作品タイトル不明
第248話:シメの冷麺と、夜道のお見送り
「っはー……食ったぁ。マジで腹はち切れそう。当分肉はいいわ……」
パンパンに膨らんだお腹をさすりながら、大輝がソファに深々と沈み込んだ。
あれだけあったお肉も、特大の白飯も、見事に綺麗になくなっている。
「よし、じゃあそろそろシメにするか。佐藤さん、冷麺でよかったよな?」
「あ、うん! お腹いっぱいだけど冷麺なら入るかも!」
立ち上がってキッチンへ向かい、あらかじめキンキンに冷やしておいた特製スープを準備する。
鶏ガラベースに、お酢をしっかり効かせたさっぱり系だ。
茹でた麺を氷水で一気に締め、キムチとゆで卵、千切りのきゅうりを手早くトッピングしてテーブルへ運んだ。
「お待たせ。特製、さっぱり冷麺」
「わぁっ、美味しそう! いただきまーす!」
佐藤さんがさっそく麺を啜り、スープを一口飲む。
すると、ぱぁっと顔が明るくなった。
「んんっ! 美味しい! お酢が効いてて、お肉の脂がすーっと消えてく!」
「本当だ。これならいくらでもツルッといけちゃうね」
「だろ? 大輝は……って、お前食うの早すぎだろ」
振り返ると、大輝はすでに自分の分の冷麺を半分以上吸い込んでいた。
「っぶはぁ! うめぇ! 俺、肉と冷麺ならまだ無限にループできるわ」
「お前さっき当分肉はいいって言ったばっかだろうが」
大輝の底なしの胃袋に呆れつつ、俺たちもさっぱりとした冷麺で焼肉のシメを堪能した。
全員が食べ終わった後、みんなで協力してホットプレートを片付け、油跳ねしたテーブルを綺麗に拭き上げた。
俺が温かい紅茶を淹れてリビングに戻ると、すでにテーブルの真ん中には佐藤さんたちが買ってきてくれたケーキ屋の箱が置かれている。
「よし、じゃあ開けるよー?」
「おおーっ!」
凛がそっと箱を開けると、中には色とりどりのショートケーキやチョコレートケーキ、モンブランが綺麗に並んでいた。
「わぁ……どれも美味しそう! 私はこのイチゴのにしよっと」
「じゃあ俺はチョコな」
それぞれ好きなケーキを選び、温かい紅茶と一緒に口へ運ぶ。
さっきまであんなにガッツリお肉を食べていたというのに、甘いものは本当に別腹らしい。
佐藤さんも寺田さんも、幸せそうに頬を緩ませていた。
「ん〜、美味しい……! やっぱり焼肉の後のケーキって最高だね」
「だねー。……なんかさ、こうやってみんなで集まってご飯食べるの、すっごく楽しいね」
凛がケーキを小さく切り分けながら、ふとそんなことを口にした。
「わかる。またやりたいな、こういうの」
「うん! だからさ、今度は女子三人で集まりたいなーって思ってて。再来週あたり、誰かの家でお泊まり会とかどうかな?」
佐藤さんが思いついたように提案すると、凛と寺田さんがパッと顔を見合わせた。
「えっ、お泊まり会! すっごく楽しそう!」
「私も賛成!」
「よかったら、うちに来る? 私の部屋、三人でも全然寝転がれるよ」
凛が目を輝かせて提案すると、佐藤さんと寺田さんが嬉しそうに手を叩いた。
「えっ、いいの!? やったー!」
「瀬戸くん、再来週の週末、凛ちゃん借りてもいい?」
「もちろん。」
女子たちがキャッキャと盛り上がるのを、俺と大輝は温かいお茶をすすりながらのんびりと眺めていた。
窓の外はすっかり暗くなっているけれど、部屋の中は暖かな空気と笑い声で満たされている。
時計の針が二十時半を回った頃。
「そろそろ帰ろっか」という寺田さんの言葉で、お開きになった。
「今日は本当にありがとう! 準備もすっごく大変だったでしょ。本当に美味しかったよ」
「 朝陽、またなんかやろうぜ!」
「ああ、気をつけて帰れよ」
玄関で靴を履き、外に出る。
秋の夜の空気は少しひんやりとしていて、火照った体にはちょうどよかった。
「大輝と寺田さんは、方向一緒だっけ?」
「おう、俺ら駅の向こうだから一緒に帰るわ。じゃあな朝陽、冬月さん! マジでごちそうさま!」
「ばいばーい! また月曜日ね!」
手を振って歩き出した二人を見送り、残ったのは俺と凛、そして佐藤さんの三人だ。
佐藤さんの家は、二人とは全くの別方向にある。
「佐藤さん、ここから一人だろ? 暗いし、俺と凛で送っていくよ」
「えっ、いいよ悪いよ! おもてなししてもらった上に、送ってもらうなんて申し訳ないし……」
佐藤さんは慌てて遠慮するが、夜道に女の子一人を歩かせるわけにはいかない。
「いいからいいから。俺たちも、食べた分の腹ごなしに少し歩きたかったところだしさ」
「そうそう! 陽菜ちゃん、夜のお散歩がてら一緒に帰ろ?」
にっこりと笑いかける。
佐藤さんは少し迷った後、「……ありがとう、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」と少し照れくさそうに笑った。
三人で並んで歩き出す。
夜の住宅街は静かで、自分たちの足音だけが響いていた。
「今日は本当に楽しかったよ。瀬戸、お料理ごちそうさまでした」
「口に合ってよかったよ」
「うん! あ、凛、再来週のお泊まり会、何するかまたLINEで相談しよっか」
「うんっ! 夜通し恋バナとかしちゃおっか。今から何話すか考えておくね!」
楽しそうに笑い合う女子二人の声が心地いい。
佐藤さんの家の近くまで送り届け、「本当にありがとう!」と何度も手を振る彼女を見送って、俺たちはようやく帰り道についた。
「……喜んでもらえてよかったな」
「うん! 朝陽くんのご飯、みんなすっごく美味しそうに食べてた! 私までなんだか嬉しくなっちゃった」
二人きりになった帰り道。
凛がごく自然に俺の手を取り、自分のコートのポケットに二人分の手を滑り込ませてきた。
ポケットの中で重なる小さな手のひらが、じんわりと温かい。
「再来週のお泊まり会も、すっごく楽しみ。陽菜ちゃんたちといっぱいお話したいな」
「そうだな。その日は俺も、自分の部屋でゆっくり映画でも観るか」
「えー、私がいなくて寂しがってくれないの?」
「……まあ、少しは寂しいよ」
俺が苦笑しながら答えると、凛は「えへへ」と嬉しそうに俺の肩にコツンと頭を預けてきた。
お腹も心も満たされた、特別な土曜日の夜。
街灯に照らされた二人の影が、寄り添うように長く伸びていた。