軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは食事会を開催する  2

ここで、口説いてなんかいないとか誤解だからとか慌てて言って、顔を赤らめるのが年相応の反応なんだろうけど、私にも殿下にもそんな可愛らしさはなかった。

「料理が重要なんじゃない。二か月で市場開催までこぎつけた手腕の話だ」

「変なことを言っていないで席に座ってください。もうすぐ残りのメンバーも帰ってくるはずです」

平然と言ったら、ローズマリー様とクリスタルはつまらなそうに眉を寄せて文句を言い出した。

「それは年配者の反応なのよ。ふたりとも自分の年齢らしく振舞うことをやめないでよ」

「このふたりには無理なんじゃない?」

「ええ? 諦めちゃうの?」

どうでもいいけど、後ろにいるジョシュア様とコーニリアス様が話についていけていないわよ。

「おふたりともようこそお越しくださいました。すぐに食事の用意が整いますので、お好きな席にお座りください」

ジョシュア様とは王宮で何度も顔を合わせているので、背が伸びてどんどん成長しているなあとは思っていたけど、コーニリアス様に会うのは記憶が戻った日のローズマリー様の誕生日以来だから、二年ぶりよ。

まだ十二歳とは思えないほど骨格がしっかりして、大人っぽくなっていてびっくりしたわ。

「二年ぶりだね。ローズマリーから話はたくさん聞いているから、ひさしぶりだって気がしないよ」

あれ? もしかしてもう変声期に入っている?

声が掠れて、前より低くなっている気がするわ。

この世界の人は前世の人より成長が早いのかもしれない。

……その割には、私はあんまり背が伸びていない気がするけども。

ヒロインって小動物系ではないわよね? 戦闘民族よね?

「シェリルは初対面の時に比べて貫禄が増したね」

「ジョシュア様? それは誉め言葉なんでしょうか」

「うん? ただの感想」

まだ十歳の女の子に貫禄が増したってどうなのよ。

「ともかくシェリルを大公領に連れて行くなんて駄目よ」

ローズマリー様は、まだ殿下に文句を言っているわ。

「まだ先の話だ」

「それでも駄目よ」

私はそろそろ料理に最後の仕上げをしてしまいましょう。

ほら、階段を上ってくる音がするわ。

「ただいま。あ、もうみんな来ているのね」

アレクシアを先頭に、レイフ様とノアが戸口に姿を現した。

「やあ、ふたりともいらっしゃい」

レイフ様が笑顔で挨拶すると、この屋敷が誰の持ち物かわからなくなるわね。

「彼は初対面だったね。ノア・フォースターといって……」

ノアを紹介する声を聞きながらキッチンに向かうと、クリスタルとアレクシアがあとをついてきた。

「手伝うことある?」

クリスタルは動かないと落ち着かないんですって。

職業病ね。

「その鍋の中身をこの蓋付きのお皿に盛ってもらえるかしら。アレクシアはポテトフライを空いたスペースに盛り付けて」

「減ってない?」

「殿下が味見したの」

「え? ずるい」

まだそんなにたくさん残っているじゃない。

「ポテトフライはこの世界にもあるでしょ」

「甘いわ、クリスタル。このポテトフライは前世の懐かしい味がするんですって」

「懐かしい? 塩味じゃなくて?」

「ふたりとも手伝ってくれるから、ひと口だけ食べていいわよ」

私が言うとすぐにふたりともフォークでポテトを刺して口に運んだ。

「こ、これは!」

「この味が再現できるなんてすごくない?」

「道理で殿下が連れて行こうとするはずだ」

ポテトで!?

それで評価されても嬉しくないわよ。

というか、美男美女のふたりがフォーク片手に、真剣な顔でポテトフライを睨んでいる図はおかしいからね。

「はい。お仕事を忘れないで。出来たお皿から運ぶわよ。運ぶのが終わったら、あなたたちも席に着いてね」

話している間に他のメンバーもキッチンに覗きに来たので、自分の分は自分で運んでもらうことにして、私は大皿を壁際のテーブルに並べた。

高位貴族ばかりが揃っている割には、積極的に動いてくれる人ばかりなのね。

おかげですぐに食事の準備が整ったわ。

「味見をしてもらうために、みなさんのお皿には全部の料理を少しずつ盛り付けていますので、もっと食べたい時には自分でここからよそってください。デザートもありますから」

壁際のテーブルに並べた大皿を示して説明し、空いている席に向かう。

大きなテーブルの窓側に殿下、レイフ様、ノア、アレクシアの順で並んで座っていて、壁側にはコーニリアス様、ローズマリー様、ジョシュア様が座っていたので、私の席はジョシュア様の隣ね。

ちょっと意外。一番奥の殿下の向かいの席にジョシュア様は座ると思っていたわ。

「軽く料理の説明をしますね。サラダには前の容器に入っているマヨソースと和風ドレッシングを使ってください。和風ドレッシングはバリーソースと……あ、醤油風のソースのことです」

バリークレア産のソースだからバリーソースね。

単純だけど、それ以外にいい名前が浮かばなかったのよ。

「それとオイルと摺りごまとビネガーを基本に味付けしたさっぱりとしたソースです。大きな皿に盛っているのが、茄子の生姜焼きとチキン南蛮のタルタルソースがけ、そして餃子ですね。あとこちらが枝豆と、蓋のついたお皿は豚の角煮です」

お魚料理がないのは残念だけど、マガリッジは海から遠いからマガリッジ風料理に魚は使いにくいのよ。

それにみんなの嗜好を聞いてみたところ、特に男性メンバーは魚より肉派ばかりだったの。

「チキン南蛮と豚の角煮は食堂の人気メニューになっているそうです。作業員の方たちは豚の角煮にもマヨソースをかけるそうですよ」

「わかっている人たちだ」

レイフ様は満足そうに言うけど、私はどうかと思うわ。

「飲み物は私が配りますから、何が御所望か教えてください」

座っていていいと言ったのに、クリスタルってばまた働いてしまうのね。

「シェリル、ポテトの説明を忘れてるじゃない。名前は思い出せないけど、みんなきっと懐かしいと思う味よ」

「そうなの?」

アレクシアに言われて、ローズマリー様はさっそくポテトを口に運び、その後無言でどんどんポテトを食べて行く。

ノアなんてポテトを食べただけで涙ぐんでるのよ。そんなに感激する味かしら。

「これはね、前世でよく行ったお店のポテトの味なの。チェーン店のハンバーガー屋さんなのよ」

「へえ。確かに美味しいね」

ローズマリー様の話を聞いても、コーニリアス様とジョシュア様にはなじみのない味で申し訳ない気もするわね。

「それでハンバーガー屋を王都に出す話にしたの?」

私が腰を下ろすのを待って、ジョシュア様が話しかけてきた。

「それもありますし、マガリッジは養鶏業が盛んなので、照り焼きチキンバーガーを売り込みたいというのもあります。あ、いけない。前のお皿にある玉子サンドも食べてくださいね。王室御用達の玉子を使った特別製ですよ」

ふと思い出して言ったら、すぐにみんなの手が伸びて玉子サンドを食べ始めた。

「これは美味しい」

マガリッジ産の玉子と鶏肉は、無事に王室御用達となって貴族たちに高値で取引されるようになった。

でもオヘア男爵の不正を放置していたティペット伯爵が、すぐに対応して調査をしてくれて、同時に我が家に来てアレクシアに謝罪してくれたのよ。

アレクシアとしては、たとえ騙されていたとしてもオヘア男爵が玉子を買い取っていたから養鶏業が守られていたので、あまり大事にしたくない気持ちもあったようなんだけど、王弟殿下もレイフ様もそれでは済まさなかった。

でも仕方ないのよ。産地を偽装して王宮と取引をしていたんだから。

オヘア男爵は爵位を剥奪され、財産はマガリッジへの賠償金として没収されて牢屋行き。

何もかも失ったオヘア男爵の家族は、一家離散してその後の消息は不明だそうよ。

ティペット伯爵も賠償金の支払いを命じられ、上級補佐官から第一級執務官に格下げになった。

大臣の側近に当たる上級補佐官から執務官になるって、かなりのことよ。

この間、財務省で会った時にげっそり痩せていて気の毒だったわ。

確かに不正を見抜けなかったのは彼の失態だけど、財務省の上級補佐官の忙しさを考慮してあげてほしいわよ。

だから私が話をするって言ったのに。

王弟殿下も大伯父様も容赦ないんだから。

「ティペット伯爵領の鶏肉や玉子を買うことになったんだって?」

「よくご存知ですね。領地民が食べる分はどうにか自領で賄えますけど、マヨソースやハンバーガー屋の商品を作るための材料が足りないので、かなり安価で仕入れさせてもらうことになったそうですよ。詳しくはアレクシアに聞いてください」

「きみのほうが詳しいのかと思った」

「まさか。私は今、学園入学のための準備で忙しいので、関わってはいないんですよ」

それは本当よ。

広場を作って市場を開催するまではお金も口も出したけど、今後はいっさい手を出さないってお父様や大伯父様と約束したの。

実際、やることが多すぎて無理だし、復興のために提案したことはクロウリー商会とレイフ様が作る商会が協力して実行してくれるんですって。

「ああ、いけない。もうひとつ忘れていたわ。壁際のテーブルの一番奥にご飯もありますから、食べたい方はどうぞ」

「ご飯!?」

「白米か?」

ノアと王弟殿下の反応が大きくて驚いたわ。

「そうです。おかずがたくさんあるので、いらないかもしれませんけど」

「いるだろう」

「僕も」

食べるものがたくさんあるのに、食べきれるのかしら。

「うーーん、どうしよう。ひと口だけ食べようかな」

「食べればいいじゃないか。本当はこういう料理が食べたいんだろう?」

ジョシュア様に言われてローズマリー様は目の前の料理を見ながらしばし考えたあと、首を横に振った。

「懐かしいし、こうして食べてみてやっぱり好きな味だけど、毎日食べたいかと言われるとそれは違うの」

「わかります。もう今の私たちにとっては、バルナモア王国の料理が故郷の味なんですよね」

それは私も思っていたの。

この世界に生まれてからずっと食べている味が、やっぱり一番味覚に合うのよ。

「そうそう。一週間に一度くらいテーブルに並んでいたら嬉しいかなって感じよ。それに和風ドレッシングや茄子の生姜焼きはお兄様の好きな味じゃない?」

「ああ、さっぱりしていて食べやすいね」

「コーニリアスもお兄様も好きな料理があるといいな。そうしたら次からは、ふたりも話に参加してもらえるわ」

そうね。この世界で和風ドレッシングを食べた初めてのメンバーのひとりですものね。

「僕はこの角煮が好きだよ」

コーニリアス様が美味しそうに食べてくれるので、ローズマリー様は嬉しそうだ。

もちろん私も嬉しいわ。

「これ、本格的な味よね」

「この国で手に入る香辛料は、いろいろ研究しましたから」

「……学園の準備をしていたんじゃなかったっけ?」

そこで冷静に突っ込みを入れなくてもいいじゃないですか。

だからジョシュア様と話す時は、無意識に身構えちゃうのよ。