軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話 激おこ

「つ、ついに中心部に辿りついたぜ……」

「長かった……。まさか我々ですら半年もかかってしまうとは……」

「二人とも、満足するのはまだ早いぞ。ここに棲むという伝説級の魔物。その存在の有無を確認しなければならない」

「ゼルトの言う通りよ。……それに、場合によってはすぐに逃げ出せるように警戒しておかないと」

バチューダ大平原の中心部。

巨大な岩が鎮座するそこに、四人組の男女の姿があった。

彼らはここバチューダ大平原を攻略することだけを目的に、世界各地から集められて結成された超一流の冒険者たちだった。

全員がSランク。

その職業は、《騎士王》《魔導王》《盗賊王》そして《大聖女》と、いずれも【最上級職】である。

しかしそんな彼らでも、先ほど当人たちが言っていた通り、ここに至るまでに半年もの月日がかかってしまっていた。

もっとも、今まで誰一人として中心部に辿りついた者がいないと言われていることを考えれば、それも仕方のないことだろう。

「それにしてもこの辺り、まるで魔物がいないな……?」

ここまで、中心部に近づくほど凶悪になる魔物たちに苦しめられてきたのだ。

だがここにきて、逆にまったく魔物の姿を見かけなくなってしまっていた。

「その伝説級の魔物の縄張りだからじゃないか?」

もしそうだとしたら、よほどの強敵だろう。

例えば古竜のように、長く生きた魔物には知能が宿ると言われていた。

伝説級の魔物ともなれば会話が成り立つ場合も多いが、果たして……。

念のため彼らは隠密状態にある。

《盗賊王》が獲得できる〈隠密〉の上位スキル〈絶在〉を使えば、本人だけでなく仲間たちもその恩恵を受けることができた。

凶悪な魔物が跋扈するこの平原を踏破する上でも非常に役に立ったスキルだ。

ただし伝説級の魔物にも効果があるかは分からない。

「それにしても大きな岩だな」

「長径三百メートル、短径百五十メートル。高さも百メートル以上ありそうね」

彼らはとりあえずその岩の周囲をぐるりと回ってみることにした。

形状は楕円に近く、岩肌は黄土色をしている。

触れてみると、不思議な感触がした。

「ちょっと温かい?」

「ああ。それに弾力があるな。……これは本当に岩なのか?」

と、そのときだった。

突然、遥か上方の岩肌に亀裂が走る。

かと思うと、割れた岩肌の向こうから現れたのは――――巨大な眼球。

「「「「……は?」」」」

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

さらに、その巨大岩が 身(・) 体(・) を(・) 起(・) こ(・) す(・) 。

それだけで大地が震え、砂嵐が巻き起こった。

そして彼らの目の前に現れたのは、身の丈ゆうに百メートルを超す怪物だ。

「べ、べ、べ……ベヒモス!?」

「ま、まさか、伝説級どころか、神話級の魔物だとっ!?」

そう。

ずっと彼らが、いや、誰もが岩だと思っていたのは、神話級の魔物であるベヒモスだったのである。

見た目はカバに似ているだろうか。

ずんぐりとした身体つきで、胴体が長めで、体格の割に四本の脚は随分と短い。

そのせいで、立ち上がったとしてもあまり肩高は変わらない。

そのときベヒモスが大きく口を開けた。

鼻部が一気に空へと跳ね上がる。

桃色の口内が丸見えになり、顎が外れてしまったのではないかというほどの大口だ。

そこにはドラゴンですら噛み殺せそうなほど鋭く太い、巨大な牙の列が並んでいる。

ゴオオオオオオオオッ!

「「「うああああっ!?」」」

いきなり巻き起こった暴風。

彼らはベヒモスのいる方角へと吹き飛ばされた。

ブフウウウウウウウッ!

「「「ぬああああっ!?」」」

続いてベヒモスはゆっくりと口を閉じる。

今度は逆方向の暴風が発生し、彼らはまたしても吹っ飛ばされてしまう。

実を言うと今のはただの欠伸だったのだが、それだけでSランク冒険者たちは成すすべなく翻弄されてしまった。

土まみれになって地面に転がり、絶望的な表情で目の前に現れた怪物を見上げる。

「ば、化け物だ……」

「……は、早く逃げないと」

「こんな奴からどうやって逃げるって言うんだよっ!?」

この巨大さだ。

たった一歩で数十メートルは進むだろう。

そんな相手に追われて逃げ切れるとは思えない。

「い、いや、相手は神話級の魔物だっ! 話せば分かるかもしれないぞ……っ!」

「か、会話ができるのかっ?」

「やってみるしかないだろ!」

「誰がやる!?」

「俺は嫌だ!」

「俺だって嫌だよ! そうだ、きっと女の方が油断するはずだ!」

「ちょっと!?」

やがて代表して前に出たのは、《騎士王》の冒険者だった。

なんと勇敢な男だろう。

「くっ……あそこでグーを出してさえいれば……!」

と思いきや、ただジャンケンで負けただけだった。

「わ、我々は決してあなたに危害を加えるつもりはない! いや、見ての通り、ちっぽけな人間だ! そんなことは不可能だろう! ど、どうか、我々を攻撃しないでくれ!」

恐怖で足をガクガクさせながら、彼は巨大な怪物に訴えかける。

果たして返事はかえってくるのだろうか。

すると、

『……寝てた』

なんとどこからともなく声が聞こえてきた。

しかも人間の言葉だ。

これならどうにかなるかもしれないと、Sランク冒険者たちの胸に希望の光が灯る。

「ね、眠っていたところを起こしてしまって申し訳ない! だが知らなかったのだ! 我々はすぐにここを立ち去ろう! そして二度とここに人間が立ち寄らないように周知しておく!」

そんな《騎士王》の主張を聞いているのかいないのか、ベヒモスは言う。

『気持ちよく寝てた』

さらにこう続ける。

『激おこ』

どうやら怒っているらしい。

『許さない』

「「「ひ、ひいいいいいいいいいっ!?」」」

直後、ベヒモスが前脚を地面に叩きつけた。

◇ ◇ ◇

俺はようやく巨大岩の近くまでやってきた。

しかし……

「ふむ、岩が動き出したんだが?」