複合で頭部を狙っておけ。俺が合図したら撃て」

「うむ、分かった。だが……何をするつもりだ?」

「まあなるようになる。決して取り乱すなよ」

シルビアに指示を出して、俺はホノオトロールへと向かっていった。

HPは満タン。VITの数値的にもホノオトロールの攻撃はクリティカルが出たとして6回は耐えられるはず。大丈夫だ。大丈夫。

いや大丈夫じゃない。すげえ怖いぞ。でも後衛には絶対に欲しいんだよなぁ《飛車弓術》……。

ああ、目の前まで来た。

1体のホノオトロールが俺をターゲットする。

そして、大きく棍棒を振りかぶって――

「セカンド殿っ!!」

――その瞬間、何が起きたのか俺はよく覚えていない。

脳を揺らす衝撃。吹っ飛ぶ意識。なんだこれ。聞いてないぞこんなの。

「ゲホッ」

地面にはいつくばって、口の中のものを出す。大量の血と、砕けた奥歯だった。

俺のHPは4分の1も削れていない。

ヤベェ……奥歯治るかなこれ。メヴィオンだったら腕がもげてもポーション飲めば治るんだが、この世界ではその保証がない。

こ、これはだめかもわからんね……。

「……まだだぞー……」

ぐわんぐわんと揺れる視界の中で、俺は即効性のHP回復ポーション(もちろん高級品)を握りしめながらそう言ってしまった。あまりの痛みと衝撃のせいかまともな判断ができていない。

でもさ、女の子の前だと恰好つけたいじゃん? 一応ね、一応、もう一撃くらい耐えてみようと思ったのさ。この苦痛が無駄になるのはできるだけ避けたいから。

ちらりとシルビアを見る。遠くてよく見えないが、どうやら待ってくれているようだ。

「……っひ」

ホノオトロールが突進してくる。俺の喉奥から悲鳴のような声が出かけて、必死でこらえた。

……踏ん張れ。ここで逃げたら舐められる。取り乱したら情けない奴だと思われる。俺は世界一位だ。この異世界でも、サブキャラでも世界一位になるんだ。そのためにはシルビアに《飛車弓術》が必要不可欠だ。ここが頑張りどころなんだ。なぁに死にゃあしない。覚悟を決めろ! 耐えろ、男の子だろ! 意地だ! 根性だ! ここで耐え切ったら伝説になる! シルビアは絶対に俺に惚れる! 多分!

いや自分でも無茶苦茶な考えだって分かってるけどさぁそう言い聞かせでもしないと今にもポーションを飲んじまいそうで――

「――う゛ッ!!」

ゴルフのように振り抜かれた棍棒が俺の体を壁際まで吹っ飛ばす。肺が押しつぶされて呼吸ができない。

HPは……よし。よしっ!

「う……う、てっ!」

蚊の鳴くような声だった。

それでも、シルビアは分かってくれた。

バスゥン――《桂馬弓術》と《銀将弓術》の重低音が響き、その直後、目の前のホノオトロールの頭が木っ端微塵にはじけ飛んだ。

はは、ざまぁみろ……。

…………。

「……さて」

あと2体。

俺はポーションを飲み、奥歯が生えていることを確認すると、泣きそうになった。

やめるにやめられなくなったからだ。

これで損傷が元に戻らないとでもなれば、やめる理由になったのに……。

ああ、もうやめたい……でも引っ込みつかない……。

……でもやるしかない。俺は世界一位だ。

世界一位。世界一位。世界一位。

世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。世界一位。

ぶつぶつと、呟きながら。

俺は残り2体のホノオトロールへと向かっていった。

「この、馬鹿者! 大馬鹿者っ!!」

全てが終わった後。

冷たい岩の上に寝転がる俺。

俺の胸に抱きついて、泣きながら罵倒するシルビア。

完全勝利――。