軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第32話 本当にそっくりです

セレスティアさんが僕の――正確にはレイラの――ベッドに入ってくる。

腕に振れた柔らかな肌、そして甘い香りに僕はドキリとしてしまう。

ち、違うんだ!

決して下心があって許可したわけじゃないんだ!

セレスティアさんが安心して眠ることができるようにっていう、善意百パーセントだから!

セレスティアさんはこちら側を向いて横になるばかりか、僕に身体を寄せてきた。

「……ふふ、やっぱり、こうしていると落ち着きます」

くすりと笑うセレスティアさん。

やっぱり?

まぁ安心してくれて何よりだけど、一方の僕は別の理由で眠れそうにない。

「でも、普通なら逆ですよね。情けないお姉ちゃんです」

「そ、そんなことないよ?」

セレスティアさんの顔がすぐ真横にある。

このまま僕も横を向けば、唇が触れ合ってしまうような至近距離だ。

だけどさすがにそれをする勇気はない。

僕は仰向けになったまま。

「四年前……」

不意に、セレスティアさんが声を低くして呟いた。

「レイラさんは知らないと思うけれど……この街は魔王軍に襲われたんです」

知ってます。

「……多くの住民が殺されました……。しかも、亡くなった人たちが敵の力でアンデット化し、人間を襲っていき……。次々と増えていくアンデッドに、王都は陥落寸前まで追い込まれてしまったのです……」

確かに、僕たちが立ち寄らなかったら魔物に占領されていたと思う。

「わたくし自身も、そのとき敵の首魁が操るアンデッドに襲われて……。…… あ(・) る(・) 人(・) の(・) お(・) 陰(・) で(・) どうにか九死に一生を得たのですが、それ以来、アンデッドが怖くなり……時々、夢に見て目を覚ますようになってしまったのです。ここしばらくは収まっていたのですが……」

先日、ハイオークのアンデッドに襲われたことで、きっとまたぶり返してしまったのだろう。

「セレスお姉ちゃん」

「……はい?」

「みんなの前では気丈に振舞ってたんだね」

「そ、それは……」

「うん、分かるよ。だって王女様だからね。弱いところは見せられないよね?」

「……」

「でも、レイラには遠慮しなくていいよ?」

「え?」

「レイラはセレスお姉ちゃんの味方だもん!」

本人じゃないことに罪悪感を覚えるけど……でもレイラならこんなふうに言うに違いない。

セレスティアさんはしばらく目を丸くしていたけど、突然、

ぎゅっ!

「~~~~~~っ!?」

僕に抱き着いてきた!?

「ありがとう、レイラちゃん……ありがとう……」

も、もちろんこれは予想外のことだ!

こうなると見越して甘い言葉を口にしたわけじゃないからね!?

当然、振り払うわけにもいかないよね、うん。

だから僕は大人しくセレスティアさんを受け入れるのだった。

仕方ないよね、うん、仕方ない。

◇ ◇ ◇

(……本当に落ち着く)

セレスティアは自分より四つも年下の一年生に抱き着きながら、先ほどまでの恐怖が薄れていくのを感じていた。

薄っすらと目を開けると、赤い髪が特徴的な彼女の横顔が見える。

まだ幼い顔つきながら、しかしセレスティアには誰よりも頼もしい存在に感じられた。

(別人、ですよね?)

思い出すのは、あの日、彼女を絶体絶命の状況から救ってくれた一人の男の子だった。

魔王軍の幹部である死霊術師が操る、アンデッドキメラ。

それを男の子はいとも容易く倒してしまったのだ。

その光景を彼女は一日たりとも忘れたことはない。

だが、生憎とその男の子が何者であるかはもちろん、名前すらも知らなかった。

(でも、本当にそっくりです)

目も前にいる少女と同じ、赤い頭髪。

あれから四年の時が経っているが、顔もよく似ていた。

それに圧倒的な強さも……。

だからこそ、こうして傍にいると先ほど見た悪夢のことを忘れ、安心感に包まれていくのだろう。

入学式で初めて見たとき、セレスティアは「あの男の子だ!」とその再会を喜んだ。

けれどすぐに女の子であることが分かって、大いに落胆した。

(男の子に見えたけれど、実は女の子だったとか……? だけど、さっきの話への反応……やっぱり別人なのでしょう)

もし同一人物だったとしたら、きっと「あ、それ、レイラだよ!」と言ってくれただろう。

そもそもあの男の子は、ほんの一瞬のことだったとはいえ、レイラとはまったく性格が違ったと記憶している。

(……もしくは、兄妹という可能性も……? そう言えば、ご家族のことを聞いてな――)

図らずも核心に迫ったセレスティア。

しかし最近の疲労の蓄積もあってか、そこで眠気が勝り、ゆっくりと意識を手放してしまったのだった。

◇ ◇ ◇

翌朝、僕は息苦しくて目を覚ました。

顔が何かに柔らかいものに埋まっているせいだ。

まぁこんなことは珍しいことじゃない。

うちの妹は夜中に勝手に人のベッドに入り込んで、僕に抱き着いてくるクセがあるのだ。

お父さんがいるときはお父さんのベッドなので、たぶん僕をお父さんの代わりにしているのだろう。

それにしても久しぶりかもしれない。

「ちょっと、レイラ。苦しいから離れて」

僕は強引にレイラを押し退けようとする。

すると力を入れた左手のひらが、今までにない感触を覚えた。

……あれ?

なんだこの柔らかいの?

レイラの身体にこんなものあったっけ?

いや、そもそもレイラは今、別の寮で寝泊まりしているはずだ。

「っ!?」

そこでようやく僕は昨晩のことを思い出した。

そうだ、確か、セレスティアさんが僕のベッドに入ってきたんだ。

じゃあ、この感触の正体は……。

恐る恐る左手の先に視線をやると、そこにあったのは美しい膨らみだった。

ぬああああああっ!?

何やってんだ僕はぁぁぁぁっ!?