軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7 紛物薬害騒動

それからしばらくは平穏な日々が続いていたが、二週間近く経ったある日、外が騒がしくなったかと思うと、店の前で馬車が急停車し、兵が店内に入ってきた。

この日はジョシュアが家にいて、剣を片手にフレデリカの前に立った。

「何の用だ」

ジョシュアの殺気に兵は先日のようにいきなりフレデリカを捕まえるようなことはしなかったが、

「その薬師の女に用がある」

と指さし、フレデリカに近寄ろうとした途端ジョシュアの拳が飛んでいた。店の外まで飛ばされた仲間を見て、勢い込んでジョシュアに飛びかかった者も一撃で伸され、気がつけば倒れていないのは最初に声をかけてきた者だけだった。

薬屋の用心棒にしては強すぎる。沸き起こる震えを抑えながら、

「せ、先日のスライムの件で、王が、や、薬師の女に、王城まで急ぎ、く、来るように命じられ…」

「王? 王子ではなく?」

フレデリカの問いかけに、兵は何度もうなずいた。

「そう。王命なら行かなければね。…ジョシュアも連れて行くわね」

「そ、それは…」

フレデリカの笑顔とジョシュアのひとにらみで、護衛の同伴も認めざるを得なくなった。

今回は城の正面に馬車が横付けされ、平民の普段着のままだが正面の入口からの入城が許された。先日より広い部屋に案内され、そう待たないうちに王が現れた。あのフィリッポ王子も、あの時一緒だった魔法使い二人も一緒に入ってきた。

フレデリカは椅子から立ち上がり、深く礼をした。王を前にしても少しも物怖じする様子はなく、着席を促されると、軽く一礼して腰掛けた。

「このたびは急な呼び出しになり、足労をかけたが、急ぎの案件なのだ。… こ(・) れ(・) が貴殿から怪しげな顔に貼る物の作り方を教わったというのだが、相違ないか?」

王はフィリッポを横目で睨み、フィリッポは真っ青になったままうなだれていた。

「いいえ、それは事実ではありません」

フレデリカの答えに、フィリッポは顔を赤くしてフレデリカを指さし、

「嘘だ! この女が」

と叫んだが、

「黙れ」

と王が一喝した。

「今は私が話している。口を慎むように」

フレデリカは王とフィリッポのやりとりを見ながら、王は少しは ま(・) し(・) ならいいけれど、と思いながら言葉を続けた。

「…恐れながら、私が説明をしましたのは、怪我を治療するためのシートの作り方です。薬師の作る薬を弟子でもない方に教えても再現は難しいと申し上げた上で、どうしても知りたいとおっしゃいましたので、先日見学いただきました」

「…なるほど。見よう見まねで安易に薬を作らせたと。そういうことか?」

王はフィリッポに再確認したが、フィリッポは何も言わなかった。続いて魔法使いに目をやると、

「お、恐れながら」

と、魔法使いの一人が口を開いた。

「殿下に同じ物を作るよう仰せつかり、先日こちらの方に聞いたとおりに作ってみたのですが、あの時見たような無色透明にはならず、まだ時間がかかると申し上げたのです」

「色は薄くなっていたじゃないか」

フィリッポは反論したが、

「私共はまだ早いと申し上げました。それを勝手に持って行かれたのは殿下です」

と魔法使いは王子をかばいもせず言い切った。

フィリッポは小さな声で、ぼそぼそと言い訳した。

「…アデーレが、…必要だと言ったんだ。作りかけでもいいから、と」

フレデリカは今の説明で何が起こったか、概ね理解した。

「スライムをつかんだ方、切った方は魔物用の防具をおつけになっていましたか?」

それを聞いた王子は、さらに顔色を悪くした。

何も答えない王子に代わり、王が答えた。

「兵が三名火傷を負った。溶解液を浴びた者は回復魔法の治療を受け、腕は失わずに済んだが…」

「そんなスライムを、アデーレ様はお顔につけたのですか?」

「…アデーレではない」

そう答えた王は怒りでブルブル震え、手を握りしめた。王子はさらに小さくなり、魔法使いが答えた。

「アデーレ様はスライスされたスライムを水におつけになり、一日置いて色が薄まったのを確認されましたが、怖くなったようでご自身でお使いにならず、侍女にお与えになったそうです。アデーレ様のパックの話を侍女から聞いていた王妃様がそれを譲り受け…」

王直々に呼び出しがかかったのは、このためか。

「頼む、薬師殿」

フレデリカは王から依頼を聞く前に頭を押さえていた。

「王妃の顔は溶けて腫れ上がり、治癒魔法をかけても効きが悪く、治りきらぬのだ。何とか力を借りられぬか」

おまえにも責任があるからなんとかしろ。そう言われると覚悟していた。しかし王からの依頼はフレデリカに薬師としての力を借りたいというものだった。それならば、受けなければいけない。

呪いはかかっていないだろうから、本来なら治癒魔法を受けつけるはずなのに、効きが悪い。その上での依頼となるとかなり難しいことは予想された。何せ薄めたとはいえ、瘴気を持ち、魔力の残ったスライムの中身をそのまま顔に貼ったのだから。

「かなり難しいと、先に申し上げましょう。私は殿下にお見せした製法で外傷を治すことができるシートを作っていますが、それが唯一治すことができないのが、スライムによってつけられた傷なのです」

それを聞いて、王も王子も魔法使い達も希望を絶たれ、大きく落胆した。

同族だからだろうか、あのシートはスライムから受けた傷には効果がない。それはフレデリカも経験的に知っていた。しかし先日入手した あ(・) れ(・) なら、もしかしたら…。

「今回使ったスライムは、青色でしたか?」

フレデリカの問いに、魔法使いは

「はい」

と答えた。

「それでしたら、試したいことがあります。三日、お待ちいただけますか? 必ずしも良い効果が出るとは限りませんが、それでも罰を受けないという約束でしたら」

フレデリカの言葉に、王はしばらく考え、

「わかった。…頼む」

と答えた。