軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第260話:一人の夜と、もこもこのお披露目会

「……よし、とりあえず晩御飯はこんなもんか」

水曜日の夜。

凛たちが駅前のモールへパジャマを買いに行っている間、俺は自分の部屋で一人、留守番をしていた。

冷蔵庫にあったうどんの残りでパパッと簡単な夕食を済ませ、お風呂にも入り、あとはもう寝るだけの状態だ。

(女子3人での買い物、楽しんでるかな)

髪をタオルで拭きながら、時計の針をチラリと見る。

普段ならとっくに一緒に過ごしている時間だからか、隣に凛がいないだけで部屋がやけに広く、静かに感じてしまう。

どんなパジャマを買ってくるんだろう。

友達と笑い合っている凛の姿を想像するだけで、俺まで少し嬉しい気持ちになってくる。

「ただ待ってるのも時間がもったいないしな。少し進めとくか」

俺はデスクに向かい、小さなデスクライトだけを点けてノートを開いた。

金曜日のお泊まり会の『タイムスケジュール』と、俺たちが撮る料理動画の『台本案』作りだ。

前回のテスト撮影で、台本がないとただの無言クッキングになってしまうことがわかった。

カメラマンの凛が撮影しやすいように、簡単なカンペを作っておいた方がいいだろう。

それに、お泊まり会に来てくれる佐藤さんや寺田さんにも、最高のおもてなしをしたい。

「オムライスの卵を焼くタイミングで、凛に一言もらって……サラダは先に冷蔵庫で冷やしておいて……」

ノートにカリカリと文字を書き込んでいく。

凛の嬉しそうな顔や、美味しそうにご飯を食べてくれる姿を想像しながら作業をしていると、ついつい根を詰めてしまう。

(……ふぁ。ちょっと、目が疲れてきたな……)

静かな部屋の中、デスクライトの温かい光に包まれているうちに、まぶたが徐々に重くなってきた。

(もう少しだけ、起きてよう……凛が、帰ってくるまで……)

ノートの端にペンを置いた俺は、少しだけ休むつもりで机に突っ伏し——そのまま、深い眠りへと落ちてしまった。

「…………ん」

ふと、背中にふわりと温かいものが掛けられた感触で、意識が浮上した。

「……あれ?」

体を起こすと、肩からハラリと毛布のようなものが落ちる。

見れば、それは見覚えのあるブランケットだった。

そしてその直後、パタン、と洗面所の方へ向かうドアの閉まる音が聞こえた。

「……やばっ、完全に寝てたか」

どうやら俺は机に突っ伏したまま、かなりの時間寝落ちしてしまっていたらしい。

そして、帰ってきた凛がそれに気づいて、わざわざブランケットを掛けてくれたのだろう。

俺は慌てて立ち上がり、寝癖を手で整えながらリビングへと向かった。

そこには、大きなショッピングバッグを置き、中から嬉しそうに戦利品を取り出そうとしている凛の後ろ姿があった。

「おかえり、凛」

「あっ、朝陽くん」

俺が声をかけると、凛はパッと振り返った。

「ごめんね、起こしちゃった?」

「いや、俺が勝手に寝落ちしてただけだから。……ブランケット、ありがとうな。」

「ううん。朝陽くん、すっごく一生懸命ノート書いてたみたいだから……お疲れ様」

ふわりと柔らかく微笑む凛。

その優しさに胸が温かくなりながら、俺はテーブルの上のショッピングバッグに視線を向けた。

「パジャマ、無事に買えたみたいだな」

「うんっ! 陽菜たちと、色違いのお揃いで買ったの!」

「晩御飯は何食べたんだ? 」

「うん、今回もモールの中のパスタ屋さんで食べてきたよ。」

「そっか。じゃあ、先にお風呂入っておいで。……新しいパジャマは、いつ着るんだ?」

「気になる?」

「…そりゃあな」

「じゃあお風呂から出たら着てくるね!」

嬉しそうに言いながら、凜は自分の部屋に戻っていった。

それから数十分後。

「……朝陽くん」

カチャリとドアが開き、お風呂上がりの凛がリビングにやってきた。

振り返った俺は、その姿を見た瞬間——完全に語彙力を失ってしまった。

「これ、買ってきたやつなんだけど……ど、どうかな……?」

照れくさそうにモジモジとしている凛。

彼女が着ていたのは、白と薄いグレーのボーダー柄をした、もこもこ素材のパーカーとショートパンツのセットアップだった。

お風呂上がりで少し上気した白い肌。

ショートパンツからスラリと伸びた、真っ直ぐで綺麗な脚。

オーバーサイズのパーカーに包まれた華奢なシルエットは、普段の学校での『氷の令嬢』の姿からは想像もつかないほど、無防備で、柔らかくて……ただひたすらに可愛かった。

「…………っ」

「……あ、朝陽くん?」

俺が固まったまま何も言えずにいると、凛が不安そうに上目遣いでこちらを覗き込んでくる。

「……いや、その。めちゃくちゃ似合ってる」

「ほ、ほんと……?」

「ああ。……反則だろ、それ」

思わず口から漏れた本音に、凛はみるみるうちに顔を真っ赤にして、パーカーの萌え袖で口元を隠してしまった。

「〜〜っ、なら……よかった」

お互いに顔を真っ赤にして、なんだか変にドキドキしてしまった空気を誤魔化すため。

俺は「ちょっと喉渇いたな」と立ち上がり、キッチンへと向かった。

小鍋に牛乳を注ぎ、ゆっくりと火にかける。

沸騰する前に火を止め、たっぷりのハチミツを垂らして軽くかき混ぜる。マグカップに注げば、特製『ハニーホットミルク』の完成だ。

甘くてホッとする香りが、夜のキッチンにふわりと広がっていく。

「はい、凛も飲むだろ?」

「うん、ありがとう」

二人でソファに並んで座り、温かいマグカップを両手で包み込む。

ハチミツの優しい甘さが、寝起きの体と、少し高鳴っていた心臓をゆっくりと落ち着かせてくれた。

こてん。

ホットミルクを一口飲んだ凛が、ごく自然な動作で俺の肩に頭を乗せてきた。

もこもこのパーカーの柔らかな感触と、お風呂上がりのシャンプーの香りが鼻をくすぐる。

「……美味しい。すごく落ち着く……」

「金曜日は、佐藤さんたちもそれ着るんだな」

「うん。3人でお揃いにするの。金曜日、すっごく楽しみだなぁ……」

ふにゃりと笑いながら、凛が俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。

「朝陽くん、お泊まり会のスケジュールとか台本、準備してくれてたんでしょ? 本当にありがとう」

「いや、俺も楽しみだからやってるだけだよ。金曜日、何かあったら言ってくれな。」

「もうっ……朝陽くんは優しいね。」

照れ隠しのように俺の肩にグリグリとおでこを押し付けてくる凛。

俺はそんな彼女の頭をポンポンと優しく撫でながら、温かいマグカップに口をつける。

もこもこのパジャマと、甘いホットミルク。

そして、隣でくっついて笑ってくれる大好きな彼女。

金曜日に向けた幸せで穏やかな夜が、ゆっくりと更けていった。