軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは祝賀会でおばさんのアイドルになる  3

次は侯爵家の方々への御挨拶よ。

当然、最初に並んでいるのはギルモア侯爵家なので、ここは礼儀作法よりも親しさ優先で両親と一緒に笑顔でご挨拶に行ったわ。

王弟殿下も大伯父様夫妻と気さくな雰囲気で挨拶している。

実は殿下が一番楽しみにしていたのが、農作物の研究をしている私にとっては伯父にあたるフレミング子爵を紹介してもらうことなんですって。

そんなにお米を食べたいのかしら。

この間の食事会でも白米をそれは美味しそうに食べていたのよ。

この世界でもう十六年も生きているのに、子供の頃から食べていた料理より前世の料理のほうが好みって生きづらいわよね。

私は積極的に味の再現を試みている割には、実はそれほど思い入れはなかったりする。

クロウリー家の料理人が作ってくれる料理が大好きで、懐かしい味と言われたら、キッシュや牛肉の赤ワイン煮込みなのよ。生クリームを入れたソースが絶妙なの。

「そうすれば傾斜地でも米を栽培できるのか」

「はい。初めはそんな苦労してまで栽培する必要があるのかと思いましたが、先日、キノコのクリームリゾットと焼きおにぎりを食べて、これは麦に負けない重要な穀物になるぞと確信しました。品種改良を急ぎますよ」

「キノコのクリーム……」

王弟殿下、羨ましそうな顔をするのはやめてください。

白米が食べたいって言ったのは殿下ですからね。

この国の人に受け入れやすい味を考えて、相手によってメニューを変えているだけです。

「それもうまそうだな。シェリル……」

「すみません。もうお米の在庫が切れました」

「……そうか」

この話はすぐにレイフ様にも伝わるわね。

そしてふたりで早く食べたいと催促してくる未来が見えるわ。

「まじか……俺たちの話を聞いて、母上がマガリッジまで食事に行くと言い出しているんだぞ。食べられないと聞いたら……」

私たちの会話を聞いていたイールがうんざりした顔をした。

いまだに彼とロゼッタ様って、よく言い合いをしているのよ。

喧嘩じゃなくて、じゃれ合っているというか、互いに自分の意見を遠慮なくぶつけているというか。

他の人だったらロゼッタ様に機嫌の悪い顔をされたら、怖くて言い返せないでしょ?

でもイールは、

「ほらそうやってすぐに不機嫌な顔をして相手に気を遣わせる。そういうところは直せよ」

って言えちゃうし、ロゼッタ様もはっとした顔できまり悪そうに反省したりするのよ。

「マガリッジ料理なら私の誕生日会で食べられるわよ」

「母上も招待しているのか?」

「当たり前でしょう。プリムローズ伯爵夫妻もご招待しているわ」

……なんでこんなところでこんな話をしているの。

しょっちゅうクロウリーの屋敷に来ているんだから、その時に話せばよかったでしょ。

「もういいか」

ほらー、殿下を待たせてた。

「はい。もちろんです」

「誕生日会の招待状、俺のところにも送ったんだよな?」

「え?」

隣にいたバークリー侯爵夫妻もギルモア関係者もうちの両親も、そしてもちろん私も殿下の顔を凝視してしまった。

子爵家が、しかも準男爵風情が、誕生日会に王族を招待するなんて恐れ多いことをするわけがないじゃないですか。

「ふむ。顔を出すのはやはりまずいか」

「そんなにマガリッジ風料理が気に入ったんですか?」

「気に入った。また食べたい」

わざと大きい声で言ったら、殿下も大きくはっきりと答えてくれたので、周囲の緊張が緩むのを感じてほっとしたわ。

なにこの人、こわい。

変な誤解をされた時に、苦労するのは私なんですからね。

「そんなにマガリッジ料理は美味しいんですか。誕生日会が楽しみですな」

「バークリー侯爵は招待しているのか?」

「もちろんです」

バークリー侯爵はすっかり王宮でお馴染みさんなんだけど、夫人と息子さん夫婦に会うのは初めてなのよ。驚いているじゃない。

「あの時は本当にごめんなさいね。ボロックの長男との縁談だと聞いていたのよ」

夫人や息子さん夫婦にまで誘拐未遂事件のことを改めて謝罪されて、むしろ申し訳ない気持ちよ。

「普通はそう考えますよ。あの……奥さんや子供たちは大丈夫なんでしょうか」

「ええ、実家に帰って元気に暮らしているわ。子供たちも以前より明るくなったそうよ」

「よかった」

「怖い思いをしたのに相手の家族のことまで心配するとは、父上の言っていた通りしっかりしたお嬢さんだね」

「本当に。それにこんな可愛らしいお嬢さんだったなんて」

こういうとき毎回反応に困ってしまうし、照れくさくなってしまう。

でも心配になるでしょう?

父親が寝室に忍んできたなんて恐怖経験をした女の子と、母と妹が出て行ってしまってしばらく放置されてしまった男の子よ。

早めにいい環境で暮らせるようになってよかった。

心の傷が早く癒えることを望むばかりよ。

次はノースモア侯爵家。コーニリアス様のおうちね。

ローズマリー様を通して私とコーニリアス様が何回かあっているのをご存知で、こちらも和やかにお話が進んだわ。

ノースモア侯爵家は王族派なので中立派のギルモアとは派閥は違うけど、ギルモアは王族ともいい関係を築いているおかげか、ワディンガム公爵家以外の王族派とはそれなりに友好的な関係なの。

問題はこの後に控えているカルデコット侯爵家とエフィンジャー侯爵家よ。

貴族派の彼らは、いずれは大公になる王弟殿下を派閥の旗頭にして、貴族議会の力を強くしたいと思っているんですって。

それで両家は、王弟殿下に気に入ってもらえたらと可愛らしいお嬢さんをそれぞれ連れてきている。

先にうちの両親が挨拶をするので、これから会話する方達の様子を観察できる時間があるのでさりげなく見ていたら、お嬢さんはふたりともうちの両親には全く興味がないようで、ちらちらと王弟殿下のほうに視線を向けていた。

わかるよ。こんな美形はそうはいないから目の保養だよね。

でもね、あなたたちは殿下しか見えていないかもしれないけど、周りの貴族はあなたたちを観察しているよ。

両親が横にずれたので、まずはカルデコット侯爵にご挨拶だ。

会議の席で見かけたことはあるけど、会話をするのはこれが初めて。

「あいかわらず可愛らしいお嬢さんだ。ふんわりと優しげなその見た目と雰囲気からは、とても天才だとは思えないな。娘可愛さにクロウリー子爵があなたの功績にしているのでは?」

え? こんなにストレートに否定的な意見を言ってくるの?

相手が子供だから、わかりやすくしてくれたのかしら。

「そうなんです。父は素晴らしいんです」

「……は?」

険しい表情になった王弟殿下を押しのける勢いで、目をぱちぱちさせながらカルデコット侯爵にずいっと近付いた。

カルデコット侯爵も怪訝な表情になったけど、夫人のほうがもっと驚いたようで仰け反ってしまっている。

「そろばんを作りたいと言った時、私はまだ八歳ですよ? 普通は子供の戯言だと思うじゃないですか。でもうちの両親は私の話をしっかり聞いてくれて、実際に商品を作る許可をくれたんです。鉛筆の時だって、領地で面白いものを見つけたからこれを売りたいと言い出したら、すぐに駆け付けてくれたんですよ。私の功績は全部、両親や家族、商会の人達のおかげなんです!」

「そ、そうなのか。なるほど……」

会議の席にいたんだから、私は口が達者だってわかっているはずなのに、何を驚いているのかな。

「落ち着け。話しながら前に出て行こうとするな」

殿下がずっと私の左腕を掴んでいるから、前に出て行けていないわよ。

殿下が左利きのおかげで、ふたりとも利き手がフリーになるのはいいわね。

だからって何をするわけでもないんだけど。

「それでこちらの御令嬢は?」

くるんとカルデコット侯爵のお嬢さんに向き直ったら、びくっとされてしまった。

おとなしそうな可愛らしいお嬢さんよ。

さすがファンタジー世界ね。彼女の髪はピンク色なの。

「おお、そうだった。紹介するよ。娘のアリスだ」

「本日はおめでとうございます」

「ありがとうございます」

アリス様はまるで私の顔を初めて見るみたいに見つめた後、ほうっとため息をついた。

「こんなに可愛らしい方が現実にいらっしゃるなんて」

うは、やだ、嬉しい。

身内に可愛いを連呼されるより、今の彼女の言葉のほうが心に響いたわ。

うっとりするような表情で言うんですもの。

「まあ、ありがとうございます。でもカルデコット侯爵令嬢も木漏れ日のように輝くドレスがお似合いで、とても美しいですわ」

「え? あ、ありがとうございます」

真っ赤になるところも可愛い。

どう? 可愛いわよねって殿下のほうを見たのに、彼は全く違う方向を見ていた。

なにこの男、十六歳って女の子に興味津々な年齢でしょ?

枯れるには早いわよ。

でもふと見たらアリス様も私の背後に目を向けて、さっと俯いているじゃない。

なに? 私の背後?

くるっと振り返ってびっくりよ。

なんで大伯父様やイール、それに財務大臣まですぐ近くにいるのよ。

しかも私が気付いた途端に、何もしていませんよと言いたげに顔をそらすのはなんなの?

まさか、アリス様を睨んでいたんじゃないでしょうね。

「まだたくさん挨拶する相手がいるんだ。次に行くぞ」

「はい」

次のエフィンジャー侯爵家はなあ。

侯爵夫妻自体は問題ないのよ。

だけど御令嬢がね、なかなか自分の番が来ないせいか苛々しながら私を睨んでいるの。

「しかし殿下もお忙しいのに、身内の不始末のせいで子供のエスコートとは大変ですなあ」

いや、エフィンジャー侯爵も大問題だった。

「おまえこそ、忙しいのにわざわざ子供に嫌味を言いに来るとは大変だな」

私たちと話をするときには、おじさん風味は残っていても気さくなお兄さんの殿下が、今はラスボスらしく威厳に満ちていて、隣でどんな顔をしていればいいのかわからない。

目つきや表情ひとつで、こんなに雰囲気って変わるもの?

「と、とんでもない。そんなつもりはありませんでした」

貴族派がいまいち勢いがないのは、中心になっているのがこういう人たちだからだな。

「ただ、あまりに異例ではないですか。彼女は子爵家の……」

「ゴホン」

背後で咳払いをしたのはギルモアの大伯父様だよね。

振り返らなくてもわかるわ。

「いや……あの……」

「シェリルの才能に気付いて王宮に連れてきたのは俺だ。それに彼女は俺の部下でもある。謁見式が中止になったことだけが理由ではない」

「あ、そ、そうでしたな」

「それだけ陛下と俺がシェリルに期待をしているということもわからないとは」

「……」

殿下を味方に引き込みたいのに怒らせてどうするのよ。

もうさっさとお嬢さんを紹介してもらって次に行こう……と思ったら、

「次女のビヴァリーと申します。覚えておいでですか? 学園で同じクラスにいたことがあるんですよ?」

突然お嬢さんが、私を素通りして王弟殿下の前に歩み出た。

「いや、憶えていない」

なんで私がハラハラしないといけないのかしら。

王弟殿下と同じクラスになったことがあるのなら、ビヴァリーさんは十六以上よね?

礼儀作法はどうしたの?

それに今、父親がやらかしたのを見ていたわよね。

更にそこでやらかすって、間違った方向に勇気がありすぎよ。

「そんな」

「エフィンジャー、なぜ礼儀作法のなっていない人間をこの場に連れてきた」

「申し訳ありません。ビヴァリー、きちんと挨拶せんか!」

「え? ……はじめまして、クロウリー子爵令嬢」

「ビヴァリー!」

これは無理だ。フォロー出来ない。

叙爵の祝賀会の席で、準男爵ではなく子爵令嬢と呼ぶなんて、最大級の嫌がらせよ。

ただたぶん彼女は、純粋に、王弟殿下に会えるということ以外はどうでもよかったんだろうな。

「おまえたちは帰れ。次女は礼儀作法を身につけるまで王宮に顔を出すな」

「お、お待ちください」

「エフィンジャー、まさかここまではっきりとギルモアを敵に回すと態度で示すとは思わなかったぞ」

王弟殿下が歩き出して空いたスペースに、すかさず大伯父様が割って入った。

「まさかとは思うが、祝賀会を台無しにするために来たのか?」

「そんなことをするわけがないだろう」

せっかくの祝賀会で揉め事はやめてほしいけど、大伯父様が怒る気持ちもわかるし、ありがたいとも思う。

だからここで私がビヴァリーのフォローにはいるのは違う。

違うんだけど、これって親が悪いよね?

どういう集いなのか説明をして、なんなら挨拶もこういう手順でこう言いなさいって決めておけばよかったのよ。

いやでも、殿下とクラスが同じだったことがあるってことは、十六歳より上の年齢なんだから、挨拶くらいは言われなくても出来ないと駄目か。

「ほうっておけ。十七にもなって公式の場でまともに挨拶も出来ない彼女が悪い」

なんてこった。殿下より年上だった。

「見た目がいいからと家族が甘やかした結果だ。普段は自分より身分の低い友人に囲まれているから、何をしたって誰も文句を言わないが、こういう席では彼女の我儘など許されないというのに、もう何度も問題を起こしている」

しかも初犯じゃなかった……。