軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第44話 断っちゃえばいいじゃん

「セレスお姉ちゃん? どうしたの? 元気ないよ?」

その日、レイラはセレスティアの様子がおかしいことに気づいた。

「な、何でもありませんよ、レイラさん」

「何でもなくないよ! ぜったい元気ないもん!」

セレスティアは心配させまいと首を振って誤魔化すが、けれどそれはレイラには通じなかった。

お世辞にも人の気持ちが分かるとは言えないレイラだが、そんな彼女でも見て分かるほどに、今日のセレスティアは重苦しい雰囲気を纏っていたのである。

もちろんそのことは他の人たちも気づいていた。

だが相手は王女様だ。

その事情を深く追及することもできない。

「どうしたの? レイラが相談に乗るよ!」

そんな空気を読めないレイラだからこそ、踏み込むことができたのだった。

「……そ、そうですね」

むしろセレスティアは誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

可愛い後輩の申し出に頷き、気づけばつい昨日あった出来事を話し始めていた。

「実は……わたくし、結婚することになりまして……」

「ふえ? 結婚? セレスお姉ちゃんが?」

「はい。一応、前々から婚約関係にはあった方なのですが……」

エデルハイド王国の隣国であるハンバラダ帝国。

その皇太子との結婚の話は、まだセレスが祝福を受ける前に、相手国側からの希望から始まった。

しかしセレスティアは十歳にも満たず、一方の皇太子はすでに二十代の後半だ。

隣国との関係に配慮しつつ、国王陛下は丁重にお断りしたのだった。

ちなみにそのとき皇太子とセレスティアが会ったのはたった一度のみで、セレスティアの方はまったく相手のことなど覚えていなかった。

状況が変わったのは、あの四年前の危機が原因だ。

ハンバラダ帝国はエデルハイドに領地が接してはいるものの、魔王軍の進軍経路からは運良く逸れていたこともあり、それほど大きな被害を受けることはなかった。

元よりハンバラダ帝国はエデルハイドの倍近い国力を有していた。

その上に、エデルハイドばかりが多大な損害を被ったことによって、両国の力関係にさらなる開きが生じてしまったのだ。

そんな中、ハンバラダ帝国内には、今こそエデルハイドを責めるべきだという過激な主張をする貴族が増加。

エデルハイド王国にとって、ハンバラダ帝国との良好な関係を維持する方法は、もはや皇太子と王女の政略結婚しかなかった。

「うーんと……つまり、セレスお姉ちゃんは、好きでもない人と結婚しないといけないってこと?」

「そういうことになります」

「えーっ! そんなの断っちゃえばいいじゃん!」

「……そういうわけにはいきません。わたくしは王族。自分のことより、この国のことを優先しなければならないのです」

もしこの婚約を破棄してしまったとき、下手をすれば戦争が起こりかねないのだ。

全面戦争となれば大勢の人命が失われるだろうし、国力が低下している今のエデルハイドでは帝国の相手にならないだろう。

自分の将来とこの国の命運を天秤にかけたとき、セレスティアには自分を選ぶことなどできない。

「ぶー」

不満げに唇を尖らせるレイラ。

彼女には王族の事情など理解できるはずもなかった。

「ただ……本来なら学院を卒業してからという話だったのですが……。どうやら先方が急ぎたいようなのです」

結婚それ自体ももちろん憂鬱なのだが、それは覚悟ができていたからまだいい。

けれど、まだあと一年近く先の話であり、学院生活を最後まで過ごすことができると思っていたのだ。

それすらも叶わないかもしれないことが、最大のショックだった。

「えっ? じゃあ、セレスお姉ちゃん、いつまで一緒にいれるの……?」

「……長くても数か月……短ければ……もっと早いかもしれません……」

「ええええええっ!」

大きな声で叫んだかと思うと、レイラがセレスティアに飛びついた。

「やだよーっ! 何で何でっ!? セレスお姉ちゃんがいなくなるのやだもん!」

「も、申し訳ありません……」

「レイラが卒業するまでいてよ!」

「……それはそもそも無理です」

セレスティアは四年生なのだ。

どんなに頑張ってもレイラと一緒に卒業することは不可能である。

「う~」

「……ごめんなさい」

謝りつつも、セレスティアはこの可愛い妹がここまで自分に懐いてくれており、離れ離れになることを残念がってくれることを嬉しく思ったのだった。

婚約発表はそれから五日後のことだった。

この日、レイラたち王立学院の生徒たちは、定期的に開催されている国王演説に参加していた。

これは王宮前の広場で行われ、一般市民も拝聴することが可能だった。

しかしこの日ばかりは、選ばれた者たちの参加しか許されなかった。

なにせ、見目麗しく、王国内でも人気の高いセレスティア王女と、二十も年が離れ、お世辞にも容姿がいいとは言えない隣国の皇太子の婚約である。

場合によって参加者たちが反対し、暴動が起こる危険性があった。

それを防ぐために、参加者が厳選されることになったのである。

王立学院の生徒たちが急遽、動員されたのはそのためだ。

婚約発表の件は伏せられているものの、あらかじめ教員たちから「どんな内容であれ、王立学院の生徒として相応しい態度で最後まで拝聴すること」と強く釘を刺されていた。

そして万一のときには、騎士団と協力するようにと厳命されている。

そんなこともあって、大半の生徒たちは、一体どんな演説内容なのだろうかと、緊張の面持ちで国王陛下が現れるのを待っていた。