軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第237話:絶叫と、最高の景色

「うわぁ……近くで見ると、すっごく高いね……」

巨大立体迷路を終えた俺たちが次に向かったのは、この遊園地の目玉の一つである大型ジェットコースターだった。

見上げるような高さまで組み上げられた無骨な鉄骨。

そこを猛スピードで駆け下りていく車両の轟音と、乗客たちの凄まじい悲鳴が頭上から降ってくる。

俺も凛も、こういう本格的な絶叫マシンに乗るのはほぼ初めてに近い。

高所恐怖症というわけではないが、目の前を凄まじい風圧とともに通り過ぎていくコースターを見て、凛の顔色がほんの少しだけ青ざめているように見えた。

「凛、無理しなくていいぞ。絶叫系が苦手なら、隣のメリーゴーランドとかコーヒーカップにしようか?」

「だ、大丈夫……! ちょっと、音が大きくてびっくりしただけだから」

俺が心配して顔を覗き込むと、凛は胸の前で両手の拳をギュッと握りしめ、自分を奮い立たせるように笑った。

「怖いのは本当だけど……でも、楽しみな気持ちの方が勝ってるから!」

入り口のゲートに向かうと、スタッフから身長制限の確認を受けた。

俺はもちろん、女子の中では背が高めな凛も、規定のラインを余裕でクリアする。

「はい、お二人ともバッチリですね! 楽しんできてください!」

「ありがとうございます」

スタッフのお姉さんに笑顔で送り出され、俺たちは列の最後尾に並んだ。

大行列というわけではないが、それでも十数分程度の待ち時間が発生している。

その間も、定期的に真上を通り過ぎていくコースターの轟音に、凛はそわそわと落ち着かない様子だ。

「本当にやばくなったら、途中で列を抜けてもいいからな。俺は全然乗らなくても平気だし」

「ううん、乗るの」

俺の過保護な提案を、凛は真っ直ぐな瞳で遮った。

「朝陽くんと一緒に一番高いところからの景色を見たいし……今日を、最高の思い出にしたいから。それに、ここで逃げたら後悔しそうだもん」

「……そっか。わかった、じゃあ一緒に楽しもうな」

「うん!ありがと!」

彼女の健気な決意に、俺もそれ以上引き留めるのはやめた。

やがて俺たちの順番が回ってきて、二人並んでバケットシートに深く腰を下ろした。

スタッフの指示に従って、上からU字型の頑丈な安全バーを引き下ろす。

ガシャン、と重たい音を立てて体がシートにガッチリと固定されると、いよいよ後戻りはできないという緊張感が一気に高まった。

「……朝陽くん」

「ん?」

「あのね……やっぱりちょっと怖いから、手、繋いでてもいい?」

凛が右手を俺の方へと伸ばしてくる。

俺も左手を出して応えようとしたのだが――。

「あ……」

「くっ……安全バーが邪魔だな」

お互いの体を固定している分厚いバーが物理的な壁となり、腕を伸ばしても上手く手を繋ぐことができない。

「指先しか届かないね……」

「あはは、さすが絶叫マシン、ガードが固すぎるな」

予想外の障害に、張り詰めていた緊張が少しだけ和らいで、二人で笑い合ってしまう。

結局、俺たちはバーの隙間から、お互いの小指だけをしっかりと絡め合うことにした。

これだけでも、不思議と大きな安心感がある。

「出発します!」

スタッフのアナウンスと共に、車両がガタガタと重たい音を立てて動き出した。

急勾配のレールを、チェーンに引かれてゆっくりと頂上へ向けて登っていく。

「うわっ、どんどん高くなる……」

「下は見ない方がいいぞ。前だけ見てろ」

絡めた小指に、凛の少し冷たくなった体温と、力強い鼓動のような力みが伝わってくる。

視界がどんどん開け、遊園地の全景が見渡せるようになってきた。

ガコン、とチェーンの音が止まった。

最高到達点。

落下する直前の、ほんの数秒間だけ車両が一時停止したかのようにゆっくりになる瞬間。

目の前には、秋晴れの澄み切った青空の下、遠くの山々や街並みまでが見渡せる、言葉を失うほどの絶景が広がっていた。

「「……きれい」」

俺と凛の呟きが、見事に重なった。

しかし、その感動に浸る間もなく、車両は奈落の底へ向かってゆっくりと傾き――。

「きゃあああああっ!!」

「うおおおおっ!!」

次の瞬間、一気に急降下を始めた。

内臓がフワッと浮き上がるような強烈な無重力感。

猛烈な向かい風が顔を叩き、景色が線のように激しくブレて飛んでいく。

ドゴゴゴゴッ! と鉄骨が軋む凄まじい轟音の中、右へ左へと体が振り回され、シートに強烈なGで押し付けられる。

「あははははっ! すごいっ、すごーい!!」

隣を見ると、最初はあんなに怖がっていた凛が、目をパッチリと開けて風を全身で受け止めながら、大声で笑って叫んでいた。

その姿につられて、俺も腹の底から声を出す。

「最高だなっ!!」

怖い。

確かに怖いのだが、それ以上に、全身の細胞が沸き立つような圧倒的な爽快感が勝っていた。

二回転のループを抜け、錐揉み回転をクリアし、猛スピードで風を切り裂きながら、車両はブレーキをかけながら元のホームへと滑り込んだ。

プシューッ、という音と共に安全バーのロックが解除される。

息を切らし、風で少しボサボサになった髪のまま、俺と凛は顔を見合わせた。

「「景色、すごかったね!!」」

またしても第一声が綺麗にハモり、俺たちは思わず吹き出した。

「でもっ……! あー、やっぱり落ちる瞬間はすっごく怖かったぁー!」

「ああ、心臓が口から出るかと思ったな。でも、最高に楽しかった」

少しだけ足元をふらつかせながら出口の階段を降りていると、見覚えのある顔に出くわした。

「あれ、朝陽じゃん!」

「凜ちゃんも!」

別のグループで回っていた大輝と寺田さん、そして佐藤さんが、ちょうどこれからコースターに乗ろうと並んでいるところだった。

「お前ら、それ乗ってきたの!? すげーな! 冬月さん、怖くなかったの!?」

「えへへ、すっごく怖かったけど……でも、最高だったよ!」

大輝の驚いた顔に、凛が晴れやかな笑顔で答える。

「そっかそっか、楽しんでるみたいでよかったよ! じゃあ私たちも行ってくるねー!」と、寺田さんたちが手を振って列へ進んでいった。

俺たちはその背中を見送りながら、まだ少しドキドキと余韻の残る胸に手を当てる。

思い出作りの絶叫マシンは、大成功の幕開けとなった。