軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40 死に戻り令嬢、同床異夢を見せる

セリーヌ辺境伯令嬢のために、色々することになった。

彼女はこの国に国賓を迎えたいらしい。

そのために同意を取り付けなければならない相手は主に三名。

国王、王妃、王太子。

この三人が『YES』と言えば国家としての意向は大体固まる。

最小限の行動で最大限の成果を。

……ということで私は、この三人をターゲットにして動くことにした。

「……それでオレに会いに来たと?」

「はい」

「てっきりプロポーズの返答を聞かせてくれるのだと思ったがね」

あからさまに落胆した表情のキストハルト様。

面会場所になった彼専用の執務室では、先ほどまで詰めていた文官たちも一時退室させられて完璧な二人きりだった。

「それでしたら、その場でお断りさせていただいたはずです」

「本心から出た言葉ではないとオレは信じているのでね。いずれキミの心境も変化して、素直に心に従ってくれるものだと」

「理想に現実が寄り添うものと思っているなら、それを狂気というんですわよ」

「厳しいねエルトリーデは。だからこそ王太子を諫める王太子妃に相応しい」

何を言っても自分の都合のいいように持っていく。

軽口ばかりで全然本題に入れないじゃないの。

「我が国に国賓を招きたいと思っています。つきましては王太子殿下にもご協力をお願いいたしたく」

「ダメだよエルトリーデ。主語はハッキリするべきだといつも言われるだろう?」

「う……ッ!?」

「それを企図したのはシュバリエス辺境伯家の御令嬢。……キミは協力者に過ぎない」

この王子……やっぱり抜け目がないわね。

私とセリーヌ嬢の計画のことを既に知っていたなんて。

「国賓か……少なくともオレが生まれてからそんな人がやってきた記憶はないね」

「私もそうですわ。ホント、この国はどうかしていますわね」

「ああ、何十年も国賓を迎えたことのない王国なんて、それ周囲から国家として認められてないんじゃない? って言われてるのと同じだからね」

しかしスピリナル王国は意に介さない。

この国には魔法があるから。

魔法がこの国を唯一至高に証明しているんだから他者から認められる必要はない、という思考なんだわ。

「国賓なんていわば大昔の忘れ去られた旧システムだ。辺境伯令嬢は何だってそんなものを今さら引っ張り出してきたんだろうか?」

「そう簡単に思惑を読ませてくれる御方ではありませんよ。でも、この一策は様々な人たちに様々な利をもたらします」

私にとっての利は、私の目的によい影響を与えること。

国賓招待を成功させればそれがセリーヌ嬢の名声上昇へと繋がり、彼女の王太子妃への距離がぐっと近づく。

「そんなにキミは、辺境伯令嬢を王太子妃にしたいのかい?」

キストハルト様にはバッチリ見抜かれていた。

「まったく傷つくね。愛する女性からも望んでいない妃をあてがわれようなんて。オレと結婚するのがそんなに嫌? オレには男としての魅力がまったくないのかな?」

「そんなことは……!?」

むしろ溢れ返っているでしょう。

絶世の美男子に高い能力。品もあるし優しいし、それでいて未来の国王という最高の身分。

彼と結婚できるならどんな女も喜ぶでしょうね。

……だから前世の私も、汚い手段まで使って彼を狙った。

「……『まで』と仰いましたが?」

「今のセリフからそこ拾う? もっと反応してほしい語句があったんだが……そうだね、オレに辺境伯令嬢を娶らせようとしているヤツはいっぱいいるよ。何しろ王太子妃候補の大本命だから」

高い魔力を持っていて辺境伯令嬢。

魔法と身分、この二つの要素が申し分なければ王太子妃の座は確実だわ。

「特にウチの両親がね。キミとのことを正式に伝えてから大慌てで、やたらと辺境伯令嬢のことをオレと会わせようとするんだ。茶会やら晩餐やらに同席させたり、酷い時には二人だけで観劇に行ってこいとか言い出すんだよ」

「そうすれば自然に仲が深まり、相手を変えるだろうと思ってらっしゃるのですね」

両陛下の気持ちもわかるわ。

歴史ある魔法大国としては『魔力なし』の王太子妃なんて言語道断。

それに比べれば高い魔力を持ち、技術も申し分ないセリーヌ嬢こそ理想的な王太子妃だろう。

「現実を理想に沿わせようとするのは狂気だっけ? キミが言った言葉だが彼らにこそ当てはまると思わないか?」

「あの方たちの考えの方が現実的ではありますが」

ただそのことを議論しても埒が明かない。

さっさと本題を突き進めるべきだわ。

「国賓の話、アナタの目的を叶えるためにもよい話だと思いませんか?」

「ん?」

「殿下は、この国の何でも魔法で価値をつけようという考えがお嫌いなのでしょう? ご自分の御世になったら、それを抜本的に刷新されようとなさっている」

「その通りだ。さすがエルトリーデはオレのことをよくわかっている」

「そういうのはいいです」

だとしたらやはり国賓の招待はいいきっかけになるわ。

セリーヌ嬢が招こうとしている他国の賓客はデスクローグ帝国からやってくる。

あそこは大国で、大陸屈指の武力国家よ。

一時期は戦争を繰り返して対立国を粉砕併呑、どんどん大きくなってこの辺一帯でもっとも大きな国となった。

今は肥大化した国土を支えるため内政に力を入れているようだけれど。

だからこそ技術の進歩も目覚ましく、特に兵器関連は世界最高水準と言っていいわね。さすが武力国家ってところ。

「殿下は“弩”というものを御存じで?」

「話には聞いたことがある。機械的な仕組みで打ち出す弓矢のことだろう?」

さすがキストハルト様よく勉強していらっしゃるわね。

彼が自国の魔法主義を忌避し、国外に目を向けようとするのはけっして見知らぬものへの憧れゆえではないわ。

「カラクリを使って弓矢を引き絞るんですの。そうすることで手では引けないほど頑強な弓から矢を放てるんです。だから威力も段違いで、普通の弓矢なら届かない距離まで撃ち出せるし、貫けない防壁も簡単に穴だらけにできるそうですわ」

「その弩を、デスクローグ帝国は持っていると?」

「恐らく数千は保有していることでしょうね。そして、これは聞いた話ですが……弩の射程距離は、風属性による攻撃魔法のそれを上回るそうです」

「ほう」

魔法攻撃の中でもっとも広い射程を誇るのは風属性。

その風魔法より長い距離から攻撃できるってことは、魔法で弩に対抗するのは不可能ってこと。

射程の外から一方的に射かけられ続けるだけだわ。

「帝国の賓客をお招きした際は、是非ともこの弩を使ったデモンストレーションを行っていただきましょう。きっとこの国の方々も驚いてくれるわ」

「冷や汗を流すほどにな」

私の意図はキストハルト様に伝わったみたい。

つまり国外からやって来る賓客は、自国と他国の違いを見せつける絶好のチャンス。

魔法こそが至高と思っているスピリナル王侯貴族に、既に国外には魔法に比肩する……あるいは上回る戦闘技術があるのだと知れば、魔法に拘り続けるなどできないだろう。

それはキストハルト様が目指す意識改革に大きな追い風となるはず。

人は『今のままでもいい』と思う限り変わることはできないんだから。

「たしかにこの政策、オレが目指す世へ大きく押し進めてくれる力があるようだな。利になるならば受け入れよと」

「ご明察にございます」

「では父上の方はどうやって説得する? オレも所詮まだ王太子、何事も今は国王である父の考えの方が優先される」

「国王陛下には陛下のお好みに合った言葉でわかっていただければよいかと」

そもそもの私の目的に近いところである、セリーヌ辺境伯令嬢の王太子妃確定。

それへ有利に働くならば国王陛下も喜んで頷くだろうと。

私のような『魔力なし』が王太子妃になるなど断固阻止したいというのは国王陛下の切実なお気持ち。

この件でセリーヌ嬢の評価が上がり、その分王太子妃へ近づけるのであれば嫌とは仰らないだろう。

「意見の対立する二者に対して、一つの事柄に対してまったく違う利を説く。……同床異夢を見せようというわけか?」

「事を成すためには必要なことですわ」

「キミは説得の名人であるわけだ。ああ、キミはオレが求める王太子妃としての能力を何でも備えているんだね」

などということを言いながらキストハルト様は、手の裏側で私の頬に触れる。

「オレは、キミと同じベッドでキミと同じ夢を見たいな」

「何を言っているのかわかりませんわ」

一歩下がって彼の手を避ける。

マズいわドキドキしてきた。

「とにかく殿下には、ご自身の夢を果たしたいという望みがあるなら、この話に乗っていただけますわよね? 誰の夢が現実のものになるかは、各々の立ち回り次第ということで」

「いいだろう。ただし条件がある」

条件?

「お願いを聞いてやる代わりにご褒美をもらってもいいだろう。……そうだなキスしてくれるというのはどうだい?」

「はあッ?」

「もちろん頬でいい。どうだい? キミだってこの件に懸ける夢があるのなら、それくらいの代償を支払ってしかるべきだろう?」

自分で代償とか言うなんて。

顔を横に向けて、ご自分の頬を見せつけてくる王太子。

そこに唇を押し付けろと?

何を言ってくるの!?

足元見やがって……。唇だったら断固拒否するけど、頬なんて微妙に受け入れられそうなラインを狙ってきている。

……頬なら、ギリギリOKよね?

王太子のスベスベな頬に……これが男の肌なの?……唇を近づけて……。

「へッ?」

触れるか触れないかのところで急に王太子の顔の向きが変わった。

キストハルト様の美しい顔が正面に!?

ダメ、と思った瞬間、唇に今まで触れたことのない新しい感触がした。

これまさか……唇?

キストハルト様と唇同士で触れ合っている!?

「んんんんーーッ!?」

慌てて離れようとしても、いつの間にか両手を回されて抱き留められていたから力任せじゃ離れられない。

たっぷり時間をかけて貪られてしまった。

これ激怒していいかしら?