軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは食事会を開催する  4

あれ? そういえばクリスタルがいないじゃない。

何をやっているのかしら。

「デザートの準備をしてきます」

「え? デザート? 忘れてた」

ついでにクリスタルの様子を見ようと立ち上がったら、ノアが自分の皿を真剣な顔で眺めていた。

一度よそったものを大皿に戻さないでよ?

「お土産に出来るようにたくさん作ったから大丈夫よ。家に帰ってからでも食べられるわ」

「さすがシェリル」

殿下もノアも料理を山盛りにして席に戻っていったから、甘い物より肉を選んだのね。

ふたりとも育ち盛りなんだから、どんどん食べてよ。

ただ、アレクシアがほとんどしゃべらないのが気になるのよね。

賑やかなタイプではないけど、あそこまでおとなしいのは珍しいわ。

ジョシュア様が苦手だったり?

「あれ? どうしたの?」

どうしたのじゃないわよ。

なんでクリスタルはキッチンで食べているのよ。

「このメンバーの時には職業や身分は気にしないんじゃないの?」

「そう言われても……ここが落ち着くんだよ。今日はほら、いつもいない人がいるし」

クリスタルもジョシュア様が苦手なの?

「コーニリアスって何を考えてるかわからなくてさ。でも、人の話はしっかり聞いていそうだろ?」

みんなのいるほうを気にしながら、クリスタルが小声で言った。

苦手なのはコーニリアス様のほうだったのね。

「たしかに年齢より大人びていているわね」

コーニリアス様はよく喋るほうではないわよね。

でも気遣ってくれるし、優しい人だと思うんだけどな。

なによりローズマリー様第一で動いているから、わかりやすいと言えばわかりやすいわ。

「ローズマリー様と自分の家のこと以外には、あまり興味がないのかもしれないわ」

「それが不気味なんじゃないか」

そうね。たぶんローズマリー様が婚約解消するなんて言い出したら、血を見る修羅場になりそうよね。

でも、ローズマリー様だってコーニリアス様が大好きだから大丈夫よ。

「デザートの準備を手伝ってもらってもいいかしら?」

「デザートも作ったの?」

こうして仲間が全員揃うと、人間関係が少しずつわかってくるわ。

ジョシュア様とコーニリアス様は転生者じゃないうえに、こういう集まりに参加する機会が少ないせいで、どうしても警戒されてしまうのね。

私は誓約もしているし、ローズマリー様を守る会のメンバーだから、ふたりに苦手意識は全くないんだけどな。

「デザートを置いておきますね」

クリスタルに手伝ってもらって運んだデザートは、小豆と栗のゼリーよ。

一番下にこしあん、その上に砕いた栗が乗って、その上は透明なゼリーの層になっているの。

「羊羹を作ったの?」

「いいえ、ゼリーなんです」

ローズマリー様が嬉しそうだったので申し訳ないんだけど、羊羹の作り方は知らないのよ。

家で和菓子を作ったことはなかったの。

「あ、いいのよいいのよ。見た目でそう言っただけなの。私だって羊羹なんて滅多に食べなかったわ」

「僕も和菓子よりスナック菓子のほうが好きだった」

そこは洋菓子と比べなさいよ、ノア。

「はい。アレクシアも食べるだろ」

「ありがと」

「今日は静かだな」

「お腹がすいちゃって」

「そっかー」

その割にはお皿の上の料理が減っていないようだけど、ノアはそこには触れずに笑顔で頷いて食事の続きに取り掛かった。

領地復興を手伝ってもらっているという立場もあって、遠慮しているのかもしれないわね。

それかやっぱりジョシュア様が苦手なのか……。

「祝賀会は明後日だよね?」

席に戻るとすぐにジョシュア様が話しかけてきた。

「はい。ジョシュア様も出席していただけるんですよね?」

「いちおう十五歳にはなっているから、出席させてもらうよ」

たしか二か月くらい前に十五歳になったのよね?

うちはジョシュア様の誕生日パーティーには招待されていなかったけど。

年末にデビュタントを派手にやるみたいだってイールが言ってたから、そちらは招待されるかもしれないわね。両親が。

「いいなあ。私も出席したかったなあ」

「成人していないと駄目だから仕方ないよ」

「そうだけど、シェリルの親友の私が出席できないっておかしいわよ」

そうね。お祝いしてくれるなら、ローズマリー様やコーニリアス様には出席してほしいところよ。

でも、ギルバートもセリーナも出席出来ないから仕方ないのよね。

「僕がエスコートしようか?」

「またそうやって、断られるとわかって言ってますよね」

「そりゃ、そうじゃなかったら怖くて冗談も言えないよ。僕がエスコートしたら面倒なことになるじゃないか」

「ですよね」

ワディンガム公爵がひっくり返るわよ。

それに大勢の御令嬢に恨まれることになるわ。

「誰がエスコートするんだい?」

「王弟殿下です」

「えっ!?」

ジョシュア様がそんなに驚くなんて、やっぱり普通じゃありえない状況なのよね?

「むしろそっちのほうが面倒な話になるのでは?」

ジョシュア様は私にではなくて、離れた席にいる王弟殿下に向かって言った。

「なにが?」

「シェリルのエスコートですよ」

「ああ、クロウリー男爵家の初めての謁見を、王族がめちゃくちゃにしたからな。その詫びと、彼らは巻き込まれただけだという話を、改めて正式に話しておこうと思ってな」

「大公家に連れて行こうとしてるくせに」

そこでローズマリー様が不満そうに口を挟んだ。

「露骨な囲い込みだわ」

「否定はしない」

行きませんよ?

私は国家公務員になりたいんですよ?

「だが王宮にいると、レイモンドに出くわす危険がずっとついて回るぞ」

「私の行動範囲には来ないと言っていたじゃないですか」

「今はな。だがあいつもいずれは学園を卒業して公務につく。滅多に自分の執務室以外にはいかないだろうが、会う危険は増えていく」

でも、学園を卒業するころには婚約者が決まっているんじゃない?

結婚だって王子は早めにするわよね?

その後だったら、会っても問題ないんじゃないかしら。

「その後のほうが大問題だろう」

「離婚してシェリルと結婚するって言い出すかも」

「いや、それはさすがにないのでは?」

殿下もローズマリー様も私の魅力を過大評価しすぎよ。

中身はオバサンなのよ?

「この中にも攻略対象はいるんですよね? レイフ様はそうでしたよね? でもまったく私とどうこうなんて思わないじゃないですか。王子だってもしかしたら」

「僕は転生者でゲームの内容を知っていますし、初対面で乳母と話しているような印象を受けちゃいましたからね」

乳母……。

「僕はオバサンとまでは思わないよ」

ノア、あなた、実は気配りの人?

「近くに住んでいるすっごい年上のお姉さんって感じがする」

「うん。それはただの近所のオバサンだね」

待て私。がっかりする必要はないのよ。

ここにいる誰ひとりとして私に魅力を感じていないのなら、第一王子だって私に興味を持たないわよ。

「僕は魅力を感じているよ? 話をしていてこんなに面白い女の子は他にはいない」

「大丈夫です。王宮にはたくさんいますよ」

ジョシュア様のこういう会話は、私がいっさい相手にしないのをわかっていての絡みでしょ?

実は冷たくされるのが好きだったりするの?

それに私は誤解しなくても、話を聞いてしまった人が誤解する可能性はあるから気を付けてくださいよ。

「このメンバーだから話せるんじゃないか」

「他ではやめてくださいね」

その後も和やかに食事が続き、大皿の料理も綺麗になくなった頃、ジョシュア様、ローズマリー様、コーニリアス様は一足先に帰っていった。

基本的に夜遅い時間にならなければ、子供たちがどこに出かけていても両親は気にしないんだそうで、今日も何も言わずに出てきたらしいわ。

「お母様は、このデザートをお茶会で使うってきっと言うわよ。品のいい甘さと見た目のよさで受けると思うわ。これもマガリッジ風料理でいいの?」

「駄目よ。そんなに全部マガリッジ風はおかしいわよ。国内でここだけ別の文化圏になってしまうわ」

アレクシアの意見はもっともよね。

料理のほうは二種類も他所にはないソースがあるから、それが地域で流行っていろんな料理で使われているんだって説明が出来るけど、デザートはさすがに無理があるわ。

「じゃあ、マガリッジ子爵がうちの領地には豆しかないって言っていたから、豆で何か作ろうって私が考えて、子供だから甘くしようって適当に作ったら美味しかったっていうのはどう?」

「またきみがやらかしたことにするのか」

今日のジョシュア様は何かと絡んでくるわね。

最近王宮でおじさんにばかり囲まれているせいで、ストレスが溜まっているんじゃない?

ジョシュア様たちが帰った後は、手分けして後片付けをしたんだけど、アレクシアもクリスタルもすっかりいつもの様子に戻っているのよ。

このふたりがこんなにジョシュア様やコーニリアス様に苦手意識を持っているとは思わなかったわ。

「喋ってくれれば本音も聞きだせるし、気が合うかどうかもわかるけど、黙っている相手はこっちが気を遣わなくちゃいけないだろ? めんどくさいんだよ」

情報屋がそんな弱気でいいの?

「僕の本職は執事だから」

「僕はわかるな。ジョシュアもコーニリアスも嫌われたらやばそうな雰囲気がびしびししていた。ローズマリーとあまり親しくなっても目をつけられそうだし、かといって避けたりしたら文句言われそうだし」

「そうだろう? シェリルは女の子でローズマリーと仲良しだから、彼らもいい顔ばかり見せているんだよ」

なるほど。性別の違いは大きいかもしれないわ。

クリスタルだけじゃなくてノアまでそんなふうに感じるんだから、たぶんそうなんでしょうね。

殿下は別扱いなんでしょうし、たぶんあのふたりならレイフ様が好きなのはアレクシアだってことも気付いているでしょうから、彼らがローズマリー様と親しくするのはかまわないんでしょう。

でもノアとクリスタルは牽制されるのね。

……でもノアは、まだ七歳よ?

三歳も年下よ?

見た目だってまだまだ子供で、物怖じしないで性格もよさそうなのに警戒してるの?

あ、それが駄目なのか。

年下の男の子だからって、ローズマリー様が弟みたいで可愛いって言ってたもんね。

重いなあ。

この世界って、恋愛の重さが前世とはだいぶ違うわね。

離婚なんてよっぽどのことがないと出来ないし、自由恋愛もほとんどないから、一度好きな相手が出来たら、この人しかいない! ってなるのかしら。

ジョシュア様は、ただのシスコンだけどね。