軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第43話 これで袋の鼠じゃの

どこからともなく現れた巨大なスライムによって、大会を見ようと大勢の人々が集まっていた緑の学院は、阿鼻叫喚の巷と化していた。

しかも腕に覚えがあるらしい魔法使いたちが、攻撃魔法で撃退しようとしているが、スライムにはまったく効いている様子がない。

それどころかスライムが伸ばした触手に捕まり、餌食となってしまう者もいた。

「早く避難しやがれ!」

「ここは私たちに任せて避難しなさい!」

そのとき新たに駆けつけた集団があった。

「あ、赤の学院の学院長だ!?」

「青の学院の学院長もいるぞ!」

「いや、学院長陣が全員こっちに向かってきている……!」

大会のために集まっていた魔法学院の学院長たちだ。

正確には黒の学院の学院長を除くが。

彼らは全員が【最上級職】の魔法使いである。

そのことを知る人々は、彼らならばあのスライムを倒すことができると確信した。

「はっ、クソスライムが! 大会を邪魔するんじゃねぇよッ!」

真っ先に現場にやってきたのは、赤の学院の学院長であるレッドラ=アッカーメンだった。

「――プロミネンスッ!」

彼は手加減なしの一撃を――最上級の赤魔法を放つ。

スライムの巨体を紅蓮の炎が覆い尽くし、辺りに灼熱の風が吹き荒れた。

焼かれるような熱さに晒されながらも、逃走中だった人々が思わず足を止め、おおおっ、と歓声を上げた。

プロミネンスは、高い耐熱性を誇る鱗に護られたドラゴンにさえダメージを与えるという。

幾らあのスライムが魔法への耐性を持っていようと、さすがにこれには一溜りもないだろうと、誰もが確信していた。

しかし次の瞬間、なぜか急に炎が消失し、中から何事も無かったかのようにスライムが姿を現した。

「な……っ? ま、まさか、プロミネンスすら効かねぇだと……?」

愕然と呻くレッドラのすぐ脇に、理知的な容貌の女性が立つ。

「どうやらここは青魔法の出番のようですね」

青の学院の学院長であるブルーナ=アオラインだ。

彼女は《魔女王》に相応しい速さで術式を組み上げる。

「――パーマフロスト」

直後、今度はスライムの巨体が凍りついた。

一帯に猛烈な寒気が吹き荒れ、辺りは一瞬にして極寒と化す。

だが、

「っ!? 氷が溶けてっ……」

信じられない速さでスライムが解凍されていく。

気づけば巨大スライムは粘性を取り戻し、レッドラとブルーナ目がけて触手を撃ち放っていた。

迫りくるぬめぬめした触手を前に二人は動けない。

「グランドウォール」

突如として地面から出現した分厚い壁が彼らを防いだ。

「ほっほ。危ないところじゃったの」

黄の学院学院長、イエロア=キレッシが追いついてきていた。

とても八十五歳とは思えない速さである。

「さすが《聖女》の白魔法じゃ。まるで二十歳の頃に戻ったようじゃぞ」

どうやら身体強化魔法をかけてもらったらしい。

彼のすぐ後ろにはその白の学院の学院長、ホワイト=アルシロンの姿もあった。

さらに空から降りてくる初老の男がいた。

緑の学院の学院長、グリン=エルミドーリである。

部下たちに避難指示を出した後、ここに駆けつけたのだ。

さらにイエロアは、スライムの巨体を取り囲むように複数の壁を作り出した。

「これで袋の鼠じゃの」

「トルネード!」

空を舞いながら、グリンが身動きを奪われたスライム目がけて緑魔法を放つ。

レッドラ、ブルーナもまた壁の内側を狙って攻撃魔法を発動した。

「すげぇ……」

「学院長たちが共闘してるぜ!」

逃げていた人たちが思わず足を止め、彼らの戦いぶりに魅入っていた。

「ははっ、これならあのデカいスライムも一溜りもな――」

誰かが勝利を確信し、そう言いかけたときだった。

「っ! 壁が……っ!?」

グリンが真っ先にそれに気づいて叫ぶ。

イエロアが作り出した土の防壁が、内側から凄まじい速さで溶かされていたのだ。

薄くなった壁はスライムの巨体に耐え切れず、あっさりと崩れていく。

「……お、おいおい、マジで魔法が一切気かねぇんじゃねーか?」

唖然とするレッドラの言葉を、ブルーナが否定した。

「いえ……あれは効いていないというより……」

最悪の予想への忌避感からか尻すぼみになってしまった彼女の考えを、ホワイトが引き継ぐ。

「……魔法を吸収している?」

百戦錬磨の学院長たちに戦慄が走った。

スライムに、物質の吸収能力があることはよく知られている。

植物や動物などを体内に吸収し、栄養としているのだ。

だが魔法を吸収するなど聞いたことはない。

しかし事実、目の前のスライムは魔法で攻撃するたびに、明らかに巨大化していた。

最初に見たときと比べ、今や二倍くらいにまで膨れ上がっているだろう。

もしこちらの魔法が効かないばかりか、それを吸収して力を増していくのだとすれば――

「……どう考えても勝ち目ねぇだろ……」

五人の中で最も好戦的なレッドラが、思わずといった様子で弱音を吐いた。

なにせここは魔法都市だ。

彼らは皆、魔法による戦闘しか知らない。

それが使えないとなれば、もはや完全にお手上げだった。

「うおっ!?」

「っ!?」

彼らが隙を見せた瞬間を突いて、スライムが再び触手を伸ばした。

全部で五本。

学院長たち全員を狙ったものだ。

グリンは咄嗟にそれを躱し、上空へ逃げる。

イエロアとホワイトも、身体能力を強化していたお陰か、すんでのところでそれを回避する。

だがレッドラとブルーナが捕まった。

身体に巻きつき、引っ張られる。

「くそっ! 離しやがれぇっ! ファイアランス! ファイアランス!」

「あ、アイスエッジ! アイスエッジ!」

我を忘れて魔法を放つ彼らだが、やはりまるで効果がない。

グリンも風の魔法で触手を切断しようとしたが、傷一つ付けることができなかった。

「や、やめろおおおおおっ!?」

「いやああああああああっ!?」

自分たちが辿るであろう運命を前に、彼らが身も世もなく絶叫した、そのとき。

ビュンッ!

グリンは、何かが自分の脇を掠め、スライム目がけて急降下していくのを見た。

人だ。

しかもその手には剣。

「アレル!?」

グリンがその正体に気づいた直後、彼が振り下ろした剣が、信じられないほどあっさりとスライムの触手を切断した。