軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヘンリエッタ王女と光魔法   2

「もしかして使えないんですか?」

レイフ様の聞き方がおそるおそるという感じなので、使えないとまずかったのかと一瞬思ってしまったけど、そんなはずないわよね?

使えない人のほうが多いから、ヘンリエッタ王女は特別視されているんでしょう?

「シェリル、答えてくれ。これは重要なことなんだよ」

テーブルに手をついて立ち上がり、ジョシュア様もこわいくらいに真剣な様子だ。

「ヘンリエッタ王女の話題が出るまで、光魔法の存在さえ知りませんでした」

「……まじ?」

レイフ様、キャラ崩壊してますよ。

「ありえないだろう!」

ジョシュア様も、いつもの余裕の表情はどうしたんですか。

「全属性魔法が使えると魔道省に報告が出ていたと聞いたよ」

「問題大ありの魔法の講師が勝手に報告した件ですよね? でもあの人にも光魔法なんて教わりませんでしたよ」

「今は? 魔法を学んでいるんだろう?」

「はい。フェネリーの大伯父様に教わっています。でも光魔法は教わっていません」

「そんなわけが……」

「わざとかもしれない」

ジョシュア様がバンっとテーブルを叩いた。

「やったな、フェネリー。ただでさえ注目を浴びているシェリルに、光魔法まで覚えさせるのは危険と判断したか」

でも怒っているのではないようで、にやっとそれは悪そうな笑みを浮かべて、大急ぎで上着のポケットから小さな魔道具を取り出した。

『ジョシュアです。会議中失礼します。緊急です』

ジョシュア様は私やレイフ様が横にいるのにおかまいなしで、すぐに通信を始めた。

こんな小さな魔道具でも離れた場所とやり取りできるの?

前世よりこういうところは便利なんじゃない?

「対になっている魔道具としか会話できないんですよ」

「ああ、そうなんですね」

何も言っていないのに、いかにも興味津々で眺めていたからかレイフ様が説明してくれた。

『どうした』

この声は誰だろう?

陛下の上級補佐官の方かしら。

「みなさん、そちらにお揃いですか?」

『ああ、陛下も王弟殿下もいらっしゃる』

「ではお伝えします。シェリルは光魔法が使えません!」

え? そんな大きい声で宣言するようなこと?

もしかして、みんな私が光魔法を使えると思っていたの!?

「繰り返します。シェリルは光魔法が使えません!」

「繰り返す必要あるんですか?」

恥ずかしいからやめてください。

教わってないんだから使えませんよ。

ゲームもしていないから、どんな魔法が存在したのかも知らないんですから。

『なんだって!』

『それじゃ、なんで彼らは使えるものとして話をしているんだ?』

『本当に使えないのか? フェネリーに教わらなかったのか?』

最後の声はギルモアの大伯父様ね。

後ろで殿下と陛下が話している声も聞こえるわ。

「教わっていませんし、最近は受験のための勉強優先で魔法を習うのはお休みしています」

『そうか』

「使えないとまずかったですか?」

『いやむしろ都合がいい。これでしつこいアードモアも黙るだろう。コア貿易までちらつかせて、こちらに娘を押し付けようとしやがって』

国王陛下もいらっしゃる場でその言葉遣いはちょっとまずいのでは。

でも高位貴族が私の保護者になってくれていると知っても、まだヘンリエッタ王女と私を交換留学させたがるって、そんなに彼女はまずい状況なの?

あ、もしかすると、高位貴族がたくさん保護者に名乗りをあげている娘だから、きっと只者ではないだろう。

自国に引き入れれば役に立つだろうと思われたのかな。

ちゃんと調べてから交渉してくれないかしら。

私のしてきたことって目立つようでいて、けっこう地味なのよ?

味方が多いというのは、妬んだり引きずり下ろすほどにはすごい存在ではないってことよ?

『急ぎフェネリー伯爵を呼んできてくれ。彼に説明をしてもらおう』

『ジョシュア、フェネリー伯爵が来たらまた通信を頼む』

「了解です」

みなさんの声が明るかったから、これで問題は解決しそうなのよね?

光魔法が使えない私では、アードモアでは価値がないはずだもん。

そしてダンジョンのないバルナモアでは、光魔法が使えるからとアードモアほど特別扱いはされないから、ヘンリエッタ王女が来てくれると言っても、むしろ迷惑なだけのはず。

ヘンリエッタ王女と同じように、光魔法が使えるからって全員がコアハンターになりたがるわけではないし、ダンジョン近くで怪我人の治療をしようとは思わない。

特に光魔法を使える女の子を持つ親は、血の気の多い無法者のコアハンターに娘を近付けたくないでしょう?

それで我が国に避難してくる家族がけっこう多いんですって。

我が国には国営の治癒院があって、光魔法の使い手は国から給金をもらって働けるしね。

つまり公務員よ。

治癒院は王国軍が警備してくれるので、治癒師は安全で安定した職業なの。

ただしコアハンターのような一攫千金はありえない。

ハイリスクハイリターンを取るか、安全安定を取るかよ。

「光魔法? 教えていませんが何か?」

急に呼び出されて、近衛の魔道士と一緒に転移魔法で急いでやってきたフェネリーの大伯父様は、ごく当たり前のことのように答えたそうだ。

私たちはある程度のやり取りが済んでから、結果を教えてもらったので細かいところまではわからないんだけど、簡単に言うと、過保護な大伯父様のおかげで私は光魔法の存在を知らなかったという結論になって、それがアードモアに知らされた。

「簡単に治癒魔法とおっしゃいますが、大きな怪我をした時に魔法をかければそれでいいというわけではありません。傷口が汚れていれば浄化や洗浄をする必要があります。つまり、傷口をまじまじと観察しなくてはいけないんですよ。中には腹が裂けて内臓が見えるような大怪我や、骨が皮膚から飛び出しているような怪我人もいるんです。まだ十歳に満たなかったシェリルに、そんな傷口を見せるなんてありえませんよ」

国王陛下の前で、さも当然だという口調で淡々と説明をするフェネリーの大伯父様の話を聞きながら、公爵様たちもギルモアの大伯父様も笑ってしまいそうになって、口端がひくひくしていたそうよ。

確かにしっかりと治癒魔法をかけられるようにするには、そういう実技も必要になるでしょうけど、最初からそんなハードな怪我人が運ばれる治癒院に行かなければいい話なんじゃないの?

話題にすら出さないってすごくない?

「あの子は何に興味を持つかわかりませんので、教えて、じゃあやってみると治癒院に飛び込まれては困りますから」

と、説明していたと聞いて、そんな子供だと思われていたのかと驚いたけど……いえ、今までの行動を顧みたら、そう思われてもしかたないわね。

そして、その場にいた人たちにフェネリーの大伯父様はでかしたと褒められたそうだ。

「通信はもう大丈夫でしょうか」

『そうだな。もう……』

「レイフ様、光魔法を美容に活用するって、化粧品に魔法をかければいいんでしょうか」

「さあ、どうなんでしょうね。興味あるんですか?」

「いえそうじゃなくて、せっかくだからそのアイデア、うちの国でも使えばいいんじゃ……」

あれ? なんでジョシュア様まで私を見ているの?

通信を終わらせて帰るんじゃなかった?

『今の話はなんだ?』

うわ、この声は国王陛下なのでは?

『兄上、これ以上シェリルに何かさせるのはやめてください。今でも目立ちすぎです』

『国のためになるアイデアなら、進んで行うべきだろう。彼女の名前を出さなければいいじゃないか』

『それでは彼女の功績を奪うことになります』

向こうで何か揉めているけど、そんな功績になるような話じゃないですよ。

美容に魔法を使うのはヘンリエッタ王女のアイデアで、それを転用するだけですし、光魔法を使えない私は言うだけで何も出来ません。

「あの、そんなたいした話では」

『いいから話せ』

『兄上』

国王陛下に言われて、話さないという選択肢はないのよね。

「ですから、そのアイデアをいただいて我が国でも何か利用できないかと考えただけなんです」

『たとえば?』

「薬の効能を強化するというのは……」

『薬にはすでに使っている。薬草を育てる時から光魔法を使うそうだ』

「そうなんですね。では美容と薬の中間くらいはどうでしょう」

『中間?』

『ああ、男性用のハンドクリームがほしいと思っていた』

『ほお』

殿下は前世の記憶でハンドクリームや薬用リップを知っていますもんね。

ここまで話が出たのなら私はもう黙っていよう。

『今ある物は女性用ばかりで、甘い匂いがするんですよ。近衛も冬の訓練で指先がかさついたりひび割れたりするそうで、何かないかと話していました』

『おお、そういえばそうですな。騎士団で使用しているクリームは薬草の青臭い匂いがして、冬はその匂いが脱衣室に充満するんです』

うへえ。ギルモア侯爵騎士団って、漢方みたいな匂いのする部屋で着替えているの?

『指もそうですが、冬は背中や脹脛が乾燥して痒くなるので、確かにそういうクリームはいいですね』

この会話、私が聞いている意味はあるの?

もう切ってもらっていいんじゃないかしら。

『じゃあシェリルに』

『兄上、彼女はこれから受験です』

『そうだったな。じゃあおまえがやればいい。大公領で製品化したらどうだ?』

『おお、ぜひお願いします。完成したらまとめて買いますぞ』

『我が軍にも』

バルナモアは平和だな。

きっと大変なお仕事はたくさんあるんだろうけど、上層部がこういう会話をしていられるって、国が安定しているからよ。

「王弟殿下はシェリルがこれ以上注目されるのは嫌なんだね」

ようやく通話が終わったので、私も仕事に戻るために立ち上がったのに、ジョシュア様は座ったままで、テーブルに肘をついて探るように私の顔を見ていた。

「……そのようですね」

「でも国王陛下やギルモアは、もっとシェリルを活躍させたい。なぜかわかる?」

ギルモアはともかく、国王陛下は別に活躍させたいとは思っていないのでは?

「ジョシュア様、もう仕事に戻ったほうがいいのではないですか?」

会話を遮るように声をかけてきたレイフ様の様子が、少しだけ不自然に感じたのは気のせい?

「黙っていると、あとで恨まれるよ? 嫌われて困るのは、きみや殿下だと思うんだけど?」

「いったいなんの話でしょう。あなたが予想しているだけで、それが事実とは限らない話なんじゃないですか?」

「じゃあ話してもいいじゃないか。僕が考えすぎなのかもしれないから、聞き流してくれてかまわないよ」

「ジョシュア様」

いやなんの話よ。

ふたりはわかっているみたいだけど、私には全くわからないわ。

「わかりました。なんの話ですか?」

レイフ様は額を押さえて横を向いたけど、無理矢理私を部屋から追い出そうとはしなかった。

「ギルモアはきみが今後も自由に活躍できるようにしたいんだよ」

「はい」

「陛下もきみには活躍してほしいし、殿下にも幸せになってほしい」

「……はい」

「だからね、きみと殿下を結婚させたいんだ」

「はい?」

どうしてそうなる?

ぜんぜんまったくわからないわ。