軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本気になったオバサンは時間と金を惜しまない  5

「というか、インベントリの存在も忘れていたわ」

忘れる?

「インベントリって小さな自分専用の次元があって、そこになんでも収納しておけるんでしょう? 盗まれる心配なしで、重い物も持ち運びが楽という超便利なスキルだって私でも知っているわよ。忘れないでしょ」

そりゃあ魔道具のバッグはこの世界にもあるけど、ランクの高いコアを使うほど収納量が増えるから、魔道灯のようにコアの欠片でも動くものとは違ってお高くなっちゃうのよ。

「あのね、インベントリは転生者だけが持っているチートスキルではあるけど、見た目はこれ」

アレクシアが掌を上にして小声で、

「インベントリオープン」

と呟いたら、掌の上に小さな化粧ポーチ風の小物入れが現れた。

「うそ。思っていたのと違う」

「あなたが想像していたのは空中に穴があいて、その中にいくらでも収納できるインベントリでしょ? でも私は、中がどうなっているかよくわからない穴に手を突っ込みたくないわ」

「それは確かに」

「このインベントリだって一般的なエコバッグくらいの量が入れられるから、大事な書類や貴金属を入れておけるわよ」

なんというか……微妙。

チートスキルというには容量が小さいけど、便利なのは間違いない。

でも、だったら魔道具でいいんじゃない?

「私のインベントリは私しか使えないの。使わないときは消しておけるし、落とすこともなくすこともないのよ?」

「他の人がいる場所では使えないでしょ?」

心の中で使い終わったよって呟いたらポーチが消えるんですって。

つまりこのポーチは、人間の言葉を理解しているの? それともこれが呪文なの?

不気味だ……。

「重要なのはインベントリじゃないんだよ」

私が眉を寄せた微妙な表情でインベントリの消えた掌を見ていたのが面白かったのか、殿下が笑いを含んだ声で言った。

「それは大事な物を我々に渡すために用意したスキルなんだ。重要なのはインベントリに入っている物なんだよ」

「物……私にもあるんですよね?」

全員が頷いてくれたので、両手で水を救うような形を作り、心の中でインベントリオープンと唱えると、アレクシアの手の中にあったのとまったく同じポーチが出現した。

「軽い」

問題は中身なのよね。

ポーチをそっと開けて、

「うっ!」

中身を見てさっと閉めた。

何かよくわからないけど、すんごい光ってた。

目が眩みそうな虹色の光だったわ。

「これは何?」

「ランクAスリープラスのコアだ」

あっさりと殿下が言いやがった。

「すりーぷらす?」

コアについては魔法を教えてもらっている時に説明されている。

要はランクA最上級クラスの魔獣のコアだってことよ。

ランクAの上のランクSは、ドラゴンやフェンリルのような神獣クラスなので、そのコアは激レアの国宝物なの。

ランクAスリープラスの魔獣だってダンジョンの最奥にしかいないから、強い冒険者のパーティーじゃないと手に入れられないのでかなり高価なのよ。

特にバルナモアはもうダンジョンが一個も残っていないから、まず手に入らない。

ああ、ダンジョンではないのよね。

地下洞窟とか地下遺跡と呼ばれるような場所だそうよ。

五十年以上前にバルナモア王国は、全てのダンジョンの最奥にある巨大なクリスタルを破壊したので、地上にいる弱い魔獣以外は存在しなくなった。

でもアードモア王国とフリューア公国は、コアの供給に必要だからといくつかの巨大な地下遺跡を残したので、今でもたまに地上に強い魔物が出てきてしまうことがあるそうだ。

国民は安全になったけどコアを輸入しなくてはいけないバルナモアと、危険は伴うけどコアが安いために魔道具が豊富なアードモアとフリューア。

フェネリー伯爵家をはじめとする魔道士の多い家門はどこも人工コアを使っているけど、本物と比べて壊れやすく扱いづらい物しか今はまだ作れていない。

「だったらこれ、持っているのがばれたらまずいのでは?」

「まあな。だが、クロウリー男爵家はふたつ持っているだろう。商会と領地にランクAスリープラスのコアを使用した魔法陣があるじゃないか」

なんですって!?

あの魔法陣って、そんな大層な物だったの!?

そ、そういえば、目的地の座標を指定した転移用のスクロールがあれば、世界中どこでも転移出来る魔法陣って貴重だって聞いたわ。

しかも十畳くらいの大きさに、でかでかと描かれた魔法陣の上に山積みにした荷物が、一瞬で運べるのよ。

「王宮には五個くらいはあったかな。あとは上位貴族と大商人が持っているのを合わせて、わが国に三十はあるはずだ」

「男爵家が三十のうちの二個持っているってすごいよねえ」

クリスタルに言われて頭を抱えた。

うちって思っていた以上におかしかった。

「待って。つまり我が国に三十しかないはずの高級コアが、この場に五個あるってこと!?」

「そうなるな」

やばすぎる。

そんなことが世間に知られたら、王弟殿下の影響力が爆上がりするんじゃない?

だって殿下の側近と執事もコアを……あれ? もしかして。

「じゃあレイフ様はインベントリの中に魔道具のバックを入れていたの?」

「そうですよ。これ」

レイフ様が見せてくれたのは財布くらいの大きさの袋だ。

「もしかして」

「もらったコアで作ったんです」

「らんくAすりーぷらすで!?」

商人や王宮で使用するコアを使った魔道具の袋って、中にどれだけ収納できるの?

そんなにいれる物なんてないでしょ。

夜逃げする準備でもしてるの?

「クリスタルも作ったんですよね」

「執事ですから、必要な物がたくさんあるんですよ」

殿下とアレクシアは、まだ何に使うか決めていないのでコアのままで持っているんだそうだ。

ゲームで超強力なポーションが手に入った時に、もったいなくて使えないタイプとすぐに使うタイプがいるじゃない。

殿下とアレクシアは使わないままゲームが完結してしまうタイプね。

私は、クリックする場所を間違えて変なところで使っちゃうタイプよ。

それにしても転生者にコアを配るなんて太っ腹ね。

神様としては、それだけ優遇するしかない状況だったってことよ。

まあね、喧嘩のせいで他所の世界を一部とはいえ破壊して、そこの住人達を自分の世界に引き込んじゃったんだもんね。

「人工コアってフェネリーではあまり熱心に作っていないわよね?」

アレクシアが言うように、魔法や魔道具については有名なフェネリー伯爵家も人工コアに対しては他の家に後れを取っている。

「人工コアに熱心なのは貴族派の貴族たちだ。地下遺跡を破壊した先々代の国王の決断が間違っていたと非難している」

先々代の決断を今の国王や殿下に文句を言ってもどうしようもないのに。

でも文句を言うだけじゃなくて人工コアの研究をするのはさすがだわ。

これで魔獣のコアと同じように使える人工コアが出来たら、自分たちの功績として王族に圧力をかけるんだろうな。

「コア自体は魔道士ならちょっと練習すれば作れるそうなんだが、核になる素材の選別が難しいそうだ。どの家もあらゆる素材を集めて研究している」

「そういえば、ノアの実家のフォースター伯爵家は領地にいくつか鉱山があるんですよ」

「「「……」」」

その場の全員がレイフ様の言葉に動きを止め、彼を凝視した。

だって、こんな偶然ってある?

「これはもしかして……」

思わず殿下と顔を見合わせてしまった。

「私たちが生まれる前にダンジョンを破壊しているんでしょ? 救済処置がないはずないですもんね」

「うまく出来過ぎだからこそ怪しいな」

殿下とふたりで頷き合う。

ここまで過保護な神様だ。

いくら拗らせて反抗的だったからって、ノアだけ放置はしないだろう。

「レイフ、至急フォースター伯爵家に連絡し、領地内のあらゆる鉱石……いや、石でも砂でもいい。集めるだけ集めさせてくれ」

「はあ」

あれ? ノアのことを心配していた割には反応が薄いわね。

「コアの話題になってしまって、なんとなくこれを出しにくくなってしまいましたね」

カバンを引き寄せながら、レイフ様がため息をついた。

「あーー、忘れてた!」

「ひどい。せっかく持ってきたのに」

だいぶこの話題で時間を使っちゃったわ。

料理しなくちゃいけないんだった。

「なになに? 見せて?」

アレクシアが慰めるように言いながら立ち上がって身を乗り出した。

「殿下やクリスタルの反応が鈍かったから、あまり期待しないでほしいんです。これなんですが」

「……わからん」

カバンの中には小さな長方形の壺がぎっしり入っているんだけど、壺だから中身がわからないのよ。

「マヨネーズ」

「ああ……なるほど」

異世界物でマヨネーズってよく出てくるわよね。

「レイフ様、マヨネーズが作れるんですか」

「はあ。やっぱり反応が鈍いですね。家で作って料理人に味見してもらった時も、美味しいですねという感想が返ってきただけでしたし」

「そりゃあそうでしょ。レイフ様がやっているのは、一流のレストランに行ってマヨネーズをかけたサラダを出してくれって言っているようなものですよ? 料理人にしたらあまりいい気分じゃありませんよ」

「ああ……言われてみればそうですね」

レイフ様はすっかり気落ちして背もたれに身を預けて天井を見上げている。

「そんな落ち込まないで。貴族には無理でも庶民には売れるんじゃない?」

「アレクシア、慰めてくれてありがとう。でも日本でもサラダにはドレッシングをかけるのが主流だったから、反応が薄いのは覚悟していましたよ。私はマヨネーズがどんな料理にも合うと思うんですけどね」

「もしかしてマヨラー?」

「そうですとも。マヨネーズは白米にかけても美味しいんですよ。いや、合わない料理なんてひとつもないんです」

「……うわ」

急に立ち上がり力説するレイフ様にアレクシアは引き気味だ。

「マヨネーズは実はいろんな種類があるんですよ。メーカーによっても味が違うし、アメリカのマヨネーズと日本のマヨネーズも違うんです。私はあらゆるマヨネーズを集めて、料理によって使い分けていたんです」

オタクだ。

マヨネーズオタクだ。

「そして、最終的には自作して、自分の好みのマヨネーズを作り上げたんです! それがこれです!」

「キモイ」

「アレクシア、言わないであげて」

でも確かに商品化するのはいいかもしれない。

忙しい庶民の主婦としては、食事のたびにドレッシングを作るよりマヨネーズをかけるだけで済むのはありがたいはず。

「それにマヨネーズは汎用性が高いのよ。粉チーズとレモン汁を混ぜればシーザーサラダっぽくなるし、お酢と砂糖を混ぜてコールスローも作れる。玉子にちょっとマヨネーズを入れればふっくらと焼けて、油の代わりに炒め物にも使えるわ」

「へえ」

全員が感心した顔をしているってことは、きみたち、まったく料理したことないってこと?

「クリスタルは料理が出来るんじゃないの?」

「転生してから身につけたんだよ。前世ではまったくやったことがなかった」

嘆かわしい。

私がいなかったら、前世の料理は誰も作れないのね。