作品タイトル不明
オバサンの親戚はS級冒険者だった 5
店でレイフ様とは別れて、私とお父様は直接屋敷に戻り、バイロンさん一家はホテルに立ち寄りチェックアウトを済ませてから屋敷に来ることになった。
アードモアの追手がどうこうというより、アシュベリー子爵が何かやらかしそうでしょ?
あそこはもう崖っぷち状態だから、簡単にS級冒険者の財産を諦めるとは思えないのよ。
私だったらバイロンさんと仲良くなって、家の立て直しに協力してもらおうと考えるのに、どうして利用しようという発想になるのかしら。
失策続きで没落させそうになっている自分より、バイロンさんのほうが有能だとは考えられないの?
考えられないんだろうなあ。
どこにでもいるよね、相手の優秀さがわかるからこそ認めたくなくて、くだらないプライドに縛られて自滅する人って。
おそらくアシュベリーはバイロンさんたちを探しているでしょ。
ユーインは目立っていたから、受験したということはもう知っているって思ったほうがいい。
つまりバイロン一家はまだ王都にいるということは、アシュベリーにバレているわけよ。
だったら警備のことを考えると、うちに来てもらったほうがいいじゃない?
バイロンさんとしても、どういう人間なのか一番気にしていたはずのお父様が、どうやら自分たち家族に害をなす人間ではないと考えてくれたようで、
「よろしくお願いします」
と頭を下げて、我が家に滞在することに同意してくれたから大歓迎するわよ。
私たちの帰りを今か今かと待っていたお婆様は、バイロンさん一家がアシュベリーにされたことを聞くと、今にも殴りに乗り込んでいきそうなくらいに怒っていた。
お爺様とお父様で落ち着かせるのに一苦労だったわ。
「国で大変な目に合って、親戚を頼ってきた相手にそんなことをするなんて。性根が腐りきっているわ。自分がアシュベリーの血を引いていることが情けない」
「何を言っているんだい。バイロンくんだってアシュベリーの血を引いているのに大活躍しているじゃないか。馬鹿なのは直系だけだよ」
それが大問題なんですよ、お爺様。
代々長男だけを特別扱いしてきたせいで、他の子供を使用人扱いするのが当たり前に育った人たちだから、自分は優秀で特別な人間なんだと本気で思い込んでいるんですって。
暴力を振るわれたり、食事が与えられないなんてことはないそうなの。
でもお婆様は両親とあまり会話をした記憶がないそうで、兄と両親が楽しそうに話しているのを黙って聞くのが食事の時間の暗黙の了解だったといっていたわ。
同じ境遇だった弟が家を出てアードモアで冒険者として活躍し、その子供がS級冒険者になったと聞いてそれは喜んでいたから、彼らが理不尽な扱いをされたのが許せないんでしょうね。
「母上、落ち着いてください。今後のことも考えると、ずっと我が家にいるというのはむずかしいんですけど、ここにいる間は自分の家のように居心地よくいられるようにしましょう」
「でもアシュベリーが追いかけてくるかもしれないわ。あなたたちまで巻き込んでしまって申し訳なくて」
「何を言っているんだ。家族だろう」
お父様とお爺様が慰めてはくれているけど、しゅんとしてしまっているお婆様が気の毒だ。
クロウリーに嫁いだのだから、アシュベリーはもう関係ないって突っぱねることが出来たとしても、うちの家族はそんなことはしないわよ。
困った時はお互い様。
うちだって大勢の人の助けのおかげで、こうして平和に過ごしていられるんだから。
「ただ、うちにずっと滞在してもらうのは難しいんです。アシュベリーはなんとでもなりますが、アードモアの追手が来た場合のことを考えると、王弟殿下のお力を借りるほうが安全です」
うちもワディンガム公爵派に嫌がらせされたり、商売敵が情報を得ようと近付いて来たり、金持ちだと有名だから強盗をしようと考えるやつらがいるからね、警備は厳重よ。
魔道士の警護も増やしているし、ギルモアの騎士まで目を光らせている状態なので、うちにいれば安全ではあるんだけど……。
「たぶんうちに滞在するだろうって、誰でも考えますもんね。領地もバリークレアも調査するでしょう」
「シェリルのいう通りだ。特にバリークレアはまだ警備が万全ではない。領民にまで被害が及ぶのは避けたいんだ」
それはバイロンさんたちも望まないでしょう。
「本人がもう冒険者はしたくないと言っているのに、そんなにまでして連れ戻そうとするの?」
「優秀な冒険者がいないとダンジョン奥の強い魔獣を倒せなくて、高品質のコアが手に入らなくなるんだ」
「軍隊を送ればいいじゃない。冒険者はどこにも縛られない職業だって聞いたわよ」
大きなソファーに座ったお婆様の手を握りながらお爺様が説明してくれて、セリーナがお爺様とは反対側からお婆様に寄り添っている。
家族ってこうありたいわ。
親戚だってそうよ。
親戚だからこそ、特にお金が絡むと難しいのはよーくわかるんだけどね……なんて入り口近くで考えていたら、お母様とギルバートが駆け寄ってきた。
「お義母様には申し訳ないけど、私はあなたのほうが心配よ。こわかったでしょ? 試験は大変ではなかった? 大丈夫?」
「試験は大丈夫だろうけど、襲撃を依頼した犯人がまだ捕まらないのが心配だよ。祝賀会の時の事件も、まだ真相は不明のままだろ? ちゃんと調査してくれてるんだよな」
バイロンさんたちがもうすぐ来るから、ついそっちを優先して話してしまっていたけど、お母様もギルバートもこんなにも私のことを心配してくれている。
それが嬉しくて、ここは感謝しつつ甘えちゃえってお母様に抱き着いた。
私が母親だった時はそのほうが嬉しかったもん。
親はいつまで経っても子供には頼りにされたいものなのよ。
「大丈夫よ。アレクシアが馬車の出入り口に仁王立ちしてくれて、外の様子が見えないうちに、ギルモアの騎士団のみなさんが退治してくれたの。だからぜんぜんこわくなかった」
「伯父様にお礼を言わなくちゃね。万が一のことがないように、子供たちの警護は大げさすぎるくらいにしておくべきだって言ってくださっているのよ」
本当にありがたいわ。
お金があるだけじゃ、信用できる優秀な人を雇うことはできない。
ギルモアの歴史と侯爵騎士団の名声があるからこそ、優秀な人たちがギルモア侯爵騎士団に入団したくて集まってくるんだもの。
「ギルバートもいつも心配してくれてありがと」
「姉上は見た目だけは可愛いんだから、学園に通うようになっても注意しなくちゃ駄目だよ。学生の中に警護が出来る魔道士を紛れ込ませておくべきだ」
いやいや、いくらなんでも子爵令嬢風情に、たとえ準男爵であってもそれは無理よ。
高位貴族の御令嬢でさえ、学園内には護衛や侍女は連れて行けないんだから。
代わりに自分の派閥の子供たちが常に周りにいて、ひとりにならないようにしてくれているけどね。
「で? ユーインだっけ? 僕たちにとっては、はとこだよね? 姉上に似てるって聞いたんだけど?」
「そうね。お父様も似ているって驚いていたわ」
「ふん。似てたって関係ないし」
あれ? ちょっと不機嫌?
「ギルバート、彼らはアシュベリーのせいで嫌な目に合っているんだから、歓迎してあげてよ?」
「そんなことはわかってるよ。アシュベリーってよく存続できているよね。借金がすごいことになっているはずなのに」
「だから危険だ」
「父上」
執事たちに指示をしていたお父様が戻ってきて、ギルバートの肩に手を置いた。
「金のためなら何をするかわからない。誰かに弱みをにぎられているかもしれないしね。だから、アシュベリーの関係者には尾行をつけている」
「アードモアにバイロンさんたちを売るかもしれませんね」
「いや、そこまでの行動力も賢さもない……が、向こうから声をかけられたら言いなりになるだろうね」
いつの間にか、調査員という名の情報収集要員が増えている。
商会が大きくなれば仕方のないことだけど、私のせいでもあるわよね。
おかしいなあ。今日の事件も含めて改めて落ち着いて考えてみると、いろいろと腑に落ちないのよね。
確かに私は目立つし誘拐すればお金になるでしょうけど、前回も今回も身代金目的の犯行のやり方ではないのよ。
私が馬鹿な子供だということになれば、天才少女だと持ち上げた人たちは恥をかくわよね。
それで?
ギルモアや王弟殿下だって評判は落ちるかもしれない。
でもそこまでの影響はないんじゃない?
あまりにも労力と見返りがあってない気がするのよ。
「旦那様、バイロン様とご家族の方がおみえになりました」
「もう!?」
はやっ!
さすが冒険者。
何かあった時のために荷物は最低限で、いつでも旅立てるようにしておいたんじゃない?
なんて予想をしながら玄関ホールに向かって、三人の荷物の少なさにびっくりした。
三人がそれぞれ鞄をふたつずつ?
それも各自が持てるくらいの大きさよ。
あ、そうか。転移魔法があるんだ。
引っ越し先が決まったら、取りに帰ればいいんだわ。
……いいのよね?
お婆様がバイロンさんに駆け寄って彼らの無事を喜んでいるというのに、そっちが気になってしまって集中できないわよ。
私はもう彼らに会っているから、紹介し合う家族の輪から少し離れて立っていたら、トリスタンがすっと近付いてきた。
「アシュベリーを尾行している者から連絡がありまして」
「動き出したの?」
とても優秀なトリスタンは魔道士たちのリーダーで、更に情報収集メンバーも束ねて、お父様の護衛もするという活躍ぶりよ。
ゴールディングのせいで、こんな優秀な人が王宮から追い出されていたなんてね。
「いいえ。王弟殿下の諜報員と遭遇しまして……俺たちが見張っていると言われたのですが、そうはいかないので一緒に行動することになってしまいまして」
王弟殿下、行動が早いわね。
「それでいいと思うわ。この際だから、優秀な殿下の諜報員の動きを見て学んでもらいましょう」
「お嬢様がそうおっしゃっていたとクロウリー子爵に報告する際にお伝えします」
「そうして」
「それと、お嬢様の護衛にちょうどいい人間がひとりいます。カロンという名の十八歳の女魔道士です。明日にでも面接をお願いします」
もう候補者がいるの?
王宮魔道士や軍関係以外で魔法を活用できる職業って、魔道具制作ぐらいしかないのかしら。
平民でも魔法の才能があった場合は魔法の修行ばかりをさせるから、他の仕事につくのが難しいのかもしれないわ。
「男爵家の令嬢ですので、ひととおりの礼儀作法は学んでおります」
「え? 貴族?」
「当然ですよ。お嬢様が王宮に通う時に中までついていく必要があるじゃないですか」
「そうだけど、貴族の御令嬢が私の護衛なんかにつく?」
「うちは給金がいいですし、福利厚生も手厚いんですよ」
そういう問題?
そりゃあギルモア侯爵騎士団の騎士と協力する場面も出てくるでしょうし、王弟殿下の関係者との接点も増えるでしょうけど……いや、それだけでも充分に魅力的な職場だったわ。