軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 死に戻り令嬢、備える

ええい、何なのよもう一体!?

せっかくすべての問題が解決して領に帰れると思ったのに!

王太子妃選びの第一審査……。

……この私が無事通過!?

冗談じゃないわよ、なんで望んでないのにそんなことになるの?

前世では、王太子と共に選考を行う審魔官を買収してやっと通過できたというのに。

望まなくなった途端、無条件で浮かるなんて世の中本当に上手くいかないものだわ。

あの夜、王太子から直接言われた時は、ただの出まかせかとも思ったんだけども。

翌朝早速、王城から正式な使者がやってきて……。

――『エルトリーデ・エルデンヴァルク公爵令嬢におかれましては、王太子妃選びの次の段階に進まれましたこと、報告とともに祝着申し上げます。引いては新たなる催しに招待いたしますので、それまで王都に留まりあれますよう。王命にございます』

最後にガッツリ『王命です』と念押しされたことに、何やら釘を刺された感じを受けるわ。

あの王太子から。

ということで私は、当初の予定から大きく変更し、まだ王都のエルデンヴァルク家の上屋敷に滞在中。

本当なら今頃、領に戻る旅の途中でのんびり観光も兼ねていたところなのに。

帰り道にある各名所の名物料理に舌鼓を打つ、秘かな計画が台無しだわ。

「どれだけ私の思惑をぶち壊せば気が済むのかしらあの王子は……!?」

「まったくでございます。王族の方々は、自分たちの振る舞いが下々に大きな迷惑をかけることを意識してもらいたいですわ」

私と一緒に愚痴を漏らすのは侍女のノーア。

普通こういう場合なら貴族の常識に則って『王太子に見初めていただくなんて栄誉なことですわぁ』などと主の心境ガン無視なセリフを吐いてもいいところだろうに。

本当に私はいい侍女を持ったものだわ。

「こんな悪臭のする王都からは一刻も早く去りたいというのに、お嬢様のお陰で私まで動けないなんて迷惑極まりない話ですわね!」

……。

本当に忠実な侍女なのかしら?

「本当に王都って、私が思っているよりずっと田舎のような気がしてまいりました。ご存じですかお嬢様? ここ、外に街灯もないんですのよ!」

「そんなハイカラなものがあるのはこの国じゃ私たちの領ぐらいのものよ」

外国で開発されたというガス灯は、海を渡って港町のある私の領までやってきた。

新しい物好きのお父様は即座に飛びつき、今のところは領主の住む港町だけだけど各所に明かりが夜の街並みを照らしている。

「アレのお陰で夜の犯罪も随分減ったと、お父様も自慢げだったわ。だからノーア、アナタも領にいる気分で夜中外に出たりしちゃダメよ、王都ではね」

「わかっておりますよ、あんなに真っ暗ではお散歩の気分にもなりませんわ」

悪臭を断つ下水施設もなく、闇夜を照らす街灯もない。

王都にそれらの疏泄ができるのはまだまだ先のことだろう。何しろこの国の王族貴族は魔法さえあればどんな問題も解決できると思っているんだから。

実際はそうじゃないんだけれど。

「私自身だって、何の問題も解決できずにいるんだけどね……」

そう言って自身に内省を促す。

こうなったのも私の警戒が足りなかったからかもしれない。そして警戒に伴う準備が。

魔力のない私が王太子選びに参加したって第一審査にすら通るわけがない。

すぐさま不合格になるに決まっている。

そうタカを括って参加したのに思惑まったく当たらず、私はいまだ王都に留め置かれているのだった。

こうなったら、ここから先も同じようにかまえていたらダメね。

王太子妃選びは、国内数百人の貴族令嬢すべてを対象に行われるが昨晩の夜会で一気に二十人程度にまで絞られるはず。

何故わかるかって前世がそうだったから。

もちろんそこまで選考対象を区切っても、最後の一人……正式に王太子妃となる誰かを決めるまで審査は続く。

そして私も、少なくとも次の二回目審査には出なくてはいけない。

もちろん一回目より二回目の方が苛酷になるのは疑いないわ。

だからこそ魔力のない私は絶対確実、即座に落ちるだろうと、そうタカを括っていたら第一審査の二の舞となりかねない。

こうなったら私も状況に流されるだけをよしとせず、みずから積極的に動いていくべきだわ。

『何もしなくても落ちるだろう』ではなく『全力で落ちるために行動する』。

それくらいの気構えでなくては、王太子妃選びに不合格することはできなくてよ!

「ノーア、出掛けるわ! 着替えを手伝って!」

「かしこまりました。どちらへお出掛けです?」

そうノーアが尋ねるのは彼女自身も私に同行するため。

私専属の侍女なら私の行くところどこにでも供をして身の回りのサポートをするのが当然だわ。

基本的には。

「今日は一緒に来なくていいわ。ノーアは屋敷で留守番をしていて」

「えッ? 何を仰るのです? このノーア、お嬢様のお付きを承ったからにはどこであろうとお供する所存ですよ。たとえ悪臭充満する王都だろうと!!」

本当に王都の臭いが我慢ならないのね。

でも今回は本当にノーアには留守番していてほしいの。

これからの王太子妃選びを無事凌ぐため、私はより頼りになる助けをゲットしたい。

そのために行く場所は……少々アグレッシブというか。

刺激の強い場所なので、うら若い乙女のノーアを連れて行きたくないのよ。

私はいいのかって?

いいのよ、これでも前世はヒトのどす黒い部分に溺れ塗れた悪役令嬢だったんですからね!!

というわけで出発。

ノーアは最後まで同行を求めていたけれど説得を繰り返して、残し置くことに成功。

最後には『お土産にお菓子を買って帰る』ということで手を打たせた。

これが主人が使用人に飲ませる条件?

とにかく馬車に乗り、一人馬車に揺られて流れる景色を見守る。

馬車を操るのは、もう二十年は公爵家に仕えてくれる忠義厚い御者だけど、そんな彼もさすがに行く先を告げて恐れ戸惑う。

「お嬢様、そちらはあまりに……!」

「大丈夫よ」

行く先の地名を聞くだけで震えあがるのはさすが、あの場所といったところね。

大丈夫だという根拠を示せないので単純に『大丈夫』としか言えない。

御者も青い顔で命令に従ってくれたが、しばらく馬車を進めたところで急に止まった。

「どうしたの? 目的地までまだあるでしょう?」

窓の外の風景からしても、まだ私が目指している地域に到着したとは思えない。

何か起きたのかと確認するよりも先に、ノックもなしに馬車の扉が開いた。

そして中に入ってきたのは……。

「殿下? 何故ここに?」

「それはオレのセリフだが?」

断りもなく馬車内に押し込んできた男性は、実に見覚えのある姿形。

王太子キストハルトではないか。

「どちらへお出かけかな、お嬢さん?」

「だから質問しているのは私ですわ。何故アナタがここにいるんです? 街中で偶然遭遇するほど王太子ってありふれてるんですか?」

「ははは、王都固有の生物だからね」

くだらない冗談を飛ばしつつも、この事態にこの上ない危機感と動揺を覚える。

王都の一角とはいえ、偶然王太子に遭遇する可能性なんて何百分の一だろうか?

無論こんなことが偶発的に起こるわけがない。だとすれば意図的に引き起こされた事態だと考えるのが自然。

しかも王太子の服装は、先日王城で見た煌びやかなものとは違い簡素な町人服……、偽装は完璧。

これらすべてを鑑みれば、王太子はすべてを納得ずくでここにいることになる。

「もしや……監視していました?」

そう、私が外出した先で計ったように巡り合った奇遇さを説明するには、相手側が私の動向を完璧に把握していたという場合しかない。

私のことを四六時中見張ってたってこと!?

何考えてるのこの男!?

「別れ際のキミの態度を考えるとね。王命で抑えたとしてもひょっとしたら無視して領地に帰ってしまうかもしれない。そう考えると不安で夜も眠れなくて……」

「私のプライベートを侵害したんですか?」

「そこは配慮したつもりだよ。手の者を配置して、エルデンヴァルク上屋敷の出入りをチェックさせていただけさ。それで領地へ帰ろうとするほどの大荷物を抱えた馬車が出たら連絡するように命じて……」

「この通り、私が今使っている馬車は街周り用の小さなものです。大荷物だって積んでいないでしょう? 王太子殿下に疑われるような要素は何一つありませんわ」

「馬車に関してはね。今回報告を受けたのは、この馬車の行く先を問題にしているんだよ」

そこが引っ掛かりましたか……。

王太子が慌ててやってくる。私が目指すその場所は……。

「王都北東エリア、サザンランダ地区。通称掃き溜めスラムと呼ばれる場所だ」