作品タイトル不明
第29話 それよりノート貸してよ
レイラのせいで全人格をフル稼働し、徹夜でテスト勉強をする羽目になってしまった。
授業は前回の入れ替わり時の一週間しか受けていないので、ほぼゼロからの勉強だ。
「最初に応じておけば一、二日の余裕があったのに」
「うるさい。それよりノート貸してよ」
レイラのノートは字が汚いので、リッカのノートを見せてもらうことにした。
「てか、あいつために何でここまでしないといけないんだ……」
そんな疑問も抱きつつも、僕はどうにか無事に中間テストを切り抜けたのだった。
いきなりだったので戸惑ったけれど、内容は至って簡単で、基礎的なものだったので助かった。
むしろ余裕で満点を取れるレベル。
ただ、替え玉で満点を取ってしまってはレイラのためにならない。
何よりも癪だ。
僕は適度に間違えておくことにしたのだった。
――したのだけど……。
「レイラさん、さすがですわ」
「筆記試験も学年トップだなんて」
「素晴らしいですの」
テストのすぐ翌日、廊下に張り出された成績上位者の名前と得点を見ながら、口々に 僕(レイラ) を賛辞する声が上がる。採点早い……。
1位 レイラ 450点
2位 ベルゼア 439点
3位 リッカ 428点
4位 ……
500点満点だ。
9割ぐらいにしておけば十分だろうと思ってたのに、みんな予想外に点数が取れてない。
お陰でレイラが一位になってしまった。
ちなみに三位にはリッカの名前がある。
そのリッカが感心したように言う。
「まさか一夜漬けの武術科の生徒に負けるとは思わなかったわ」
「えっと、一つ聞きたいんだけどさ……。みんな、ちゃんとテスト勉強してるのかな? 僕、ワザと9割に抑えたんだけど……」
「もしかして殺されたい?」
なぜかリッカから殺気が飛んできた。
テストが終わったので、セレスティアさんの自主ゼミが再開するらしい。
レイラと入れ替わったままの僕は、レイラとして参加することになった。
集まったのは、セレスティアさんを筆頭に四年生が五人。
三年生は寮で同室のアリサさんを含め、四人。
二年生は二人で、一年生はレイラただ一人だった。
全部で十二人。
もちろん生徒は例外なくSクラスだった。
男女比はちょうど半々。
……ただし僕のせいで男子が多い。
「今日は前回お伝えしていた通り、街の外で魔物相手に実戦を行います。いつも以上に気を引き締めて参加してください」
「「「はい!」」」
セレスティアさんの言葉に、参加者たちが背筋を伸ばして力強く返事した。
「先生、よろしくお願いしますね」
「畏まりましたわ」
一応、教官が一人同行してくれるらしい。
四十代半ばぐらいの、いかにもベテランといった感じの女性だ。
どうやら馬車で移動するらしい。
さすが王女様主催の自主ゼミだ。
学院を出発して王都を出ると、向かった先は近くに大規模な森を臨む草原地帯だった。
「この辺りがいいですね」
僕たちは停車した馬車から降りる。
森に棲息する魔物がこの辺りまで出てくることがあり、かといって森ほどには魔物と遭遇することはない。
それゆえ実戦的な訓練には適した一帯のようだ。
「それではいつもの隊列で移動しましょう」
「「「はい!」」」
……いつもの隊列?
もちろんレイラと入れ替わっている僕は知らない。
戸惑っていると、アリサさんが厳しい口調で教えてくれた。
「何をしているのですか。あなたは私の隣でしょう」
「う、うん!」
慌ててアリサさんの隣に並んだ。
草原を進んでいく。
すると最初に遭遇したのは、鋭い角を有する牛の魔物だ。
全長は三メートルくらいあり、身体は真っ黒。
筋骨隆々で、狂暴な闘牛をイメージしてもらえれば分かりやすいだろう。
「デビルバイソン……っ!」
同行の教員が悲鳴を上げた。
「まさか、いきなりこんな魔物に遭遇するなんて……っ! 殿下、こちらに気づく前に――」
「いえ、問題ありません。一班は攻撃魔法を準備! 三班は土魔法で魔物の突進に備えてください!」
戦闘回避を促そうとする教員を遮って、セレスティアさんが命令を下す。
「アイスエッジ!」
「ウォーターランス!」
青魔法を中心とした攻撃魔法が何発か、デビルバイソンの巨体に直撃した。
「ブモオオオオッ!!」
しかしダメージは少なく、デビルバイソンが興奮してこっちに突っ込んでくる。
「「「グランドウォール!」」」
突進を止めたのは、激突の寸前に現れた分厚い土壁だ。
それに思い切りぶつかり、デビルバイソンの巨体がひっくり返った。
「二班の皆さん、今です!」
今度は赤魔法と緑魔法だ。
至近距離で炎や風の刃を浴びせられて、デビルバイソンは苦痛の声を上げる。
どうやら班ごとに役割が決まっているらしく、一班が青魔法で、二班が赤魔法と緑魔法、三班が黄魔法、という感じで分けているようだった。
一班は遠距離攻撃や牽制に、二班は近距離攻撃に、そして三班は防御に特化しているのだろう。
アリサさんは二班なので、たぶんレイラもこの二班に入っているのだと思う。
……出遅れたせいで何もしてないけど。
残りが四班だろうか。
たぶん白魔法や黒魔法の使い手たちだろう。
やがてデビルバイソンは絶命し、動かなくなった。
でも赤魔法を使ったせいで、全身はボロボロだ。
デビルバイソンのお肉は結構美味しいので、あまり傷つけない方がいいのに。
教員が感嘆の声を上げた。
「素晴らしい! さすがは王女殿下の自主ゼミですわ! デビルバイソンをこうも容易く倒してしまうなんて。見事な連携でございました」
「日頃の訓練の賜物です」