作品タイトル不明
49 下賜される相手
全ての判決が発表されたのち、集会は解散となった。
それぞれが戻っていく中、私だけが両陛下の待つ部屋に呼ばれる。
「陛下ならびに、王妃様にご挨拶申し上げます」
カーテシーにて挨拶をする私に、二人は笑顔で迎えてくれた。
「そう改まらずともよい。そこに掛けなさい」
陛下に促され、両陛下の向かいのソファに座る。
「ようやく一段落ついた。そなたもここまで来るのに、色々大変であったろう」
「ええ、貴女は本当によく尽くしてくれましたわ」
両陛下にそう言われて、私は首を横に振った。
「いえ、そんな、わたくしなど……」
私の表情が暗いことに、いち早く気が付いた王妃様が、眉を顰めた。
「シンディ、もしや下賜が嫌なのですね? わたくしも陛下に言ったのですよ? でも、あの者が強く貴女を望んでいると言ったものだから……それに、ここから貴女を送り出すには、下賜する事が一番だったのです」
私を強く望む者……?
「廃妃は、そなたにとって 瑕疵(かし) となる。今回の事で大きな働きをしてくれたそなたに、そのような形を取りたくはなかった。それに、そなたはてっきり喜ぶと思っていたのだが、違ったのか?」
「わたくしが喜ぶ……? わたくしはまだ、どなたの所に下賜されるのか聞いておりませんので……」
そう言った私に、両陛下は大層驚いた。
「え!? あの者はまだそなたに伝えていなかったのか? 自分の口からそなたに説明し、そなたの了承を得たいと言っておったのだが?」
「ええ、そうですよ。護衛騎士の身分で貴女を所望するのは分不相応だと分かっているが、どうしてもと言うからわたくし達も、この形が一番いいと考えて……」
王妃様の言葉に、首を傾げる。
「護衛騎士……でございますか?」
私付きの護衛騎士なら何人もいる。その中の一人が願い出た?
「ええ。ザイトヘル伯爵の息子であり、貴女の専属護衛騎士ですよ。本当に聞いていなかったのですか?
皆の前で言わなかったのは、まだザイトヘル伯爵が、正式に息子の存在を発表していなかったから、名前を伏せただけですよ」
王妃様の言葉に、頭が真っ白になる。
ザイトヘル伯爵の息子……私の専属護衛騎士……
ヴァル!?
「ヴァルでございますか!?」
「ええ、ヴァル・ローレンツ、改めヴァル・ザイトヘルなる者です」
はっきりとその名前を聞いた時、今まで沈んでいた心が浮上してくるのを感じる。
まさか……あのヴァルが私を所望したというの? 本当に?
そんな素振り、一度も見せなかったのに……!
そう考えた時、ずっとヴァルが何か言おうとしていたのを、避け続けていた自分に、ハッとした。
私がちゃんと聞かずに先延ばしにしていたから!
ヴァルは今日までにちゃんと私に伝えようとしていたのに……
改めて自分の行動の愚かさに嫌気が差す。
早くヴァルの所に行って謝りたい。
そして、ヴァルの口から、こうなった経緯を説明してもらいたい。
……ヴァルに気持ちを伝えたい。
そんな気持ちでウズウズしている私に、陛下と王妃様は顔を見合せて、クスッと笑う。
「どうやら喜んでくれているようだな」
「そうですわね。先程とは全く違う表情になっていますわね」
両陛下はそう言って、私を見る。
「シンディよ、もう下がって良いぞ。早く確認しに行きたいのであろう?」
陛下のお言葉に、私は感情が顔に出てしまっている事に気付き、真っ赤になる。
「本来ならば、感情を顔に出すのはいけませんと、淑女教育を見直してもらうところですが、今日ばかりは大目に見ます。さぁ、早くお行きなさい」
王妃様からもそう言われ、私は立ち上がり、カーテシーをした。
「陛下ならびに王妃様、お二人の寛大なお心遣い、心から感謝致します。
改めて、ヴァル・ザイトヘル伯爵令息に下賜される件、謹んでお受け致します。今まで、本当にありがとうございました」
私の言葉を聞いて、満足そうな両陛下に再度低頭してから部屋を出た。
そして左右を見渡すと、部屋から少し離れた場所でヴァルが待機してくれている。
「ヴァル!」
ヴァルを見つけた私は、その方に小走りに足を進めた。
「危ないですよ! 俺の方から行きますから、そこに居て下さい」
ヴァルにそう言われるが、早くヴァルの所に行きたくて、足を止めることなんて出来ない。
あと少しでヴァルの元に行ける。
そう思った途端、何かにつまずいた。
「きゃ!?」
「あぶない!」
危うく転倒しそうになった私を、素早くヴァルが抱きとめてくれる。
「シンディ様、そんなに走らなくても俺は居なくなりませんから。危ないので、これからはこんな風に走らないで下さいね」
「う……はい」
恥ずかしくて、顔を上げることが出来ないでいる私を見て、クスッとヴァルが笑った。
「シンディ様、貴女にお伝えしたい事があったのですが……既にお知りになったようですね」
ヴァルの言葉に、私は頷く。
「でも、俺の口から貴女に伝えたいのです。今からお時間を頂けますか?」
そう言われて顔が火照り、ますます顔が上げられない状態となりながらも、必死で頷いた。