軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサン、おじさん(?)と出会う  3

髪の量が多いせいで、さらさらの金色の髪はふわりと空気を含んでやわらかそうだ。

たぶん身長を測る時に二センチくらいは得をする髪質よ。

瞳は澄んだ群青色ね。

群青色って地味な色のイメージがあるけど、瞳の色がこの色だと青の強さにはっとするわよ。

ハリウッドでデビューしたら、世界的に有名になれるくらいのイケメンだけど、彼はラブロマンスに出てくるスターじゃないの。アクション映画の主役に選ばれるタイプのイケメンなのよ。

けっして強面じゃないし、目が大きくて顎の線もいかつくはないから、ちょっと顔のパーツの位置を変えたら甘いマスクになりそうなんだけど、ラスボスに甘さはなかった。

ずっと観察されている間、イケメンに見られてドキドキするんじゃなくて、何かへまをしたら消されそうでドキドキだったわよ。

「レオン・アシュクラフト。国王の弟で継承権は放棄している。前世はIT系の会社を経営していた。死んだ時の年は三十五」

微妙な年ね。

十九歳だったローズマリー様から見たらおじさんだけど、私からしたらまだ若手よ。

「あの日、この世界の神が喧嘩をしたんだ」

え? 喧嘩?

「人間が殴り合いの喧嘩をするような感覚で、神同士が喧嘩をした場合、世界にまで影響が出る。この世界は本来の軌道をそれて、違う世界と追突したんだ」

待って。なんの話?

王弟殿下の前世の話じゃなかったの?

「追突したと言っても、ふたつの世界は微妙に次元の違う場所に存在していたので、惑星が衝突するような衝撃はなかった。だけどぶつかった場所では地震が起こり、地割れが起きて五人の人間が呑み込まれたんだ」

地震!?

「どこで起きたんですか? 被害は? 死者は出たんですか?」

娘たちは巻き込まれていないわよね。

日本は大丈夫なの?

「すまない。落ち着いてくれ。地震はなかったことになっている」

「へ?」

慌てて立ち上がろうとしてカップを落としそうになった私は、両手でカップを掴んだ状態で顔だけ殿下のほうに向けて、間の抜けた声を出した。

「喧嘩なんかのせいで、日本は大変なことになったんだ。日本の神々が黙っているわけがないだろう? それで慌ててこの世界の神々は、三分だけ時間を巻き戻した。地震は起こっていない。地割れもなかった。日本はいつも通り平和な日常のままで、再び時を刻み始めた。ただし、地割れに呑み込まれた人間は時を戻しても帰っては来なかった。もう異世界に飛ばされて日本からは存在が消えてしまっていたんだ」

「存在が消えた?」

「そうだ。もともといなかったことになっている」

「…………なんてこと」

家族だっていただろう。

友達だって恋人だっていたかもしれない。

それなのに存在を消されてしまったの?

「きみやレイフは紛れもない転生者だ。亡くなって魂だけの状態でいたところに衝撃を受けて、異世界に飛ばされてしまった。向こうで生きた記憶は消えていない。でも俺たちは生きたまま異世界に移動したんだよ」

他人の話をしているように、あるいは物語を話しているように、淡々と話すから余計に聞いていてつらい。

でもどんな言葉をかければいいかわからないし、初対面の相手がわかったふうに何かを言っていいわけがない。

「ああ、正確には五人の人間とゲームソフトが一個、異世界に転移したんだ。しかも五人ともそのゲームをしていた人たちだった」

「そんなに人気のゲームだったんですか?」

「どうなんだろう。偶然ってこわいね」

偶然で片づけられるか!

怖すぎるわ!

いけない。少し落ち着こう。

娘たちは大丈夫。

なにも気付かないまま、私の死を悲しみつつも旦那の協力を得て葬儀の準備を始めただろう。

姉妹は仲が良かったし、争いになるような遺産もない。

向こうとこちらで時間軸がどうなっているかはわからないけど、それぞれ自分の家庭を持っていた子たちだ。時折思い出して寂しい気持ちになることはあっても、自分の人生をしっかりと歩んでいるはずだ。

私は、自分のことを心配しなくては。

もう転生して、この世界に家族がいるんだから。

でもこれで最大の謎が解けた。

そういう話なら、私はヒロインキャラの容姿と家族設定を受け継いだだけの普通の女の子で、自分の好きなように生きてかまわないんだ。

もともと好きに生きるつもりだったけど、こういう小説で物語が強制的に本来の話の流れに戻そうとする力が働くって設定があるじゃない?

それが心配だったのよ。

落とすといけないからカップを置いて、糖分の補給のためにお菓子をいただこう。

ぽりぽりぽりとリスのように一気にお菓子を齧り、どんどん短くなるビスケットを口の中に押し込む。

カップの中身を飲み干して、口の中のビスケットを胃に流しこんで、ほっと息をついて顔をあげたら、じーっと私を見ていた王弟殿下と目が合った。

「小動物みたいだな」

あんたが驚かしたから動揺しているのに、何をのんびりと言っているの。

「殿下の話の進め方が悪かったんじゃないですか。日本に家族を残しているんですから、動揺させるような言い方をしないでくださいよ」

レイフ様は殿下に文句を言い、素早く立ち上がり私の傍に駆け寄ってきた。

「そのテーブルは倒れやすくて危ないですから、あちらの大きなテーブルを使ってください。椅子を移動しましょう」

「すみません」

「いいえ。悪いのは殿下です。私も家族が日本にいますので、最初にこの話を聞いた時には慌てました。姪っ子がちょうどあなたくらいの年なんですよ。なつかしい」

テーブルの上の書類を素早く片付けて、お皿やカップを置くスペースを作って、椅子も運んでくれてから私の前に戻り、すっと慣れた様子で手を差し出してきた。

「こちらへどうぞ」

こうやっていつも御令嬢をエスコートしているんだろうな。手慣れたスマートな動作だ。

それに比べると王弟殿下のほうは無駄なことをする気はいっさいないようで、私との距離が遠くなると話しにくいと思ったのか、ぐるりと机を回ってこちらに来て、行儀悪くテーブルにお尻と片足を乗せた。

「お茶を淹れましょう。殿下も飲みますか」

「ああ」

自分の分の椅子を移動させ三人分のお茶をカップに注ぐまでは、側近は大変だなあと思ったけど、この人、殿下に椅子をすすめないでしっかり自分が座ったわよ。

しかも足を組んでリラックスしている。

そしてふたりとも、さっきより距離が近いのよ。

もうカップを落としそうになったりしないから大丈夫よ。

「ここまでで質問はあるか?」

中身が三十代とはいえ、見た目は二十代前半なのにこの落ち着きはすごいわね。

「なぜ時間が巻き戻ったことをご存知なんですか?」

私の答えを聞いて殿下はにいっと笑った。

それはラスボスの笑みだからやめましょう。

「神様に聞いた」

「は?」

「さすがにかわいそうだと神様も思ったんだよ。きみたちは亡くなって魂になって転生した。転生先が異世界になってしまっただけだ」

「……だけ」

ぶふっとレイフ様が吹き出した。

「失礼。ひどいですよね。それだって大変ですよね」

「はい。でもゲームの中の世界じゃないと聞いて安心しました」

「それは大丈夫だ。むしろゲームの影響を受けているおかげで便利になっていることもたくさんある。それに影響を受けているのは三国同盟の国だけだ。三国同盟は知っているな?」

「はい」

ローズマリー様のおかげで、かなり詳しくなっています。

「他の国はまったくゲームの影響は受けていない。この世界にはゲームに描かれていない国があって、人々がちゃんと生活している。まだゲーム開始の時期には早いから、登場人物たちがどういう行動を起こすかはわからないが、俺もローズマリーも悪役になるつもりはないし、ゲームのキャラとは性格も考え方も違う」

「では、ゲームに描かれていない国に行こうとしたら、真っ白な何もない空間が広がっていたり、国の外に出たはずが、いつの間にかいつもの街中に佇んでいたなんてことはないんですね」

「ホラーかよ!」

王弟殿下、言葉遣いが乱れすぎですわ。

「そういうアニメがありましたね。ゲームに描かれていない場所は用意されていない世界ですか。いやーこわいな」

「やめろ。想像したくもない」

「街を歩く人たちがゲームのNPCのように同じセリフを繰り返すだけだったら、泣いちゃいますよ」

レイフさんは楽しそうね。

ちょっとそういう世界も見たいと思っていそう。

「話を戻すぞ」

「はい」

「きみたちはちゃんと魂の状態に一度なってから転生している、でも地割れに呑み込まれた五人は、死んでいるんだかいないんだかよくわからない状態で異世界に移動してしまった。じゃあそのままこちらで生活すればいいかというとそうでもない。前の世界の体では魔法が使えないんだ。あの世界の人間の体内には魔力がないからな」

特に貴族は魔法が使えることが前提のこの世界で、魔力なしは確かにつらいわね。

それに三国とも白人系の人たちが住む国だから、日本人が紛れ込んだらかなり目立つわ。

「それで、ゲームに出てきた好きなキャラを選んで転生させてくれるという話になったんだ。ただし三国に分かれて、他の転生者たちがとんでもない行動に出ないように。また、記憶を取り戻して戸惑っている時には助けられるようにしてくれと頼まれたんだ。代わりに自国にいる転生者が記憶を取り戻したときにはわかる能力をくれた」

「それってお詫びになっていないのでは……」

「…………」

「面倒な仕事を押し付けられただけですよね?」

「王族になれたんだぞ」

「他の人がラスボスになってゲーム通りに国王暗殺するのを止めたかったのではないですか?」

「まあ、それもあるが……。でも王族だぞ」

この人、騙されやすい人だったりしない?

神様相手に文句は言えなかったとしても、もう少し要求してもよかったって思うのはオバサンの図々しさじゃないわよね。

言ってみるくらいはタダよ。