軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第407話:銀世界と、熱々グラタン

少し遅めのおしゃれな朝食を食べ終え、俺たちはのんびりとお出かけの準備を始めていた。

今日は休日。

時間はたっぷりあるため、急ぐ必要は全くない。

「ねえねえ、朝陽くん。このレインブーツに合わせてお洋服選びたいんだけど、どれがいいかな?」

凜の部屋からリビングへ、両手に何着か冬服を抱えた凛が小走りでやってきた。

彼女のお気に入りの、足首の少し上まであるおしゃれなデザインのレインブーツ。

機能性もデザイン性も高く、普段学校に履いていっているものだ。

「これと、これと、あとこっちの組み合わせ! どれが一番似合うと思う?」

次々と服を自分の体に当てて見せてくる凛の、突然のプチ・ファッションショーが始まった。

「うーん……どれも似合ってるけど、二番目のやつがいいんじゃないか? 冬っぽくて可愛いし、そのブーツの色とも合ってると思うぞ」

「本当? じゃあ、これにするっ!」

俺の「可愛い」という言葉に、凛はパァッと花が咲いたような笑顔を見せ、嬉しそうに着替えに戻っていった。

俺も防寒対策をしっかりとして、厚手のコートに袖を通す。

準備を終えて玄関に向かうと、凛が愛用のカメラを首から提げて待っていた。

「よし、行くか。……っと、ちょっと待て」

「ん?」

外へ出ようとした凛を引き止め、俺はマフラーを彼女の首元にぐるぐると二重に巻きつけた。

「雪は止んだけど、まだ外は冷えるからな。しっかり防寒していかないと」

「あ……うんっ。すっごくあったかい……」

顔の半分が埋まるくらいマフラーを巻かれ、至近距離で見上げてくる凛。

その頬は、マフラーのせいだけではない赤色に染まっていた。

俺たちはしっかりと手を繋ぎ、真っ白に染まった街へと足を踏み出した。

「わぁ……! すっごく綺麗!」

家から歩いて十数分。

近くの大きな公園に到着すると、凛が歓声を上げた。

俺たちの住む地方はめったに雪が積もらないため、見慣れた公園も、今日ばかりは一面の銀世界に様変わりしている。

公園の広場の方からは、「えいっ!」「あははっ、冷たーい!」と、小さな子供たちが元気に雪合戦をして遊んでいる賑やかな声が聞こえてきた。

「雪がやんだからこそ、ああやって外で遊べるんだよな。平和でいいな」

「ふふっ、そうだね。……よしっ、私もお仕事の資料集め、頑張るぞ!」

凛は気合を入れると、首から提げたカメラを構え、ファインダーを覗き込んだ。

雪を被った木々の枝、真っ白なベンチ、誰も足を踏み入れていない雪原。

普段の甘えん坊で抜けている氷の令嬢の姿はそこにはなく、真剣な眼差しで風景を切り取っていく『プロのイラストレーター』の顔つきになっている。

(……すっごい絵になるな)

冬の装いで、雪景色の中に佇みながらシャッターを切る凛。

その横顔を眺めながら、俺はふと、不思議な感覚に陥った。

こんなに綺麗で、可愛くて、才能にあふれた子が、本当に俺の彼女なんだろうか。

時々、夢を見ているんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。

「……朝陽くん?」

「えっ? あ、悪い。ちょっと見惚れてた」

「も、もう……っ! 急にそういうこと言わないでよ……っ」

ファインダー越しに俺と目が合った凛が、マフラーに顔を埋めて照れ隠しをする。

そんな仕草さえも、とてつもなく可愛かった。

「よしっ、資料集め完了! 綺麗なお写真いっぱい撮れたよ!」

「お疲れ様。手が冷たくなってるんじゃないか?」

「大丈夫! ねぇ朝陽くん、せっかくだから雪だるま作ろ!」

凛は大切なカメラが雪で濡れないように、しっかりと専用のケースにしまってから、無邪気な笑顔で駆け寄ってきた。

「おう、いいぞ。じゃあ俺が体を作るから、凛は頭な」

「うんっ! まん丸で可愛いのにするぞー!」

二人で雪を丸め、コロコロと転がして大きくしていく。

手が冷たくなるのも忘れてわちゃわちゃと協力し、少し歪だけれど愛嬌のある雪だるまが完成した。

「できた! 朝陽くん、記念にお写真撮って!」

「はいはい。じゃあ笑ってー。チーズ」

雪だるまの隣で、今日一番の笑顔でピースサインをする凛。

俺はスマホを取り出し、その最高の瞬間をしっかりと写真に収めたのだった。

「ふぅ〜、いっぱい動いたら、なんだかお腹空いてきちゃった」

「そうだな。お昼食べてから帰るか。体も冷えたし、温かいものがいいな」

公園を後にして、俺たちは少し歩いたところにある、昔ながらのレトロな洋食屋さんへと入った。

カランコロン、とドアベルが鳴り、店内にはデミグラスソースとバターの食欲をそそる匂いが漂っている。

メニューを開き、二人で温かいものを探す。

「俺は、この『エビとマカロニの熱々グラタン』にするかな」

「あ、私もそれがいい! ……でも、こっちの『特製デミグラスハンバーグ』もすっごく美味しそう……どうしよう……」

メニューの写真を見て、真剣に悩む凛。

「じゃあ、グラタンを二つ頼んで、ハンバーグは単品で一つ頼んで二人でシェアするか?」

「っ! それ!」

ほどなくして運ばれてきたのは、グツグツと音を立てる焦げ目のついたグラタンと、鉄板の上でジュージューと肉汁を弾かせる大きなハンバーグ。

「いただきますっ! ……はふっ、あふっ……んん〜っ!!」

火傷に気をつけながらグラタンを頬張った凛が、幸せそうに頬を緩ませる。

「チーズがとろとろで、マカロニに濃厚なホワイトソースがしっかり絡んでる! プリプリのエビもすっごく美味しい……冷えた体に染み渡る……!」

「ここのグラタン、美味いんだよな。ほら、ハンバーグもやるよ」

俺はハンバーグをナイフで切り分け、フォークに刺して凛の口元へ運ぶ。

「あーんして?」

「あーん……っ、ん! お肉がギュッて詰まってて、ジューシー! デミグラスソースもコクがあって美味しい! えへへ、二人で半分こすると、もっと美味しく感じるね」

外の雪景色を眺めながら、熱々のグラタンとシェアしたハンバーグを頬張る。

温かくて、美味しくて、そして圧倒的に甘い。

そんな、ゆったりとした幸せなランチタイムが、俺たちの間を流れていくのだった。