軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 早く終わらせたら勿体ないだろう?

剣神杯本選当日。

会場となる闘技場の出入り口で、言い争う父娘の姿があった。

「くそっ、離せ! この馬鹿娘!」

「いいえ、離しません! せっかく出場者のギルド専用席が空いてるんですから、見なきゃ損ですよ!」

リリアとその父親である。

「だから俺は見るつもりなんてねぇっての!」

「ここまで来たんですから、いい加減、観念してください!」

「うるせぇ! 俺はもう試合なんて見ても意味がねぇんだよ!」

「じゃあただの観戦として楽しみましょうよ! お酒飲んでもいいですから!」

「楽しめるどころか、俺にとっちゃ苦痛以外の何物でもねぇんだよ!」

「…………ああ、もう、クソめんどくせぇ……」

――ぷちっ。

リリアの額からそんな音がした直後、

ゴッ!

彼女の渾身の右ストレートが父親の顔面を完璧に捉えていた。

「……きゅう」

「さて。行きましょうか」

気を失った父親を引き摺り、彼女は会場内へと入っていくのだった。

◇ ◇ ◇

剣神杯の本選の日がやってきた。

剣の都市で最大の巨大闘技場。

ゆうに五万人以上を収容できるそこで、三十二名の出場者たちが〝最強の剣士〟の座を賭けて争うことになる。

そのうち二十名がA級剣士であり、残りは予選を勝ち上がってきた剣士たちだ。

そして、第一試合。

それまで伏せられていた対戦者が発表されるや、会場は凄まじいどよめきに包まれた。

「第一試合からいきなり去年の優勝者、《剣帝》ゲオルグの登場か!」

「誰か知らねぇが、対戦相手マジでついてねぇ――って、おい、マジかよ!?」

「《無職》のアレル!? 予選をすべて圧勝して勝ち上がってきたD級剣士じゃねぇか!」

「なんつー好カードだ!」

「いや、さすがに《無職》が《剣帝》に勝つはずないだろ? 一方的な展開になるんじゃないのか?」

「だろうな。ここであいつの快進撃も終わりだろ。まぁそれでも本選まで来たんだ。頑張った方だと思うぜ」

ふむ。

第一試合だと聞いてはいたが、あの男が相手とはな。

俺も対戦する相手については聞かされていなかったのだ。

舞台に上がる。

観客席は超満員。

さすがにこれだけの人間から注目されたのは初めてだ。

対戦相手も舞台に上がってきた。

ゲオなんとかだ。

いつもの不敵というか、腹立たしい感じの笑みは顔から消え、唇を強く引き結んでいる。

腰の剣とは別に、なぜか背中にもう一本、別の剣を背負っていた。予備の剣だろうか?

「随分と緊張しているようだが?」

「……」

声をかけても、ただ無言が返ってきた。

『それでは第一試合を始めたいと思います! 昨年の覇者《剣帝》ゲオルグが連覇に向けて好発進をするのか! はたまた今大会最大のダークホース、《無職》の新人剣士アレルがまたしても驚愕の強さを我々に見せてくれるのか!』

その煽りに、会場がさらなる大歓声に包まれる。

そうかゲオルグだったか。

思い出した。

『試合開始!』

開始の合図が響いたその瞬間、ゲオルグが数十メートルあった距離をほとんど一歩で踏破し、一気に肉薄してきた。

ふむ。いきなり出してくるな。

必殺スキルだ。

『おおっと! ゲオルグ剣士! 先手必勝とばかりに、いきなりの大技だっ! 《剣帝》必殺スキル〈エンペラーロード〉ッ! やはり強敵と見たか、最初から全開ッ! 手加減無用だぁぁぁっ! すべてを平伏させる帝王の十六連撃がアレル剣士に襲いかかるぅぅぅッ!』

ガガガガガガガガガガッ――――ガギィンッ!

『なんとアレル剣士っ、それを完璧に防いだぁぁぁぁぁっ!?』

なるほど。

さすが《剣帝》の必殺スキルだ。

完全には防ぎ切れず、幾つか掠めてしまったな。

と言っても、加護がほんの1パーセントほど減っただけだが。

『ああ! ゲオルグ剣士、さらに間髪入れずに別の必殺スキルを放ったぁぁぁっ! しかしアレル剣士っ、それも難なく受け止めましたぁぁぁっ!』

「す、すげぇっ!?」

「マジでどうなってんだよ!?」

「あんなの《無職》じゃねぇだろ!」

「けど、さっきから防戦一方よ?」

「《剣帝》にあそこまで攻め続けられたら、攻勢に出るなんて不可能だろ」

「やっぱ《剣帝》の勝ちだな」

『アレル剣士、確かに先ほどから受けるだけで精一杯のようですっ! 《剣帝》ゲオルグの間断ない攻撃を前に、守るだけで一向に攻めに転じることができません! 少しずつですが、加護も減ってきています! このままでは確実にジリ貧だぁぁぁっ!』

そのとき、先ほどから途切れなく攻め続けてきていたゲオルグが、何を思ったかいったん跳び下がって距離を取った。

『ああっと!? ゲオルグ剣士、一度下がりました! アレル剣士にとってはチャンスですが……しかし動こうとしません!』

ゲオルグがそこで初めて口を開く。

「……なぜ、受けているだけで仕掛けてこないんだい?」

静かな口調ながら、隠し切れない憤りが滲み出ている。

「攻めに転じる余裕がないのかもしれないぞ」

「この私をあのような愚人どもと一緒にするな! お前があえて受け手に回っていることくらい、分からないはずがないだろうっ?」

ちょっと冗談を言っただけなのだが、どうやら真に受けてしまったようだ。

「ふむ。簡単に言うと、勿体ないからだ」

「……勿体ない、だと?」

眉根を寄せるゲオルグに、俺は言う。

「《剣帝》のスキルを直に見て覚えることができる絶好の機会だからな。早く終わらせたら勿体ないだろう?」