軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45 王太子、NTRピンチを迎える

オレは王太子キストハルト。

……あの帝国のドラ息子が!

オレの国にやってきて好き放題やりやがると思っていたが、挙句の果てにとんでもないことを言いだしやがった!

同盟を結ぶのはいい。

このオレも王太子として懸念していたことだ。隣接する武力国家デスクローグの脅威は放置していいものではなく、何らかの形で楔を打っておくべきだと。

同盟を結んで友好関係を築き上げるのももちろんいい手だ。

オレも向こうからの提案には喜んで賛同したいところだった。

代わりに差し出させるものが、オレのもっとも大事なものでなかったならば……。

オレはすぐさま父たる国王へ怒鳴り込んだ。

「父上! どういうつもりですか!?」

同盟締結と共に帝国の太子が求めたもの。

それは自妃だった。

スピリナル王国から帝国へと差し出す女性に選ばれたのは、オレが愛するエルトリーデだった。

皇太子の方から名指しで求められたのではない。

皇太子が言う『もっとも賢明で、もっとも気高い女性』という条件付けだけで特に指定されていなかったのを、我が国の王がエルトリーデを選び出したのだ。

オレへの相談は一切なく。

このオレが兼ねてから『エルトリーデを妃に迎える』と宣言している、それを知っていながらエルトリーデを他国に出すと決定した。

その魂胆は見えている……!

「おお、どうした息子よ、そのように血相を変えて?」

父は知らないフリをしているがとぼけ方があまりにも杜撰で却ってオレの神経を逆撫でする。

「あの野蛮帝国のドラ息子に、エルトリーデを与えるそうですな! 彼女は我が妃に迎えると宣言しました! どういうおつもりか!」

いくら王子だからと言って、オレが国王陛下に対してこれほど声を荒げたことはかつてない。

王と王子……どちらが上かなんて貴族社会に身を置かなくてもわかること。

だからオレはこれまで礼儀を払って血を分けた父親に接してきたが、さすがにこんな仕打ちをされたら礼儀もクソもない。

「まあまあ落ち着け。向こうが言ったのだぞ友好の証として我が国の女性を妃に迎えたいと?」

「それにわざわざエルトリーデを選ぶ必要はどこにあるッ!? 女なら彼女意外にも掃いて捨てるほどいるだろう!!」

「そうは言うても、皇太子の妃ともなればいずれは彼の帝国の皇妃となろう? それこそ選りすぐりの女でなくば礼儀を欠くことになろう?」

国王め空々しい……!

もっともらしいことを言っていても魂胆はわかっているぞ。

コイツらは、オレとエルトリーデを結婚させたくないのだ。

魔法だけがこの世の価値だと思っている連中。そんなヤツらにとってエルトリーデは魔力がないから価値もゼロ。

どんなに美しく、賢明で、心根清らかで生まれ気高いとしても、魔力がないだけでどんな端女よりも下なのだ。

――『そんな女と、王太子が結婚するなどあってなるものか』。

そう思ってここ最近、オレと散々揉めてきた。

エルトリーデと結婚できないなら王位継承を放棄するとまで言ったこのオレと。

そんな父上たちにとって、今回の皇太子は降って湧いた絶好チャンスなのだろう。

自分らにとっては目障りそのものでしかない『魔力なし』令嬢を他国に押し付け、その見返りとして同盟を結ぶことまでできる。

一石二鳥の決断と言うわけだ。

オレにとっては愚行でしかないがな!

「父上……! アナタはこれまでエルトリーデを散々バカにしてきた。魔力のない彼女にスピリナル王国の貴族たる資格もない。彼女の父親であるエルデンヴァルク公爵は犬でも孕ませたかと、それともエルデンヴァルク公爵夫人には平民の浮気相手でもいたのかと。……本人たちの耳に入れば離反され、国土を失うほどの暴言を吐いておられた」

「うぬ……!」

「それを今さら他国の貴人に嫁がせようというのか? 皇太子妃として迎えてもらうのです。いわば我が国の代表として送り出すと言っていい。それを『貴族の資格なし』『犬の子』などと侮辱してきた女性と知れれば相手国への侮辱ととられますぞ!!」

エルトリーデを貶したいわけではない。

ただ父にして国王たるこの人の、言葉の軽さをなじりたいだけだ。

これまで散々に罵っておきながら、都合がよくなるとその罵りをなかったことにして自分の役立つよう動かす。

そうやって言を左右にする行動は、周囲から信頼を失わせる。国王みずからが行えば国家そのものの信頼喪失となりえる。

そのような軽薄な行いは、長い目で見れば見るほど重大な損失になりえる。

国家の長に就く者が絶対にしてはいけない行いだ。

「大人しくしなさいキストハルト。敬愛すべきお父上に何という口の利き方です」

「母上……!」

そこへ援護とばかりに口を挟むのは我が母たる王妃。

彼女もまたエルトリーデを目の敵にする一人だ。

「国王陛下の前言をなじるならアナタはどうです? アナタはこれまでエルトリーデ嬢を散々に誉めそやしていたではないですか? それを今になって国王陛下の言をあげつらって反対するなど、それこそ矛盾ではありませんか?」

「もちろんオレはエルトリーデをこの国一番と思っています。だから反対している。この国の王太子妃にもっともふさわしい女性を、何が悲しくてヒトにくれてやらねばならん!? エルトリーデこそ絶対に外へ流出させてはいけない人材です!」

そんなエルトリーデを散々こき下ろしてきたアナタたちの不見識、そして都合がよくなると翻すアナタたちの不条理をオレは責め立てた。

オレ自身は一瞬たりとて初心を曲げた覚えはない!

「落ち着けと言っているのです。……たしかにエルトリーデ嬢は立派な女性です。賢くもあり品格もあり生まれもいい。アナタの言う通り完全無欠のレディではありましょう」

「何を今さら……!?」

「しかし彼女は、この国においてのみ完璧ではないのです。魔法大国である我が国の中では」

相変わらず彼女が『魔力なし』であることをなじるのか?

「アナタがどう言おうと我が国において魔法にもっとも重きが置かれる事実は変わりません。『魔力なし』のエルトリーデ嬢がそんな国の王太子妃となれば、必ずや苦労するでしょう。そうは思いませんか?」

「たしかに……そうかもしれませんが……!?」

「しかし魔法のない他国へと嫁げば、彼女の唯一の欠点そのものが消え去ります。エルトリーデ嬢は真の完全無欠の妃として、何ら不安のない幸せな結婚生活を送れるでしょう。彼女にとってはその方がいいと思いませんか?」

「……」

返事に窮したオレの横で、父上が『そうじゃ、そうじゃ!』と囃し立てる。

「アナタには自分の父母が、エゴを押し付けているように見えるかもしれません。しかし私も国王陛下も、皆が幸せになれる道を模索した末の決断なのですよ」

「そうじゃ! エルトリーデは自分の才覚を発揮できる場所に嫁げて、我が国は帝国と同盟を結べる。そしてお前は魔力を持った普通の令嬢を妃に迎えられる。……いいこと尽くめではないか!!」

お話にならない。

エルトリーデを失うことがオレにとって……そしてこの国にとって益になるというのか?

逆でしかないだろう。

「国王陛下……アナタの後継者として言わせていただく。オレはその魔法第一の考えが、いずれこの国を滅ぼすと思っている。魔法こそこの国を蝕む病巣だと」

「何をッ!?」

思ってもみぬ言葉だったのだろう国王の顔が一気に赤くなる。

しかし今こそその言葉は説得力をもって伝わるはずだ。

昼間、帝国が持ち込んできた銃や大砲に散々ビビらされた今でこそ。

「帝国が所持する新兵器の数々に、もはや魔法では対抗できないとわかっているでしょう? それらの状況に飲み込まれず我が国が生き延びるには、魔法にべったり寄り添った考えを捨て、新技術を精力的に取り込んでいかねばならない」

オレが新たに国王となった暁にはその政策を積極的に推し進めていく所存だ。

「そのためにもエルトリーデの協力は必要不可欠だ。知識豊富で開明的、実家は港を有し、様々な新技術の入り口となるエルデンヴァルク公爵領の娘エルトリーデが」

もちろんエルトリーデは苦労するだろう。

母上たちの言う通り、こんな古臭い考えに縛られた国の王太子妃となって。

しかしオレも苦労する、因習を撤廃して新体制を築き上げるのに生みの苦しみは付き物。

オレとエルトリーデは、いわば同じ敵に立ち向かって同じ苦労を味わい、乗り越えることで夫婦の絆を深め合う。

人生を一緒に歩んでいくパートナーとしてエルトリーデ以上に相応しい女性は、他にはいない。

「いい加減にしなさい! やめなさい世迷言は!!」

母上が金切り声を上げる。

「キストハルト、今の言葉は聞かなかったことにします。正式に国王の冠を頂くまでに、その間違った考えを改めておきなさい」

「オレは間違っていない。どうしても嫌ならオレから継承権を取り上げるがいい」

できるわけないがな。

二人の間にできた息子が俺一人のみというのもあるが、オレは光の精霊に認められた光の御子。光属性の魔法をもっとも得意とする。

魔法は、スピリナル王国の王族及び貴族のみの所有物だが、その中でも特に光属性の魔法だけは王族のみが使える。しかも才能を持った限られた男子王族だけに。

我がスピリナル王国において、光魔法を得意とする王が即位したとき最大の繁栄を迎えると言い伝えられている。

実際に記された歴史もそれを裏付けていた。

オレが光魔法の使用者だとわかった時、国中が諸手を上げて沸き上がった。繁栄が約束されたと喜んだとか。

オレ自身にしてみればくだらない迷信だと思うが、それほどに光魔法を使う王子は貴重なものなのだろう。

そんなオレを廃嫡できるわけがない。

この二人にそんな度胸はない。

それがわかっているからオレも昂然と噛みつけるわけだ。

オレは、全国民が幸せに過ごせる我が御世を完成させるために何も諦めない。

だからエルトリーデのことも一歩だって引かない。

そもそもこの地上でもっともエルトリーデを愛している男はオレなのだ。

オレ以外の男に嫁いで彼女が幸せになれるわけがない。

オレのため、エルトリーデのためにも、このふざけた政略結婚を実現させるわけにはいかない!!