軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第59話

「すいませ~ん、郵便局です」

「は~い」

「ハンコかサインをお願いします」

「これでいいかしら?」

「はい、ありがとうございます」

十一月末。水橋家に大判の厚めの封筒が届く。

「潮見高校から、ということは、澪の試験結果ね」

封筒の差出人を見て、受け取った澪の母親が頬に手を当てながらそうつぶやく。

封筒に厚みがある時点でおそらく合格ではあろうが、まだまだ予断を許さない。

何しろ、ほぼ面接だけで決まると言っていい上、基本的には落ちることはない推薦入試である。

推薦を受ける時点で基本的に学力も内申も基準を満たしている前提になり、そのあたりの先入観がプラス方向で補正されるので、ある意味当然である。

が、澪の性格的に、面接というのは間違いなく試験としては一番苦手なジャンルなので、どこまでも失敗する可能性が付きまとうのだ。

余談ながら宏達の日本では、公立高校でも学力の高い学校や特色の強い学校では、大抵推薦入試が行われている。

「……開けて確認したいけど、もうすぐ澪が帰ってくる時間だから、それまでは待たないとね」

自制心を総動員して封筒をテーブルの上に置き、澪にメッセージを送ってから夕飯をどうするか決めるために冷蔵庫の中を確認する。

最近はいくらでも野菜が手に入るため、買いに行くにしても肉類か魚介類だけなのだが、場合によっては今日はごちそうを作らなければいけないので、十分に食材は吟味しておかなければならない。

そうやって吟味していると、玄関が開く音が。

「……ただいま」

「お邪魔します」

「おかえり。凛ちゃんもいらっしゃい」

帰ってきた澪と凛に声をかけ、冷蔵庫を閉じる澪の母。

「お母さん、試験結果見せて」

「凛ちゃんがいるけど、いいの?」

「ん」

母の確認に、緊張を隠さずにうなずく澪。

ただならぬ緊張感を振りまく澪に苦笑しつつ、封筒とハサミを渡す母親。

残念ながら、水橋家にはペーパーナイフなどという洒落たものはなく、カッターナイフも滅多に使わないので置いていない。

なので、封筒を開けるときは素手でちぎるかハサミで切るかのどちらかである。

「……よかった。ちゃんと合格」

おっかなびっくり封筒を開け、中を取り出して一番最初に目に入った言葉に、大きく安堵のため息をつきながらそう告げる澪。

その言葉に、大丈夫だろうと思いつつも不安をぬぐえなかった凛と澪の母が、大きくため息をつく。

いくら普通は大丈夫だと言われても、絶対ではないのだから一切不安を持たずにいるのは難しい。

「お母さん、いっぱい手続きあるみたい」

「そうね。まあ、基本的に全部保護者がやることだから、澪は気にしなくていいわ」

そう言って、澪から書類を受け取る母親。

義務教育中の未成年の場合、この種の手続きに保護者もしくは後見人が必要となることは多い。

それもあってか、この種の書類は大抵、成人して社会に出ている人に向けた書き方をしているので、澪のような中学生には難しいものも結構ある。

もっともそれ以前の問題で、一般的な中学生と比較してもかなり世間知らずな澪に、この種の手続きで必要となる書類の入手方法など分かるはずもないのだが。

「それで、澪。せっかくだからお祝いしようと思うんだけど、晩御飯は何が食べたい?」

「今日は凛のお料理教室だから、お祝いはまた今度でいい」

「そう。だったら、次の休みの日でいいかしら。どこか行きたいところとか食べたいものはある?」

「ん。一度、焼肉屋さんに行ってみたい。できたら食べ放題」

澪の実にらしいリクエストに、思わず吹き出す凛と澪の母。

夕食にお祝いで澪の食べたい美味しいもの、という話からの派生だとはいえ、そこで色気のかけらもない焼肉食べ放題である。

この年頃の女の子が喜びそうな、お洒落なレストランで高級ディナーという選択肢が一切眼中にないあたり、確実に乙女力はどこかに置き去りにしている。

「一生に一回の高校入試のお祝いで、しかも澪にとっては初めての進学祝いに普通の食べ放題っていうのは、さすがにちょっと寂しいわね」

「でも、食べ放題じゃないと、気になってあんまり楽しめない」

「普段は宏君や春菜ちゃんのおかげでほとんど食費かかってないし、こういう時ぐらいはお金のことを気にしなくてもいいのよ?」

自分が食べる量を自覚している澪の遠慮に、少し寂しそうにそういう澪の母。

確かに、普段から外食で満腹になるまで澪に食べさせるのはかなり厳しいが、年に一回や二回なら問題にならない程度には、澪の父も稼いでいる。

専業主婦をやっている澪の母も、内職的なもので意外と収入があるので、退院後は基本的に食費と下着代以外に金がかかる要素がほとんどない澪一人を育てる分には、かなり家計に余裕がある。

そこを信用されていないのは、親としては実に寂しいものがある。

「っていうか、澪ちゃん焼肉食べに行ったことないんだ」

「ん。うちの両親、そういう体に悪そうなものを食べに連れて行ってくれない」

「まあ、澪ちゃんはずっと入院してたから、そういうのはしょうがないんじゃない?」

「分かってる。けど、焼肉とかファストフードの類は、一生に一度ぐらいは経験しておきたい」

話が少しおかしな風向きになったところで、凛が今までの話で気になったことに話題を変える。

その内容に乗っかり、何処の箱入りお嬢かと突っ込みたくなる発言をする澪。

年度が替われば高校生だというのに、澪の世間知らずはあまり変わっていないようだ。

「経験しておきたいっていうけど、焼肉自体はやったことあるんだよね?」

「ん、さすがにそれはある。って言っても、師匠と一緒に春姉に巻き込まれて、礼宮のお屋敷で焼肉なのか網焼きステーキなのか、っていうような感じのお肉を自分たちで焼いて食べた事が何回か、とかそういうのばかりだけど」

「……うん、まあ、最近だとステーキ肉を出してる焼肉屋さんも結構あるみたいだから、まあおかしくはないかな。ってことは、バーベキューとかは?」

「そっちはいろんなバージョンで何回も。むしろ、ボク達の場合バーベキューのほうが慣れてる」

「それはそれで、なんか不思議な話なんだけど……」

澪の不思議な経験内容に、思わず首をかしげる凛。

偏ったイメージだと自覚しているが、凛の中でのバーベキューは、学校行事以外ではウェーイな感じのチャラい人たちがリア充っぽく野外ではしゃぎながらやるものになっている。

澪がボク達と言っている以上、宏や春菜、真琴、達也も含まれているのだろうが、全員そのバーベキューのイメージからはほど遠い。

なんというか、そもそも野外でわざわざ料理して食べようとする印象が一切ないのだ。

「凛、ボクが林間学校で火の管理とか全部やってたの、忘れてる」

「あ~、そう言えば。カレーと窯焼きピザだったから、あんまり野外って印象なかったけど」

「一応、つかみ取りしたアユも自分たちで焼いた」

「あれも全部澪ちゃんが勝手に下処理済ませちゃって、ちょっとざわついてたよね」

澪に指摘され、去年秋の林間学校のことを思い出す凛。

それまでに料理がプロ級であることは調理実習などでさんざん見せつけられていたが、薪に火をつけたりといった作業まで先生や施設の人より上手いとは思っておらず、しばらくはその話題でもちきりだった。

が、それからさほど時を置かずに学年全体が本格的に高校受験モードに入ったことで、そのあたりのことはすっかり忘れ去られていたのである。

なお、アユの塩焼きを下処理から炭火焼まで完璧にこなした点に関しては一時的に話題になったものの、最終的には澪だからで終わっている。

「で、澪ちゃん。焼肉だけってのも寂しいと思うんだけど、他に何かないの?」

「そうは言っても、一般的に思いつきそうな料理は、大体春姉か礼宮関連でごちそうになる。遊びに行くって言っても、テーマパークとかそんなに興味ない」

「うーん……」

実に贅沢なことを言う澪に、非常に困った表情を浮かべてしまう凛。

念のために補足しておくと、澪自身も、自分が言っていることが贅沢だという自覚はある。

さらに言うと、現状を当たり前だと考えてはいけないことも分かっている。

が、テーマパークの類にはどうしても興味がそそられず、食事関係は贅沢なものほど礼宮の影がちらついて下手に要望を出せない。

こういう時のおねだりの定番ともいえる服だのアクセサリーだのは、それこそ未来がアップを始めるので危険すぎる。

それらを踏まえると、全員が楽しめつつ水橋家だけで完結させようと思うと、焼肉食べ放題レベルが一番簡単で確実なのだ。

「まあ、週末までまだ時間があるし、せめてもうちょっと考えてあげてね」

「ん」

澪の言葉からいろいろ裏を読み、とりあえず軽く釘だけは刺しておく凛。

テーマパークとかに興味がないのはある程度しょうがないとはいえ、いい加減そろそろ惚れた男と食事と二次元以外にも趣味や興味を広げたほうがいい。

「凛、とりあえず晩御飯の準備には早いから、ちょっと勉強」

「そうだね。総君はまだしも、あたしだと潮見高校はちょっと不安があるし」

いろんな意味で気分が落ち着いたところで、勉強のほうに話を変える澪。

入試が終わった澪と違い、凛はこれからが本番である。

しかも、本人が言うように、凛の成績は絶対合格ラインに微妙に到達していない。

合格ラインすれすれというほど低いわけではなく、苦手なタイプの問題が多めに出れば怪しいかもという程度なのだが、不安になるには十分だ。

「凛はちょっと誘導されるとあっさり引っかかる傾向があるから、解の証明と文章題はしっかり問題読んで、ひと呼吸から二呼吸置いて解き始めること」

そういいながら、凛を自分の部屋に招き入れる澪。

こうして、澪の入試が終わった日は、普段とあまり変わらないテンションで終わるのであった。

「焼肉食べ放題か~……」

「言われてみれば、俺たちもあんまり縁がねえよなあ……」

同じ日の夕方、夕食前の藤堂家。

話を振られて、詩織と達也がうーん、という表情を浮かべる。

この日は詩織が雪菜から借り受けた機材を返しに来て、そのまま一緒に夕食を食べていくことになったのである。

合格祝いのことで澪の母親から相談を受けたこともあり、ちょうどよく達也たちが来たからと、本日夕食は自宅の予定だった宏も春菜に呼び出されて一緒に食べている。

いないのは友達付き合いでついさっきファミレスに行った深雪だけだ。

なお、菫は現在元気にハイハイしており、時折つかまり立ちをしようとしている様子が確認されている。

今の調子なら、恐らくそう遠くないうちに歩き始めるだろうと、関係者がみんなして注目している。

「真琴さんは、心当たりとかある?」

「微妙なところねえ……」

春菜に問われ、うーん、という感じで頭をひねる真琴。

子育ての関係で付き合いが悪くなりがちな達也に代わり、現在メンバーの中では最も社交的な真琴は、当然そういう店での飲み会やコンパの経験も豊富だ。

が、真琴が知っている食べ放題飲み放題の店は、大部分が全国チェーンの安かろう悪かろうという感じの店である。

いくら安かろう悪かろうと言っても、法改正で規制が強化されたこともあり、いったいどんな肉を使っているのかと言いたくなるような質の悪い店は駆逐されている。

が、舌が肥えている澪を連れて行って満足できるほどのものは絶対に出てこないことは確実なので、お祝いにとなると何とも言い難いところである。

規制強化の関係で一時ほど安くはなくなっており、澪の味覚なら食べる量を踏まえても、その値段を出すのならという不満がまず間違いなく出てくる。

「やっぱ、真琴さんでも難しいか」

「残念ながら、ね。昔みたいにぎょっとするほど安い店は駆逐されてるけど、客層が違うからかビュッフェレストランとかと違ってあんまり高いお店ってないのよ。だから国産牛なんてまず出てこないし、出てきたとしてもすごい技術で廃用乳牛を美味しく食べられるように食肉加工したものとかが普通で、タレとかでごまかさずに本当に美味しい国産牛は無理ね」

「そういうもんか。っちゅうか、よう知ってんなあ」

「農学部の子が教えてくれたのよ。ちなみに、使ってる技術自体は結構古いもので、もう実用化から半世紀ぐらい経ってるらしくて、今のところこれと言って問題は出てないから一応安全性は確立されてるっぽいわね」

妙に詳しい理由を聞かされ、なるほどと納得する宏。

安いものには安いなりの理由はあるが、真琴が説明した国産牛焼肉食べ放題のからくりは、まだ穏当なものではある。

使われている技術が真琴の言っている通りであれば、規制強化の原因ともなった一時の食品偽装が頻発したころの食材に比べれば問題ない範囲だと言える。

「カズとかはどうなんだ?」

「そのあたりにも聞いたけど、高くてお酒の飲み放題込みで六千円ぐらい、かつ本当に看板通りの肉かどうかはよく分かんないんだって」

「そらまあ、ちゃんとした質のええ国産牛の食べ放題なんざ、A5やの黒毛和牛やのを言いださんでも一人前が万札一枚で足りればええ方やろうけどな」

「まあねえ」

宏の指摘に、小さくうなずく真琴。

世の中には予約制で近江牛と松茸のすきやき食べ放題税込み約八千円、という店もあるにはあるが、その店は東京や潮見に比べると地価の安い地域にあり、牛肉の食べ放題は焼肉ではなくすき焼きで他のメニューも出てきて、ブランド肉の産地も近い。

恐らく、東京どころか潮見ぐらいの都会度合いでも、家賃その他の問題で絶対に成立しないだろう。

余談ながら、その店で最も高価なメニューは、近江牛と松茸のすき焼きだけでなく土瓶蒸しなどの松茸料理もすべて食べ放題で税抜き五万五千円という、金額も内容も豪快な代物である。

「実際のところ、焼肉の食べ放題に人数分万札出すんだったら、一流ホテルのビュッフェディナーに余裕で行けちまうからなあ」

「お祝いとかで食べ放題で奮発するんだったら、大体の人はそっちに行っちゃうよね~」

「需要がないわけじゃないんでしょうけど、焼肉はどこまで行っても焼肉だものねえ」

澪の望みにおいて、ある意味一番致命的であろう問題を口にする達也、詩織、真琴。

焼肉食べ放題というのは、手ごろな値段でがっつり肉を味わうもの、というイメージが強い。

どの程度の値段を手頃と考えるかは人それぞれ違うだろうが、大体の人は五千円を超えると身構えるのは間違いないので、基本的には高くても四千円前後になってくる。

そのあたりが相場の焼肉食べ放題に飲み放題抜きで八千円だの一万円だので参入したところで、なかなか客は入らないだろう。

その値段を出せるほど余裕がある層は、大部分が中年以降の年齢で子供が学校を卒業している年代になってくるので、普通の高級焼き肉店に行って食べたいものを食べられる分だけ頼んだ方が大抵安く上がる。

逆に、食べ放題がうれしい食べ盛りを抱えている家庭では、子供自身が肉であれば何でもいいと思っていることが多く、よほどひどい店でない限り安い食べ放題でも不満を持たない。

結局、需要がないわけではないだろうが、やっていくにはいろいろ難しそうだ、という結論になってくるのだ。

少なくとも、探しても店が見つからなかった潮見のあたりでは、店を維持できるほどの需要も売り上げもなさそうである。

「澪ちゃんの希望も分からなくもないけど、さすがにおじさんたちが可哀想だから、東京か観光地方面の高級ホテルのディナービュッフェで手を打ってもらうほうがよさそうだよね」

「せやなあ。っちゅうか、澪のご両親があんまり焼肉食べ放題系をよく思ってへんねんから、そういうのはうちらのほうでこっそり連れていくぐらいのほうがようないか?」

「保護者の方に内緒で、っていうのはあんまり褒められたことじゃないけど、澪ちゃんのお願いはかなえてあげたいしねえ……」

春菜が出した案を踏まえての宏の提案に、悩ましそうな表情を浮かべる春菜。

春菜自身はそれほど食べ放題系に偏見は持っていないが、安い肉料理や食べ放題系には、全般的にジャンクなイメージが根強くある事も理解している。

澪が普通に成長した子供であったなら、水橋家の人たちもここまで過敏にはなっていなかっただろうが、澪が普通の日常生活を送れるようになってまだ三年だ。

そのあたりに過敏になってしまうのも、仕方がないことであろう。

「そういえば、普通のお店に入れなかった宏はともかく、春菜は焼肉食べ放題って入ったことあるの?」

「いや、僕も食べ放題の焼肉屋ぐらいは行ったことあんで。小学校のころやけど」

「ああ、そりゃそうよね。変な言い方だけど、宏の家は社長って言っても春菜と違って普通の一般家庭だったわけだし」

「えっと、私の家も別にそういう部分でお高くとまってるわけじゃないよ?」

宏の突っ込みを受けて、言われてみればと納得する真琴。

そもそも、宏が飲食店やスーパーなど人口密度が高くなりがちな場所に入れなくなったのは、中三以降のことだ。

学校の雰囲気も本人の空気も悪かったであろう中学時代はともかく、小学校時代には外食も普通にしている。

「まあ、お嬢様だとかそういうのは偏見だとしても、春菜の家だと家族でそういうところに食べに行くイメージは全然ないのよね」

「あ~、うん。家族で行ったことはないかな」

真琴に追及され、そこは素直に認める春菜。

と言っても、別に雪菜もスバルも食べ放題系を忌避しているわけではなく、単に知名度の問題で自分の子供を連れて行きづらかっただけの話である。

特に春菜はずっと芸能界に顔出しNGを貫いてきたので、何処で誰が写真を撮っているか分かったものではない普通の飲食店だと、両親と入ること自体相当なハードルとなっていたのだ。

「で、話を戻すとして、春菜は焼肉食べ放題はどうなの?」

「一度だけ、自分でお肉とかサイドメニューとか取りに行くタイプの食べ放題に行ったことがあるよ。舞衣ちゃんと結衣ちゃんが潮見高校に合格したから、親戚の子供だけで少し大人の世界をって企画をカズ君がね」

「ああ。あいつ、そういうの好きそうだものねえ」

「うん。深雪の時はしゃぶしゃぶ食べ放題に行ってたよ。残念ながら、私は後から動かせない用事ができちゃって参加できなかったけど」

「食べ放題なら何でもいい、ってものでもないでしょうに」

いろいろな疑問を解消してくれた春菜の回答に、思わずあきれながら納得する真琴。

この種のオタとは思えない行動力にはいろいろ世話になっているものの、ここまで徹底してると賞賛以外の感情が混ざるのも仕方がないだろう。

「つまり、カズにそそのかされた、的な扱いで連れていけば手っ取り早いわけだな」

「そうだね。おばさんたちも暗黙の了解で、カズ君がやることには予算は出しても手は出さないことにしてるみたいだし」

そこまでの経緯を踏まえ、澪の要望をそういう形で叶えさせようと結論を出す達也と春菜。

後は、どうやって澪に勝手に結論を出したことを許してもらったうえで納得してもらうかだが……、

「で、本人居ないところで勝手に結論出しちゃったけど、それを澪にどうやって納得させるかって、結構悩ましいわよね」

「そんなん、おばさんにええ店知らんかって聞かれたけど微妙な店しか見つからんかったから、家族で行くんはホテルのお高いビュッフェで手ぇ打ったってくれへん? って正直に言うしかないんちゃう?」

「だよね~」

真琴がそのことを指摘した際に、サクッと宏と春菜が対応を口にする。

「正味な話、澪のご両親が腹くくって、焼肉やろうがしゃぶしゃぶやろうが行きたがっとる食べ放題に連れてったったら済む話なんやけどなあ……」

「俺たちも人のことは言えねえけど、おじさん達も過保護だからなあ……」

宏の身も蓋もない正論に、思わず苦笑する達也。

ファストフード店や牛丼チェーンの店にこそ入ったことはないものの、ファミリーレストランに行ったことがありコンビニで買い食いしている時点で、食材云々や健康云々は今更の話である。

それとこれとはレベルが違うと言われそうだが、澪の生活スタイルだとそもそも買い食いや外食の機会自体が少ない。

その上で普段食べているものを考えると、年に何回か焼肉食べ放題に行ったぐらいでは大した差はない。

「まあ、明日畑でその辺言うてみるわ」

「すまん、頼む」

「お願いね~」

「じゃあ、結論が出たところで、ご飯準備するね」

方針が決まったところで、ようやく夕食にありつける一同。

結局、澪の望みは、そのままの形で叶えることはできないのあった。

「やっぱり?」

翌朝。春菜の畑。

いつものように収穫作業をしていた澪が、昨日の話し合いの内容を宏から聞いてあっさりそう言う。

どうやら、澪は大してこだわりがなかったようだ。

「なんや、予想ついとったんかい」

「ん。そんな高い焼肉食べ放題は多分ないと思ってた」

宏に突っ込まれ、正直に思っていたことを告げる澪。

予想がついていた癖に言うだけ言ったところは、澪が成長したとみるべきかいい性格になったと言うべきか迷うところであろう。

「とりあえず、お父さんとお母さんにはホテルビュッフェをねだるとして、師匠たちに食べ放題に付き合ってもらっても?」

「そら構わんけど、焼肉食べ放題にもいろいろ種類があるみたいでなあ」

「そうなの?」

「ざっと調べた感じでも、白飯と汁もん以外はひたすら肉類と焼き野菜だけの店と、普通のビュッフェに焼肉足した感じの店があってな。肉の取り方も、食べたいもん自分で取りに行くパターンとオーダーして持ってきてもらうパターンとがあるらしいねんわ」

「むう、奥が深い……」

「小学校時代に僕が行ったことあるんは、肉類と焼き野菜が七ぐらいに残りがサイドメニューとデザートっちゅう感じの店やけど、調べたら九割がサイドメニューでビュッフェに申し訳程度に焼肉付けました、っちゅう感じの店もあるみたいでな」

「焼肉……、焼肉とは一体……」

宏の説明を聞いて、恐れおののいたようにそう漏らす澪。

ちょっとぐらい肉以外があるのは想定していたが、まさかメインが肉以外なのに焼肉食べ放題をうたっている店があるとは思わなかった。

「で、澪ちゃんはどんな感じのお店に行きたい?」

「……とりあえず、肉主体。でも、唐揚げとかお寿司とかもちょっとぐらいはあった方がうれしい」

「了解。自分で取りに行きたいよね?」

「ん」

澪の要望を聞き取り、手早くメモしていく春菜。

ざっとメモを終えたところで、もう一点確認をしておく。

「それで、澪ちゃん。うちのお母さんやおばさんたちに余計な手出しさせないために、カズ君に段取り任せようと思うんだけど、いいかな?」

「ん」

春菜に問われ、あっさりうなずく澪。

どうやら、行ってみたいというだけで、どういう形で行くかとか誰と行くかには本気で一切こだわりはないようだ。

澪の同意を得たところでとりあえず俊和にメモを送る春菜。

ついでに値段はあまり気にしない方針、アルコールの飲み放題は不要だがドリンクバーはあり、希望の日程などもう少しだけ条件を付けて店の選定を丸投げする。

「日程は任せてもらうことになるけど、一応来週以降にしようとは思ってるよ」

「ん、春姉に任せる」

せっかくお祝いしてくれるのだから、と、すべて春菜に、もっと正確に言うなら俊和に丸投げする澪。

投げるだけ投げた後、ふと思いついた要望を口にする。

「ねえ、師匠、春姉。それとは別に、やりたいことがある」

「なんや?」

「どんなこと?」

「そろそろ、師匠と春姉とエルとアルチェムとボクでクリスマスパーティしたい。おしゃれで大人っぽい感じのロマンチックなディナーで」

澪から出てきた、実に恋する乙女らしい要望。

それに、思わず顔を見合わせてしまう宏と春菜。

この流れで、よもや澪からそんな乙女チックな願いが出てくるとは思わなかったのである。

「確かに、今年やったらできるんはできるか」

「うん。みんな入試は終わってるし、達也さんたちも二人目はまだみたいだし」

「クリスマスイブは菫の誕生日やけど、今年は特に何もやらんみたいやし」

「一応お祝いはするけど、パーティとかは早くて来年かな、って言ってたよね」

去年までクリスマスという単語が存在していなかった理由を確認し、今年は特に何もなさそうだと判断する宏と春菜。

強いて言うなら礼宮家主催のクリスマスパーティに呼ばれてしまう可能性はあるが、そちらは前もってこの話を通しておけば無理に呼びつけたりはしないだろう。

「だけど、おしゃれで大人っぽいロマンチックなディナーかあ……」

「全然イメージわかんわ……」

「多分、盛り付けとかライトアップとかで演出するんだろうけど……」

「誕生日とかはともかく、そっち方面はセンス壊滅しとる自信あんで……」

「私も……」

どう聞いても自分たちでディナーを作るつもりとしか思えない言葉を漏らしながら、本気で悩み始める春菜と宏。

その流れに、澪が大慌てで待ったをかける。

「師匠、春姉。今年のクリスマスディナーは、どこかのお店でのつもりだった」

「「……ああ」」

澪に突っ込まれて、ようやく自分たちで作らなくてもいい、という事実に気が付く宏と春菜。

名前が出たメンバーがメンバーなので、ついいつものように神々の晩餐で豪勢なディナーのつもりになっていたのである。

「師匠、春姉。自分たちで料理作って自分たちでロマンチックにっていうのは、結婚してからで」

「……なんか、結婚することが既定路線になってる気がするんだけど……」

「年が明けたら師匠も春姉も成人式なんだから、そろそろそのぐらいのつもりで居てもいいと思う」

「……えっと、宏君はそれでいいの?」

「ヘタレたこと言わせてもろてええんやったら、もうちょっとだけ猶予欲しいねんけど……」

「だよね。私も、せめてちゃんとした告白をしてからに……」

澪の一足飛びの言葉に、二人してヘタレる春菜と宏。

肉体関係がないだけで、もはや実質的に万年新婚の熟年夫婦となっているというのに、今更ここでヘタレるのが二人の仲が進展しない最大の理由なのは間違いない。

もっとも、夫婦は似てくるという一般論を考えると、夫婦と大差ないからこそ、こういうところが似てきているのかもしれないが。

「で、そんなロマンチックなレストランとか、当然のごとく僕の知ってる店には存在せんねんけど、どない?」

「……ん~、私たちの立場とか状況とか考えたら、素直にコネに頼って礼宮系列のホテルを使うのが一番無難かな?」

「……つまり、そのための正装とか気合入れて作らなあかん、と」

「さすがに、神衣って訳にはいかないから、そうなるかな?」

「っちゅうことは、結局未来さんに燃料を投下することになるわけか……」

嫌な予感しかしない結論に顔をしかめつつ、どことなく諦めるような空気をまとう宏と春菜。

当事者の意識や関係性がどうであれ、何も知らない第三者から見れば誠実ではないお付き合いを堂々とやっているようにしか見えない。

全員が必要以上に存在感を発揮してしまう宏達の場合、余計なトラブルを引き寄せる確率を下げるためと考えると、その程度は必要経費として割り切らざるを得ない。

「……ふと思ったんやけど」

「どうしたの、師匠?」

「うちらが覚悟決めて、何日に結婚式しますで結婚、っちゅう訳にはいかんよなあ……」

「……そうだよね。親戚はある程度無視していいとしても、いくら家族が誰も反対しなくても、法的な手続きとか結婚生活をどこでするのかとか、いろいろ準備はあるよね」

「正直な話、法的な問題っちゅうんが一番厄介ちゃうか?」

「……ん。日本の法律だと、師匠と法的な根拠を持って夫婦になれるのは一人だけ」

「本当に法的な根拠が必要かどうか、っていうのもあるしね」

結婚に関しての話を唐突に蒸し返した宏の言葉に、先ほどまだもう少し覚悟を決める時間が欲しいと言ったばかりだというのに、なぜか明日にでも結婚するようなレベルで検討を始める一同。

もっとも、遺産分割をはじめとした問題を気にしなくてもいいのであれば、特に法律婚にこだわる必要がないのもの事実だ。

寿命のことも考えると、むしろ遺産は相続放棄して法的な縛りを可能な限り減らした方がいいのかもしれない。

「……まあ、そのあたりのことはそのうち考えようよ」

「せやな。澪が成人するころには法律変わっとるかもしれんし」

結局、面倒くさすぎて考えるのをやめる春菜と宏。

「澪ちゃん。そろそろ学校行く準備しなきゃいけない時間だから、今日はこれぐらいで終わろっか」

「ん」

話を続ける気力も考える気力も無くなったところで、本日の収穫作業を終える春菜と澪。

すでに宏は出荷のための選別をあらかた終えている。

「焼肉のほうは、日が決まったら連絡するね」

「ん、お願い」

春菜の言葉にそれだけ返事をして、持って帰る分だけ自転車のかごに入れて一足先に畑を出ていく澪。

「それで、宏君。オーダーバイキングじゃない店で、大丈夫?」

「大丈夫やと思うけど、あんまり女の人多いようやったら、最悪誰かに取りに行ってもらうわ」

「了解」

澪が居なくなったのを確認し、帰りの軽トラで確認する春菜。

澪に気を使わせないため、あえてあの場では聞かなかったのだ。

「まあ、そもそもの話、真琴さんと澪と小川が居るんやから、僕らが取りに行くんは飲みもんぐらいになりそうやけどな」

「そうかもね」

宏の言葉に苦笑しながら同意する春菜。

真琴は席を離れる回数を少なくするため、澪は己の食欲に忠実に、俊和は持って生まれたサービス精神から、こういう時はとにかく一度に種類も量も多数取ってくる傾向がある。

普通のビュッフェならまだしも、網を共有する焼肉の場合、種類的に絶対かぶりが出ることもあり、最終的には誰が持ってきたものかなど分からなくなる、というより気にしなくなるのがお約束だ。

網に占拠されて置く場所も足りなくなりがちな焼肉ビュッフェの場合、大人数で行くと席に根っこが生える人間が出るのもよくあることであろう。

「まあ、当日は久しぶりに安い肉楽しむわ」

「最近、物々交換でいいお肉ばっかり食べてるもんね」

「牛丼屋とかにもほとんど行かんしなあ」

宏の微妙な楽しみ方に、思わず吹き出しながらそんなことを言う春菜。

この後何やら神託をもらったらしいエアリスがアルチェムを伴い、可能であれば連れて行ってほしいと頼まれて人数を増やすことになる宏と春菜であった。

「このチープさが、妙に食欲をそそる……」

焼肉当日。

山盛りなどという表現では足りないほど限界いっぱいまで肉を盛りつけてきた澪が、目だけを爛々と輝かせながらそんな妙なことを言う。

「うちらやと、最近はなかなかこのレベルの肉は食わんからなあ……」

「生産者に伝手ができちゃったからね~」

俊和が用意してくれた烏龍茶を手に、肉を観察しながら最近の食糧事情をしみじみ語りあう宏と春菜。

その横では、あり得ない量の肉に、エアリスとアルチェムが目を丸くしている。

「サイドメニュー、適当にとってきたわよ」

そういって、全員から取りやすい場所に皿を置く真琴。

この時点で、米と汁物も含む全てが全員に行き渡る。

「いろいろ取りに行かせて、すまんな」

「いいっていいって。そのつもりでこっち側に陣取ったんだし」

達也にそう労われ、笑顔で気にしないように告げる真琴。

この種の取り放題の焼肉だと、基本的にメニューの決定権は取りに行く人間が握ることになる。

それを狙っての事なのだから、礼を言われるようなことではない。

なお、席順としては、トラブル回避のために宏、春菜、アルチェムの三人が壁側の席に座り、残りの一席はいろいろな配慮の結果、達也が座ることになっていた。

通路側はエアリス、澪、真琴、俊和の順になっていて、澪は両方の網から獲物をかっさらえることにも喜んでいる。

「じゃあ、焼きはじめよっか」

「ん。おなか減った」

春菜の宣言に澪がのっかり、いただきますとともにどんどん肉が焼かれていく。

「そういえば、エルちゃんとアルチェムさんは内臓系、大丈夫だったっけ?」

「私は特に好きでも嫌いでもない、というより、調理方法によります。ハルナ様が作っておられたもつ煮は美味しかったのですが、さすがにこれは無理、というものもありましたし」

「オルテム村では獣の内臓はごちそうでしたので、私は大好きです」

肉と野菜をバランスよく焼きながら、念のために確認をする春菜。

春菜の確認を受け、各々好みを答えるエアリスとアルチェム。

宏と澪があまり内臓を好まないため、二人が使っている網にはホルモンは焼かれていない。

「そういうのはこっちで焼いてるから、必要なら適当に持ってって」

「うん。っと、そろそろ薄切りのバラとか肩ロースが焼けてきてるかな」

火の通りを確認し、てきぱきとひっくり返していく春菜。

奉行をするつもりはないが、トングを預けられてしまったのでとりあえず代表して焼いているのである。

ひっくり返しながら配置を調整し、焼け加減に合わせて食材の場所を入れ替え、空いたスペースにさらに肉や野菜を置いて、と、普段の料理で手慣れた動きを見せて網を管理する春菜。

その対面では、せっかくだからと隣の網でいろんなものを焼きまくる澪の姿が。

そのせいか、早速異変が起こる。

「……おかしいわね」

「どうした?」

「目の錯覚かしら? 肉も野菜も減ってないように見えるんだけど……」

「最初の盛りが多すぎたんじゃねえのか?」

「そうなんだけど……。っていうか、ソーセージの本数、こんなにあった?」

最初に起こった異変は、いくら焼いても減らない肉と野菜という形で現れた。

その時点では目の錯覚ということで焼肉を続け、そろそろ最初に乗せた肉が焼きあがった時、次の異変が起こる。

「多分もう焼けてるから、好きなタイミングで取ってね」

「はい。……このお肉、とてもおいしいです! これをいくら食べても料金は同じ、なのですか!?」

「……えっ? ああ、うん。確かにすごく美味しいよ。この値段の食べ放題とは思えないほど……」

第二の異変は、チープな肉がチープではない種類のうまさに化けていたのだ。

もっとも、これに関しては

「そらまあ、神々の晩餐カンストしとる春菜さんが焼いとんねんから、味がよくなるんは当然やろ」

「「「「「「あっ……」」」」」」

宏の一言であっさり原因が判明するのだが。

「でも、春菜も澪も一切手を触れてないお肉でも、今まで焼肉屋では食べたこともないほど美味しくなってるんだけど……」

「だよなあ」

「東先輩は、この現象も予想がついてんの?」

「多分やけど、助手っちゅう扱いになって、スキルの影響下に置かれてもうてんのちゃう? 今までしゃぶしゃぶとかでもそういう兆候あったし」

宏に解説され、そういうものかと納得せざるを得ない真琴達。

実は、高校時代の学祭で作った豚汁やおでんにも、密かに神々の晩餐スキルの影響が出ていた。

当時はまだカンストまで至っていなかったことに加え、前日の仕込みは全校生徒の夕食のカレーがメインで当日は調理に携わっていなかったので、高校の学祭で出される料理にしてはすさまじく美味い、という程度で済んでいたのである。

今同じ事をすれば、恐らく最低でもどこぞの料理会のトップが巨大化するぐらいの美味に化けること間違いなしだ。

「ヤバいなあ、これ……」

「こんな罠があったとはねえ……」

「つまり、ボクは焼肉食べ放題はダメ……?」

あまりにも予想外の流れに、美味しい肉なのに、いや、美味しい肉だからこそ美味しく感じなくなってしまう達也、真琴、澪。

特に何も言わないが、春菜と俊和も不安そうである。

今後、学生の財布の友である焼肉や鍋の食べ放題が、非常に使いづらくなりそうなのだ。

顔が渋くなるのも当然であろう。

「むしろ、食べ放題に来る必要がない、っちゅうんが正しいかもしれんで」

「師匠、どういうこと?」

「多分歩留まり向上の影響やろうけどな、さっきから肉三枚か四枚焼いて一枚しか減ってへん感じやねん。これが普通の焼肉屋でもおんなじやったら、普通の焼肉屋でも大差ない値段で十分腹いっぱい食えるかも、っちゅうことやん」

「あっ」

宏の解説に、思わず目を輝かせる澪。

肉を取ったらちゃんとスペースが開くというのに、どうやって一向に減らないように歩留まりを増やしているのか。

その理屈は分からないのだが、春菜の畑での収穫と同じだと考えれば何となく不思議でも何でもないような気がしてくるのだから、慣れというのは恐ろしいものである。

「えっと、つまり、食べ放題のお肉は、こんなにおいしくはない、ということでしょうか?」

「そうだぜ、エル様。つってもピンとこないだろうから、試しにその唐揚げ食べてみな」

「はい。……結構美味しいですが、お肉ほどの感動はありません」

「提供されてる肉も含めて、少なくともこの店は基本そのレベルなんだよ」

「なるほど……」

俊和の説明に、何やら考え込むエアリス。

「えっと、トシカズさん。そのレベルって言いますけど、いくら食べても同じ料金なのにこのレベルの料理が出てくるのって、凄いことなのでは……?」

「うん、まあ、そうだな。ちなみに、ここは食べ放題としてはちょっと高めの店だけど、そもそも肉をいくら食べても同じ値段ってのが普通に考えておかしいわな」

「そうですね。店としてやっていける以上、利益を出すからくりはあるのでしょうけど、それでも日本が豊かな国だというのはよく分かります」

アルチェムの正直な感想を聞き、異世界の住人なら当然思うであろうことを肯定して見せる俊和。

その俊和の言葉に、王族としての視点で感嘆の声を漏らすエアリス。

たとえ利益を出すからくりがあろうと、それなり以上に広い店の客全員が好きなだけ食べても在庫が無くならないだけの肉。それを毎日確保しているのは、たとえ食べ放題でなくても恐ろしい話である。

ファーレーンでそんなことをできているのは、恐らく宏達だけであろう。

真に恐れるべきは、質を横に置けばこれだけの肉をそれほど安価に提供できる、その生産能力と調達能力なのだ。

「難しい話は置いといて、また今度普通の焼肉屋さんに行って確認しなきゃだね。今度は私と宏君がいない状態で調べたほうがよさそう」

「せやな。澪一人やったら大したことない、っちゅうんやったら、普通に食べ放題に来たらええんやし」

「その時の実験台は、やっぱりあたしと達也か俊和かしらね」

「その場合、深雪も巻き込んだ方がいいんじゃね?」

思わぬ確認事項ができたことで、新たな外食計画を立ち上げざるを得なくなる春菜たち。

もっとも、現段階で必要以上に細かいことを考えても仕方がないと、今日のところは素直に焼肉を楽しむことにする。

「ん、お肉これで終わり。そろそろデザート?」

「だなあ。っつうか、最初取ってきた量が少なめだった野菜を一回追加した程度で、結局最後まで肉は取りに行かなかったな……」

「そんな日もある」

そう言いながら、別腹を埋めるために立ち上がる澪。

さすがの澪も増量に次ぐ増量のおかげでデザート全種類制覇ができるかどうか、という腹具合ではあるが、全く食べないという選択肢は一切ない。

「エル、アルチェム。まだ食べられるなら、デザート取りに行こ」

「お供します」

「一回ぐらい、取りに行ってみたかったんですよね」

澪に誘われ、嬉しそうに席を立つエアリスとアルチェム。

アルチェムも含む全員の警戒とは裏腹に、特にエロトラブルの類が起こることもなくデザートの確保に成功し

「……ねえ、師匠、春姉」

「なんや?」

「どうしたの?」

「さすがにケーキ類には、神々の晩餐の影響は出てないよね?」

「そのはずやけどなあ」

「完成品には出ないはずだけど、どうしたの?」

「前に深雪姉に誘われていったスイーツバイキングのケーキより、数倍美味しい……」

妙な落ちをつけることになるのであった。