軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第269話:お泊まりの打ち合わせと、企画会議

「謹んでお受けします」

俺がそう答えると、凛はぱぁっと花が咲いたような笑顔を見せた。

そして、嬉しそうに自分のスマホを取り出して、カレンダーアプリを開く。

「えっと、今日は11月29日の日曜日だから……」

トントンと画面をタップしながら、凛が上目遣いでこちらを見てくる。

「来週の週末って、朝陽くん、何か予定入ってる?」

「いや、特にないけど。……金曜の夜からにするか、土曜の夜からにするか?」

俺が尋ねると、凛はスマホを持ったまま、もじもじと身をよじらせた。

「あのね……金曜の夜から、日曜日の朝まで……2泊じゃ、ダメ……?」

「っ……」

ただでさえ二人きりのお泊まりというだけで致死量の緊張感があるのに、まさかの連泊のおねだり。

顔を真っ赤にして上目遣いで縋ってくる凛の頼みを、俺が断れるはずもなかった。

「……わかった。じゃあ、金曜の夜からな」

「ほんと!? やったぁ……っ!」

俺が頷くと、凛はカレンダーアプリの来週の金曜日と土曜日の欄に、ポチポチと文字を打ち込んだ。

覗き見ると、そこにはシンプルに『お泊まり』とだけ入力されている。

それを見て、俺も自分のスマホを取り出し、同じようにカレンダーへ予定を打ち込んだ。

『お泊まり』。

たった4文字のその単語を画面に打ち込んだ瞬間、急に現実味が押し寄せてきて、心臓がドッドッと早鐘を打ち始めた。

(——ちょっと待て。初めてのお泊まりで、いきなり2泊?)

冷静になろうとすればするほど、思考が勝手に暴走していく。

(お泊まりってことは、当然、夜はずっと二人きりだ。)

(お風呂上がりの無防備な姿も見るだろうし…いや、それは見てるか。)

(寝る時はどうなるんだ?)

(俺の部屋で寝るのか? それとも凛の部屋?)

(……もしかして、一緒の布団で寝ることになるのか!?)

(ダメだ、想像しただけで頭がおかしくなりそう……。俺の理性、来週までもつのか……?)

顔から火が出そうなほど熱くなるのを感じながら、スマホを握りしめて密かに激しくうろたえている俺をよそに。

「えへへ……来週まで頑張って生きる目標ができた……っ」

凛はシロップをたっぷり吸い込んだふかふかのホットケーキの最後の一口をパクリと平らげ、心底幸せそうに頬を緩めたのだった。

食後の温かい紅茶を淹れ直し、俺たちはテーブルに向かい合って座った。

「そういえば、彩音さんたちとの打ち合わせの前に、いくつか決めておきたいことがあってさ」

「うん、チャンネル名とかだよね」

俺の言葉に、凛もフォークを置いて少し真面目な顔になる。

「そう。俺の名前そのままとかだと身バレしそうだし、何かいい案ないか?」

「そっか。んー……例えば、朝陽くんの『太陽』と私の『月』を入れて、『ひだまりと月夜のキッチン』とかどう?」

「なんか、ちょっと名前長くないか?」

「えー? じゃあ『あさりん食堂』! あさひ、と、りん! ちょっと可愛すぎかな?」

「俺がやるチャンネルにしては、ファンシーすぎるな……」

くすくすと笑い合いながら、いくつか案を出していく。

「うーん、確かに。じゃあシンプルに、二人のイニシャルを取って『A&Rキッチン』とか」

「……うん。それ、いいな。シンプルで分かりやすいし、それにしよう」

あっさりと決まった名前に、凛は「やった!」と嬉しそうに笑った。

表向きはただのアルファベットに見えるけれど、俺と凛にとっては『二人の共同チャンネル』という特別な意味を持つ名前だ。

「あとは撮り方なんだけど。こないだお試しで撮った時の反省で、あらかじめ簡単な台本を作って進めるってことになった」

「うん」

「基本は三脚で固定して撮るけど、肉に焼き色がつく瞬間とか、見せ場のカットの時だけ、凛にカメラを持ってもらって寄りで撮ってほしいんだ」

「わかった! 料理が一番美味しそうに見える角度、バッチリ狙うね」

頼もしい返事に、俺はホッと胸を撫で下ろす。

彼女のセンスが加われば、動画のクオリティが上がるのは間違いない。

「アイコンなんだけど、どんなイメージがいいかな?」

凛が尋ねてきたので、俺は少し考え込んでから口を開いた。

「そうだな……料理チャンネルだから、温かい雰囲気を出したい。俺の顔を出すんじゃなくて、例えば湯気が立ってるお鍋とか……」

「うんうん、お鍋ね」

「それで……そのお鍋のデザインのどこかに、こっそり『太陽と月』のマークを入れてほしい」

「っ……」

俺の要望を聞いた瞬間、凛の動きがピタリと止まった。

表向きは『A&Rキッチン』のロゴマーク。

でもそこには、俺と凛が一緒に作っているという証を、こっそりと刻んでおきたかった。

ただの俺の自己満足かもしれないけれど。

「……デザイン的に難しかったら別にいいんだけど」

「ううんっ! すっごくいい! 」

顔を上げた凛の瞳は、潤んだようにキラキラと輝いていた。

そして、これ以上ないくらい嬉しそうな笑顔を俺に向ける。

「私、絶対に最高のアイコン考えるね。朝陽くんのご飯みたいに、見た人がみんな温かくなるようなやつ!」

「ああ。楽しみにしてるよ」

彼女と二人三脚で、新しいものを作り上げていく。

ただの俺の日常だった『料理』が、凛のおかげで二人だけの特別なものに変わっていく温かさを感じながら、俺は冷めかけた紅茶をゆっくりと飲み干した。