軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見た目は幼女、中身はオバサン  6

「私が本格的に登場するのは終盤になってからなの。戦闘していくうちに敵が誰かわかってきて、なぜ敵が反逆者になったのかもわかっていく。その反逆者たちに指示を出しているのが私とコーニリアスよ」

最近のゲームは敵も美男美女なのよね。

ストーリーもしっかりしていて、敵も理由があって行動している。

「どうして反逆者になるんですか?」

「自分の立場を理解していないで甘えたことばかり言っている王太子と、それをよしとする王族のやり方が許せなかったのね。それで正確に言うと、ワディンガム公爵家とノースモア侯爵家が中心になって、王太子を排除して王弟殿下を次期国王にするために挙兵し、国王陛下を殺害したの」

へ、ヘビーだ。

そりゃあ注意して結界を張るわ。

つまり真のラスボスは王弟殿下なのね。

これは間違っても誰かに聞かれてはいけない内容だ。

よく考えたらゲームの内容って、国が滅亡しそうになったり世界が滅びそうになったり、歴史の転換期が舞台になっていて、現実だったらとんでもなくハードな内容ばかりなのよ。

あくまでゲームの世界の話で、プレイヤーにとっては慣れたシチュエーションなので気にもしないけど、その世界で生きることになったら話は別よ。

「国王暗殺なんて計画しないわよ。大丈夫」

ローズマリー様は両手を横にひらひら揺らしながら付け足した。

「その、問題がありそうな王太子がヒロインの相手役なんですか?」

「攻略対象者のひとりね」

やだー。反逆の原因になるくらいに駄目な王太子が、なんで攻略対象なの?

現実で問題ある男に出会った場合、まず近寄ろうとしないから!

めんどくさくて相手にしないでしょ。

それに私は男爵令嬢なのよ? 不釣り合いでしょ!

ゲームの設定を現実に持ってくるのは無理があるわよ。

「女性は性格や見た目がかわいいだけの、いかにも男に好かれそうな女の子なんて好きじゃないですから、ローズマリー様のほうが人気があったんじゃないですか?」

「そんなことないわ。ゲームの中のシェリルさんは、聡明で前向きな才能溢れる女性よ。彼女のまっすぐな言葉にはいつも共感したの」

男爵令嬢が王太子や高位貴族の令息相手に、まっすぐな言葉をぶっぱなすなんて現実では許されません。

乙女ゲーってあれよね、人気声優が甘いセリフを囁いたりするのよね。

うえーーー、想像するだけで背中が痒くなる。

「ゲームの中のローズマリーは王太子の婚約者に選ばれなかったのが許せなくて、ヒロインを敵視したの。公爵家の令嬢として幼い頃から王家に嫁ぐ準備をしていたのに、まったく相手にされなくて切れちゃったのね。でも私はもう婚約しているから、王太子とは無関係。あなたの邪魔をする気はない。私ね、ゲームをしている時からコーニリアスが一番好きだったの」

照れくさそうに言うローズマリー様と、つい口元が綻んでしまっているコーニリアス様。

初々しいねえ。甘酸っぱいねえ。

だからさ、ジョシュア様はその仏頂面をやめなさいよ。シスコンなの?

「ノースモア侯爵家は由緒ある家柄で、我が国の台所と言われるくらい豊かな領地を持っているの。でも前侯爵様、つまりコーニリアスのお爺様が若くして事故で亡くなって、今の侯爵様は十九歳で跡を継ぐことになったのよ」

お婆様はおっとりした苦労知らずのお嬢様だったので、権力やお金を欲しがる親戚が若い侯爵に群がってきたそうだ。

それでゲームの中の国王は、王太子にまとわりつく邪魔な公爵令嬢とコーニリアスを婚約させて、ワディンガム公爵家が若き当主の後ろ盾になるように仕向けた。

それ自体はまあ、貴族だったらよくある話よ。

でもゲームの中のローズマリーの望みは王太子妃になることだった。

「ローズマリーはコーニリアスに冷たかったの。でも彼は、私のおかげで侯爵家が乗っ取られることもなく、むしろ領地経営がうまくいって発展できたって恩に感じてくれて、辛抱強く彼女の話を聞いて、彼女の意見に共感してくれたの」

「それはきっと彼がロージーを愛していたからだ。現実でもそうだよ。僕の記憶の中の両親は、いつも屋敷に押し掛けてくる親戚に嫌味を言われて詰め寄られていた。脅してくる人、信用させてだまし取ろうとする人、中には両親を殺そうとする人までいたんだ。でも二年前、僕と婚約するってロージーが乗り込んできたおかげで全てが変わったんだよ」

「まあ」

すごい行動力ね。

ゲームの内容を変えるために、六歳から……いいえ、乗り込む前に家族を説得する必要があるわ。

ということはもっと幼い頃から動いていたのよね。

「王家やワディンガム公爵家が味方になってくれて、不当に権利や金を奪おうとした人たちを処分してくれたおかげで、もう誰もうちに手を出そうなんて考えていないみたいだよ」

ん? 王家?

公爵家や侯爵家の話なら、王家も関わってくるのは当たり前なのかな?

「最初にロージーに転生者だと打ち明けられた時は驚いたよ。あの時、まだ四歳だったよね」

「はい。お兄様はゲームでは私を嫌っていたけど、それはローズマリーの性格に問題があったの。現実のお兄様はとてもやさしくて、私を可愛がってくれた。それに天才でしょう? こんな完璧な十二歳なんていないわ」

ローズマリー様に褒められてどや顔しているジョシュア様は、十二歳の男の子の顔になっている。

なんて微笑ましいんでしょう。可愛い兄妹だわ。

「ローズマリー様は前世ではおいくつで亡くなられたんですか?」

「十九歳よ」

「まあ、そんな若く?」

「そうなの。まだ大学生だったわ」

これは注意しなくちゃいけないわ。

ローズマリー様はゲームのように悪事をすることなく、そのままだったら反逆者になるはずだったコーニリアス様とその家族を助けた。

つまり、今の彼女はネットでよく見る悪役令嬢モノの主人公になっているのと同じだ。

家族とローズマリー様の関係も良好。

兄はシスコン。

婚約者はローズマリー様にべた惚れ。

彼らからしたら、私のほうが邪魔な悪役だ。

ローズマリー様の脅威になるなら私が排除されるのでは?

「ローズマリー様のことをいろいろお聞きしたので、今度は私の話を聞いていただけますか?」

「もちろんだ。そのためにきみを呼んだんだからね」

そうですよね。

彼らは私がヒロインとして生きていくために、ローズマリー様を陥れる危険があるって考えているのよね。

「私も聞きたいわ。あなたはおいくつで亡くなったの?」

「娘をふたり育てあげて、ふたりとも結婚して、長女は子供にも恵まれました。つまり、孫がいたんですよ」

「…………孫?」

さすがにこれは予想していなかったでしょう。三人ともぽかんと口を開けて絶句している。

「結婚して……その娘さんが結婚して……」

三人それぞれ、頭の中で私の年を計算しているな。

たぶんジョシュア様とコーニリアス様はかなり若い年齢を出すんじゃない?

この世界は十六から結婚出来て、二十を過ぎると行き遅れと言われる世界だ。

女性はだいたい十七から十九で結婚して子供を産む。

その子供がまた十七で結婚して子供を産んだ場合、私の年齢は三十四くらいってことになる。

ローズマリー様は私や娘が何歳で結婚したとして計算するんだろう。

二十代初めに結婚する人もいれば、三十過ぎて結婚する人もいるのが現代日本だ。

私は二十四歳で結婚して二年後に子供を産み、長女は二十六歳で結婚して翌年子供を産んだ。

でもそれは前世の話よ?

今の私は八歳なの。

だから、はっきりとした年齢は誰にも言わないで墓場まで持っていくわ。

「まさか、三十後半?」

「コーニリアス、前世の世界とこの世界は結婚する年齢がだいぶ違うの」

ローズマリー様、それに関してはあまり余計な知識を教えないでいただきたいわ。

「シェリル、きみはいったいいくつなんだ」

ジョシュア様ったら、直接聞いてくるなんて貴公子失格ですわよ。

「八歳です」

「いやそうじゃなくて」

「まあ、この世界では年長の女性に男性が年齢を聞くのは、失礼には当たらないんですの?」

白々しく目を見開いて、口に手を当てて驚いてみせた。

「あ……いやそんなことはない。失礼しました」

敬語になってますよ。

「もしかして、うちの両親よりも年上よね」

「……だね」

引くな引くな、子供たち。

こう考えるんだ。

人生経験豊かなオバサンが仲間にいるのは心強いぞと。

「でも問題はそこではありません」

「え? まだ問題があるのか?」

「ジョシュア様?」

「いや、続けてくれ」

ふふふ。

すっかり私のペースね。

「私の結婚した相手はひどい男で、家事育児を私に押し付けて自分は好き勝手していた上に、若い女と浮気して私を捨てたんです」

「「「………」」」

「もちろん元夫からも相手の女からも、しっかりと慰謝料をいただきましたよ。相手の女なんて慰謝料が払えなくて親に泣きついたので、不倫がばれて実家に強制送還されていました」

「な……なるほど」

どう返答すればいいのかわからなくて、三人とも姿勢正しく腰掛けて動かない。

「その時に思ったんです。もっと学んでおけばよかった。仕事をやめなければよかった。資格を持っておけばよかったって」

娘に苦労させたくないから、しっかり自立して稼がなくてはいけない。

でも何年も専業主婦をしていた私には、パートくらいしかやれる仕事がなかった。

ありがたいことに、家族経営の中小企業の奥さんと古い付き合いがあった関係で、うちで働きなさいよって誘ってもらえたの。

そこは従業員の数が少ないのに特許をいくつも持っていて、世界でもトップクラスの技術で商品を作っている会社で、ベテランのパートさんが作った商品が、欧米の一流企業の製品のなくてはならない部品だったりしたのよ。

私がそのパートさんだったら、この世界で技術革新して大金持ちになれたかもしれないけど、あいにく私は事務をしていた。

事務員がふたりしかいなかったから、物流に経理、給料計算まで全部覚えなくてはいけなくて、必死に勉強したっけ。

「おかげで私は数字に強いし、物流や経理についてはノウハウがあるんです。それを無意識に商会で発揮してしまったせいで天才幼女扱いになってしまったんですね」

「あ……ああ、大変だったんだな」

たぶんヒロインがこんな性格だとは想像もしていなかったんでしょうね。

ジョシュア様は背もたれにぴったりと背中をつけて、無理に口端をあげて笑顔を作ろうと頑張っていた。

内心は、このオバサンよく喋るなって思っているかもしれない。

「はい。癌だって聞いた時の衝撃は忘れられません。神様はどこまで私に意地悪なんだろうって思いました。でも、娘たちには素敵な旦那さんがいるので心配なかった。思い残すことはなかったんです。そしてこうして生まれ変わって、まだ八歳」

ジョシュア様のほうに体ごと向き直り、私は拳を握りしめた。

「今度はしっかりと学びたいんです。そして資格を持って仕事をしたい。出来れば昇進して出世したい」

「わ、わかったから落ち着いてくれ。働く女性は珍しくないし、女性でも功績を認められれば爵位が持てる」

「本当ですか!」

さすが現代日本の女性が遊ぶゲームの世界。

そのあたりはしっかりと押さえてくれているのね。

「私は恋愛には全く興味がありません。男の世話なんてもうしたくないわ。今回の人生は自分のために生きていきます」

「うん。八歳の女の子の口から、そういう台詞が出てくるのを聞くのはかなりきついものがあるね」

でもここははっきりさせないと。

私は、恋愛なんてどうでもいいの!