軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談第18話 元町人Aは建築家を選ぶ

次の建築家がやってきた。

「アントニオと申す者です。色々な建築を幅広く手掛けておりますが、特に複数の建築物を組み合わせ、美しい景観を作ることを得意としております」

「そう。アントニオ、お掛けになって」

「はっ」

アントニオは俺たちの前に座り、フィリッポと同様に資料を出してきた。

「アントニオと申します。わたくしめは町並みの建築についてはラムズレット一であると自負しております。こちらをご覧ください。たとえば――」

アントニオもフィリッポと同じく、自分の実績をこれでもかとアピールしてくる。

だが、俺たちが求めているのはそういうことじゃない。別に建物を建てるだけなら建築家を雇えばいいだけだ。

それから何人もの建築家と会ったが、誰も似たような感じに自分の実績をアピールするだけで、町づくりの観点から話をしてくれる人は誰一人としていなかった。

もしかして全部自分でやるしかないのか?

そんな諦めにも似た境地になったところで、最後の建築家がやってきた。背が低く、やや小汚い格好をしているが、机越しからでも分かるほどに手がごつごつしている。ということは、きっとこの男はこれまでの建築家と違って現場でしっかり働いているのだろう。

「ドミンゴだ。流れの建築家をやっている。王命で連れてこられたから詳しいことは知らねぇが、町をゼロから作るんだって?」

「なんと無礼な――」

「下がりなさい!」

「っ! 申し訳ありません」

ドミンゴを叱責しようとした執事がアナに叱られ、下がっていった。

「ドミンゴ、よく来てくれました。わたくしたちは――」

アナがすぐに要点をまとめ、新しい町の建設について説明した。

「……神殿を中心にした町づくりか。悪くはないが、その神殿は本当に必要なのか? 神殿だけ作って参拝者が来ねぇとなると目も当てられねぇぞ?」

「いえ、神殿はご神託に応えるためのものです。最初に神殿が必要で、そのための町づくりです」

「神託? なるほどな。だと考え方を変える必要がある、と。その神託で、神殿の建て替えは許されるのか?」

「一度建てた神殿を壊すことはできないはずです」

「ほぅ。じゃあ、神殿の周りを改築するのはいいのか?」

「それは禁止されていません」

「なら簡単だ。最初はご神託で必要とされる分だけの神殿を建てればいい。その後、町づくりと併せて神殿を内側に取り込んだ神殿を建てればいい。要するに二重構造にするってことだ。そうすりゃ内側の神殿は雨風から守られて長持ちするだろうし、外側は必要に応じて増改築できる」

なるほど。そんなやり方があるのか。

「最初は敬虔な信徒だけが集まるだろうから、最低限の神殿だけ建てて、ある程度町が大きくなったら税金と寄付で外側の神殿を建てる。そうすりゃ最初に無駄金を使わねぇで済むぞ」

「それは合理的に聞こえますね。では町はどのように?」

「そりゃあもちろん、少しずつ大きくしていくのがいい。いきなり大きな町を建てたって人がいなきゃなんの意味もない。それに、もっと大事なことがある」

「もっと大事なこと?」

「ああ。道だ。町を作るにしても神殿を作るにしても、人が往来できなきゃ話にならない。海や川沿いなら港も必要だ。そんで道は馬車が通れる、できればすれ違える幅があればベストだな。あと、予定地がどこか知らねぇが、雨が多かったりしてぬかるむ地域なら舗装も必要だ」

あれ? この人、今までの建築家の中で一番頼りになりそうなんじゃないか?

「さらに道の安全確保も必要だ。輸送中に魔物や盗賊の襲撃を受けるようだとそれだけで大損害だ」

たしかに。乗員や積荷を守るために冒険者を雇うことになるし、万全の対策をしたところで最悪の事態を必ずしも防げるとは限らない。

「他には何か気を付けるべきことはありますか?」

「ある。地図だ。道を通すにも町を作るにも、地形が分からないと作れねぇ。逆にそれさえあれば、後は人と金さえあればどうとでもなる」

「いいでしょう。アレン、この者に何か質問はありますか?」

「うん。ドミンゴ、町を作るにあたって衛生面も含めてある程度インフラを最初から整えておきたい」

「そりゃあ、下水道を完備させたいってことか?」

「ああ」

「ほぅ。英雄って聞いていたが、意外と庶民のことを考えてるんだなぁ」

「えっ?」

「ああ、いや、下水道なんて気にする奴はそうそういないから珍しいって話だ」

「……」

「ま、いいぜ。そういうのを整備するんだったら最初からやったほうがいいかだろうしな。やり方は地形を見て考える必要があるし、かなり金も掛かるぞ?」

「だが、無ければ疫病が蔓延してしまうだろう?」

生まれ育ったセントラーレンの王都は下水道がかなりしっかり整備されていた。ただ、それでも不衛生な場所は多くあったし、もし下水道がなかったらと思うとゾッとする。

「そうだな。そのとおりだ」

ドミンゴはそう言うと、どこか遠い目をした。

「よし! もし俺の助けが必要ならいつでも声を掛けてくれ。全力で町作りを手伝ってやる」

「ああ、ありがとう」

よく分からないが、どうやらドミンゴはやる気になったようだ。

「アレン、他に質問は?」

「大丈夫。もうないよ」

「分かりました。ドミンゴ、下がりなさい」

「ああ」

こうしてドミンゴは退室していった。

「アナ、どうだった?」

「ええ。わたくしはドミンゴが一番良いように思いました」

「やっぱり? 俺もそう思った。ちゃんと町づくりをするのに、どう課題を解決するかを考えてくれていたみたいだし」

「ええ。神殿を二重にするというアイデアは素晴らしいと思いました」

「だよね。他の建築家は自分のいいところをアピールしようとしているだけで、問題を解決しようっていう姿勢が見えなかったし」

「ええ。じゃあ」

「うん。そうだね。ドミンゴにお願いしようか」

「ええ」

こうして俺たちは流れの建築家ドミンゴに町づくりの協力を依頼することにしたのだった。