軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49 死に戻り令嬢、蚊帳の外

セリーヌ嬢が、争いあう王太子皇太子を止めた!?

「一体何をしているのです。国家を代表する両太子が子どものように取っ組み合って。国家間の交渉事はもっと威儀を正すべきではないですか!?」

「せ、セリーヌ嬢……!?」

「さっさと手を放しなさい!」

セリーヌ嬢の迫力に押し負け、キストハルト様は皇太子の上からどく。

ようやく抑えから脱したフリード皇太子は命からがら身を起こし……。

「フリード様、アナタも至りませんわよ。ヒトをからかうようなマネを繰り返すからしっぺ返しを食らうのです」

「やれやれ反論できんな。このような不覚を演じるようでは……」

立ち上がったフリード皇太子に駆け寄るセリーヌ嬢。

取っ組み合いで乱れた彼の衣服を甲斐甲斐しく直している。

「見るべきものなど一つもないと思っていたスピリナル王国だが、例外はあったようだ。キストハルト王太子のなんと苛烈にして鋭い才能よ。彼がいずれ国王となるなら田舎小国と侮ることはできなさそうだな」

「フリード皇太子よ、改めて聞きたい」

キストハルト様が、威儀を正して問いかける。

さっきまでの揉み合いへし合いなどなかったのようにして。

「アナタは本当に何が望みなのだ? 同盟を申し込んではきたものの、我が国を『田舎小国』と侮り重く見ている様子もない。そんな国と盟を結んだところで何のメリットもないだろう。アナタの本当の狙いはどこにある?」

「いや、同盟を結びたいというのは本心からだが」

「出まかせを……!」

そうよね、誰であろうと田舎の小国と見做している相手と仲よくしたいなんて思わない。

じゃあ皇太子が訪問してきた理由は、同盟じゃない?

「フリード様、いい加減そろそろ本心を明らかにしてはどうですか? 願い事が何か、説明もせずに叶えてもらおうなど相手も困りますでしょう?」

「ふむ、『無言詠唱』とやらのように上手くはいかないものだな」

さっきからフリード皇太子とセリーヌ嬢のやりとりが砕けている。

まるで気心の知れあった仲のように。

「ならば私から説明いたします。……キストハルト王太子殿下」

「は、はいッ!?」

「願わくば、スピリナル王国とデスクローグ帝国の同盟話、受けてはいただけませぬか? 同盟の条件はそのままに」

「同盟の条件というと……」

私とフリード皇太子との結婚。

「バカを言うな! それを受け入れられるなら最初からこんな騒動は起こしていない! エルトリーデがオレ以外の男と一緒になるなど許さない!」

「フリード様が提示した条件はエルトリーデ様ではなかったでしょう? この国の女性との結婚……だったのでは?」

たしかに。

フリード皇太子が望んでいたのは、この国出身の女性との結婚ということで具体的に誰かの指定はなかった。

そこへ私を宛がったのは、スピリナル国王陛下の勝手な判断によるもの。

「別にフリード様は、エルトリーデ様を求めたわけではありません。他のスピリナル出身令嬢でも条件に合っていますわ」

「そ、そういえば……!?」

「私が参ります」

「はいッ?」

はいッ?

「このシュバリエス辺境伯令嬢セリーヌが、スピリナル王国を代表してフリード様に嫁ぎます。それで丸く収めてはいただけませぬか?」

セリーヌ嬢が、隣国皇太子への嫁入りに立候補した!?

どういうこと!?

そもそもフリード皇太子を国賓に招こうといいだしたのもセリーヌ嬢だったわ。

始まりが彼女なら、結びも彼女?

まさかここまでの流れすべて、セリーヌ嬢が計画したことだったって!?

「同盟の条件としてセリーヌ嬢が帝国へ嫁ぐというのか?」

「正確には逆だな」

呆然とする我々へ向けてフリード皇太子も被せて言う。

「私をセリーヌと結婚させろ。そうすれば見返りとして我が国と同盟を結んでやってもいい」

「どういうことッ!?」

じゃあ彼らの目的は……。

フリード皇太子とセリーヌ嬢の目的は……。

二人の結婚を我が国に認めさせることだったの!?

そのためにセリーヌ嬢はフリード皇太子を国賓として招くことを画策し、フリード皇太子はそれに乗じて乗り込んできたと!?

「ということは……二人はかねてからそういう関係……!?」

「そう」

詳しく聞いてみたら、二人の馴れ初めは以下のようなものだった。

セリーヌ嬢が生まれ育ったシュバリエス辺境伯領が、そもそもデスクローグ帝国と国境を同じくしている。

その関係で二人が出会う環境は整っていたらしい。

セリーヌ嬢はあれで男勝りな性格で、魔法を頼みにみずから国境警備に出ることはよくあったそう。

それに対してフリード皇太子も、隣国の様子を窺うために国境周辺を視察に訪れるのはよくあったそうな。

そこで二人は運命的な出会いを果たした。

当初こそ得体の知れない相手同士敵対していたが、そのうち惹かれ合うようになって将来を誓い合った。

片や皇太子、片や公爵に匹敵する権限を持った辺境伯の娘。

身分的に釣り合わないこともない。

「唯一の問題は、セリーヌが他国の貴族令嬢だということだ。さすがに結婚するには本国の許可を得なければならない」

「それで我が国に乗り込んだというわけか。そして同盟をチラつかせて国王から許可をもぎ取ろうとした」

しかし、それでは疑問が残るわ。

「だったら何故曖昧な要求をした!? セリーヌ嬢以外に求める気がないのならしっかり名指しすればよかっただろう! それを、この国の女性であれば誰でもいいような言い方をするからここまで事態が混迷した!」

「一つは、この国を試したかった」

フリード皇太子は続ける。

「私とて一国を預かる皇太子。色恋だけですべてを決定するわけにはいかん。セリーヌを妃に迎えるからには、その母国とも友好な関係を築かねばいかんが、より詳しくどう扱うべきかを決めかねていた」

真実対等な友好国として接するか?

それとも利用するだけの駒として扱うか?

「それを見極めるための揺さぶりだったというわけか?」

「途中までは失望の極みだったよ。この国はあくまで魔法だけしか判断の基準を持たず、魔法の使えない貴族令嬢を使い捨てとばかりに差し出してきた。愚かであるに加えて卑劣。こんな国は同盟という名の鎖で縛り、奴隷化するのがもっともいいと思ったほどだ」

「否定できないのが残念だ」

キストハルト様が苦笑交じりに言う。

「しかしお前の乱入で考えが改まったよキストハルト王太子。いずれお前が支配するスピリナル王国とは……いい友人になれそうだ」

フリード皇太子殿下は、改めて進み出ると腰を折って、頭を下げた。

周辺国から恐れられる軍事国家の次期皇帝が、公の場で頭を下げた……!?

「改めて希う。未来のスピリナル王国の支配者キストハルトよ。貴国の臣民であるセリーヌを我が妃として迎えさせてほしい。その許可を頂きたい」

「答える前に一つ質問したい」

何?

「我が国がセリーヌ嬢の代わりにエルトリーデを差し出そうとした時、お前はどうするつもりだった? 結局お前はオレが乱入するまで流れを変えることをしなかった。まさかあのままエルトリーデまで連れ帰るつもりではなかったろうな?」

「私はセリーヌ一筋だ。彼女を妃に迎えたあとも、妾などをとるつもりは一切ない。エルトリーデ嬢のことだって、お前の乱入がなければあの直後に流れを止めて、撤回を求めるつもりだったさ」

「もっと早く止めることもできたろう!」

そうよね、私が結婚相手に選び出された時点で同盟相手への見極めも済むことでしょうし、セリーヌ嬢への想いを示すためにも少しでも早く介入した方がよかったんじゃ……!?

「それは一種の、意趣返しと言ったところだな」

フリード皇太子は薄く笑う。

「意趣返しだと?」

「私の愛するセリーヌを『妃候補の一人』だなどと言って呼び寄せ、他多くの令嬢と共に侍らせるいけ好かない王太子に一泡吹かせる、絶好のチャンスだと思った。意中の姫君が別の男のものになるかもと焦らせて、私と同じ気持ちを味あわせてやりたくなったのさ」

「貴様……ッ!?」

たしかにセリーヌ嬢も、キストハルト様の王太子妃選びのために王都へ呼び出されたのよね。

しかも持ち前の魔力の高さから大本命と目されていた。

彼女を愛するフリード皇太子からしてみれば、かなりやきもきする状況だったに違いないわ。

実際相当焦っていたのではないかしら。

セリーヌ様が王太子妃に選ばれることを阻止して自分のものにするためにも、かなり無理して今回の訪問を取り付けたんじゃ……!?

そこまでの話を聞き、そして理解した上でキストハルト様は……。

「厄介な男だなお前は。話を聞けば聞くほど殴ってやりたくもなるし、感銘したくもなる気がする……!」

「私もお前に対して同じ感想を持っているよ」

二人の男性は笑い合った。

「断っておくがオレは王太子。いずれこの国の全権を担うとしても今はまだ国王である父に逆らえない。あの人がダメだと言えばオレの決定など簡単に覆るぞ」

「しかし遠からずお前が国王となるのだろう? 魔法でしか物事を考えられない現王よりもお前の方が十倍信頼できる。私もまたお前の行動には信頼で返そう」

「……」

キストハルト様は何とも言えない酢を飲んだような表情になってから、観念したように深いため息をついて……。

「いいだろう、少なくとも王太子妃選びに関しては当事者である私の意見が最優先される。いまだセリーヌ嬢は我が妃候補として保留されているが、オレの命令で正式にその立場を解く。であるからには彼女が誰と結婚するかは、彼女自身の自由だ」

「礼を言う。感謝の表明として我が治世におけるデスクローグ帝国は、スピリナル王国との同盟関係を堅持していくと誓おう」

互いに手を握り合う次期指導者。

これですべては丸く収まり、大団円となって終了した……のかしら?