軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話 俺はただの《無職》だ

「ば、馬鹿ナっ……ぶげっ……これハっ……ぶごっ……《剣神》ノっ……ぐあっ……技っ……」

俺の斬撃を浴びながら、鬼が信じられないとばかりに叫ぶ。

どうやらこれが《剣神》の必殺スキルだと気づいたらしい。

伊達に過去に《剣神》に敗れていないな。

「おっ、お前ハっ……がふっ……け、《剣神》なのカっ……あがっ……」

〝インフィニットブレイク〟は一度発動させたら最後、相手を倒すまで連撃を見舞い続ける。

しかも斬撃と斬撃のタイムラグが極限まで削ぎ落とされているため、反撃は許さない。

「違うな。俺はただの《無職》だ」

「《無職》だト!? ふざ――ぶほっ……けるナっ! 《無職》にこの技ヲ……ばっ……使えるわけがなイっ……ぐはっ……」

それにしてもさすがは高位魔族だな。

人間のように女神の加護はないが、その身体の頑強さはまさにあの《剣神》のリビングアーマー並か、それ以上だ。

すでに四十を越える斬撃をその身に浴びながらも、まだしゃべれるとは。

「がっ……あり得っ……ぶっ……なイっ……………………」

ようやく沈黙したか。

ちょうど七十回目の斬撃を喰らわせて連撃を終わらせる。

剣圧で宙に浮かんでいた鬼の身体が、ぐしゃりと半壊した舞台の上に落下した。

「今度は呪いを残さずに死んだか」

俺の剣は業物ではあるものの、さすがに《剣神》が使っていたであろう剣とは比較にもならない。

あれだけの斬撃を放ったことで、すでにボロボロになっているし、これでは前回のように剣に憑りついてもすぐに寿命がくるだろう。

しかし〝鬼神〟は良いとしても、あの男まで殺してしまったかもしれないな。

まぁだが自業自得だし、仕方がないか。

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」

突如、大地が崩落したかのような大音声が響いた。

「すげぇっ! 〝鬼神〟を倒しやがったぞ!」

「しかもたった一人で!」

「なんて奴だ!」

「英雄だ! あいつこそ英雄だっ!」

「《剣神》の再来だぁぁぁぁぁっ!」

どうやらまだ逃げずに会場内に留まっていた人たちが俺の戦いを見ていたらしい。

興奮した様子で口々に叫んでいる。

「ふむ。とりあえずこれで剣神杯を再開できそうだな」

◇ ◇ ◇

――ドラゴンファング本拠地。

「おい、気迫が足りてねぇぞ! スキルに頼ってばかりいねぇで、もっと我武者羅に気持ち入れろ!」

「は、はい!」

剣戟と怒声が訓練室に飛び交う。

まだ若い剣士たちを厳しく指導しているのは、隻腕の中年男性だった。

ドラゴンファングの現ギルド長、ロッドである。

あの剣神杯をきっかけに、彼はギルド長に復帰。

以前の無気力ぶりが嘘のように、そして隻腕が何だとばかりに、今では往年にも増してひたすらに剣の道へと邁進していた。

ドラゴンファングに新しいメンバーも増えた。

剣神杯での戦いに憧れ、続々と入会希望者がやってきたからだ。

その中にはA級、B級の上位剣士たちも大勢いた。

もちろん、彼らが憧れたのは他でもない。

あの剣神杯一回戦。

突如として現れた伝説の〝鬼神〟を、たった一人で打ち破り、都市を救ったあの《無職》の少年である。

「それなのに……」

ついに念願のギルド再興を果たし、賑わう訓練室を微笑ましそうに眺めていた女性――リリアが、いきなり大声で叫んだ。

「何で肝心のあなたがいなくなっちゃうんですか、アレルさんッッッッッ!!!」

わたしと結婚してくれるって言ったのにぃぃぃっ! と、当人がいないのでついでに好き勝手なことも喚くリリアだった。

◇ ◇ ◇

「お客さん、本当に良いんですかねぇ?」

ゴトゴト、と馬車に揺られていると、御者の親父が肩越しにこちらを振り返りながら訊いてきた。

剣の都市を囲む市壁が徐々に遠ざかっていく中、いつぞやも世話になったその御者は言う。

「剣神杯で優勝したトップ剣士が都市から出て行ってしまうなんて、前代未聞ですよ? しかも都市を救った英雄を一目見ようと、各地から旅行者が続々とやってきている最中」

「ふむ。そう言われてもな。もうあの場所でやり残したことはない」

俺はそう応える。

復活した魔族を倒し、剣神杯で優勝してから三か月ほどが経っている。

その間に、俺は剣に関するあらゆるスキルを習得したのだ。

もはやここで学ぶことは何もない。

「俺より強い剣士もいないしな」

「ははは、それはそうですよ。なにせ当時の《剣神》すら苦戦したという、あの伝説の魔族を倒してしまったんですからねぇ。この世界のどこを探したって、お客さん以上の剣士なんていませんよ」

「……とは限らないがな」

「?」

この都市に来る前から、俺は《剣神》のスキルを習得していた。

恐らくその時点ですでに、俺は剣の都市にいるどの剣士よりも強かっただろう。

だが決してここに来たのが無駄だったわけではない。

《剣姫》や《剣神》にはないスキルも習得できたことで、基礎を固め直したり、多彩な戦い方が可能になったりと、間違いなく以前よりもレベルアップした。

今の俺なら、と思う。

目的地は故郷の実家だ。

そこには世界最強の剣士がいる。

「今なら母さんを倒せるかもしれない」

ははは、お客さん面白いことを言いますね、と御者が笑った。