軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話 用があるのは俺の方だぞ

怖ろしく巨大な鳥だ。

両の翼の端から端まで二百メートルはあるだろうか。

とても空を飛んでいるとは思えない大きさだ。

太陽を完全に覆い隠してしまっているが、その煌々と燃え上がる巨体から、目が眩むような光が発せられている。

翼をはためかせる度に強烈な熱風が降り注いでくるのだが、それがマグマの熱と合わさって、もはや周囲は灼熱地獄だ。

フェニックス。

神話級の魔物の代表格とも言える存在だった。

『……ニンゲン、か。まさか、このような場所にまで足を踏み入れられる者がいるとは』

フェニックスは悠々と空を舞いながら、俺たちを見下ろしてくる。

『それにお前たちは……ベヒモスとリヴァイアサンか』

「やっほーっ! 久しぶりじゃん!」

「ん」

リヴィは気軽に手を振って、ベフィはいつもの無表情で頷く。

『我のところに来るとはなんとも珍しい。それも二体そろって。……貴殿らは犬猿のごとく仲が悪かったと記憶しているが』

「まぁね。でも今は休戦中なのさ!」

「ん。わたしは別に嫌ってない。勝手に突っかかってきてただけ」

「ちょっ、それじゃなんかボクが面倒なやつみたいじゃんか!」

「その通り」

「気が変わった! 今ここで勝負だ!」

そんなふうに言い合う二体などお構いなしに、フェニックスは訊いてくる。

『それでニンゲンなどを連れて、我に何用だ?』

「用があるのは俺の方だぞ」

『なに?』

そこで俺が割り込むと、フェニックスが驚いたように喉を鳴らした。

『ニンゲンが一体何の用だ?』

「端的に言うと、お前を従魔にしたいと思って来た」

『我を、従魔にだと……?』

フェニックスの赤い瞳が細められる。

『まさか、そこの二体を従魔にしたというのか?』

「察しがよくて助かるな。その通りだ」

『……ニンゲンが、神話級の魔物を従魔に……一体、どんな手を使ったのだ?』

「まっとうに〝調教〟しただけだぞ」

今の俺は魔物調教師だからな。

「違う。力で無理やり従わされた」

「ボクなんてお尻を……うぅ、思い出したらムズムズしてきちゃった……」

背後から軽い非難の声が聞こえてきた気がした。

『なるほど、どうやら普通のニンゲンではないようだ。だが、そこの二体と我を一緒にしては痛い目を見るぞ?』

「心配しなくていいぞ。すぐにお前も仲間に入れてやるから」

『……あまり驕るな、ニンゲンよ』

フェニックスが翼を大きく羽ばたかせた。

するとそこから無数の火炎の矢が放たれた。

掠めるだけで加護が減っていく超高熱の炎矢。

それが雨のように大量に降ってくるとなれば、回避することは難しい。

剣で打ち払う暇もなさそうだ。

「〝神足通〟」

ならば雨粒一つ一つを避けるのではなく、雨ごと躱してしまえばいい。

俺は一瞬にしてその場から数十メートル離れた場所へと退避した。

「……熱い」

「ちょっ、こらっ! ぼくたちを巻き込むなよっ!」

俺の代わりにまともに炎の雨を浴びたベフィたちが抗議している。

熱がってはいるが、彼女たちならこの程度では火傷一つ負わないようだ。

『いやいやマジ勘弁してほしいんデスけど!』

マティは手のひらサイズの大きさを活かし、必死に矢を掻い潜って逃げていた。

『……いつの間にそこに移動したのだ?』

フェニックスは俺が攻撃を躱したと分かると、火炎の矢を飛ばしてくる。

だが俺はやはり〝神足通〟で避けた。

『速さだけはなかなかのようだ。だが地上にいては我を従わせることなどできぬぞ?』

「じゃあこれでどうだ」

俺は地面を蹴り、緑魔法で飛翔した。

『ほう、人の身ながら空を舞うか。だが所詮は偽りの翼。我が領域に自ら挑むとは愚かなことよ』

フェニックスがさらに高度を上げていく。

俺は速度を上げて後を追った。

だが距離はまるで縮まらない。

フェニックスが再び火炎の矢を放ってきた。

『大人しく地上に這いつくばっていれば避け得ただろうに……。灰と化せ、ニンゲン』

「〝神足通〟」

『なに?』

俺は空中で〝神足通〟を使った。

緑魔法で生み出した空気の塊を足場にして瞬間的に移動し、矢の雨を回避する。

今のは緑魔法と〝神足通〟の合わせ技だ。

空気の塊を足場にして空中で加速する方法は魔法都市にいた頃に習得した。

しかしそれを〝神足通〟にまで応用しようと、俺は秘かに練習を重ねてきた。

〝神足通〟の場合その衝撃が強すぎるため、よっぽど凝縮させた空気の塊でなければ、簡単に破壊されてしまい足場にはならない。

その辺りの調整がなかなか難しかったが、どうにかモノにできたようだ。

俺は空中での〝神足通〟で一気にフェニックスとの距離を詰める。

『馬鹿な……我の速度を上回るだと……?』

驚愕しているフェニックスへ、俺はついに剣の間合いへと肉薄し、

「熱……っ」

思わず反転して距離を取り直した。

ふむ、どうやらあの身体、思っていた以上に高熱を発しているらしい。

青魔法で熱を防いでいても、間合いに入っただけで身体が溶けてしまいそうだ。

これでは今までのように体内から攻撃するという戦法も使えない。

『……無駄だ、ニンゲンよ。この我をも驚かせたその力は称賛に値する。だがどう足掻いても我には勝てぬ。その脆弱な身体では、これ以上接近することすらできぬのだからな』

「別に攻撃するだけなら近づく必要もない」

俺は〝神空斬り〟を繰り出す。

『っ!』

距離を無視した斬撃がフェニックスの身体の一部を斬り裂いた。

燃え盛る羽が花火のように四散する。

俺は〝神空斬り〟を連射した。

『ぐぬっ』

効いている?

ベヒモスはもちろん、リヴァイアサンよりも防御力や耐久力が低いのかもしれない。

斬撃を受ける度に、身体を覆っていた炎が少しずつ減っていく。

気がつけば一回り以上も身体が縮んでいた。

「む?」

そのとき何を思ったか、フェニックスは自らマグマの中へと飛び込んでしまう。

「……ふむ、さすが不死鳥などとも呼ばれているだけのことはあるな」

再びマグマから姿を現したとき、元の燃え盛る姿を取り戻していた。