軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第378話:ささやかな仕返しと、私専用のソファー

「……ん、朝か」

窓の隙間から差し込む朝日に目を細め、俺は静かに目を覚ました。

お正月のバタバタとしたお出かけラッシュが終わり、今日は久しぶりに何の予定も入っていない、完全なオフの日だ。

ふと隣に視線を移すと、そこにはスヤスヤと規則正しい寝息を立てる凛の姿があった。

朝の光を受けて艶やかに光る漆黒の髪が、白い枕の上に美しく散らばっている。

長いまつ毛が落ちる白い頬は、どれだけ見ていても全く飽きないほど綺麗だった。

(この寝顔は、俺が一生守る)

そんな決意を胸に秘めつつ、俺の脳裏に昨日の夕方の出来事がよぎる。

俺が膝枕をされて寝落ちしてしまった隙に、彼女は俺の顔をぷにぷにと触ったりして、色々といたずらをして楽しんでいたらしい。

(……なら、今俺が凛の寝顔をどうしようが、怒られないよな?)

俺は少しだけ口角を上げ、ささやかな仕返しを決行することにした。

そっと人差し指を伸ばし、彼女の柔らかいほっぺたをぷにぷにと突いてみる。

……起きない。

次に、閉じたまぶたに落ちる長いまつ毛にそっと触れてみる。

……起きない。

最後に、前髪を少し避けて、綺麗なおでこをペシペシと軽く叩いてみる。

「……んん……」

凛は少しだけ身じろぎしたものの、幸せそうな寝顔のまま、全く起きる気配がなかった。

(よし、写真を撮っておこう)

俺は枕元のスマホを手に取り、カメラを起動した。

シャッター音を消して、無防備なその寝顔をパシャリと一枚保存する。

お正月、おばあ様から送られてきた着物姿の凛の写真を見た時も思ったが、こういう何気なくて大切な瞬間を写真に残しておくのは、すごく良いことだと最近心から思う。

凛を起こさないようにそっと布団を抜け出し、俺はキッチンへと向かった。

「さて、朝ご飯にするか」

実家からのお裾分け続きだったため、一から手作りで朝食を用意するのは少し久しぶりな気がする。

鍋で丁寧に昆布と鰹の出汁を取り、豆腐とわかめのお味噌汁を作る。

隣のコンロでは、卵焼き器を使って甘めの卵焼きをふんわりと巻き上げていく。

ジュワッという小気味良い音と共に、お出汁と醤油、そして少し焦げた砂糖の甘くて香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がった。

「……あさひくん。おはよう……」

ちょうど卵焼きを切り分けてお皿に盛り付けていると、パタパタという足音と共に、背中からぎゅっと小さな体が抱きついてきた。

「おはよう、凛。ちょうどご飯ができるところだぞ」

俺はさっきのいたずらを悟られないように平然と振る舞いながら、振り返らずに言葉を返す。

背中にぴったりと張り付く彼女の体温と、寝起きの甘い匂い。

実家などの特別な場所ではなく、自分たちの日常の空間で交わすこのやり取りが、なんだか少し久しぶりに思えてとても新鮮だった。

こういう何気ない日常こそが、俺にとっては一番の幸せなのだ。

朝食を食べ終え、食器を片付ける。

「じゃあ、ちょっとお仕事頑張ってくるね」

「ああ、無理しない程度にな」

イラストレーターとしての仕事を再開するため、凛は隣にある自分の部屋へと戻っていった。

俺も自分の部屋の掃除や洗濯を済ませ、さて一息つこうかとソファに腰を下ろした、その時だった。

『朝陽くん、ちょっと来て』

凛が自分の部屋に戻ってから、わずか30分後。

スマホのメッセージアプリに、凛からのお呼び出しがかかった。

「なんだ? 忘れ物か?」

俺は不思議に思いながら隣の部屋へ行き、ガチャリとドアを開けた。

すると。

「……おわっ!?」

言葉を言い終わる前に、待ち構えていた凛が勢いよく俺の胸に飛び込んできて、力いっぱい抱きついてきたのだ。

「ちょっと、どうしたんだよ急に」

「……むり」

「無理?」

俺の胸に顔を埋めたまま、凛がふるふると首を横に振る。

少しだけ顔を上げ、俺を見上げてきた彼女の琥珀色の瞳は、ほんの少しだけ心細そうに潤んでいた。

「ここ数日、ずっと朝陽くんと一緒にいたから……一人きりの部屋の静けさに、耐えられなかった……」

どうやら、お正月のお泊まりでずっと密着していた反動が、一人の作業部屋に戻った途端に一気に押し寄せてきたらしい。

甘えん坊モードの彼女は、俺の服の裾をぎゅっと握りしめ、堂々とこう言い放った。

「……朝陽くん。私のソファになりなさい」

「……はい?」

学校で見せる『氷の令嬢』の面影など微塵もない、あまりにも斜め上すぎる要求。

果たしてこの後、彼女の専用ソファに任命されてしまった朝陽くんは一体どうなってしまうのか……!?