軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話 こういう大人にならないように

〝残像〟と見せかけておいて、俺が使ったのは〝分身〟だった。

これはあの監獄都市で婆さんが使っていたスキルを模倣したもので、〝残像〟と違って実体があるため、敵を攻撃することも可能だ。

「ば、馬鹿、な……?」

獅子の獣人はその場に崩れ落ちた。

「お、おい、今、何をしたんだ?」

「分からねぇ……なんか、分身だとか言ってるのが聞こえたが……」

「分身? 残像じゃないのか?」

「てか、剣も持ってないのにどうやってダメージを与えたんだ?」

一流の剣士ともなれば、素手でも斬ることはできるからな。

何ならイメージだけで斬ることも可能だ。

「……化け物、か……」

魔族はほとんど虫の息だ。

「……だが、残念だったな……先ほどの私の咆哮に応じて、この場に都市中の魔物が集まってくる……。……同胞とともに、大群に押し潰されて死ぬが、いい……」

そう最後に言い残して、絶命してしまった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ――

どこからか地響きが聞こえてくる。

見ると、都市のあちこちで砂煙が上がっていた。

どうやら本当に魔物の大群がここに向かってきているらしい。

俺だけならどうとでもなるのだが、さすがに動きを封じられた剣士たちを護りながらとなると、なかなか骨が折れる。

「パパ!」

そう憂鬱になっていると、レイラとアークがいつの間にか広場を駆けずり回って剣士たちの拘束を解いてあげていた。偉いぞ。

「こ、子供っ?」

「何でこんなところに! 危ないから早く逃げるんだ!」

早く逃げるべきなのはお前たちの方だ。

いや、曲がりなりにも剣士なので、自分の身は自分で守ってもらえばいいか。

問題は剣がないことなのだが……作ればいいか。

俺は黄魔法を使って簡易の剣を作り出していった。

足元に積み重なっていくそれらを指さして、彼らに告げる。

「こいつを使ってくれ」

「って、剣だと!?」

「しかもこんなに大量に……一体どこから持ってきたんだ!?」

「よく見ろ、何もないところから出てきているぞっ?」

さっきから驚いてばっかりだな。

それより早く持っていけ。

俺の無言の想いが通じたのか、彼らは慌てて剣を手に取っていく。

どうにか全員分を作り終えたときには、すでに魔物の大群が広場の入り口まで迫ってきていた。

こういう戦いのときこそ〝分身〟が役に立つな。

俺は魔物の群れを迎え撃つべく、再び分身を生み出した。

リリアの父親が呆れ顔を向けてくる。

「それ、本当に〈残像〉じゃねぇんだな……」

「〝分身〟だ」

「意味が分からないにも程があるんだが……まぁお前だしな」

「子供たちだってできるぞ?」

「……」

アークとレイラも俺に倣って〝分身〟を使っていた。

ただ今のところ一度に生み出せるのは二体が限界だ。

「「「オオオオオオオオオオオッ!!」」」

そしてついに魔物の大群が広場内に突入してきた。

……結論から言えば、そう苦戦することなく魔物を殲滅することができた。

わざわざ都市のあちこちにいた魔物を討伐して回る必要もなくなったので、むしろ集めてくれて助かったほどだ。

魔物に交じって襲い掛かってきた魔族も倒したし、これでほとんど都市を奪い返すことに成功したと言ってよいだろう。

「さっすがアレルさんですね! きっとまたこの都市を救ってくださると信じてましたよ!」

「……それで、しばらく姿が見えなかったが、俺たちが魔物と戦っている間はどこに行ってたんだ?」

「いやん、乙女にそれを聞くなんて、エッチあだだだだだだっ!?」

どうせ自分だけどこかに身を隠していたのだろう。

我が子には「こういう大人にならないように」と、しっかり教育しておかないとな。

それから俺たちは一度、都市の外に置いてきたライナたちを迎えに行った。

子供たちのことが心配だったようで、顔を見るなり慌てて駆け寄ってきた。

「アーク、レイラ! 無事だったか!? 怪我はしていないか!?」

「うん、心配ないよ、ママ! どこも痛くないよ!」

「ま、魔族もいたのだろう?」

「いたけど、あんまり強くなかったよ? ねー、アーク?」

「そうだね」

むしろもっと張り合いのある相手を期待していたんだが。

あの魔王軍の幹部とやらも二人に戦わせてやればよかったな。

◇ ◇ ◇

「……嘘だろう……まさか、レオルド様が人間に敗れるなど……」

その魔族は自らが目にした光景を信じることができずにいた。

広場に隣接する家屋の屋根の上に身を潜めている彼は、鳥の上半身を有する獣人だ。

空を旋回しながら、生き残っている人間を見つける役割を担っていたのだが、広場の異変を察して降りてきたのだ。

さらに彼を驚愕させたのは、ボスであるレオルドだけでなく、都市中から集った魔物の大群、そして他の獣人たちまでもが、せいぜい数十人の人間に全滅させられてしまったことだった。

とりわけ異次元だったのが、黒髪の青年と、彼が連れてきた二人の赤い髪の子供だ。

「あいつらは危険だ……すぐに魔王様にお伝えしなければ……」

彼はすぐさま身を翻し、空中へ飛び上がろうとする。

だがその寸前、

「逃がしませんよ?」

不意に耳元で囁かれた声に戦慄した。

背後どころか、ほとんど密着されてしまっている。

少しでも動こうとしたら死ぬ。

その直感が、彼の全身を石のように硬直させる。

「な、何者……」

「それは知らなくてもいいことです。だって今ここで死ぬのですから」

「……っ!」

そして彼の意識は途絶えた。