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リボン至上の王国で、義母と義妹が私に勝てるはずありませんわ。

作者: ユミヨシ

本文

「本当に、クラウディアはどうしようもない娘で、わたくしの娘のレリーナに比べたら。本当にレリーナは可愛らしくて素晴らしい娘ですのよ」

また義母マリアがお茶会で、わたくしの悪口を言っているわ。

華やかなオリビア王妃主催のお茶会。

クラウディアは招待状を貰って出席していた。

高位貴族の夫人や令嬢達が出席するお茶会。

バセル公爵夫人マリアは、クラウディアの義母に当たる。

後妻に来た女だ。

市井で何をしてきた女か解らないマリア。

バセル公爵は妻を数年前に亡くし、市井で知り合ったマリアを気に入って去年、再婚したのだ。

マリアはレリーナという娘と共に、バセル公爵家に来た。

クラウディアは18歳。

レリーナはクラウディアより、二歳年下の16歳。

マリアもレリーナも市井育ちなので、礼儀も何も知らない女達だ。

高位貴族の夫人達の集まる茶会。

オリビア王妃はレリーナには招待状を送らなかった。

どうしようもない礼儀知らずの女だと知れ渡っていたからだ。

だがマリアはバセル公爵夫人。招待状を送らざるを得なかったのだろう。

レリーナが招待されなかったのが、マリアは不満だったらしい。

クラウディアを貶めて、自分の娘レリーナをお茶会で褒める褒める。

「ですから、レリーナをなんでお茶会に呼ばなかったのでしょう。わたくしはもう、悲しくて悲しくて」

オリビア王妃は、扇を手に、

「貴方は仕方なく招待しましたが、礼儀知らずの娘まで来て欲しくないわ。クラウディアはわたくしのお気に入りなの。なんせリボンが編めるのですもの」

マリアは顔をひきつらせた。

「リボンが編める?たかがリボン???」

他の公爵夫人がオホホホと笑って、

「貴方には解らないでしょうね。高尚なわたくし達の趣味が」

他の貴族の夫人達が、

「そうそう、わたくし達はリボンをいかに複雑に編むか、クラウディアはそれはもう上手に編むのです」

「本当に美しいリボンを編むのですから、うちの息子と婚約をさせたかったですわ」

「王太子殿下が既に名乗りを上げていたのですから。さすが王太子殿下。見る目がありますわね」

クラウディアはラード王太子の婚約者だ。

金髪碧眼のラード王太子は凄い美男だ。

クラウディアと同い年の18歳。

ラード王太子が優雅に庭に入って来ると、

「クラウディアが来ていると聞いて。ああ、クラウディア。なんて美しいリボンを髪に着けているんだ。当然、君の手作りだろう?」

クラウディアはにこやかに笑って、

「勿論、作りましたわ。桃色と水色と金糸を編み込み、中央に虹色の宝石をはめ込みましたの」

「おおおおっ。さすがクラウディア。なんて美しいリボンなんだ」

マリアは口をあんぐり開けた。

「何がリボンよ。リボンより、レリーナを気にしなさいよ。レリーナこそ、ラード王太子殿下に相応しいのですわ。だから今日、連れてきたかったのに」

ラード王太子は真顔になった。

「レリーナはリボンが編めるのか?」

「はい?」

「レリーナという女はリボンが編めるのかと聞いているんだ」

「リボンが何よ。リボンなんて編めなくても関係ないじゃないの」

するとオリビア王妃が、

「関係ないですって?リボンこそ至高。リボンが編めてこそ、一人前の女性と言えるのですわ」

他の夫人達も、

「そうですわ。本当にこれだから市井の女は」

「本当に、バセル公爵も見る目がありませんわね。リボンも編めない女を後妻に迎えるとは」

オリビア王妃がうっとりと、

「バセル前公爵夫人エレンシアはそれはもう、美しいリボンの編み手でしたわ。国王陛下もエレンシアの事が好きだったって。でも、バセル公爵と婚約を先に結ばれてしまったって悔しがっておりました。エレンシアならわたくし、負けても仕方が無い。彼女のリボンは至高。今も王宮の宝物庫に大切にしまわれておりましてよ。来年はリボン50周年。式典にエレンシアのリボンを飾ろうと思っておりますの」

クラウディアは嬉しく思った。

母のリボンをこれほどまでに評価してくれるオリビア王妃。

ラード王太子も、

「君の母上、バセル前公爵夫人はとても美しいリボンを編む人だった。リボンを見せて貰ったが、それはもう、あまりの高度の技術に私はうっとりしてしまったよ。娘の君の技術も素晴らしい。私は君と婚約を結べてとても嬉しく思っている」

「光栄でございます」

マリアが叫んだ。

「褒めるのはリボン?リボンだけなの?たかがリボン。リボンが編めるだけでクラウディアがいいの?エレンシアがいいの?私の方が余程、美しくて魅力的だわ」

ラード王太子は虫けらを見るように、マリアを見て、

「バセル公爵夫人。クラウディアやバセル前公爵夫人のリボンについて悪口は認められない。あまりにも口が過ぎるのなら、牢に入って貰うが構わぬか?」

「きいいいいっ。たかがリボンですわ。リボン」

オリビア王妃が、

「たかがリボンですって?リボン編みを極めてこそ、貴族の女性として最高、至高なのよ。それなのに。貴方を二度と茶会に呼びません。顔も見たくないわ。この女を追い払って」

ついにオリビア王妃が切れた。

バセル公爵夫人マリアは近衛兵に引きずられて、外へ追い出された。

オリビア王妃を怒らせたのだ。

二度と、社交界に顔を出すことは出来ないだろう。

クラウディアがバセル公爵家に戻れば、バセル公爵がクラウディアに、

「お前からオリビア王妃に、今回の件について、マリアを許してやってくれと口添えしてくれないか?」

と頼まれた。

クラウディアはきっぱりと、

「お父様。リボンを貶されたのです。リボンを。王妃様は激怒しておいででしたわ」

バセル公爵はハァとため息をついて、

「確かにリボン編みに貴族の夫人達は燃えているからな。これは困った」

マリアとレリーナが、

「クラウディア、なんとかしなさいよ」

「そうよそうよ。お義姉様。なんとかしてよ。お母様が可哀そう」

クラウディアは二人に向かって、

「リボン編みを貶めるからこうなるのですわ。悔しかったらリボン編みを極めなさい。でなければオリビア王妃様はお許しにならないでしょう」

レリーナが、

「お義姉様より、私の方が可愛いの。だからラード様と結婚するのは私の方がふさわしいわ」

「貴方、リボン編みも出来ないくせして。ラード王太子殿下にふさわしいですって???」

クラウディアはマリアとレリーナに向かって、

「わたくしがどれ程、苦労してリボン編みを極めたか。お母様が残した作品は王家が持っていってしまったわ。だから、わたくしは独学でリボン編みを極めたの。リボン編みが出来ないとこの王国の貴族の中では一人前の女性と認められないのよ。市井で暮らしていたお義母様やレリーナには解らないでしょうね。リボン一つ編めない癖に、文句を言うんじゃないの。リボン編みこそ至高。リボン編みが出来なければ貴方達なんてただの屑よ」

言ってやった。

口先ばかり達者なマリア。

豪華なドレスを買いあさり、クラウディアを貶める。

どうしようもない義母。

生意気なレリーナ。

ちっとも勉強もしなくて、ただただ綺麗なドレスを着て、オシャレしか興味が無くて。

どうしようもない義妹。

レリーナは泣きながら、マリアに

「お義姉様が虐めるっ。リボンなんて編めるはずないじゃないっ」

マリアも怒りまくって、

「そうよ。リボンなんて編めないわ。本当に性格が悪いんだから」

父はおろおろして、

「クラウディア、言い過ぎだ。確かにリボンは編めないとマズイが」

「でしたらお父様は黙っていて下さいませ」

本当に頭の痛い義母と義妹だと、クラウディアは思った。

翌日、王宮のテラスでラード王太子とお茶をした。

ラード王太子はクラウディアに向かって、

「今日は、紫のリボンに透き通った宝石が中央についていて、とても綺麗だ。君は本当に綺麗なリボンを作るね。さすが私の婚約者だ」

と褒めてくれた。

とても嬉しい。

でも、貴方はわたくしの事を本当に見てくれているの?

いつも褒めるのはリボンの事ばかり。

たしかにこの王国の社交界ではリボンは大事よ。

手作りの凄いリボンを髪につけるだけで、皆、尊敬の眼差しで見てくれるわ。

でも‥‥‥貴方はわたくし自身を見ているの?

わたくしがもし、手を怪我してリボンを編めなくなったら?

ああ、そうしたら王太子妃として、未来の王妃になれないわね。

リボンこそが至高なのですもの。

ラード王太子が、眉を寄せて、

「心配ごとか?浮かない顔をしている」

「何でもありませんわ」

「それならいいんだが」

その日は不安を胸に馬車に乗って帰宅した。

二日後とんでもないことが起こった。

隣国がラード王太子にファリア王女との縁談を持って来たのだ。

クラウディアという婚約者がいるのにも関わらず。

ファリア王女は自ら、供の者達と王国に来て、

「これはわたくしが作ったリボンですわ。どうか見て下さいな」

と、これはもう、凝った素晴らしいリボンを国王陛下やオリビア王妃、ラード王太子に見せたのだ。

編みこみも細かく、色々な色が使われていて、最高に美しいリボン。

国王陛下がうううむと唸り、

「こんな凄い技術のリボンは見たことがない」

オリビア王妃も、

「ええ、素晴らしいわ」

ラード王太子もうっとりして、

「なんて細かい。そして美しい。思わず見とれてしまったぞ」

ファリア王女は、

「わたくしが作ったのです。ラード様に嫁ぐのに、リボンが作れないといけないとお父様が。ですから、このように頑張って作ってみました」

周りでこのやりとりを見ていた貴族達も口々に、

「凄いリボンだ」

「なんて素晴らしい」

「隣国との縁は大切だ」

「ファリア王女をラード王太子殿下と結婚させればよいのではないのか?」

クラウディアはそのやりとりを父から聞いた。

その日は、返事は保留という事にして、ファリア王女の一行を客間に案内して丁重にもてなしたとの事。

ファリア王女のリボンが自分のより素晴らしい‥‥‥

凄い技術のリボンを作って来て見せた。

わたくしは、婚約を解消されるかもしれない。

いつも、ラード様はわたくしのリボンを褒めてくれた。

わたくしのリボンの技術だけしか見てくれなかった。

わたくしを見ていたの?

勿論、リボン以外の話だってしてきたわ。

この王国の未来の事。

ラード様がいかに王国の事を思って、色々とやりたいという夢だって聞いた。

ねぇ。貴方はファリア王女様と結婚するの?

確かに隣国との関係を良くするのは大切だわ。

わたくしは‥‥わたくしは‥‥

涙が零れる。

そこへ、レリーナが部屋に入って来て、

「お義姉様。見て見て。悔しかったからリボン編んでみたの」

酷い出来だった。編み目が飛んでいて、形も変なリボンもどき。

それでも、誇らしげにリボンを見せて来たレリーナに対して、思わず笑ってしまった。

「まぁ、貴方、リボン編みに挑戦しているの?」

「ええ、お母様には馬鹿にされたけれども、私、少しでもリボンを編めるようになりたいの。それから、お勉強も始めたわ」

「まぁ、お勉強も?偉いわね」

「お義姉様。お義姉様は色々と凄いって、王立学園のお友達に言われたわ。私、王立学園に通わせて貰っていても、勉強なんてちっともしなかった。でもね。少しは勉強したいと思ったの。リボンももっと編めるようになる。勉強も頑張るわ。だから、お義姉様も、王女様に負けないで」

驚いた。良いお友達が傍にいるのね。

レリーナに応援されて、クラウディアはファリア王女に負けたくない。そう思えた。

だが王家の意向には従わねばならない。

我が王国の為にも。

ラード王太子の気持ちを聞いてみることにした。

面会を求めるとラード王太子が会ってくれた。

テラスで二人で対面に座ったら、ラード王太子が、

「酷いんだ。調べたら職人があのリボンを作ったというんだ。だから、結婚は有り得ない」

えええっ???隣国との関係は???

と思ったけれども本当にラード王太子が怒っていたので。

思い切ってクラウディアは聞いてみた。

「もし、ファリア王女様があのリボンを編んだとしたら、わたくしより、優れた編み手が現れたとしたら、そちらを婚約者に変更しますの?」

ラード王太子は、

「何を馬鹿な事を。もちろん、君のリボンの腕も素晴らしくて、私はいつも褒めているけど、肝心なのはそこじゃない。君と過ごした時間、君がいかに王国の事を思っているか。王家に嫁ぐにあたって頑張っているか、ふさわしいか、私が見ていなかったとでも?勿論、父上、母上だってしっかり君という女性を見ているよ。クラウディア。君しかいない。来年には結婚式を挙げよう。国民みんなに、君のリボンの素晴らしさを知ってもらおう」

「リボンの素晴らしさって言いませんでした?」

「あ、ついうっかり。やはりリボンは大事だから」

ラード王太子が傍に来て、そっとクラウディアの手を取り、手の甲に口づけしてきた。

クラウディアは幸せを感じた。

王宮から帰ろうとしたら、ファリア王女に声をかけられた。

「貴方がラード王太子殿下の婚約者の女ね。わたくしの方が美しいじゃない。リボン編みを他の者がやったからって。最高の編み手に編ませたリボンを用意したわたくしを評価するべきだわ。わたくしは王女なのだから。それに、国同士の関係を考えたら、貴方が身を引くべきよ」

クラウディアは、言ってやった。

「確かに国同士の事を考えたら、ファリア王女様と結婚するべきかもしれません。でも、わたくしとラード王太子殿下は長年、婚約を結んで参りました。ラード王太子殿下にふさわしい伴侶となる為にわたくしは日々、努力をして参りました。リボン編みもその一つでございます。勿論、礼儀作法を始め、様々な事を学んで参りました。ですから、ファリア王女様に婚約者の座を譲る訳には参りません。ラード王太子殿下と結婚するのはわたくしですわ」

「リボン編みで選ばれたのでしょう?」

「バセル公爵家は名門ですわ。それもあります。リボン編みを極めたのは高位貴族としての嗜み。でも、リボン編みだけで選ばれるはずはございませんでしょう」

ラード王太子が背後から歩いて来て、

「勿論。私が一目惚れしたのもあるんだけどね」

「え?」

「幼い頃、見かけた令嬢に一目惚れをした。ピンと来たんだ。この女の子と私は結婚することになるだろうって。私の目に狂いはなかった。日々、共に過ごすうちに君への愛が深まっていって。勿論、リボン編みの腕も素晴らしいけれども大事なのはそこじゃない。君自身が私は好きだ。君以外と結婚するのは嫌だ。ですから、ファリア王女殿下。お引き取りを願いたい」

ファリア王女は悔し気に顔を歪めて。

「わたくしの顔に泥を塗って。覚えていらっしゃいっ」

ファリア王女は背を向けて去って行った。

ラード王太子は、

「向こうの国王は、有能だから、我が王国との関係を悪くしたいと思っていないだろう。ファリア王女はこちらに対して何も出来ない」

「それなら良いのですけれども」

「君は心配することはない」

そう言ってラード王太子は手を握ってくれた。

彼の手の温かさに幸せを感じた。

隣国の国王からは謝罪の手紙を貰った。

無理難題を言ってすまなかったと。

ファリア王女は二度と、この王国に関わってくることはないだろう。

バセル公爵夫人マリアは、社交界への出入りを禁じられ、家に閉じこもって生活することになった。

マリアはぶつぶつと、

「なんでリボンごときでわたくしがこんな目に」

と嘆いて過ごして、物に八つ当たりをしたものだから。

父が困って、マリアを追い出してしまった。

逞しい女だから、マリアは生きていくには困らないだろう。

レリーナは、しっかりと居残り、

バセル公爵家の親戚筋の男性を婿に貰って、バセル公爵家を継ぐことになった。

婿がバセル公爵になるので、血筋的にも問題がない。

レリーナはその男性にふさわしくなるべく、勉学に励んだ。

リボンも大分まともに編めるようになった。

クラウディアはレリーナにリボン編みを忙しい中、教えた。

最初は酷い妹だと思った。

礼儀もなっていなくて、勉強嫌いで。

でも、こうして努力する姿を見ていると、好感が持てた。

ラード王太子は相変わらずリボンを一番に褒めて来る。

「今日のリボンも素晴らしい。編み込みの技術がまた一段と上がったね」

相変わらずリボンを褒めてくるけれども、まぁいいわ。

あの人の本心も聞けたし。

クラウディアは今日もリボンを編んでいく。

結婚式に着けるリボンは豪華にしないと。

レリーナが、

「お手伝いしますっ。お義姉様」

「有難う。レリーナ」

わたくしは幸せになるの。

素敵なリボンを編んで幸せに。

愛するラード王太子との結婚式を楽しみに今日もリボンを編むクラウディアであった。