作品タイトル不明
23 リリアとの対面
入ってきたリリアは、いつもの華やかな衣装ではなく、落ち着いたモスグリーン色の、シンプルなAラインドレスを着て登場した。
持ち前の溌剌とした感じもなく、幾分か頬がこけて、やつれているようにも見える。
この件で、とても苦労したようだ。
そう感じていた私の隣で、サイモン様が語りだす。
「この者はリリア・ローガスト。ローガスト伯爵家の娘だ。私達の結婚式では、メイド・オブ・オナーを務めてくれていた。
皆も知っていると思うが、メイド・オブ・オナーは、花嫁が信頼出来る家族や友人などに、その役を依頼する。ローガスト伯爵令嬢も我が妃シンディより、たっての願いでその役を引き受けてくれたのだ。だが、結果は残念な事になってしまった。さらに心無い噂で、信頼し合っていた二人の間に溝が出来、シンディの憂いとなって、心に重くのしかかっているのだ。
この場で、その憂いを取り除く為、私はローガスト伯爵令嬢に弁解の機会を与える事にした。
さぁ、ローガスト伯爵令嬢。この場で君の思いを聞こうではないか」
どの口が私の気持ちを代弁して語っているのか……
貴方に、私の気持ちが分かるはずもないのに。
そして、リリア。
この場で貴女が何を言っても、貴女の言葉は私に響かないのよ?
さぁ、どんな弁解が聞けるのかしら?
とても楽しみだわ。
その思いで私はリリアを見る。
リリアは、私と目が合うと、涙をポロポロと流し始めた。
「ローガスト伯爵家の長女、リリア・ローガストにございます。
両陛下並びに、王太子夫妻にお目通り願えた事、誠に感謝致します。
そして、この度は王太子夫妻の結婚式にて、光栄にもメイド・オブ・オナーという大役を仰せつかったというのに、わたくしの不注意で醜態を晒してしまい、挙句に王太子妃様となられる、わたくしのとても大切な友人であるシンディ様に、大怪我を負わせてしまうといった大罪を犯してしまいました。
本当に申し訳なく、心よりお詫び申し上げたく、図々しくもこの場に来させて頂きました事を、どうかお許しくださいませ。
シンディ様。ようやくシンディ様にお会いする事が叶いました。
わたくしの不注意で、今もなお車椅子での生活を余儀なくされている事、直にお会いしてお詫び申し上げたいと常々思っておりました。
シンディ様、心よりお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした」
リリアは泣きながらそう言った後、私に向かって膝を床につけ、土下座をしながら謝り始めた。
その姿は、庇護欲をそそるのだろう。
会場のあちらこちらから、
「可哀想に……わざとではないのでしょう?」
「そこまでさせなくても……」
「こんなに反省しているのに」
などの声が聞こえてくる。
全く、目先の事に囚われて、すぐに流されてしまう人達の多い事といったら……
まるで私がそうさせたみたいじゃない。
私がこのような事を望んでいるとでも思っているのかしら?
ここにいる貴族達も元を辿れば過去に私を蔑ろにし、側妃となったリリアに即寝返った人達ばかり。
この国に、元々私の居場所なんか無かったのよね。
廃妃されたら、国外に出るのもいいかも。
……そうなった時、ヴァルは付いてきてくれる?
私はチラリと傍に控えているヴァルを見た。
ヴァルは厳しい表情でリリアを見据えている。
あぁ、ヴァルはリリアの演技に騙されていないのね。
そう感じて無性に嬉しくなる。
その思いを打ち破るように、サイモン様が私に言ってきた。
「シンディ、ローガスト伯爵令嬢もこんなに反省しているのだ。
ここはもうあの事故の事は水に流して、また仲の良い友人同士に戻るのはどうかな?
そうだ! まだ自由に動けないシンディの為に、気心の知れたローガスト伯爵令嬢に侍女になってもらい、身の回りの世話をしてもらってはどうだ?
ローガスト伯爵令嬢も、シンディの為なら心から尽くしてくれるだろうし」
「ええ! ぜひわたくしをお使い下さいませ! お怪我をさせてしまった責任を取りたいと思っておりましたので、そのお話はとても有難いことでございますわ! わたくしはシンディ様に、誠心誠意お仕えしとうございます!」
サイモン様の話に、ここぞとばかりに乗ってくるリリア。
この三文芝居、何時まで続くのかしら? 二人とも息がピッタリね?
「ローガスト伯爵令嬢。まずはお立ち下さいませ。素敵なドレスが汚れてしまいますわよ?
ローガスト伯爵令嬢の謝罪は受け取ります。
ですが……友人であった方に、わたくしの侍女にさせるなど、とても出来ませんわ。そんな事をしてしまったら、わたくしの方が心苦しくて、申し訳なく感じますもの。
それにわたくしにはすでに三人の専属侍女が付いておりますの。これ以上増やすつもりはございませんのよ?」
「それではわたくしの気が収まりません! どうか責任を取らせて下さいませ!」
私の言葉にリリアは食い下がってくる。サイモン様もここぞとばかりにリリアの味方をし始めた。
「シンディ、ローガスト伯爵令嬢の気持ちを汲んでやってはどうだ? こんなにも君に贖罪をしたいと願っているのだ。
心を広く持って受け入れてあげるのも、王太子妃として問われる度量の一つだよ」
そう言うサイモン様に流されるように、周りの人達も受け入れてあげろという視線を送ってくる。
本当にこの二人は、人の気持ちを煽動する事が上手い。
それは、過去五回の回帰全てに当てはまる事だ。
ある意味、この二人は王族にとても適しているかもしれないわね。
私が黙っている事をいい事に、二人は周りを上手く先導しながら話を進めていく。
すでに会場の空気は、リリアへの同情心から、いつまでも健気なリリアを受け入れない私への批判の目を向ける者も少なくなかった。